「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十回 ポーズ

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十回 ポーズ
  • 公開日
    2024年01月26日
  • 記事番号
    10790
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第四十回のテーマは「ポーズ」です。

主にアクションゲームをプレイしている最中に、プレイヤーが疲れを感じて休憩を取りたいなと思ったときに、いつでもプレイを中断できる「ポーズ」機能は、これほどありがたいものはないと言っても過言ではないでしょう。

筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「原則2:マニュアル不要のユーザービリティ」の一要素として「原則2-A-⑥:ポーズ・セーブ・ロードの利用」を掲げています。

「ポーズ」機能があれば、プレイヤーはいつでも好きなタイミングでゲームを中断、再開することができるだけでなく、いわゆる「ポーズ」メニューを設けることで、以下のようなメリットがあることを解説しています。

「特に、ポーズ画面はプレイ中に任意に起動できるので、ポーズを操作の流れの中心に据えて、どの階層にも移行できるように設計できる。例えば、ポーズ画面に『設定画面』『セーブ・ロード画面』『ミニゲーム』『アイテム画面』『マップ画面』『ヘルプ』などの項目を盛り込み、選択すればそれらの画面に移行する構造を採れる。このため、メニューの階層が深くなりすぎても、ポーズ画面を利用すれば、操作が複雑になりにくい」

以下、今回も筆者が思い付く限りとなりますが、「ポーズ」に工夫を凝らした例をいろいろとご紹介したいと思います。どうぞ最後までご一読ください!
   

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
   

プレイヤーにこの上ない安心感を与える「ポーズ」メニュー

アクション系のゲームでは、敵や障害物に囲まれてピンチになった場合、または次の行動をじっくり考えたいときに「ポーズ」機能が大いに役立ちます。

『ゼルダの伝説』(任天堂/1986年)や『ロックマン』(カプコン/1987年)シリーズなどのように、プレイヤーが任意のタイミングで主人公のアイテム類を変更できるゲームにおいては、「ポーズ」メニューで装備を変更するシステムを導入することで、プレイヤーは敵や障害物の存在を気にせず、安全確実に装備を変えることができます。

もし上記のシリーズに「ポーズ」メニューが存在しなかった場合はどうなるでしょうか? どちらもゲームを進めていくと、武器やアイテムの種類がどんどん増えるため、敵と戦いながら任意の武器を選択するのは、おそらく極めて難しい作業になるでしょう。
   

アクションゲームのように反射神経を必要としない、コマンド入力方式のRPGでは、たとえ「ポーズ」機能がなくても基本的にゲームの進行に支障はありません。皆さんもRPGをプレイ中にお茶を飲みたい、ちょっとひと息入れたいなと思ったときに、そのままゲームを放置した経験がきっとあることでしょう。

ただし『ドラゴンクエストXIII』(スクウェア・エニックス/2004年)などのように、敵キャラがフィールド上を随時動き回り、主人公に触れるとバトルに突入するシステムだった場合は放置できません。なので、敵に出会う可能性があるフィールドを移動中に休憩を取りたい場合は、表示するとゲームの進行が一時的に止まる、コマンドウィンドウを「ポーズ」代わりに利用することになります。

実は『ドラクエ』シリーズの第1弾『ドラゴンクエスト』(エニックス/1986年)は、フィールド画面でスタートボタンを押すと「ポーズ」が掛かるようになっていました。ですが、本作ではどこの場所で放置していても敵キャラが出現することはなく、それ以外の要因でプレイヤーが不利になる心配も一切ありません。

なので、開発スタッフが「必要なし」と判断したからなのか、続編の『ドラゴンクエストII』(エニックス/1987年)では「ポーズ」機能が省かれました。

一方『FF』こと『ファイナルファンタジー』(スクウェア/1987年)シリーズでは、初期のタイトルには中断機能としての「ポーズ」はありませんが、『ファイナルファンタジーIV』(スクウェア/1991年)以降の作品では、バトル中に限り「ポーズ」を導入したタイトルが登場するようになりました。

『ファイナルファンタジーIV』に「ポーズ」が導入された理由は、バトルシステムがプレイヤーと敵が交互に行動するターン制ではなく、敵・味方を問わずターンが回ってきたキャラが随時アクションを起こせる、いわゆるアクティブバトル方式になったためでしょう。アクティブバトル方式の場合は、プレイヤーが何もせずに放置していると敵から一方的に攻撃を受けてしまいますが、「ポーズ」機能があればその心配は一切なくなりますよね。
   

パズル、シミュレーションゲームに見る「ポーズ」の工夫

アクションパズルゲームでも、「ポーズ」を利用することで敵キャラや障害物を一切気にすることなく、画面をじっくりと眺めながら解法を考えることができます。もっとも、ステージマップが1画面に納まり切れない場合は、ただ「ポーズ」を掛けるだけでは画面外の情報を知ることができません。

そこで、便利な「ポーズ」機能を用意していたのがファミコン版の『ロードランナー』(ハドソン/1984年)です。

本作は、各ステージの開始時に全2画面分のマップをプレイヤーに見せてからゲームが始まりますが、「ポーズ」中はプレイヤーが十字キーで自由にマップを動かせる素晴らしいアイデアを導入していました。

