発見! インディーゲーTreasures

  • 記事タイトル
    発見! インディーゲーTreasures
  • 公開日
    2023年09月22日
  • 記事番号
    10280
  • ライター
    山村智美

1990年代のゲームシーンを彩ったJRPGの魅力に、2023年の今あらためて挑戦したクラシカルなドット絵RPG『Sea of Stars』

いい感じの遊び心地
いい感じのポップさ
いい感じのカジュアルなビジュアル
いい感じの2Dドットなゲームも豊富
いい感じの重すぎない&軽すぎないゲームらしさ

『発見! インディーゲーTreasures』は、
そんな“ちょうどいい感じ”なインディーズゲームを紹介していく月イチ連載です。

今回ピックアップした1本は、こちら。

『Sea of Stars』!

  

  
タイトル:『Sea of Stars』
開発元:Sabotage Studio
パブリッシャー:Sabotage Studio
リリース日: 2023年8月29日
価格:PC/Xbox 4,000円  PS5/4 4,070円  ニンテンドースイッチ 4,400円
配信プラットフォーム:PC(Steam/Microsoftストア)/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One(Game Pass対応)/ニンテンドースイッチ

※Xbox/PC Game Pass、PlayStation Plus エクストラ以上でもプレイ可能

【Steam】
https://store.steampowered.com/app/1244090/Sea_of_Stars/


【Nintendo Switch】
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000046188.html


【PlayStation 5/4】
https://www.playstation.com/ja-jp/games/sea-of-stars/


【Xbox Series X|S / Xbox One】
https://www.xbox.com/ja-JP/games/store/sea-of-stars/9nllttjzh40l

  

1990年代のゲームシーンを彩ったJRPGたち。

美麗なドット絵で描かれる世界に、細やかな動きで魅せるキャラクター、初めて聴いたときにハッとさせられ、いつまでも心に残り続けるサウンド。

そんな“あの頃のRPG”に、特に『クロノトリガー』や『スーパーマリオRPG』といった名作に多大な影響を受け、強くリスペクトして制作したという力作が、この『Sea of Stars』です。

今年のインディーRPGの中でも最大級のタイトルといえる1本ですねー。
  

手掛けたのは、カナダのインディーデベロッパー「Sabotage Studios」。

2023年8月29日にリリースされ、対応プラットフォームはプレイステーション4/5、Xbox Series X|S/Xbox One、Nintendo Switch、PC(Steam/Microsoftストア)と、主要プラットフォームを網羅。

また、サブスクサービスのXbox/PC Game Passや、PS Plus(エクストラ以上)でもプレイ可能。日本語ローカライズは架け橋ゲームズが担当しています。

同スタジオでは、2018年にアクションゲームの『The Messenger』をリリースしていて、こちらも高評価。『Sea of Stars』もその評価を経て、期待されていた新作というわけです。

ちなみに、『Sea of Stars』は『The Messenger』の時代のはるか昔にあった前日譚にあたるとのことで、同じ世界の作品ではありますが直接的な続編ではなく、『Sea of Stars』だけで物語を問題なく楽しめるとのこと。

『Sea of Stars』の世界は、邪悪な錬金術師“フレッシュマンサー”が生み出す怪物という脅威があって、その支配に対抗する唯一の希望となるのが、月と太陽という対の力を秘めた“至点の戦士”と呼ばれる存在。

主人公は、この“至点の戦士”になることを運命づけられ育てられた「ヴァレア」と「ゼイル」の二人。

幼い頃から共に育ってきた二人と、冒険の先々で出会う仲間たちとの物語が描かれていきます。

RPGにおいて大事だと思う要素は人それぞれにいろいろあると思いますが、

例えばストーリーであったり、キャラクターの魅力、会話などテキストの魅力、そして世界そのものの魅力などがあるでしょうか。

本作はチュートリアルにあたるプレイ冒頭から、そうした“RPGの魅力”と言える要素のクオリティが高くて、丁寧に作っていることを感じさせます。

ヴァレアとゼイルのリズミカルな会話。スピーディーでストレスのないキャラクターの走る速さ。進んでいくエリアの適度な広さに、展開のテンポの良さ。どれもバランスがいいので、ダレることなくスルスルっと遊び続けてしまうゲームになっているんですよ。

マップは、そのものずばりスーパーファミコンで発売されたJRPGの名作『クロノトリガー』と同じ方式。小さなキャラを動かして移動だけを行う『ワールドマップ』と、ダンジョンの探索や戦闘を行う『エリアマップ』という構成。

ワールドマップでは戦闘はないが、エリアマップ内で徘徊している敵のシンボルに近づくと戦闘が始まるという、これまた『クロノトリガー』方式です。

エリアマップには、どのエリアにもたいがい“ひと工夫すると取れる宝箱やアイテム”が置かれているのがポイントで、進んでいる途中で何かあるのが自然と目に入ってくるものの、「あそこに行けそうだけど、どこから行くんだろう?」となる上手い作り。

マップはドット絵ながらも立体的に描かれているところが多いので、例えば、上から飛び降りてみたり、何かスイッチを操作して足場を動かしてみたりといったような、ちょっとしたパズルゲーム的要素を取り入れています。

特筆したいのはマップの美しさと、その工夫ですね。ドット絵で描き込んだマップには、現代的なライティングやシャドウ(影)が加えられているんです。クラシカルながらもビジュアルの中に新しさもあって、独特な、今では逆にオリジナリティを感じさせるような魅力を作っているんですよ。

