見城こうじのアケアカ千夜一夜

  • 記事タイトル
    見城こうじのアケアカ千夜一夜
  • 公開日
    2023年09月22日
  • 記事番号
    10260
  • ライター
    見城 こうじ

第10夜『スクランブル』(1981年・KONAMI)

対空&対地攻撃を駆使して戦うスクロールシューティング

『スクランブル』は宇宙船を操作し、ショット(前方に発射)とミサイル(放物線を描いて落ちていく)を使って敵を破壊しながら進攻していき、最終的に指令基地を破壊する横スクロールシューティングゲームです。

画面が強制スクロールすることでゲームが展開し、さらに最後にボス的なポジションのターゲットが登場する最初期のゲームの一つです。

特徴的な仕様として、宇宙船には燃料の概念があり、地上に配置された燃料タンクを破壊することで一定量の補給を得ることができます。

燃料がなくなった時点で墜落してミスとなるので、プレイヤーは確実にタンクを狙って破壊する必要があります。さらに、2周目以降は燃料の減る速度が早くなるため、タンクの撃ち損じの影響が大きくなっていきます。この燃料補給というアイデアが『スクランブル』を緊張感のあるおもしろいものにしています。

また、このゲームには敵弾の概念が存在しません(何をもって弾とするか、というのはあるのですが)。ミスになる要素は、敵や無敵障害物の体当たり、地形に触れることによるクラッシュ、もしくは燃料切れです。

『ゼビウス』や『グラディウス』にも影響を与えた作品

『スクランブル』はきわめてエポックメイキングな作品で、その後のさまざまなゲームの元になっています。

まず、『ゼビウス』や『ミッションX』に先駆けて、地上と空中の敵の撃ちわけ(対空ショットと対地ミサイル)が採用されており、実際に『ゼビウス』が参考にしたゲームの一つに『スクランブル』があるといわれています。

また、タンクを破壊することで宇宙船の燃料が補給されるシステムは、翌年の『ザクソン』に受け継がれています。

そして、KONAMIは強制横スクロールのシューティングシリーズとして、この『スクランブル』、そして続編の『スーパーコブラ』を経て、傑作『グラディウス』に到達しています。

『ゼビウス』『ザクソン』『グラディウス』、そのどれもが歴史に名を残すゲームです。『スクランブル』はこれらをはじめとする多くのゲームに影響を与えているのです。

ちなみに前述のとおり、『スクランブル』の最終目標は敵指令基地で、そこにミサイルを命中させれば1ループクリアとなります。この際、基地はこちらに対し、とくに攻撃をしかけてきませんし、動くこともありません。この考えかたは、後の『グラディウス』シリーズのラスボスにも通じるように思います。

なお、『スクランブル』以前に似たゲームはないのかというと、KONAMIが参考にしたかはわかりませんが、その一つとして1978年のセガ『シークレットベース』が挙げられると思います。

爆撃機を操作し、何度も爆撃を繰り返すことで山を掘り進めていき、中に潜む敵の基地を破壊するサイドビューのゲームです。固定画面で爆撃機はオートで横移動しており、画面の端まで行くとループして反対側から現れます。旋回飛行しているようなイメージだったのかもしれません。ぼくの記憶違いでなければ、急降下しながら爆撃すると、より大きく山を崩せるゲームテクニックが印象に残っています。

縦画面タイプにもかかわらず、そのスクロール速度は意外に速い

このゲームのユニークなところは他にもあります。縦画面で横スクロールという点です。

アーケードゲームの利点の一つとして、モニタを縦にも横にも使えることが挙げられます。ゲームに合わせてどちらにもできる。スマートフォン用ゲームでもこれができるのですが、コンシューマゲームでは原則としてこれができません(画面の左右をマスクすることで縦長を表現する方法はあるにせよ)。

横に進行するゲームの場合、前方に広く視界を取るために、モニタを横向きに使うのが一般的ですが、『スクランブル』では縦に使っています。こうした使いかたをしているゲームとしては、他にも『バスター』『フライボーイ』などがあります。

また、縦置きであることに加えて、『スクランブル』はスクロール速度もけっこう速いため、背景がどんどん流れていくのですが、それに比して自機の移動性能はあまり高くありません。

当時の感覚として『スクランブル』は地上と空中の撃ちわけが求められる忙しいゲームという印象がありましたが、この速度バランスでゲームが成り立っていたのは、まず一点目に、自機の攻撃性能が当時としては比較的高かったことと、二点目として、個々の敵の行動ルーチンがきわめてシンプルで、複数種による複合的な攻撃も、また物量で押す攻撃もなく、何より敵弾の間をかいくぐるタイプのゲームではなかったため(敵弾が存在しない)、求められる攻略自体はそこまで複雑なものではなかった、ということがいえます。

このスクロールの速度感だけはそのままに、敵も自分もすべてパワーアップさせたのが、後の『グラディウス』なのだと思います。

強制スクロールならではの独特な解法

また、『スクランブル』には、スクロールと自機の速度が等しいという特徴もあります。この2つの値が等しいとどうなるかというと、スティックを後方に入れても、背景に対して自機が今いる位置より後ろに下がることはできないんですね。その場に静止することになります。

このことをもっとも意識させられるのがステージ5です。道が全体的に細いマップで、その中でも縦の細い道を通り抜ける場面が何度も出てきます。何も考えずにプレイすると縦の道を移動している間にスクロールが進んでしまい、画面の端と壁の間に挟まれて自機がつぶされてしまいます。

そのため、自機をあらかじめ前方に進ませて、スクロールに対する移動のための猶予(余白とでもいうか)を作っておき、縦の道が来たらスティックを斜め後ろに入れて、自機の(ワールド座標上の)横座標を固定させたまま縦移動することでギリギリ通り抜けるというテクニックが必要になります。文章で書くとわかりにくいですが、ここを抜けるためには必須の動きなので、当時のプレイヤーは皆これを使って突破していました。

個人的に、強制スクロールが生み出す不思議なゲーム性を初めて体感したのが、この『スクランブル』だったかもしれません。

では、また次回。

©Konami Digital Entertainment
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