タイトー『エレベーターアクション』発掘報告書 前編

  • 記事タイトル
    タイトー『エレベーターアクション』発掘報告書 前編
  • 公開日
    2022年04月22日
  • 記事番号
    7388
  • ライター
    ぱぱら快刀

おはようパパラ君。
このたびタイトーから『タイトーマイルストーン』および『イーグレットツー ミニ』が発売されたことは知ってのとおりだ。
大変喜ばしいことである。
そこで君の使命だが、その収録タイトルについて発掘調査を実施し報告書を作成してくれたまえ。ターゲットのタイトル選定は君の判断に委ねる。
例によって、君、もしくは君の発掘隊のメンバーがゲームに感激し、あるいはハマりすぎて抜け出せなくなったとしても、当局は一切関知しないのでそのつもりで。
なおこのメールは自動的に消滅する。成功を祈る。

  
  
……紹介しよう。わたしが秘密発掘エージェント、発掘隊長のダブルオーパパラだ。
過去数々の名作古典ゲームの発掘研究を行なってきた歴戦の発掘エージェントである。

指令を受けたからには、その使命を果たさなければなるまい。まったくいつもインポッシブルだぜ。
今回の発掘ミッションのターゲットは、タイトーの『エレベーターアクション』と定めてある。
もうお気づきだろうが、これはスパイがテーマのゲームだ。
そして『タイトーマイルストーン』と『イーグレットツー ミニ』の両方に収録されている素晴しきタイトル群の一つである。
みなさんもプレイできるのを心待ちにしているはず。ほんとに楽しみだよね!!

説明しよう!
この記事シリーズは、かつての名作古典ゲームを取り上げ、その素晴らしきゲームデザインの良さを調査発掘し、現代のゲームデザインにも活かせるであろうエッセンスを発見することを目的としている。
今回はどのような発見があるのか、ドキドキするね。では早速いってみよう~!
  

<ゲーム紹介>

今回発掘する『エレベーターアクション』は1983年稼働開始の業務用ゲーム機だ。
動くエレベーターが題材のアクションゲーム、というなんだか珍しい内容になっている。というか、ゲームタイトルそのまんまのゲームじゃないか。実にストレートなゲームタイトルだ。
エレベーターがアクション。大変わかりやすい。素直だ、率直すぎる。人というものもこうありたいものだな……。

ゲームの主人公はスパイと思わしきキャラクターである。プレイヤーは彼を操作し、とあるビルに屋上から潜入。エレベーターを駆使してビル内を移動し、敵のガードマンを銃撃で倒しつつ、ビル各所にある特定の部屋から重要機密書類を奪い集め、地下にたどり着いて脱出する。
このミッションがゲーム内容である。

ゲーム画面はいわゆるサイドビューと呼ばれるもので、つまり見た目としてはビルの断面図ですね。

『エレベーターアクション』ゲーム画面

操作デバイスは4方向レバーと2ボタン。
当時のゲームとしてはオーソドックスでシンプルなものだ。同様に主人公のアクションもごくシンプルだ。スパイの行動はできるだけシンプルであるべきだからな!

主人公はレバーで左右にスタスタと歩く。
レバー下でその場でしゃがむ。しゃがみ中は移動できないが、レバーで左右を振り返ることはできる。様子見のポーズですね。

ジャンプボタンでジャンプする。レバーと組み合わせて斜めジャンプも可。ジャンプといってもただのジャンプじゃないぞ、そのままジャンプキックになっている。さすがスパイ、さりげなく攻撃要素が入ってる。

ショットボタンでピストルを撃つ。水平射撃のみだ。
ピストル。スパイらしいつつましい武器だ。銃弾は一度に3発まで発射可能。弾数は無限だ。いっぱい持ち歩いているね。

敵であるガードマンたちもビル内をうろつき、主人公を見つけて銃で撃ってくる。
敵も自分も、一発でも銃弾が当たれば死ぬ。即死だ。スパイの世界はシビアだな。
  

【銃撃戦】

ピストルは立った状態でもしゃがんだ状態でも撃つことができる。何ならジャンプ中にでも。
敵が撃ってくる銃弾は、とっさにしゃがんでやりすごしたり、ジャンプで飛び越えたりして避けることができる。スパイらしいかっこいい避けかただ。
話だけ聞くとなんかマトリックスみたいだよね!

