「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十二回 裏技(後編)

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十二回 裏技(後編)
  • 公開日
    2023年04月28日
  • 記事番号
    9508
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第三十二回目は、前回に引き続き「裏技」をテーマにした後編をお送りします。

前回も述べたように、80年代のファミコンブーム期の子どもたちは、各ファミコン専門誌に掲載されていた「裏技コーナー」を読みつつ、実機で「裏技」を試す遊びかたが定番になっていました。

当時のプレイヤーが「裏技」の発見や再現に夢中になった理由は、もちろんゲームがよりおもしろくなるからです。では「裏技」のどこがおもしろかったのかと言いますと、「ゲームニクス理論」の「原則3-C-④:発見する喜び」や「原則3-D-⑪:発表できる場の提供」を具現化するものであったからです。

なお、インターネットがまだ普及していないファミコンブーム期の「発表できる場」とは、ファミコン専門誌などの「裏技コーナー」を指します。本コーナーは編集部の独自調査による情報だけでなく、ハガキによる読者投稿も受け付けていたからです。

そこで今回は、かつて多くのメディアで取り上げられ、当時のプレイヤー間で特に有名になった「裏技」と、そのおもしろさを紙幅ならぬweb幅の許す範囲でご紹介しましょう。どうぞ最後までご一読ください!
  

  
「ゲームニクス」とは?

現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

   

「裏技」の存在を一躍有名にした伝説のタイトル

まずは「ファミコン通信」「ファミリーコンピュータマガジン」など、ファミコン専門誌が誕生する以前に発売されたタイトルから、とびきり有名になった「裏技」を取り上げます。

その「裏技」とは、ファミコン版の『ゼビウス』(ナムコ/1984年)で自機のソルバルウを無敵にすることができる「無敵コマンド」です。タイトル画面で、IIコントローラーのAボタンを押しながら右に9回、上に2回、左に2回、右に9回押し、画面右上に8ケタの「0」が表示されたら、一番左の「0」を「1」に変えてからゲームを始めるとソルバルウが無敵になります。

この「裏技」を最初にスクープしたのは、マイコン(PC)専門誌の「コンプティーク」で、さらに当時絶大な人気を博していたマンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」でも掲載されたことから一気に有名になりました。「裏技」の存在を多くの人に知らしめた点でも、本作の「無敵コマンド」はゲーム史上に残るアイデアだったように思います。

本作を皮切りに『頭脳戦艦ガル』(デービーソフト/1985年)、『スターフォース』(ハドソン/1985年)、『スカイデストロイヤー』(タイトー/1985年)など、「無敵コマンド」を仕込むタイトルが続々登場し、専門誌で盛んに紹介されるようになりました。

ただし、「無敵コマンド」は確かに便利なものですが、使用するとプレイ中は緊張感がまったくなくなり、その結果としてプレイヤーはゲームを早々に飽きてしまうデメリットがあったようにも思います。
  

「無敵コマンド」に匹敵するほど有名で、なおかつプレイヤーが断然有利になる「裏技」の代表例は、やはり『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂/1985年)でマリオのストックを大量に増やせる「無限増殖(大増殖)」になるでしょう。

ワールド3-1や7-1など、ブロックが階段状に並んだ場所でノコノコやメットを連続でキックすると100点、200点、400点……と得点がみるみる上がり、11回目以降は1回キックするごとに1UPとなり、あっという間にマリオのストックを増やすことができます。

本作が当時の超人気でタイトルであったことに加え、階段を利用した連続キックという見た目のおもしろさ、そして瞬時にストックが増える実用度の高さもあって、本作の「裏技」は多くのプレイヤーに知られることとなりました。

ほかにも「無限増殖」に似た「裏技」として、隠しコマンドなどを入力すると主人公が何回やられてもストックが減らない、「フリープレイ」状態になる「裏技」もしばしば登場しました。ファミコン用ソフトでは『アトランチスの謎』(サン電子/1986年)、『ディグダグII』(ナムコ/1986年)などのタイトルがこれに該当します。
  

プレイヤーも、開発者にとっても便利だったファミコンブーム期の「裏技」

上記のほかにも、プレイヤーのモチベーションを高める、ファミコンブーム期によく仕込まれた定番の「裏技」はまだまだあります。

そのひとつが、隠しコマンドを入力することで主人公や自機が強化される「パワーアップコマンド」です。とりわけ有名なのが、『グラディウス』(コナミ/1986年)を元祖とする通称「コナミコマンド」になるでしょう。

本作は、元祖アーケード版から人気の高いタイトルでしたが、ファミコン版ではポーズ中に「↑↑↓↓←→←→BA」と入力すると、自機のビックバイパーにミサイル、オプション2個とバリアが瞬時に装着される「裏技」が発見されたことでも有名になりました。

本作に端を発する「コナミコマンド」は、以後ファミコンに限らずコナミの多くのタイトルに「裏技」として導入されたほか、先日はTwitterでコマンドを入力すると、犬のアイコンが回転する「裏技」の存在がネット上で話題になりました。ゲームの世界を飛び出すほど有名になったという意味でも、「コナミコマンド」は歴史に残る「裏技」と言っても過言ではないでしょう。
  