本作と同様に、「ポーズ」中に画面外のマップも見られる機能を取り入れた例は古くから非常に多く、続編の『チャンピオンシップロードランナー』(ハドソン/1985年)をはじめ、『レッキングクルー』(任天堂/1985年)、『バベルの塔』(ナムコ/1986年)、ファミコン版の『キャッスルエクセレント』(アスキー/1986年)などがあります。
   

ほかにもパズルゲームにおいては、前述の『バベルの塔』などのように、手詰まりになった際のリセットまたはリトライ、自爆コマンドが用意された「ポーズ」メニューがしばしば導入されています。つまり「ポーズ」機能が、第十七回のテーマとして取り上げた「ショートカット」の役割も果たしているわけですね。

なお、リセット機能のある「ポーズ」メニューは『スーパーマリオカート』(任天堂/1992年)をはじめとするレースゲームにもよく導入されています。特にタイムアタックの途中で失敗した場合には、すぐに最初からやり直せる「ポーズ」機能があるとたいへん便利です。
   

プレイ時間に制限があり、時間切れになるとミスになるルールのパズルやクイズゲームで、もし「ポーズ」機能があった場合は、プレイヤーは中断している間にいくらでも正解を調べることが可能となり、ルールが破綻してしまいます。

そこで、おもしろいアイデアを導入しているのが、Nintendo Switch版の『イチダントアール』(セガ/2019年)です。本作では、パズル要素のある一部のミニゲームをプレイ中に「ポーズ」を掛けると巨大サイズの敵キャラが表示され、ゲーム画面をマスクすることで、プレイヤーのチート行為を防いでいます。

実は「ポーズ」中にマスクするアイデアは、本作が最初ではありません。ファミコン版『テトリス』(BPS/1988年)をはじめ、『ファミリークイズ 4人はライバル』(アテナ/1988年)やスーパーファミコン版『ゆうゆのクイズでGO!GO!』(タイトー/1992年)など、主にクイズゲームにおいて80年代からすでに導入されていました。
   

番外編:ちょっと変わった「ポーズ」機能あれこれ

ここからは、現在でも類例の少ないであろう、懐かしのファミコン用ソフトからユニークな「ポーズ」機能の導入例をご紹介します。

シューティング・アクションゲームの『機動戦士Zガンダム ホットスクランブル』(バンダイ/1986年)では、「ポーズ」中にセレクトボタンを押すごとにゲームの進行が1コマずつ進む、いわゆるコマ送りができる「スローモード」機能が搭載されています。

「スローモード」は、おそらくスピードについていけない、あるいは敵の攻撃を避けられないプレイヤーへの救済措置のために導入したと推測されますが、もしかしたら作中に登場するカッコいいモビルスーツをじっくり鑑賞してほしいという、開発スタッフからのメッセージも込められていたのかもしれません。
   

アクションゲーム『アストロロボSASA』(アスキー/1985年)は、「ポーズ」を掛けるとBGMが「NANA愛のテーマ」に変わる演出があります。

実は、本作は「カラオケ機能」と銘打ち、マニュアルには本曲の楽譜と歌詞を掲載したうえで、IIコントローラーのマイクを使用して歌うサービスを用意していました。なお「SASA」とは2P側の主人公のことで、1Pの「SASA」の恋人という設定になっています。本作と同様の「カラオ機能」は、『ゴルゴ13 神々の黄昏』(ビック東海/1988年)などのタイトルにも搭載さてれています。

またファミコン用RPGの『インドラの光』(ケムコ/1987年)は、「ポーズ」ボタンを繰り返し押していると、本来は「ぽーず!!」と表示されるハズが、やがて「ぼおず!! いや まちがった。」「ぼー?!! ファミコンも きゅうけい しています」などとメッセージが変化する、これまたユニークなアイデアを取り入れていました。本作は「ポーズ」機能を裏技に利用した、非常にレアなケースであるように思います。

ファミコン版『アストロロボSASA』より。見た目にはわかりませんが「ポーズ」を掛けると「NANA愛のテーマ」にBGMが変わります
© ASCII © MTL

以上、今回は「ポーズ」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

「ポーズ」機能は、古くから多くのタイトルに導入され、今でも「当たり前」に実装されていることもあり、プレイヤー目線ではなかなか注目されない感があります。ですが、いざ調べてみると単なる中断機能だけにとどまらない、さまざまな工夫が施されているのがおわかりいただけたのではないかと思います。

余談になりますが、アーケードから家庭用に移植されたタイトルには多くの場合、元のアーケード版には存在しなかった「ポーズ」機能が追加されています。

これらのタイトルで「ポーズ」を実行すると、クレジット音(コインを投入したときの音)が流れたり、アーケード版には存在しなかった効果音やジングルが流れたりするなど、メーカーによって「ポーズ」音の作り方に個性が出ているように思います。移植するにあたり、各社では「ポーズ」音をどのように作っているのか、こちらは今後の研究課題ですね。

繰り返しになりますが、「ポーズ」のよりくわしい内容は「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則2-A-⑥:ポーズ・セーブ・ロードの利用」の項で解説していますので、興味のある人は本書をぜひご覧ください。

それでは、また次回!

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