「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十六回 ボイスPart2

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十六回 ボイスPart2
  • 公開日
    2024年08月30日
  • 記事番号
    11711
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第四十六回のテーマは「ボイスPart2」です。

第四十二回では、存在自体がまだ珍しかった時代に「ボイス」はどのように使われていたのか、黎明期の作品を中心にご紹介しました。

今回も、前回はフォローし切れなかった「ボイス」のおもしろい導入例を、古いタイトルを中心にいろいろとご紹介しましょう。ぜひ最後までご一読ください!
 

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

 

「ボイス」を利用した「スタート時のつかみ」

筆者とサイトウ先生の共著『ビジネスを変える「ゲームニクス」』では、プレイヤーを「その気にさせる」ため、ゲームの世界と関わるのはなぜかを提示する演出を最初に、つまり「オープニング」に盛り込む「原則4-A-①:スタート時のつかみ」を提唱しています。第二十一回の「オープニング」でも、「スタート時のつかみ」の例をいろいろ取り上げました。

「ボイス」を利用した「スタート時のつかみ」として、古くから多くのタイトルに導入されているのが、スタート時に「Get ready!」などとしゃべる演出です。『スペースハリアー』(セガ/1985年)や『アウトラン』(セガ/1986年)などを遊んだことがある皆さんであれば、この「ボイス」を聞くたびに「いよいよゲームが始まるな。ヨシ、今日も頑張るぞ!」などとテンションが大いに上がったことでしょう。

格闘アクションゲームの『熱血硬派くにおくん』(テクノスジャパン/1986年)には、スタート時に主人公のくにおくんの仲間が襲撃され、敵のキャラクターが逃げたところをくにおくんが「待て、この野郎!」と叫びながら追い掛ける演出があります。こちらもプレイヤーのテンションが大いに上がる、「スタート時のつかみ」であると言えます。
 

プレイヤーにゲームの序盤でルールを理解させる、すなわちチュートリアルのために「ボイス」を利用した例も昔からたくさんあります。

以下の写真は、『バラデューク』(ナムコ/1985年)の1面です。本作は1面のスタート直後、または「デモ画面」でパケットが出現すると、パケットが「I’m your friend!」としゃべります。

本作では、プレイヤーがパケットを救出すると、ルーレットで「当たり」を引くたびに主人公のシールド(体力)が増えたり、対ボス戦でパケットが体当たり攻撃を仕掛けたりするメリットが得られます。そこで、ゲームスタート時に自己紹介という形で、パケットが味方であることをプレイヤーに伝える、実に見事な演出を盛り込んでいます。

ほかにも『沙羅曼蛇』(コナミ/1986年)では、1面で最初にパワーアップアイテムが出現した際に「Pick it up for “SPEED UP”」などと「ボイス」が流れ、プレイヤーにアイテムの回収を促す演出があります。また『怒号層圏』(SNK/1986年)では、主人公が装備すると一定時間敵弾を防ぐ効果を持つアイテム「鎧」が出現すると、「パワーだ!」と叫ぶ「ボイス」が流れ、プレイヤーに有用なアイテムであることを教えてくれます。
 

臨場感、スリル感をさらに引き立てる「ボイス」の数々

第四十二回でも述べたように、スポーツゲームでは実況の「ボイス」が流れることで、ゲームの臨場感がより高まります。

サッカーゲームでは、ゴールが決まると実況アナウンサーが「ゴ~~~ル!」と叫び、プレイヤーの快感をさらに高める演出は今も昔も定番ですが、最初に導入した作品は何だったのでしょうか? 筆者の知る限りでは、その先駆けとなったのは『ハットトリックヒーロー』(タイトー/1990年)です。

本作では、ゴールが決まるたびに派手な「ボイス」が流れ、選手たちが歓喜のパフォーマンスを披露してプレイヤーの快感をさらに高めてくれます。ほかにも本作では、ハットトリックを達成すると「Hat-trick!」、同じ選手で6ゴールを決めると「Double Hat-trick!」の「ボイス」が流れます。
 

実況アナウンサーと、解説者による会話のやり取りが楽しめるスポーツゲームも、今ではけっして珍しいものではなくなりました。では、実況と解説の掛け合いをいち早く導入したタイトルは何だったのでしょうか?

