ファンマーケティングから考える、ゲーセンのマーケティング 後編

昨今注目度の高まっている「ファンマーケティング」について考察している今回。前編で、最高・最安が当たり前に実現されるほどの成熟した市場だからこそ「最愛」「ファン」「熱狂」が注目される、という理由にたどり着いたところで、続けて、後編にもお付き合いをいただけたら幸いです。
「ファンマーケティングから考える、ゲーセンのマーケティング 前編」は、こちら

写真撮影協力:新宿プレイランドカーニバル

ファンとリピーターは違う

皆さまが、愛着を感じている店(店員)や商品やサービスに対して、下記のような行動をとったご経験はないでしょうか。

●店や商品側から(広告やSNSやメルマガなどで)伝えられる前に、自分から最新の情報が出ていないか?を、Web、SNS、店頭などにチェックしにいく
●使った感想や意見を(メール、SNS、アンケートフォーム、店員へ口頭などなどで)わざわざちゃんと伝える
●友人、家族、SNSのフォロワーなどの他の人に、熱くオススメする

これは、「ファン」の行動なのです。

人は、大抵の店舗や商品やサービスには、「無関心」なものです。どこで何を買ったか?など覚えていない場合もあります。わざわざ意見や感想を伝えにいく、誰かにオススメするなど、ほとんどあり得ません。
実際皆さまご自身が1日のうちで購入されたものを並べてみてください。その中で、企業に感想を伝えたものや、誰かに(SNSやリアルで)オススメしたものは、どれだけあるでしょうか? ゼロということも少なくないのではないでしょうか。ですが、「ファン」の行動は圧倒的に違います。
ファンは、買ったもの(物、時間、サービスなど)が「何」で「どこ」なのかを意識してくれているのです。

ちなみに「リピーター」と「ファン」は違います。
例えば、わたしはサントリーの「伊右衛門」というお茶のリピーターです。何度かコンビニで買っていると思いますし、自販機で購入したこともあると思います。しかし別にファンではありません。喉が渇いたので「喉を潤すもの」を買っているだけなのです。だから、「伊右衛門」でなくても、「お~いお茶」でも「綾鷹」でもいいし、もっと言えば、別に「おいしい水」でも良いのです。
でもファンは違います。コンビニに「伊右衛門」を買いに来ます。置いていなければ「なんだ、ここは「伊右衛門」がないのか。「伊右衛門」がある店を探しに行こう」と、その店を出て「伊右衛門」を求め、別のコンビニへ行きます。綾鷹では代わりにならないのです。これがファンです。

「最愛」「ファン」「熱狂」ポジションがもたらす効果

「ファン」が増えると、売上・コストのどちらにも影響します。
値引きしている競合よりも高い定価であっても購入してくれたり、他の人にリアルやSNSで推奨してくれたり、めちゃくちゃアツい思いで良い点や悪い点や感想などを企業に伝えてくれたり、します。それは、売上貢献にもなり、販促費や広告宣伝費にあたるコストの削減、もしくはSNS投稿を作ったり広告を作ったりする社員の工数削減ひいてはコストの削減になります。
しかも、口コミは新規購入者の増加に直接寄与します。ネット上の口コミ量が売上に寄与することは研究の結果、証明されています。

※参考:http://www.orsj.or.jp/archive2/or58-08/or58_8_436.pdf

結果、利益率が向上するのです。

当然、マーケティングでいうブランド論「ブランドロイヤリティ」で言われるように、好きになってもらうことの大切さは、目新しい話ではありません。
ですが、振り返れば、事実、世のマーケティング予算の多くが、新規顧客獲得のために投下されてきており、一方で、ファンに対する活動へその多額の予算が投下されることは、ほとんどありませんでした。
企業は売上を作らねばならない、そのためのマーケティングのゴールは「購入」であり、そのゴールのために最高の製品をつくり、広告と製品力に頼り、棚を取り、大量に仕入れ、認知度を高めれば売れる時代には、「リピートしている購入者」に対して向き合う必要がなかったのです。

ファンはすでに購入「済」、かつ繰り返し購入してくれている人たちの中にいます。
その上、企業からの発信はなくとも自ら最新の情報を調べてくれて、RTキャンペーンやSNS投稿キャンペーンやもうひとり連れてきてくれたらお二人ともにプレゼント!などを企業から頼まれなくとも、自ら他の人に熱く、本気で、オススメしてくれるのです。
そんなファンについて、これまで企業は「広告もPRもいらない、放っておいても買ってくれる人たち」と認識し、まだ買ってくれておらず、これから買ってくれる人たち」を優先したマーケティング活動をしてきました。
しかし、もはや最高や最安“だけ”で持続的な競争優位性を獲得することは難しくなりました。
だから「最愛」ポジションに向き合い、ファンとの取り組みが注目されるようになってきたのです。

とはいえファンは、一朝一夕で生まれません。
企業の日々の努力・積み重ねにより、場合によっては何年もかかって生まれます。最高や最安による競合優位性と違って、他社のファン獲得施策を模倣することや、いきなりファンを多数獲得することは、容易ではありません。
だから、ファンを増やしたりファンの熱狂度をより高めることでより自社のファンにしたりすることに注目が集まるのです。
利益率の向上・模倣のされにくさ。
これらが、最高でも最安でもない「最愛」ポジションを持つ企業ならではの競争優位です。

ファンに投下する予算は「費用」ではなく「投資」

ここで大切なのは、企業が“ファン”に対して投下するマーケティング予算は、「費用」ではなく「投資」と捉えるべきだということです。
ファンといっても、顧客全体でみると限られた存在(一部)で、また、やみくもにファンに予算を投下すれば、劇的に売上や利益が向上するというものではありません。
ファンは企業とっての「資産」なのです。だから資産に「投資」する予算である、これが基本の考え方です。

