しなやかなアクションと緻密な世界観を持つ優等生的な作品ながら、探索の魅力である“ご褒美”のバランスが悩ましい『Hollow Knight: Silksong』

いい感じの遊び心地
いい感じのポップさ
いい感じのカジュアルなビジュアル
いい感じの2Dドットなゲームも豊富
いい感じの重すぎない&軽すぎないゲームらしさ
『発見! インディーゲーTreasures』は、
そんな“ちょうどいい感じ”なインディーズゲームを紹介していく月イチ連載です。
今回ピックアップした1本は、こちら。
『Hollow Knight: Silksong』!

タイトル:『Hollow Knight: Silksong』
開発:Team Cherry
パブリッシャー:Team Cherry
リリース日: 2025年9月4日
価格:2,300円
配信プラットフォーム:PC(Steam/Microsoft Store)/ Nintendo Switch 2 / Nintendo Switch /
PS5 / PS4 / Xbox Series X|S/Xbox One / Xbox PC Game Pass
広がる世界を気ままに進んで、
先に進めない場所に阻まれて別のところに行って、
探索した先で新たな力を手に入れて、
その力で新しい場所へ進めるようになって、
ボスと出会って苦労して何度もトライするうちにそれを乗り越えて。
それを繰り返していくうちに、気がつけばいつのまにか遠くまでたどり着いて、
その冒険が大切な記憶になる。
2D探索タイプのゲームジャンル“メトロイドヴァニア”
その定番の1本『Hollow Knight』の8年ぶりの新作
それが今回紹介する『Hollow Knight: Silksong』です。
『Hollow Knight: Silksong』の主人公は、前作の地下世界ハロウネストの王女ホーネット。物語は彼女が囚われてファールームと呼ばれる地に運ばれてきたところから始まり、上層のシタデルを目指していきます。
ファールームの地には悲劇的な歴史があったようで、ホーネットが歩む先は滅び朽ちた光景が広がっています。ですが、そこには退廃的な美しさもあって、本作のディテールが非常に細かくて色彩が豊かなビジュアルがこれでもかと描かれています。
世界はとても広くて隠し通路やエリアも豊富。おおよそプレイ時間は30時間から、さらにそれ以上となるのではないでしょうか。これでもかと言うほどのボリュームが凝縮されています。

荒廃したファールームの地には強く生きる人々もいれば街もあり、独特な個性を持ったNPCがたくさんいます。NPCとの出会いは過酷な旅に温かみやユーモアを添えるとともに、彼らに対するホーネットの会話や感情の変化から、彼女がどんな性格でどんな考え方を持っているのかなども伺い知ることができます。

ホーネットのアクションは前作よりもスピーディーで、速さとしなやかさを兼ね備えているところが今作の大きな特徴。
ダッシュ&空中ダッシュ、針攻撃、シルクミサイルなど、移動と戦闘アクションが一体になっている軽快なアクションが多くあり、特にジャンプからの滑空攻撃は重要。移動においてもボス戦においても、上達していくと、まるで空中をダンスしているかのような弾けるような爽快感のあるプレイが実現していきます。

ただ、ジャンプ滑空攻撃で足場になるオブジェクトを攻撃して弾んで移動するなど、アスレチックな動きで通らないといけない場面が多くあったりと基本的な難易度は前作よりも高く、
プレイスキルが高まって上手くプレイできているうちは気持ちいいときもありますが、何度もリトライして失敗が失敗を呼ぶ状態になったりと、いわゆる泥沼になっていくとストレスによる面倒さが出てきてしまうところも。
それに加えて、リトライのポイントとなるベンチが見つけづらかったり、せっかく見つけてもお金が必要で使えるようにできず歯がゆい思いをしたりと、ちょっと意地悪な難易度の作りが見受けられます。その状況でやられてしまって遠いベンチに戻されたりすると、なかなか辛いものが。
何とかお金を稼ごうとしても、お金をドロップする敵があまりいないエリアもあったりと、幾重にももどかしさが連なってくるシチュエーションも。リトライポイントの解放に妙に苦労したりというのは、達成感の魅力というには面倒なばかりで小粒で、プレイのモチベーション維持が厳しくなるところです。


探索の先で待ち受けるボスとの戦いは本作の大きな魅力で、戦っていて楽しい、いわゆる“良ボス”と戦いたくて探索をがんばっていると思えたほど。機械ダンサーやウィドウなど、良ボスとの戦いで攻撃パターンの理解を重ね、試行錯誤した先で勝利したときにはかなり良質な達成感を味わえます。ボス戦はBGMや演出も良いものが多いのが魅力的。


ただ、そうしたボスとはなかなか戦う機会がこないのは寂しいところ。ボスの数そのものは多いということなのですが、探索の範囲が広かったり隠れた先にいたりと、ボス戦になる頻度が少なくなってしまっているのは残念。
これは本作全体に言えることですが、基本的に“ご褒美”が薄いのが残念に感じるところで、例えばメトロイドヴァニアと言えば、
“探索した先で新しい力を手に入れて、それによってそれまで行けなかったところも進めるようになる”
これが基本の構造。本作にもその要素はもちろんあるものの、その楽しさを味わう機会がなかなかこないんですよね。探索範囲が広いことや、探索した先でもお金がちょっとあるだけと肩透かしだったりするところが多くて、本命である“新しい力”は少ない。
普通に進んでいるだけではボスに出会える頻度が少ないところもそうで、“探索→新しい力を獲得→ボス戦→撃破”という「メトロイドヴァニアの楽しさというご褒美」の導線がなかなか繋がらず、間延びしてしまっているのが気になるところ。
苦労した先でもあまりパッとした報酬がないことも多くあって、プレイのモチベーションが維持できずしんどくなってしまう人も出てきしまうのではないでしょうか。特に序盤~中盤にかけてはあまり良いリズムが作れておらず、特にアクションゲームが上手くない人ほどその問題を強く感じてしまうところが難しいところです。
……ご褒美さえもっとあれば、ちょっとやそっとの高難易度も乗り越えられるのですが。


『Hollow Knight: Silksong』は、前作の遺産を継ぐ軽快なアクションと緻密な世界観を持っていて、ビジュアルもサウンドも圧倒的にクオリティが高く、このゲームが2,300円で提供されていることは脅威的。
ですが、メトロイドヴァニアとしての探索の魅力やプレイヤーへの配慮は、リリース時のバランスでは不足と感じるところもあり、ボス戦までの戻し作業や、多くが隠されているボス、一部のイベントの難しさなどは辛いところ。
アクションゲームが好きで、かつ高難易度を求めるプレイヤーには強く推奨されますが、探索重視のプレイヤーにはストレスが目立ちます
期待の高い作品だけにいろいろと厳しいことを考えてしまうところがありますが、手触りの良いアクションゲームとしてクオリティと丁寧さは圧倒的に高く優等生な作品であることは間違いなし。この優等生がもう少しだけ優しさと楽しさを手に入れてくれれば、よりオススメしやすくなります。
9月16日には難易度などの改善と調整を行うアップデートが予定されていて、本稿はそのアップデートが配信される前に書いているので、もしかするとこうした残念に感じたところも改善している可能性があります。アップデートによる継続的な改善と調整には期待していきたいところです。
Hollow Knight is © Copyright Team Cherry 2025