敵の銃弾をしゃがんで避けつつ、しゃがみ射撃で敵を撃つ。
自分は生き延び、敵のガードマンは撃たれて死ぬ。ヒュー、冴えたやりかた。
敵の銃弾がなかなか当たらないのもスパイもののお約束だな。
ま、こうして危機をひとつ乗り越えるって寸法だ。
  

【ジャンプ】

ジャンプは垂直跳びのほか、レバー左右と組み合わせてナナメにも跳ぶこともできる。
ジャンプ中は両足を前方に突き出している。ドロップキックぽいが、前屈の姿勢のままだ。
このキック、当たれば一撃で敵を倒すことができる。一撃、この男は空手の使い手にちがいない。さすがはスパイ。格闘術も超一流だ!

しゃがみ撃ち/ジャンプ

【エレベーター】

さて、戦ってばかりではまったくミッションが進まない。さあ、エレベーターに乗って大人の旅にでかけよう。

エレベーター内ではレバーの上下でエレベーターを好きに上下に動かせる。素直に言うことを聞くかわいいやつだ。こいつでフロアからフロアへと移動する。
エレベーターといっても乗りこむ出入口は両側についているので、通路のように向こう側へも渡ることができる。なぜか扉がないが、ま、細かいことは気にするな。スパイにはときに大胆さも必要だぞ。
  

【赤いドア】

そうそう、ミッションってなんだっけ。ゲーム中にまったく説明はないのだが、どうやらところどころにあるあの目立つ赤いドアを目指せばよいっぽい。せっかくだから俺は赤い扉を選ぶぜ!

赤いドアに入って書類を盗み出す

ドア前の床に印があるので、ここに立ってドア側を向けば(レバーを上に入れれば)、勝手にドアを開けて部屋に入る。特別な操作は必要ない。ドアマットを踏んで立ち止まるだけ。便利な入室方法だね。
お、部屋に入ったら閉じ込められてしまったではないか!? いや、レバーを倒せば部屋から出られる。びっくりしたぜ。
部屋から出たときには何やら書類を大事に脇に抱えてる。こいつは重要な書類っぽいな。奪ってやったぜ。どうやらこれを盗み出すことが俺の目的らしい。さっきまであった赤い扉はただのドアに変わっちまった。用済みの部屋はもう目に入らない。
  

【ビル内移動と脱出】

ビル内にはあちこちにエレベーターがある。
エレベーターなんだが、だいたいが上下に数階分だけ往復移動する短いものばかりだ。マジか。どんなビルなんだ。不便すぎるだろ。
ほかにはところどころにエスカレーターがあるが、こいつはなぜかフロアの端っこに設置されてる。ふつうのデパートとかだとフロアの中央にあるよな。さすがスパイビルだ。

まあいい。こいつらを乗り継ぎ、ビル内の赤いドアをすべて巡回し、すべての書類を回収したら、ビルの地下を目指す。ビルの地下には逃走用の赤いスポーツカーが用意してある。こいつに乗って脱出だ。せっかくだから俺は赤い車で逃げるぜ!

地下から脱出

これで1ステージクリアだ。
あとはこれを繰り返すというのが『エレベーターアクション』のゲーム内容だ。まさにエレベーターのアクション、そのまんまだな。むしろエレベーターが主人公と言ってもいいぐらいだ。

……待てよ、もしかしたら主人公キャラの名前が偶然にもエレベーターなのかもしれない。エレベーターの名を持つ男。そいつがアクションするゲームということだ。ゲーム中には主人公の名前とか出てこないからありえる話だ。コードネーム「エレベーター」。あるある。スパイ組織の中でも手練れのエレベーター使い。そんなやつがいても不思議はない。組織のチームメンバーは「イーグルアイ」「フォックスレディ」「スネークドライバー」そして「エレベーター」とかか。かっこいい組織だ。想像がふくらむね! おまえの出番だぞ「エレベーター」!(なに? 海外版のフライヤーに主人公のコードネームが「オットー」だと書かれているだと? 細かいことは気にするな)

以上が『エレベーターアクション』のゲーム内容説明である。
実際のゲームプレイは、ぜひ『タイトーマイルストーン』や『イーグレットツー ミニ』で体験してほしい。
  

<ゲームの特徴>

さて、『エレベーターアクション』のゲームデザインには、当時としては珍しい3つの特徴があります。

1.上から下へ降りていくスタイル
2.しゃがみ攻撃
3.自分で操作できる足場(エレベーター)