コマンドを利用した便利な「裏技」と言えば、シューティングやアクション、パズルゲームなどに隠された「ラウンドセレクト」も忘れるわけにはいきません、

例えば、いまだに「激ムズ」だの「死にゲー」だのと、良くも悪くもネタにされるファミコン版の『魔界村』(カプコン/1986年)には、実は「ラウンドセレクト」ができる隠しコマンドの「裏技」があります。これさえあれば、いきなり最終面の大魔王と戦い、勝利すればあっという間にエンディングに到達することができます(※正確には、真のエンディングを見るためには2周クリアすることが必要となります)。
  

第六回目のテーマでも取り上げた、ゲームオーバーになっても途中のステージから再開できる「コンティニュー」機能も、古くから隠しコマンドなどを利用した「裏技」としてしばしば登場していました。とりわけ、パスワードやバッテリーバックアップなどによるセーブ機能がないタイトルでは、この上なくありがたい「裏技」であったことは、もはやくわしい説明は不要でしょう。

ファミコン用ソフトだけでも、前出の『スーパーマリオブラザーズ』をはじめ『グラディウス』や『魔界村』、『ソロモンの鍵』(テクモ/1986年)、『がんばれゴエモン! からくり道中』(コナミ/1986年)など、実に多くの導入例があります。
  

ところで、これらの隠しコマンドですが、プレイ中に何もヒントが示されないため、プレイヤーが自力で発見することはまず不可能です。よって、隠しコマンドによる「裏技」は「ゲームニクス理論」の「原則3-C-④:発見する喜び」に分類するのはやや無理があるかもしれません。

ですが、これらの「裏技」は「ゲームニクス理論」で言えば「原則2-B-④:レベルメニューを用意する」や「原則4-D-⑤:迂回ルートを準備する」など、プレイヤーの腕に応じた遊びかたの提供、あるいは救済措置的な役割を果たしていると言えるでしょう。

メーカーの宣伝、ブランディングにも利用された「裏技」

前回の当コラムでは、開発者スタッフが「裏技」を利用してささやかな自己主張をした例をいくつかご紹介しました。これとは別に、ファミコンブーム期にはゲームメーカーが「裏技」を利用した販促イベントを実施し、ゲームソフトや自社ブランドのプロモーションをしていたことも、ゲーム文化とビジネス両面の歴史において特筆に値します。

どうやって販促をしていたのかと言いますと、まずはメーカーがソフトのパッケージに同梱されたマニュアルやチラシ、または雑誌広告でプレイヤーに「裏技キャンペーン」などと告知します。その告知を見たプレイヤーが「裏技」を解明できたら、そのやりかたをハガキに書いたり、証拠写真を封書に入れたりしてメーカーに送ると、先着または抽選でグッズなどがプレゼントされるといった要領で実施していました。

以下の写真は、ファミコン版の『ASO』(SNK/1986年)で「隠れキャラ」の社長の顔(!)を出現させたところです。本作では発売当時、全10種類の「隠れキャラ」などを探した人には、抽選でプレゼントがもらえるキャンペーンが実施されていました。
   

ファミコン版の『マグマックス』(日本物産/1986年)には、特定の条件を満たすとメーカーのロゴをそのまま「隠れキャラ」にした「ニチブツマーク」が出現する「裏技」が用意されていました。ほかにも、自社ロゴが「隠れキャラ」として登場する作品には『キングコング 怒りのメガトンパンチ』(コナミ/1986年)などがあります。

また、前出の『ソロモンの鍵』など、当時のテクモは同社のマスコットであるウサギのキャラクターをデザインした、「テクモプレート」と呼ばれる「隠れキャラ」を登場させることで、自社のブランディングを実施していました。

ちなみに前出の『グラディウス』には、1~3面で特定の条件を満たすと1ステージ先にワープできる「裏技」もあります。当時のコナミは本作の発売後、雑誌広告にワープ中の画面写真を掲載することで、プレイする余地がまだまだ残されていることを読者にアピールしていました。つまり、広告を通してプレイヤーに対し「原則3-D-⑤:飢餓感をあおる要素と構成を導入する」を実践していたワケですね。

このようなメディアミックスを駆使した「裏技」は、インターネットのない時代にあってプレイヤー間で少しでも話題を長く持続させ、ソフトを売り込むための優れた販促でもあったように思います。
  

以上、今回も「裏技」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

今回ご紹介した「隠しコマンド」の多くは、元々は開発者がデバッグ(テストプレイ)モード用に準備した仕様をそのまま「裏技」に流用したものか、あるいは非公開だったものがユーザーに発見されたことで「裏技」として広まったと思われます。

開発者が、あらかじめ意図して「裏技」を用意していたかどうかにかかわらず、時にはプレイヤーの知的好奇心を刺激し、またある時には悩めるプレイヤーへのお助け機能としても大いに活用される存在として、今後も「裏技」は多くの作品に手を変え品を変え登場し続けることでしょう。

繰り返しになりますが、「裏技」に関する「ゲームニクス理論」の詳しい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-C-④:発見する喜び」などのページにくわしく書いてありますので、興味のあるかたはぜひご覧ください。

それでは、また次回!

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