発見! インディーゲーTreasures

  • 記事タイトル
    発見! インディーゲーTreasures
  • 公開日
    2023年05月19日
  • 記事番号
    9661
  • ライター
    山村智美

ついに公式日本語化&日本でも家庭用ゲーム機版が発売! ナレーションとの奇妙な冒険! 伝説のメタフィクションADV『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』

いい感じの遊び心地
いい感じのポップさ
いい感じのカジュアルなビジュアル
いい感じの2Dドットなゲームも豊富
いい感じの重すぎない&軽すぎないゲームらしさ

「発見! インディーゲーTreasures」は、
そんな“ちょうどいい感じ”なインディーズゲームを紹介していく月イチ連載です。

今回ピックアップした1本は、こちら。

『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』!

  
タイトル: 『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』
リリース日: 2022年4月28日(2023年4月28日のアップデートで日本語字幕が追加)
開発元: Crows Crows Crows
パブリッシャー: Crows Crows Crows
価格:¥2,570
配信プラットフォーム:Steam / Nintendo Switch / PS4 / PS5 / Xbox One / Xbox Series X

※ これまで各家庭用ゲーム機版は海外ストアでのみダウンロード販売されていたが、5月中に日本語字幕対応版が日本ストアに登場する予定
https://store.steampowered.com/app/1703340/The_Stanley_Parable_Ultra_Deluxe/

  

あなたは今、この文章を読んでいる。

『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』とはどんなゲームなのかと思いながら。

はたまた、別のあなたはすでに『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』をプレイ済みなので、どのように紹介されているのかと気にしながら。

さらにまた別のあなたは、旧作の『The Stanley Parable』はプレイしたが『Ultra Deluxe』はプレイしていないので、そのあたりを気にとめながら。

ですが、あなたは何を思ったのか、突如として来ていた服を脱ぎ始めパンイチになり、丁寧に服を畳んだかと思えば、右へ左へとがに股でステップする不思議なダンスを踊りはじめたのです!

表情は満面の笑顔で、眼はうっとり、とろ~んとしていますね。

楽しそうです。嬉しそうです。

思えば、今までのあなたの人生のすべてはきっと、この瞬間のためにあったのかもしれません。

そんなふうに思える瞬間がやってくること、それこそが人生において素晴らしいことではありませんか。

たとえそれが、気が狂ったかのようなパンイチがに股ダンスだったとしても。

そうして幸福感に包まれて満足したあなたは、次におもむろにSteamを開いて『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』を検索し、カートに入れて、購入手続きを進めはじめました。

スッスッスッと。

慣れた手付きでマウスを動かして、はい購入完了。

無事に『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』がライブラリに加わったことを見届けたあなたは、すべてをやり遂げた表情をしています。

ですが、これはまだ序章。買って終わりではありません。

ほら、インストールして。

それが終わったらその緑色の「 ▶プレイ」って書いてあるボタンを押せば、

始まりますよ。

めくるめく楽しい時間が。

こうしてあなたは、裸(パンイチ)のまま『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』をプレイしはじめたのです。

……あ、Steam以外で購入&プレイをする人もいると思いますが、その場合は上のくだりは各自で適当に脳内変換しておいてください。

……とまぁ、こんな風にあなたの意思とは関係なしに次の行動を決めつけてくるような誰かのナレーションが常に聞こえていたら、あなたならどうしますか?

逆らいますよね。ナレーションに。

「あなたは右へ行きました」と言われれば、左に行ってみようかなと考える。

そういうものです。人間というのは。

そうしたら、ナレーションは一体どんな反応をするんでしょう……?

怒るかな? 慌てるかな? それとも……?

『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』は、だいたいそういうゲームでーす!

テーレッテレー!
  

『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』は、もとは2013年にリリースされた『The Stanley Parable』をリマスターしつつ、いろんなルートやエンディングを追加した豪華版といえるもの。

2022年4月28日にリリースされました。ちょうど1年ぐらい経っています。

無印版にはいわゆる有志による翻訳パッチはあったものの公式に日本語対応されたことがなく、2022年にリリースされた『Ultra Deluxe』では「今後、日本語にも対応するよ!」という嬉しいアナウンスがあったもの、なかなか音沙汰がないままに年は明けて2023年になりました。

ボクを含め、『Ultra Deluxe』の公式日本語化を楽しみにしていたゲームファンは寂しい気持ちを抱えながら日々を過ごしていました。

ある人は言いました。

「日本語対応すると言っていたのに結局されないなんて、よくあることじゃないか」って。

また、別の人はこう言いました。

「きっといろんな事情があって時間がかかっているだけさ。気長に待とう」

ボクは言いました。

「この記事が掲載されている頃は、みんなゼルダの伝説ティアキンに夢中で寝不足の日々だと思う」って。

やさぐれゲームキッズの寂しげな横顔が星屑ロンリネスになり、『Ultra Deluxe』』の発売からちょうど1年が経った今年の4月28日、何と公式サイトに1周年の大型アップデートの情報が! そこには『お待たせ! 日本語対応できたよ!」っていう待ちに待ったニュースがあったのです!

やったぜ!