くわしい話はのちほどツボとして述べるので、ここではさわりだけ簡単に。
  

1.上から下へ降りていくスタイル

ビルといえば、普通、上へ昇るものだ。当時でいえば『クレイジークライマー』。クレイジーではあってもクライマーなので地上からビルの屋上へ登っていく。ゴールの屋上に着けば、ヘリコプターで脱出だ! ヘリで脱出するならば、何のために登ったのかよくわからないように見えるが。まあゲームだから気にするな。なぜ登るのか、そこにビルがあるからだ。

ところが『エレベーターアクション』では、ビルの屋上から地下へ向かって降りていくゲームとなっている。逆進行、たいへん珍しいパターンだ。
  

2.しゃがみ攻撃

『エレベーターアクション』ではしゃがむアクションと、そこからのしゃがみ攻撃がある。それ何が特徴なの? 何か珍しいの? とみなさん思うよね。

じつはこのゲームの当時、しゃがみアクションのあるゲームはほとんどなかった。私の記憶にあるかぎり皆無です!
しかも、しゃがみアクションが加わっただけではない。
何と! しゃがみ中にも射撃ができる。しゃがみだけでも新しいのに、さらに攻撃もだと!? いきなりそういうゲームが登場したわけです。ほとんど突然変異的な進化ね。いやマジで当時そんなゲームなかったんだよ!!
  

しゃがみ中の射撃

ただ実は、当時にもこれ特にすごい革新だとは思われてなかった。何の驚きもなく受け止められてた、ように思う。
このころのゲームシーンはまだカンブリア紀みたいなもので、いろいろヘンテコなゲームデザイン進化が試行錯誤されてた時代。なので、しゃがみ射撃といえども、変化ともいえないぐらいにささやかで目立たない存在でしかなくて、わりとスルーされてたんだよね。

しかも、まだ「しゃがみ」という表現すらあまりなかった時代である。『エレベーターアクション』の説明書きでも、しゃがみではなく「すわる」と表現されていたぐらいだ。任務中に「すわる」とは。休むな! たるんどるぞ! て怒られかねないな。まあそのぐらい新しい概念だったということです。
  

3.自分で操作できる動く足場(エレベーター)

アクションゲームの華! それは動く足場! 越えたらうれしい落ちたら死ぬしぃ素晴しい!

動く足場。一般的にはだいたい宙に浮いてたりロープにくくりつけられてたりして、上下や左右に動く床とかだね。主人公は足場の移動に合わせて飛び乗り、あるいはぶら下がり、具合よきところで適宜に飛び降りて新しいフロアへと進む。
また足場を踏み外すと奈落とかに落ちてしまう。さようならだ。落ちた先が針山だったりもやべーな。殺す気まんまんだ。あと落ちた先がただの床であっても、身長分落ちただけで死ぬつわものさえいた。

しかし『エレベーターアクション』はちょっと違った。
エレベーターは一見上下に動く「足場」であるが、乗っているときには自分で上下に動かすことができる。まあエレベーターだから当然か、動かせなかったら困る。

上下という制限があるとはいえ、この「足場を操作できる」点はまったく新しい発想だった。そしてゲームタイトルでも強く示されてるように、「エレベーター」というメタファーと相まってわかりやすくアピールされている。

さて、今回は主にこれらのゲームデザインのツボを中心に発掘する。
それでは行くぞ。発掘現場へ潜入し深く潜っていく。コードネーム「エレベーター」、キミの出番だ!
  

<発掘品目録>

さて、今回発掘するツボの一覧リストをまとめたので目をとおしてほしい。
毎回のことでもう飽きただろうが、このようなリストをキッチリと用意するのが企画マンの重要な仕事です。
まずこれから何があるのか、見通しをよくするための地図や羅針盤となる。
開発作業が路頭に迷わないために、しっかりと記述するクセをつけよう。
  

-前編-
■ゲームデザインのツボ■
 ツボNo.1 「上から下へ降りていくスタイル」
 ツボNo.2 「しゃがみ攻撃:新アクションを活かす」
 ツボNo.3 「自分で操作できる足場(エレベーター)」
   
-中編-
■ビジュアルのツボ■
 ツボNo.4 「キャラクターと世界観の表現」
 ツボNo.5 「カートゥーン&マンガ的表現を演出に」    
■アクションシステムのツボ■
 ツボNo.6 「文脈アクションでシンプルさを保つ」
 ツボNo.7 「良くできたマップを使い回す」
-後編-
■アクションシステムのツボ■
 ツボNo.8 「操作とアクション挙動を安定化する」
■ゲームシステムのツボ■
 ツボNo.9 「低コストかつ合理的な作り込みで面白味を増す」
 ツボNo.10 「ゲームルールの穴を埋める手際」

今回のツボは以上となっている。ではさっそく調査報告書に目を通してくれ。
  

<「エレベーターアクション」のツボ>

■ゲームデザインのツボ■

『エレベーターアクション』の最大の特徴といえるツボは、そのゲームデザインにある。ここでは前述した3つの重要な特徴を一つずつ詳細に報告する。

【3つの重要特徴】
1.上から下へ降りていくスタイル
2.しゃがみ攻撃
3.自分で操作できる足場(エレベーター)

おさらいとして再度記述した。思い出したであろうか。では行くぞ!
  