敵のシンボルに近づくと、その場でそのまま戦闘開始。クラシカルなコマンド選択式のターン制バトルなので、慌てずじっくり取り組めます。

特徴的なのが、こちらが攻撃を当てるときや敵が攻撃を当ててくるときにタイミングよくボタンを押すと、より多くダメージを与えたり、敵の攻撃ダメージを軽減できるといったボーナスがつくところ。往年の名作JRPG『スーパーマリオRPG』にあったシステムで、こういうちょっとしたアクション的操作があると、自分でがんばって操作している感がアップしますよねー。

通常攻撃以外にMPを使ったスキルも駆使していきますが、消費したMPは通常攻撃をすることで回復きるという仕組み。

また、敵が数ターン後に強烈な攻撃を放つというときに、表示されている攻撃の属性を当てることで攻撃態勢を崩せます。

なので、通常攻撃でMPを適度に回復させつつ、いざ敵の強烈な攻撃がくるときにスキルをうまく使ってそれを崩すという、戦い方の組み立てを考えていくというプレイになっていきます。

アクション的な目押しを混ぜつつ、適度な戦略性もあり、それでいて複雑過ぎることもないという、万人向けなバランスになっています。

ただ、バトルでちょっと気になったところとしては、敵のHPが高めで、特にボス戦の戦闘時間が長めになるところ。長く戦った末に負けてしまった場合、リトライがちょっと重くなっちゃうんですよねー。

そこで遠慮せずに使っていきたいのが、プレイヤーが難易度を調整できる「秘宝」という要素。

例えば、“戦闘時のHPボーナス&戦闘終了時に体力回復”や“攻撃と防御のボーナスをよりわかりやすく表示する”など、戦闘を楽にするシステムをいつでもオンオフできます。

秘宝を使うことに特にペナルティなどもないし、正直なところ本作の唯一の懸念に“ボリュームありすぎ”ということもあるので、時間がある若い世代の人はノー秘宝で、時間があまりない大人は秘宝をバンバン使ってサクサク進めるというスタイルでいいと思いますヨ。

JRPGが「名作」と呼ばれるものになるために欠かせなかったのが、サウンド。

『Sea of Stars』のメインコンポーザーはエリック・W・ブラウン氏で、ゲストコンポーザーには光田康典氏が参加しています。まさにそのものズバリ、これ以上ないゲストです。

そんな『Sea of Stars』の楽曲は、「新しいエリアにたどり着くとまず、そのエリアの曲にハッとさせられる」というぐらいに、いずれの楽曲も必聴もの。

個人的には「ムーアランド」の曲が特に好きなのですが、こちらの曲はエリック・W・ブラウン氏作曲のものでした。エリック・W・ブラウン氏も光田康典氏も、どちらの楽曲も本作を一段高いレベルへと押し上げています。
  

『Sea of Stars』はレベル上げなしぐいぐい先へ進んでいけるし、それでいて物語もどんどんと展開していってテンポがよく、個性ある新しいエリアもどんどん登場していきます。

そんな贅沢な作りなのにも関わらず、30時間程度のプレイ時間を要するほどに密度があり、ボリュームはかなりのもの。丁寧に作り込まれていながらもボリューミーと、同スタジオの全力が感じられる仕上がり。

正直なところ、「これをインディーゲームと呼ぶには豪華過ぎるのでは……」とプレイ中に何度も思ったほど。スタジオの規模感などの定義上から本作はインディーゲームには違いはないわけですが、この『Sea of Stars』は“インディーゲームの上限値”に届いているのではと思います。

ただ、逆に言えば、ボリュームありすぎとなる人もいるでしょうし、そこに加えて敵のHPがちょっと高めなところは、本作の懸念点ですね。若い世代の人にちょうどよく、大人はちょっとしんどいかもしれないぐらいなので、時間があまりない人は秘宝フル活用で進めちゃいましょう。

そんな『Sea of Stars』ですが、世界中で高く評価され、発売1週間で同スタジオが年間売上目標としていた売上25万本を突破したとのこと。期待のハードルをしっかりと超えた結果がちゃんと示されているという印象です。
  

最後に。

『Sea of Stars』はJRPGのノスタルジーを感じさせるだけのゲームにはとどまっていません。

かつての90年代JRPGを楽しんだ人を楽しませるものであると同時に、新しい世代にも“こうした表現手法ならではの美しさや楽しさがある”と知ってもらえる。それだけのクオリティに到達していると言えます。

もう“ドット絵が昔のもので3Dグラフィックスが最新のもの”という考え方は、その考え方そのものがひと昔前のものになっています。

いかに混迷であっても、時代は着実に前へと進んでいます。

3Dグラフィックスもドット絵も、ゲームのビジュアルにおける表現手法の違いでしかなく、新旧という捉え方はゲームのおもしろさに関係がない。インディーゲーム市場を見れば、そのように“本質を理解している人”が着実に増えていること、余計な固定観念なしにそれぞれの良さを素直に楽しめる人が増えていることを実感できます。むしろ若いユーザーのほうが最初からそれを理解できる土壌(ゲームシーン)になっているとも言えそうです。

表現手法に対して新旧という概念で捉えることには意味はなく、3Dグラフィックスもドット絵も、それぞれの良さがあり、得手不得手があり、ゲームに対して適切であるかどうか、そしてその表現で何を描くのか、何をプレイヤーに見せるのかがあるのみです。

ひとつ加えるなら、どちらにも“美学のあるセンス”が問われることは間違いないですが。

『Sea of Stars』は、かつてのJRPGの魅力やセンスにあらためて2023年に挑んだ作品であり、かつてのドット絵JRPGの魅力は、現代においても良質な味わいでプレイヤーを楽しませることができることを、形にして示した作品と言えるでしょう。

気になった人は、ぜひご自身でプレイしてみてくださいねー。
  

© Sabotage Studio 2023

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