しかも、これまでNintendo SwitchやPS4/5にXboxなどの家庭用ゲーム機には海外でのみ販売がされていたのですが、何と日本のストアでも日本語版が販売されるということなんですよ。

4月28日に公開された公式サイトの告知としては、

「来月中に、日本、韓国、およびアジアのその他の地域で、The Stanley Parable: Ultra Deluxe のストア ページを立ち上げる予定です」

とありますので、5月中に、もしくはこの記事が掲載されている頃にはもしかしたら、もう買えるようになっていかもしれません。

PC持ってないんですーっていう人にもぜひプレイしてもらいたいですからね。

1周年のアップデート告知ページ
https://crowscrowscrows.com/email/49/
ちなみに日本だと時差の関係で発売日や大型アップデートが4月28日になっていますが、英国的には4月27日であり、427は主人公スタンリーの従業員番号なんですよね。

肝心のゲーム内容についてですが、何しろネタバレをしたら台無しにもほどがあるゲームなので、要点だけ。

主人公はとある会社で働いている従業員427番のスタンリーであり、あなたであり、スタンリーです。

彼はひどく単純な仕事をずっと続けてきたのですが、ある日、ほかの同僚たちの姿がまったく見当たらなくなっていました。しかも、それまでずっときていた仕事の指示も、待てども待てどもきません。ガランとした社内。異変を感じたスタンリーは社内を探索するため、立ち上がりました。

……理解すべきことはこれだけです。

だって、あとはすべてナレーションが導いてくれるんですから。

あとは、あなたが思うままに行動するたびにナレーションがいろいろと喋ってくれて、黄色い矢印が狂喜乱舞し、バケツは光り輝くのです。

何を言っているのかまったくわからないと思いますが、プレイ後にはこの表現は「だいたいあってる」と思ってもらえるはずです。
  

「メタフィクション」。

創作であるフィクションの世界の登場人物が、ノンフィクション、つまり現実のことを語りだす手法のことですが、『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』のナレーションは、スタンリーに対して、つまりスタンリーを操作するプレイヤーのあなたに対して、いろんなことを言ってきます。

ゲーム内のナレーションが、現実でゲームをプレイしているあなたの判断や行動にいろいろとナレーションをつけてくるのです。

例えば、「あなたは左の扉を進んだ」

と、ナレーションが言います。

そのナレーションに従って左の扉の先へ進んでもいいし、

それに逆らって右の扉へ進んでもいい。

「せっかくだから俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」とか大声で言いながらとかでもいいです。そこは好きにしてください。

いずれにしろ、ゲームは進んでいきます。ナレーションも何かしら次のことを話します。
  

ナレーションがスタンリーに語りかける言葉は、

言い換えれば、

ゲームがプレイヤーに語りかけている言葉。

スタンリーはあなたで、あなたはスタンリーだ。

『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』はメタフィクションの塊。

世にも珍しい“メタフィクションがゲームを創っているゲーム”。

これは、あなたというスタンリーと、あなたを見守るナレーションの物語。
  

2013年に発売された無印版は、ゲーム開発者のカンファレンスであるGDCと同時開催されている国際的なインディーゲームの賞「IGF Awards」において2013年のオーディエンス部門を受賞しています。

また、昨年リリースされた『Ultra Deluxe』もSteamアワード2022の優れた物語部門にノミネートされました。

評価が高いのですが、何しろ日本語化されず家庭用ゲーム機においても、これまで日本のストアでは販売されてこなかったので、「知っている人は知っているけど、知らない人はまったく知らない」、いわゆる知る人ぞ知るゲームになってしまっていました。これまでは。

高評価の理由は様々あると思いますが、ボクはその独自性とゲームだからこその体験にあると思います。いい意味で悪ふざけの塊みたいなゲームですが、だからこそおもしろいですし、こういうゲームがあるのはとてもいいことだなーって思うんですよ。真面目で立派なゲームだけが良いゲームというのは、ちょっと寂しい。

『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』はある意味ですごくゲームらしいゲームであり、ゲーム以外のエンタメでこの味わいを出すのはおそらく難しいでしょう。

ナレーション「この人は、こんな風にいかにもなことを書いておけばレビューとしての収まりが良くなるだろうと計算して、こんなことを書いているんですよ。」

そういうことを言うな!

……ちなみに、『Ultra Deluxe』で追加された部分や展開はかなりいい感じなので、無印版をプレイ済みという人も、一旦無印の記憶を消してプレイするのがオススメです。

ナレーション「オススメです」
  

プレイの果てに、

スタンリーという名前のあなたは、いったいどこへたどり着くのか。

いったい何が待っているのか。

永遠はあるのか。

時の流れは続くのか。

ありがとう、ナレーション。

さようなら、すべての予定調和。

そして、すべてのメタフィクションに、おめでとう。

すべてを見届けたあなたは、実績一覧の最後にある「このゲームを10年間プレイしない」という項目をみて、フフッと笑顔になるでしょう。

『The Stanley Parable: Ultra Deluxe』の実績のひとつ「このゲームを10年間プレイしない」。ちなみに無印版だとこの実績は5年でした。わお、さすがはUltra Deluxe! ウルトラでデラックスだ! ……遊び尽くしてから10年後にふと思い出して実績解除できたらちょっと感動するかもしれない。

© Crows Crows Crows

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