ツボNo.1 「上から下へ降りていくスタイル」

もう一度『クレイジークライマー』の話をしよう。このゲームは、主人公キャラが高いビルの外壁を地上から屋上まで登っていく内容である。当然だが、ゲームを進めるとゲーム画面は上に向かってスクロールしていく。

次に、縦スクロールシューティングゲーム。当時の縦シューもみんな画面の上に向かってスクロールしていくものがほとんどだ。今もだけどね。敵を撃ち落として突き進め! 前向きだ。というか上向きだな。

タイトーの『アルペンスキー』。スキーだから山の上からふもとへ下って行くわけだが、何と、ゲーム画面で進む方向は上である。画面の上側にいけばふもと、画面下方が山頂、という位置関係。それを空中から見下ろす視点ですね。画面は上から下へスクロールし、スキーヤーは見た目上は上方向に滑っていく。

『リバーパトロール』は川を上流へ遡っていくゲーム。画面上方向の上流をめざす内容だ。やはり基本的に画面は上から下にスクロールしていく。縦シューや『アルペンスキー』『リバーパトロール』はトップビュー(上から見下ろす視点)だが、サイドビューであろうとトップビューであろうと、やっぱりみんな画面の上に向かうのである。

しかし『エレベーターアクション』ではビルの屋上から下を目指す。つまり画面は下から上へとスクロールしていくのが基本となる。スクロール方向が完全に逆だ。しかもエレベーターなのに、昇るのではなく、下に降りるゲームデザイン…だと……!?
何とも不思議じゃないですか! こんなのおかしいですよ!

なぜそうなったのか、しばしここで考えてみよう。

まず普通にビルを下から上に昇っていく場合、屋上がゴールとなる。スパイものならここからヘリで脱出がお約束だな。おい待て、これでは『クレイジークライマー』のまるパクリに見えるじゃないか! 下手すりゃ訴えられるぞヤバたにえん。よもやよもやだ。スパイが訴えられるとは不甲斐なし。ビルがあったら、登りたい!!

ヘリがダメなら屋上からハングライダーで飛ぶしかない。ああっ、それもしかして『キャッツアイ』!? 難しいな。当時大人気すぎるマンガだったからな。やっぱり気が引ける。

まさかのネタかぶり。そういやビルを登るさっきのクレイジーなやつも、もしかしたらスパイだったのかもしれないな。トム・クルーズだってビル外壁を登ってたし。それとレオタードのスパイってのも新しくておもしいかもしれない。いやそんな妄想はどうでもいい。

ここからは私の推測でしかないが、大ヒットゲーム『クレイジークライマー』のフォロワータイトルを目指しつつも、それとの差別化のために『エレベーターアクション』は屋上から下へ降りるというゲームデザインを選んだ、と考えることもできるのではないか。

既存ヒットゲームにあやかった追従タイトルを作るにあたり、「ビルを昇る」ではなく「降りる」というアンチテーゼの発想。ビル外壁じゃなく室内が舞台ってのもそのアンチテーゼ仮説を補強しているように思える。昇ってもダメなら降りてみろ。こう考えると、上から下へ降りる不思議なゲームデザインも納得できる話に見えないだろうか。

そのアンチテーゼ発想の結果、『エレベーターアクション』も古典名作として輝く存在になった。
既存ヒットゲームのクローンではなくなっている。そもそもクローンには見えない。クローンにしてアンチテーゼ。ここにゲームデザイン発想の秘訣がある。こいつが第一のツボだ!
  

