「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第五十回 チュートリアル
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第五十回のテーマは「チュートリアル」です。
筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著『ビジネスを変える「ゲームニクス」』では、「原則1;直感的で快適なインターフェース」を実現するためには「プレイヤーが操作性にストレスを覚えるようなデザインにしてしまうと、ゲーム本来のストレスに耐えられずに、ゲームに集中することができなくなってしまう」などと述べています。
「操作性のストレス」の最たるものは、UIデザインに起因するものであり、本書では以下のように説明しています。
「『思ったように動かせない』といった操作性の悪さや、「何をしたらよいかわからない」といった目標設定の不備があると、その時点ですでにユーザーにストレスが溜まっている。ここで、さらに障害というさらなるストレスを提示すると、ユーザーはそのストレスに耐え切れずに、ゲームを早々に放棄してしまうのだ。」
そこで、プレイヤーに余計なストレスを与えないよう、ゲームがスタートした直後に基本操作やルールを説明する「チュートリアル」の出番となるワケですね。
以下、今回も筆者の思い付く限りではありますが、ぜひ皆さんにご覧いただきたい「チュートリアル」をまとめてみました。どうぞ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
ゲームスタート時の「チュートリアル」
過去の当コラムでも何度か解説しましたが、アーケードゲームはゲームセンターが儲かるよう、古くから「100円(1プレイ)で3分」で終了するルール、または難易度に調整されています。
よってアーケードゲームでは、プレイ中に「チュートリアル」を用意するとプレイ時間が延びてしまうので、「デモ画面」内に「チュートリアル」を盛り込むケースが非常に多い感があります。
ですが、いざ調べてみるとスタート時に「チュートリアル」を導入したタイトルが、アーケードゲームでも古くから少なからず存在します。
以下の写真は『龍虎の拳』(SNK/1992年)と『サムライスピリッツ』(SNK/1993年)で、いずれもスタートボタンを押した直後にA、B、C、Dの各ボタンの使用方法を説明する「チュートリアル」に移行し、プレイヤーにパンチ、キック、投げなど基本的な技の出し方をレクチャーしてくれます。
このように、スタート直後に操作ガイドの「チュートリアル」が流れる例は『餓狼伝説』(SNK/1991年)、『THE KING OF FIGHTERS ‘94』(SNK/1994年)、『メタルスラッグ』(SNK/1996年)など、NEOGEO(ネオジオ)対応タイトルに数多く見受けられます。
これはあくまで筆者の推測ですが、NEOGEOタイトルでボタン操作の「チュートリアル」が目立つのは、とりわけ対戦格闘ゲームで使用するボタンの数が多いからではないかと思われます。


©SNK CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED.
単にデモンストレーションを流すだけでなく、プレイヤーが実際に操作しながら基本ルールが学べる、トレーニング専用ステージを用意したタイトルもたくさんあります。
例えば主人公キャラを操作して、敵キャラなどを囲んで倒したり、消したりして遊ぶ『リブルラブル』(ナムコ/1983年)は、敵キャラが一切出現しない「練習ステージ」からゲームが始まります。
また『空手道』(データイースト/1984年)では、組手が始まる前に道場でCPUのお手本を真似しながら技の出し方が学べる「練習ステージ」が登場します。
繰り返しになりますが「練習ステージ」を追加すると、その分だけプレイ時間が延びるので、開発者の視点で見れば「100円で3分」に調整するのがより難しくなると思われます。にもかかわらず、これらのアーケードゲームで「チュートリアル」を導入したのはいったいなぜでしょうか?
その答えは『リブルラブル』も『空手道』も、ボタンを使わずに2本のレバーで主人公を操作する珍しい作品なので、プレイヤーに対し「基本操作に慣れてもらいたい」と開発スタッフが配慮したからだと推察されます。
上記のほかにも特殊なUIを使用し、なおかつ基本操作が学べる「練習ステージ」を取り入れた例としては『超絶倫人ベラボーマン』(ナムコ/1988年)などがあります。

LIBBLE RABBLE™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
©G-MODE Corporation
大型体感筐体を使用したアーケードゲームにも「チュートリアル」を導入したタイトルがたくさんありますが、中でも特筆したいのが『トップランディング』(タイトー/1988年)です。
本作は、飛行機を操作して空港に着陸させるフライトシミュレーションゲームで、コックピットを模した専用の大型筐体を使用しているのが大きな特徴です(※小型のアップライト筐体版もあります)。
ゲームが始まると、本編に入る前に、指示に従って滑走路で加速してから離陸するまでの操作をする「チュートリアル」が登場します。「チュートリアル」によって、プレイヤーは本作のUI(操縦桿とスロットル)の基本操作を学べるとともに、まるで本物のパイロットになったかのような気分にさせてくれる、実に見事な演出です。