ファンに限らず、人は毎日たくさんの情報を浴びています。一人が1日に見る広告は2,000とも3,000とも言われており、当然多すぎてそのほとんどが、頭に残りません。頭に残るものは「自分がなんかいいなと思ったもの」あとは逆に「これは嫌いだ!と思ったもの」です。何度も見せることで頭に残すという広告手法がありますが、「これは嫌いだ」という印象で覚えられてしまう可能性もあります。人間の脳はその負担を減らすために、重要かつ緊急度の高いものに対しては自動で動いており、そんな中で「自分が好意的に思っているものを自然に選ぶ」らしいのですが、当然広告と向き合う多くの場合、理屈ではなく直感です。触れる時間は一瞬だからです。

一方、企業はどうしても「自分たちが言いたいこと」や「論理」から入ります。
当然ですが企業は提供しているサービスや商品に対して、調査をし設計をし売れるに違いない理屈を探し形にしていて、思い入れもあります。企業のマーケティング活動は企業が主語。そのため「調査もして、生活者のための生活者がほしいと思う「良いもの」を作り「良い場所」を作ったのだから、「良いもの」「良い場所」を「良い広告(ところ)」で伝えれば、「良いとわかってもらえるだろう」」と考えます。

しかし、これは言い換えれば「自分たちの伝えたいことをどうにか伝えたい!! こうすれば伝わるか? ああすれば伝わるか?」だけを考えているという状態で、ユーザーファーストのつもりが、実は企業ファーストになっている状態です。
生活者のため、と言いながら、自分たちのためになっているのです。

これが、企業とユーザーのあいだにギャップが生じる理由です。自分たちの信じる理屈を生活者に押し付けてしまうことが多いのです。
つまり、流通経路の変化や消費志向の変化、そして既存のマス的発想からの脱却ができなかった、というように見えます。
だからここでもファンが大事になります。
前回の記事で、コンテクスト(文脈)について書きました。ファンはそのコンテクスト(文脈)を強く持ち、発信してくれているので、ファンにコンテクストを教えてもらう必要があるのです。

企業とユーザーの間にギャップが生じる理由

例えば、あの流行した「ほぼ日手帳」。フィジカルベネフィットは「紙が良い(薄い、軽い、インクがつかないトモエリバーを使用)」「予定以外も書ける」「平らに置ける(糸上がり製本)」「24時間、土日も同じ枠」「書きやすい」などが並びます。通常のマーケティングであれば、このあたりのプロダクトスペックを語りたくなってしまいます。
ところがここで画像検索をしてみます。すると、この手帳を実際に利用しているユーザーたちは、スケジュール管理帳としてだけではなく、思い思いに、自分流にデコって、スケジュール管理以上に「使うことを楽しんでいる」ことがわかります。
これが、ファンの持つコンテクスト(文脈)なわけです。
ユーザーへの意味付け(ストーリー)は「カラフルな人生の記録作品」、メンタルベネフィットは「毎日を振り返るだけではなく、自分の毎日を豊かに彩ることができる」、ということです。これが企業目線とユーザー目線の違いですね。

企業が考えがちな順番は、“プロダクト→フィジカル→メンタル→ストーリー”です。つまりユーザーファーストと言いながらも根っこは、「自分たちの伝えたいことをどうにか伝えたい、こうすれば伝わるか? ああすれば伝わるか?」という企業ファーストになっている状態です。当然理想形は逆の順番です(“場”ではなく“プロダクト”の事例ではありますが、とある毎日使う生活必需品のひとつは、文脈価値にそったほうが3倍効果あったという事例もあります)。

さて前回の記事で「ファンと一緒に」ということを書かせていただきました。まさに、アーケードゲーム業界は、競合に比較して、リピーターではなくファンを持っていることが強みです。
目に見えるコミュニティ・可視化される口コミ・何年もかかって作り上げられてきた「タイトル」と「店舗」と「ユーザー」の関係。他のどの業界の商品やサービスも真似できない、圧倒的競争優位です。
これを活かさない意味はありません。
市場が成熟した今だからこそ、競争優位を活かしたマーケティング戦略を行うべきではないでしょうか。

ゲーセン文化は今、とても面白い地点に差し掛かっています。
ユーザーも含めた業界全体で「共に」考え、取り組み、2019年のゲーセン文化を作っていく。
この時代にユーザーでいられる、そしてゲーセン文化を作るために自分自身も動くことができる、ことに、わたしはとてもワクワクしています!
ゲーセンユーザーのみなさん、ゲーセンのみなさん、「共に」ゲーセン文化を作りませんか。

さてさて。今回もお読み頂いてありがとうございました。
引き続きご教授のほどどうぞよろしくお願いいたします!!

おくむら なつこ / ゲーセン女子(Game Center Girl)

『「好き」がある人生は楽しい。「好き」を持つ人は強い。「好き」と言える毎日は嬉しい。』

ファンマーケティング支援会社の一員として研鑽を積む一方、「330日ゲーセンに通うOL」として、クローズアップ現代+、マツコの知らない世界、お願い!ランキング他多数に出演。

ゲームセンターを専門にマーケティング/PR支援するGCGを立ち上げ。アーケードゲームやゲーセン全般を紹介しながら文化としての「ゲーセン」を広めるべく活動、ゲーセン文化づくりに取り組んでいる。

注目されるファンコミュニティやe-Sportsシーンなどを背景とした需要の高まりを受け、2019年よりアーケードゲーム機シェアリングサービス「アケシェア」を開始。

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