「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十三回 ゲームテンポ

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十三回 ゲームテンポ
  • 公開日
    2023年05月26日
  • 記事番号
    9684
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第三十三回目のテーマは「ゲームテンポ」です。

「ゲームテンポ」とは、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」で、「ゲーム全体の構成から感じる全体的な心地良さ」と定義しています。また、これとよく似た「個々の場面(シーン)で感じられる、瞬間的な心地良さ」を「シーンリズム」と定義しています。

さらに本書では「テンポとリズムの有無こそが、エンターテインメント(ゲーム)と非エンターテインメント(学習)の領域を分ける大きな要素」であり、「一方ビデオゲームでは、ユーザーの気持ちに寄り添うように、制作者がリズムとテンポを設定している。これにより没入感が高まり、何時間も夢中になって遊ぶわけだ」とも説明しています。

では、プレイヤーがハマる演出として、本書で定めた「原則3-A:ゲームテンポとシーンリズム」のうち、「ゲームテンポ」とは具体的にどのようなものがあるのでしょうか? 以下、有名タイトルでの実践例を中心にご紹介しましょう。今回もどうぞ最後までご一読ください!
   

  
「ゲームニクス」とは?

現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

   

「ゲームテンポ」を意識したステージ構成が生み出すおもしろさ

「ゲームテンポ」の典型例として特にわかりやすいのが、マップ上の移動とバトルを繰り返して遊ぶ、コマンド入力方式のRPGになるでしょう。

例えば『ドラゴンクエスト』(エニックス/1986年)では城(町)、フィールド(ダンジョン)、バトルの3つのステージに分けられます。城や町を散策しているときは、自由に住人や店の店員と会話をするなど、リラックスして遊べる「静」の状態です。町からフィールドに出ると、今度は未知のマップやダンジョンを探索する「動」の場面となり、さらにランダムで敵のモンスターと遭遇し、バトルに切り替わると緊張感が一気に高まります。

バトルに勝つと再びフィールドの移動に戻り、もし負けてしまった場合は城に戻って冒険のやり直しとなり、以後エンディングに到達するまで「静」と「動」を繰り返します。つまり「静」と「動」の連続が「ゲームテンポ」を生み出し、町での買い物やダンジョン探索、バトルなどの各場面が「シーンリズム」を構成しているワケですね。

なお近年では、いわゆるオープンワールド方式を導入した作品が増えたこともあり、町からフィールド、フィールドからバトルがシームレスでプレイできるようになったり、タイトルによっては町の中に敵が攻め込んで来たりする例も出てきています。「静」と「動」による「ゲームテンポ」の構成が、時代とともに変わってきている感がありますね。
   

次に、アクションゲームの例を紹介しましょう。

本書では「原則3-A-①:ゲームテンポを意識した全体構成」を「アプリケーションやゲーム全体をいくつかのステージに分けて構成し、それぞれのステージに固有のテンポを設定すること。ステージの展開や進行によって、そのテンポが変化することで固有のテンポが生まれ、コンテンツ全体のフィードバックが快適なものになる 」と解説しています。

この典型例が、第四回目のテーマ「『4ステージ構成』が生み出すおもしろさ」でも紹介した、皆さんもおなじみの『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂/1985年)です。

本作および本シリーズは、ステージごとに地上、地下、山(空)、海、城など、それぞれ異なる舞台が登場します。さらに、各ステージ独特のビジュアルとBGMも用意することで心地良い「ゲームテンポ」を生み出し、プレイヤーにマンネリズムを感じさせないよう工夫されています。

同様の例は、同じ任天堂作品であれば『ドンキーコング』(任天堂/1981年)や『ドンキーコングJR.』(任天堂/1982年)が、ほかのメーカーでも『ジャンプバグ』(セガ/1981年)や『プレアデス』(テーカン/1981年)や『スクランブル』(コナミ/1981年)など、古くから導入例がいろいろあります。
   

これとは反対に、同じテンポが続く最中にマンネリズムが起きるのを避けるため、あえてテンポを崩す演出を盛り込むことで「ゲームテンポ」を作り出す、逆転の発想を取り入れたケースもあります。

例えば『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』(セガ/1991年)は、何も操作しないで一定時間放っておくと、主人公のソニックが突然カメラ目線に切り替わって足を踏み鳴らし、「ゲームテンポ」を崩すおもしろい演出があります。

このように、主人公を放置するとプレイヤーに操作を催促する、いわゆるメタ演出(フィクション)を利用して「ゲームテンポ」をあえて崩すアイデアは、後にソニックのライバル、マリオが主人公の『スーパーマリオ64』(任天堂/1996年)をはじめとする『スーパーマリオ』シリーズ作品にも導入されました。

近年でも、同様の演出は『ゼルダの伝説 ブレズオブザワイルド』(任天堂/2016年)や『ドラゴンクエストXI』(スクウェア・エニックス/2017年)、『アストロプレイルーム』(SIE/2020年)など、ジャンルを問わず多くのタイトルに導入されています。
   

スピード感と緊張感の演出も「ゲームテンポ」のキモ

主にアクションゲームにおいて、ゲームの展開に応じてスピード感を調節し、心地良い「ゲームテンポ」を演出するアイデアも、ビデオゲーム初期の時代から導入されています。

例えば、いわゆる「ブロック崩し」の元祖『ブレイクアウト』(アタリ/1976年)では、ノーミスでボールを打ち続けているとボールの移動スピードが急激にアップしたり、パドルの大きさが縮小したりすることで、スピード緊張感を演出する、素晴らしいアイデアが盛り込まれています。