©TAITO CORP.1988
プレイヤーが自然と基本ルールを理解する「通せんぼ」システム
第十三回の「ヘルプキャラクター」では、主にRPGやシミュレーションゲームでプレイヤーに手取り足取り、操作方法や次のミッションを教えるキャラクターが登場して「チュートリアル」の役割を果たす例をご紹介しました。
実は古い時代から、たとえ「ヘルプキャラクター」がいなくても、プレイヤーに基本ルールを自然と理解させる仕掛けを用意したタイトルがいろいろあります。
以下の写真は、言わずと知れたファミコン版の超有名RPG『ドラゴンクエスト』(エニックス/1986年)です。本作は、主人公が王のいる部屋に閉じ込められた状態でゲームが始まり、すぐに外に出ることはできません。
外に出るための階段を下りるためには、扉を開くためのアイテム「鍵」を宝箱から入手し、さらに「とびら」「かいだん」の両コマンドを必ず実行しなくてはいけません。つまり、プレイヤーは「オープニング」の段階で、それぞれの使い方が自然と覚えらえる仕掛けになっているのです。
このように、RPGで「オープニング」、または序盤のシーンでプレイヤーの行動範囲を制限し、基本となる操作やコマンドの使い方を自然と学ばせる「チュートリアル」を用意したタイトルは『MOTHER』(任天堂/1989年)、『真・女神転生』(アトラス/1992年)などがあります。



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アクションRPG、またはアドベンチャーでも、同様に「オープニング」の場面で「通せんぼ」をする「チュートリアル」が昔から存在します。
その代表例のひとつが『メトロイド』(任天堂/1986年)です。本作は「オープニング」の場面で、最初に手に入るアイテム「丸まり(モーフィングボール)」を取るまでの間は、先のマップに進むことができません。
その理由は、「丸まり」を取って主人公のサムスが体を丸めなければ通れない、細い通路があるから。つまり、プレイヤーに対し「丸まり」の操作および利用法を自然と学習できるよう、マップのデザインが工夫されているワケですね。
本作以外にも『ワンダーボーイ モンスターランド』(セガ、開発:ウエストン/1987年)、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(任天堂/1998年)などに「通せんぼ」を利用した「チュートリアル」が導入されています。



© Nintendo
絶妙のタイミングでプレイヤーを手助けする「チュートリアル」
ここからは、ゲームの途中でTPOに応じて「チュートリアル」が示される例を見ていきましょう。
まずは懐かしのアクションゲーム『マリオブラザーズ』(任天堂/1983年)から。本作はゲームスタート時に、ステージ1に出現する敵のシェルクリーパー(カメ)の倒し方をプレイヤーに教えるデモが流れます。以後、新たな敵キャラが出現するステージに進むごとに、それぞれの倒し方をレクチャーするデモが流れ、初見のプレイヤーでも遊びやすくなるよう配慮されています。
本作以外にも、アクション系のゲームで新たに出現する敵の弱点や倒し方などを説明する「チュートリアル」を導入したタイトルには『バーニングフォース』(ナムコ/1989年)などがあります。


© Nintendo
新たな敵キャラではなく、プレイ中に初めて登場したアイテムやギミックの使い方を、その都度プレイヤーに教える「チュートリアル」も数多くのタイトルに導入されています。
『スーパーマリオギャラクシー』(任天堂/2007年)や『NewスーパーマリオブラザーズWii』(任天堂/2009年)では、マリオが新たなアイテムやギミックを取ったり触れたりすると、Wiiリモコンが動くアニメーションが流れ、操作方法を教える「チュートリアル」があることは、多くの皆さんがご存知のことでしょう。
これらのWii用ソフトでは、以前のNINTEND64やニンテンドーゲームキューブ用コントローラーには存在しなかった、Wiiリモコンを振ったり傾けたりする操作が必要になるため、アニメーションを利用した「チュートリアル」を導入したものと思われます。


©2007 Nintendo
以上、今回は「チュートリアル」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
特殊なUIを使用したタイトルでは、アーケードでも家庭用でも、それぞれの方法で「チュートリアル」を効果的に取り入れていたことが、きっとおわかりになったことと思います。「通せんぼ」システムによる「チュートリアル」も、今さらではありますが実に素晴らしい発明ですね。
昨今の基本プレイ無料で遊べるスマホ用アプリゲームでは、初回プレイ時に基本操作に加え、本来は有料のアイテムやキャラクターなどを特別にプレゼントして、プレイヤーにその使い方や特徴を教える「チュートリアル」がよく導入されている印象があります。
スマホという指タッチ操作にほぼ限られたUIで、いかにしてプレイヤーに基本操作、またはルールを覚えてもらえる「チュートリアル」を作るのか? ここでも当然ながら、開発者の皆さんの知恵と経験に基づいた、ありとあらゆる工夫がされていることでしょう。こちらは今後の研究課題ですね。
なお「チュートリアル」のくわしい解説は、『ビジネスを変える「ゲームニクス」』の「原則1:直感的で快適なインターフェース」「原則2-B:マニュアルの組み込みとその提示方法」などの項をご覧ください。
それでは、また次回!