「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第五十一回 トレーニング

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第五十一回 トレーニング
  • 公開日
    2025年02月28日
  • 記事番号
    12554
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第五十一回のテーマは「トレーニング」です。

前回の「チュートリアル」 では、プレイヤーに基本ルールや操作を理解してもらうために「練習ステージ」を用意した例をご紹介しましたが、今回はプレイヤーが練習に専念できる「トレーニング」専用のモードを導入したタイトルを取り上げます。

「トレーニング」モードをプレイする目的は、もちろん基本操作やルールを覚えることですが、いざ調べてみると単なる「トレーニング」にとどまらない、プレイヤーがますますゲームに夢中になってしまう、さまざまな工夫が施されていることがわかります。

以下、今回も筆者の思い付く限りではありますが、数々のおもしろい「トレーニング」モードの導入例をご紹介しましょう。どうぞ最後までご一読ください!
 

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

 

遊びながら学べる「トレーニング」モード

まずはスポーツゲームの「トレーニング」モードから見ていきましょう。

以下の写真は、『パワプロ』シリーズの元祖『実況パワフルプロ野球’94』(コナミ/1994年)です。本作には「打撃練習」「投球練習」「守備練習」「走塁練習」の4種類を、好きな選手またはチームを選んで自由にプレイできる、その名も「キャンプモード」があります。

本作は、当時はまだ珍しかった感のある3D視点のピッチングとバッティングを実装し、従来の2Dの野球ゲームとは見た目も操作方法もかなり異なります。なので、自由に「トレーニング」ができる本モードの存在は、多くのプレイヤーが重宝したことでしょう。

シリーズ第3弾の『実況パワフルプロ野球3』(コナミ/1996年)の「キャンプモード」では、ヒットを打ったりストライクを投げたりすると得点が入り、10球ごとにハイスコアを集計するゲーム形式になったことで、より楽しみながら「トレーニング」ができるようになりました。
 

実は、スポーツゲームで楽しみながら「トレーニング」ができるモードは、同じくコナミの『実況ワールドサッカー』(コナミ/1994年)にすでに導入されており、続編タイトルにも引き継がれていました。

本シリーズの練習モードには「トレーニング」と「チャレンジ」の2種類があり、後者を選択するとドリブル、シュートなどのメニューごとに、毎回得点を表示する仕組みになっています。

また本シリーズにはバッテリーバックアップ機能が搭載され、本編のサッカーの試合だけでなく、各種「トレーニング」の最高記録をセーブできるようにしたのも優れたアイデアだったように思われます。
 

複雑な操作やコマンド入力をマスターするための工夫

次に、シューティングゲームで「トレーニング」専用モードを導入した例をご紹介します。

スーパーファミコン用3Dシューティングゲーム『スターフォックス』(任天堂/1993年)には、リングをくぐる、味方と隊列を組む、障害物を避けるなどの課題を通じて、基本操作が学べる「トレーニング」モードがあります。

本作の自機のボタン操作は、Aボタンがスマートボムの発射、Bが逆噴射(減速)、Xがブースト(加速)、Yがブラスターの発射です。さらにL、Rボタンを押すと、自機がクイックターンまたはローリングをします(※初期状態の「A」設定の場合)。

つまり本作は、コントローラーに搭載されたすべてのボタンを使用するので、各ボタンの使いかたを一度に覚えるのは簡単ではありません。そこで、本作の開発スタッフはプレイヤーが自由に「トレーニング」できる場があったほうがいいと判断したうえで、本モードを作ったのではないかと推察されます。
 

対戦格闘ゲームで強力な必殺技やコンボ(連続技)をマスターするためには、複雑な入力コマンド、あるいは4個も6個もあるボタンを押す順番やタイミングを覚えることが必要です。

対戦格闘ゲームの「トレーニング」モードで、筆者が最初に「これはすごい、おもしろい!」と、うならされたのがプレイステーション版の『鉄拳2』(ナムコ/1996年)です。

本作の「トレーニング」モードは、何も手出しをしない相手を立たせたうえで、時間無制限で存分に技を試すことができます。また本モードでは、本編よりも目立つヒットマークで、なおかつヒットした高さを「High」「Mid」「Low」の3種類で表示し、コンボや累計のダメージ数、入力したコマンドのログも表示されます。

元祖アーケード版には存在しなかったという意味でも、本作にさまざまな機能を搭載した「トレーニング」モードを実装した意義は、とても大きいように思います。
 

家庭用で、さまざまな工夫を盛り込んだ「トレーニング」モードを導入しているシリーズ作品のひとつが『大乱闘スマッシュブラザーズ』(任天堂/1999年)です。

現在も人気の『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』(任天堂/2018年)は、前述の『鉄拳2』と同様に相手を立たせた状態で技の練習ができるのはもちろん、相手を常時歩かせる、あるいはジャンプを繰り返させるなど、さまざまなシチュエーションを設定することが可能です。