『スペースインベーダー』(タイトー/1978年)では、敵の数が少なくなるごとに、敵の移動スピードと、敵の移動音のテンポが徐々に速くなることでスリリングな場面を作り出していることは、多くの皆さんがご存知のことでしょう。

また『ギャラクシアン』(ナムコ/1979年)では、敵の数が少なくなると敵の揺動音のテンポが徐々に速くなるとともに、敵が待機状態(※画面上部で左右に揺れ動く状態)になることを放棄して一斉攻撃を仕掛けるようになります。プレイヤーが息を継ぐヒマがないほど、次々と敵が襲い掛かることでスピード、緊張感を演出する、これまた素晴らしいアイデアですね。
   

本書では、「原則3-A-③:スピード感でテンポを調整」の一要素として「アクションとアクションの間を気持ち良いスピードのテンポでつなぐ」という方法も挙げています。

その実例となるタイトルを本書では紹介していないのですが、当コラムを通じて皆さんにぜひ紹介したい好例が『テトリス』(セガ/1989年)です。

本作では、操作中のブロックが着地、またはほかのブロックの上に積むと、次の新しいブロックが早過ぎも遅過ぎもしない、絶妙のタイミングで出現することで、単純な操作の繰り返しでも実に心地よい「ゲームテンポ」を生み出しています。

現在までに数多くのシリーズが登場している『テトリス』ですが、国産第1号となるアーケード版はブロックが地面、あるいは別のブロックに触れてもすぐには固定されず、ほんの少しの間だけで動かす時間があります。この一瞬の猶予を利用して、プレイヤーは狭い空間にブロックをねじ込んだり、ミスを修正したりできることで、より「ゲームテンポ」を心地よくしているのもアーケード版ならではの大きな魅力でしょう。

これらの工夫があるからこそ、本作のようないわゆる「落ちものパズルゲーム」は、単純なアクションの繰り返しなのに長時間遊んでも飽きることなく、プレイヤーがついつい夢中になるのではないかと思われます。また『テトリス』をはじめとする「落ちものパズルゲーム」は、前述の『ブレイクアウト』と同様にブロックの落下スピードが徐々に速くなる、スピード感の調整による「ゲームテンポ」も導入されていることは、もはや改めて言うまでもないでしょう。
   

映像と文字、音楽を効果的に使った「ゲームテンポ」の演出例

以下の写真は、ファミコン版の『信長の野望』(光栄/1988年)です。歴史シミュレーションゲームの代名詞である本シリーズですが、1983年に発売された元祖PC版『信長の野望』にはキャラクターのアニメーションがなく、基本的には文字情報だけを見て楽しむものでした。

ですが、ファミコン版のほか、シリーズの続編になると、謀反や一揆など重要なイベントが発生したとき、あるいはコマンドを実行した際に、効果音が鳴ると共に静止画、またはアニメーションが流れるようになりました。ファミコン版では極々単純な絵しかありませんが、たったこれだけでもプレイヤーは文字情報だけの単調な展開から解放され、「ゲームテンポ」を生み出す効果が十二分にあったように思います。
   

音楽を利用して、「ゲームテンポ」を作り出す定番の演出方法のひとつに、主人公がパワーアップしたときにBGMを変化させる方法があります。本書でも写真付きで紹介した『レッキングクルー』(任天堂/1985年)をはじめ、その導入例は数え切れないほどたくさんあります。

古いタイトルで、パワーアップとは別に音楽をうまく利用して、おもしろい「ゲームテンポ」を作り出していたのが『Mr.Do!』(ユニバーサル/1982年)です。

本作は、各ステージに得点アイテムのチェリー(サクランボ)が、必ず8個ずつ並んで配置されています。いずれかのチェリーを1個取ると「ド」の音が鳴り(※厳密には単音ではありませんが、主音が「ド」なのは確かです)、続けて2個目を取ると「レ」の音が流れ、さらに連続して取ると「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」「シ」と鳴り、最後の8個目を取ると1オクターブ高い「ド」が鳴って、ボーナス得点が500点加算されます。

「ドレミファソラシド」の音を鳴らすだけという極めてシンプルな演出ですが、プレイヤーは一度このボーナスの快感を覚えてしまうと、以後ステージが始まるごとにセットされるチェリーを見るとボーナス得点をついつい狙いたくなってしまいます。

チェリーのボーナス得点に加え、本作ではセンターターゲットと呼ばれる得点アイテムを取ると画面が暗くなり、直後にBGMが変わって敵の援軍が出現するなど、いくつかの演出が組み合わさることで、ゲーム全体で心地よい「ゲームテンポ」を生み出しています。
   

以上、今回は「ゲームテンポ」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

進行に応じて「ゲームテンポ」に緩急をつけることで、プレイヤーの緊張感に強弱を与え、さらに場面ごとに瞬間的な心地よさを盛り込み、プレイヤーを夢中にさせてしまう工夫が、かなり古い時代から導入されていたことがおわかりいただけたと思います。

繰り返しになりますが、「ゲームテンポ」に関する「ゲームニクス理論」のくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-A:ゲームテンポとシーンリズム」などのページにくわしく書いてありますので、興味のあるかたはぜひご覧ください。

それでは、また次回!

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