こちらも筆者の知る限りではありますが、スーパーファミコン用ソフトの『実況ワールドサッカー2 ファイティングイレブン』(コナミ/1995年)が、その最古の例ではないかと思われます。

本作は、ゴールシーンなどで実況アナが「どうです、今のプレイは?」と尋ねると、解説者が「競り勝ちましたね」などとTPOに応じたコメントを返すのが画期的でした。本作はサッカーゲームとしてのおもしろさに加え、優れた「ボイス」の演出でも歴史に残る1本であると言えるでしょう。
 

第二十六回の「ハリーアップ」では、『エイリアンシンドローム』(セガ/1987年)で残り時間が少なくなると「Hurry up!」または「Caution!」と繰り返し叫ぶ「ボイス」が流れ、スリル感を演出していることをご紹介しました。

『源平討魔伝』(ナムコ/1986年)では、主人公の景清の体力を示すロウソクが、残り1本になると「風前のともし火」と「ボイス」が流れることで、プレイヤーにゲームオーバーのピンチが迫っていることを教えてくれます。

またレースゲームの『リッジレーサー』(ナムコ/1993年)には、最終ラップに突入すると「OK,That’s final lap. Hang in there!」と鼓舞する「ボイス」が流れ、プレイヤーをワクワクさせてくれる演出があります。

古くから「ボイス」を利用して、スリル感を見事に演出しているジャンルのひとつに将棋ゲームがあります。その最も古い例が、おそらくアーケードゲームの『名人戦』(SNK/1986年)で、本作は女性の声で「あと10秒」「あと5秒」などと秒読みをする「ボイス」が流れます。

時計の針のように、いかにも機械的な音ではなく、記録係と思しき人物の「ボイス」を流すことで、本作を遊んだプレイヤーは、まるで棋戦に出場しているかのような気分になり、早指しのスリル感を大いに高めてくれます。
 

プレイヤーのモチベーションを高める「褒める演出」と「ストレス」

「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「原則3-B:ストレスと快感のバランス」の項で「ゲームとは『褒めるメディア』である」と考えたうえで、「プレイヤーのチャレンジした行為に見合った報酬(褒め)を与えることが、モチベーションの持続につながる」と解説しています。

そんなプレイヤーを「褒める演出」にも、昔からさまざまな方法で「ボイス」が利用されています。

例えば『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)や『鉄拳』(ナムコ/1994年)シリーズなどの対戦格闘ゲームでは、勝利した際にキャラクターが叫んだり、あるいはダメージをまったく受けずに勝利すると、「Perfect!」の「ボイス」が流れたりしてプレイヤーを祝福してくれます。

実は「Perfect!」としゃべるアイデアは、これらのシリーズが登場するずっと以前から、例えば『イー・アル・カンフー』(コナミ/1985年)など1980年代に登場したアクションゲームにも導入されていました。ちなみに本作では、1面で敵の股間にパンチを当てると「ニイハオ!」と叫び、しかも5000点の高得点ボーナスが入る秀逸な(?)な演出があります。
 

「褒める演出」とは逆に、「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では「ストレスを与えることがゲームの絶対条件」であり、「ストレスと、報酬という快感を交互に発生させることが、ゲームデザインの要になる」とも述べています。

そこで、プレイヤーがミスをしたときに適度なストレスを与え、「悔しい、もう1回挑戦だ!」と、モチベーションを喚起させる際にも「ボイス」がしばしば利用されます。

前述の『源平討魔伝』は、プレイヤーがミスをして黄泉の国に落ちると「おろか者!」と叫ぶ「ボイス」が流れ、ゲームオーバーになると「お前の力はそんなものか!」「情けなや……」などとプレイヤーを叱咤する演出があります。

ほかにも『グラディウスII』(コナミ/1988年)ではゲームオーバー時に「You need some more practice.」「ワハハハ……」などと嘲笑する「ボイス」が流れる例もあります。

これらのアーケードゲームよりも、さらに古い時代に登場した家庭用ゲーム機『テレビベーダー』(エポック社/1980年)にも、自機がやられると敵のインベーダーが一斉に笑う、実にユニークな演出がありました。

ですが、本機の「ボイス」は、いわゆるサンプリングではなく、いかにも笑っているように聞こえる音を鳴らすために回路を別途組み込んだか、あるいはノイズを増幅させるなどの方法で作られたものと思われます。とはいえ、今から40年以上も前に「ボイス」的な演出を利用して、プレイヤーにストレスを与えるアイデアがすでに導入されていた事実には改めて驚かされますね。

『源平討魔伝.』は、ナビゲーター役でもある不気味な風貌の安駄婆が、プレイヤーをさまざまな「ボイス」で叱咤激励します(※PS版『ナムコミュージアムVOL.4』を使用)
源平討魔伝™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.

以上、今回は「ボイスPart2」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

業界初の「ボイス」を導入したとされるアーケードゲーム、『スピーク&レスキュー』(サン電子/1980年)の登場から40年あまり。現在は『ストリートファイター6』(カプコン/2023年)のように、eスポーツ実況者のアール、平岩康祐両氏の「ボイス」による自動実況、およびデーモン閣下の解説が流れるシステムが導入される時代へと突入しました。まさに隔世の感がありますね。

それでは、また次回!

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