加えて、本作の「トレーニング」モードでは、実際のバトル中はランダムで出現する各種アイテムを、いつでも好きなタイミングで出現させることができるので、研究がとても捗ります。
 

ちなみに、近年のアーケード用対戦格闘ゲームには『GUILTY GEAR -STRIVE-(ギルティギア ストライヴ)』(アークシステムワークス/2021年)、『UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late[cl-r](アンダーナイト インヴァース エクセレイト クレア)』(アークシステムワークス/2021年)、『エヌアイン完全世界 Anastasis』(タイトー、開発:SUBTLE STYLE/2023年)など、「トレーニング」モードを導入した例がいくつもあります。

また『ストリートファイター6 タイプアーケード』(タイトー/2023年)の「トレーニング」モードには、対戦相手のマッチング中に自由に練習ができる「ノーマル」と、2敗するまでゲームオーバーにならない、初心者向けの「セーフティ」の2種類のモードがあります。

まだまだあります! プレイヤーを夢中にさせる「トレーニング」モード

シミュレーションRPGにも、非常に優れた「トレーニング」モードを導入したタイトルがあります。

以下の写真は『タクティクスオウガ』(クエスト/1995年)の「トレーニング」の場面です。本作の「トレーニング」は、自軍のユニットを2チームに分け、実戦と同じルールでバトルを行う仕組みになっています。

本作では「トレーニング」を通じて、プレイヤーがバトルのルールやユニット、地形などの特徴を学べるだけでなく、活躍に応じた経験値を全ユニットが得られるメリットがあります。しかも「トレーニング」中にやられてしまったユニットは終了後に復活する、すなわちノーリスクで育成できるのも素晴らしいアイデアですね。
 

「トレーニング」モードに豊富なやり込み要素を盛り込み、本編と同様に夢中になって遊べるほどのボリュームを盛り込んだタイトルもあります。その一例として挙げられるのが『メタルギアソリッド』(コナミ/1998年)です。

本作の「VRトレーニング」モードには、敵に見付らないようにゴール地点を目指す「トレーニング」、制限時間内にゴール地点を目指す「タイムアタック」、すべての敵を倒してからゴール地点を目指す「ガンシューティング」の3種類のゲームが用意されています。
(※「タイムアタック」は「トレーニング」を全ステージクリア後に選択可能となり、同じく「ガンシューティング」は「タイムアタック」を全ステージクリア後に選択可能となります)

本作の拡張版にあたる『メタルギアソリッド インテグラル』(コナミ/1999年)では、「VRトレーニング」モードの種類が4種類に増えてステージ数も大幅に増加し、本編とは別に達成率が集計されて「リプレイ」データを保存できるようにもなりました。

さらに『インテグラル』では、「VRトレーニング」の結果に応じて別モードの内容が変化するアイデアが導入され、「タイムアタック」を利用したメーカー公式イベントが実施されるなど、もはや「トレーニング」の範ちゅうを超えたと言っても過言ではないほどの進化を遂げています。
 

以上、今回は「トレーニング」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

ビデオゲームでもリアルスポーツでも、ただ単純な操作を繰り返すだけの「トレーニング」では、プレイヤーは少なからず苦痛を感じることでしょう。ですが、それ自体をゲーム化するなどの方法で、楽しみながら「トレーニング」できる仕組みを編み出した開発者の皆さんの発想は、改めて素晴らしいなと筆者は思います。

上記以外にも、おもしろい「トレーニング」モードが遊べるタイトルはたくさんありますので、また機会があればぜひご紹介したいと思います。

ところで、本稿の執筆のため、古い時代のシューティングゲームで「トレーニング」モードの導入例を調べてみたところ、極めて少ないことに気が付きました。
(※『コール オブ デューティ ブラックオプス』(スクウェア・エニックス/2010年)や『スプラトゥーン』(任天堂/2015年)シリーズなど、昨今のeスポーツ界隈で人気のFPSやTPSには普通にあるのですが)

ゲーム開始時に「イージー」「ビギナー」モードなどの「レベルメニュー」が選べるシューティングゲームはたくさんあるので、もしかしたら「トレーニング」モードがないのは「実戦で学べるから」というのが理由かもしれませんが、ここは今後の研究課題ですね。

なお「トレーニング」や「チュートリアル」に関する解説は、サイトウ先生と筆者の共著『ビジネスを変える「ゲームニクス」』の「原則2-B:マニュアル不要のユーザビリティー」などの項をご覧ください。

それでは、また次回!

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