ツボNo.2 「しゃがみ攻撃:新アクションを活かす」

現代のアクションゲームでは、主人公アクションにはまず「ジャンプ」と「しゃがみ」があるのが一般的ですよね。もはやあって当然、なかったら恥ずかしい、そんな扱いですらあります。

突っ立ってないでまあ座れよ。ビビんじゃねぇよちょっと跳んでみろよ。ってのがアクションゲームの常識として根付いている。飛んだり跳ねたりが楽しいもんね。もう標準装備。そこからどんな独自アクションを加えるか? ってのがまずアクションゲーム作りのスタートラインだよね。

だが当時は違った。
『エレベーターアクション』以前には、しゃがみアクションのあるゲームはほぼ存在しなかったのである!
なんてこった! 『ドンキーコング』『マリオブラザーズ(スーパーじゃないほうね!)』『ロックンロープ』『ロードランナー』、みんなしゃがまない。『ディグダグ』『マッピー』、おまえたちもか! 

みんなしゃがまない、座らない。どんだけ頭を下げるのが嫌なんだプライド高すぎだろ!
……というわけではない。当時はしゃがまないのが常識だった。しゃがむという発想そのものがなかったのか、もともとしゃがむ必要のないゲームデザインが主流だったのか。おそらくその両方と思われる。

とにかくそうだった。『カラテカ』はしゃがまないけど「おじぎ」はしてたな。頭を下げる礼儀正しさがある。『スパルタンX』……このゲームはしゃがめるぞ! しゃがみパンチもキックも、ジャンプキックもある! 見どころがある! その練り上げられたゲームデザイン、至高のしゃがみに近い。おまえもスパイにならないか。

『スパルタンX』は『エレベーターアクション』より少しあとにリリースされたゲームですが、特にアクションをパクったという印象もなく、しゃがみ攻撃などはおそらく同時多発的に生まれたものに見える。
うーん、そうなると記憶にあるかぎり『エレベーターアクション』以前に「しゃがみ」アクションのあるゲームはたぶんホントにないかもしれない。

調べてみたら『カンガルー』『ジャングルキング』には「ふせる」というアクションがあった。確かにあったあった! ただこの両タイトルの「ふせる」は、必須操作というよりは緊急回避技として使うものだった。あんまり使わんかったけど。

『エレベーターアクション』では「しゃがみ」に「回避」と「攻撃(いわゆる上段中段攻撃)」の2つの要素を含ませている。重要な点だが、「しゃがみ」「上段中段攻撃」という概念は、両方同時に発想しないと成立しない、生まれないという関係になっている。鶏と卵は同時に誕生するのである。
  

立ち射撃/しゃがみ射撃

「しゃがみ」がなければ中段射撃もできず、敵の弾も避けられず、ゲームデザインはまったく違ったものになる。つまり「しゃがみ」はこのゲームデザインのキーアクションという位置付けだ。前述の、緊急的な回避のみが目的の「ふせる」とはぜんぜん文脈が異なっている。

ん? 「しゃがみによる上段/中段攻撃」の始祖が『エレベーターアクション』?? これはもしかしたらマジ埋もれた大発見かもしれないな。エレベーターのツボを探してたら、と~んでもないものを見つけてしまった!! 当時のことくわしい人がいたら情報求ム。

かくしてここに、敵味方に「しゃがみ」を利用した「上段攻撃」「中段攻撃」(敵側にのみ「下段攻撃」もある)の存在するゲームシステムが誕生したのであった。ついでに「ジャンプ攻撃」もね!

しゃがむアクションに限らず、このようにまったく新しいアクションの実装というものは、当時も現代でも開発コストのかかる行為だ。そしてそんな新奇なアクションをつけたなら、対応するリアクションも同時に用意しなければならない。しかもそれが「楽しくおもしろい組み合わせ」である必要がある。ここがツボだ!

『エレベーターアクション』は、早い時代にそれを体現し我々に教えてくれたゲームといっても過言ではないのだった。

余談:『ジャングルキング』は『パイレートピート』という名前のゲームに変更となりました。
  

ツボNo.3 「自分で操作できる足場(エレベーター)」

さまざまな特徴にあふれた『エレベーターアクション』の中でも、もっとも目立つギミックが、タイトルにもなってる「エレベーター」ですね!

ビルの中には大量のエレベーターが存在している。まさにエレベーターの迷路。迷宮。魔窟だ。
エレベーター1個だけ、って寂しいフロアもあれば、これでもか! ってぐらいエレベーターに溢れたフロアもある。まるでエレベーターの宝石箱やあ!
エレベーターのサイズは統一されているが、縦方向の長さ、つまり移動できるフロア数はエレベーターごとに千差万別。短いものは数階分、長いものだと10階ほども上下できるものもある。

しかもこのエレベーター、単なる移動手段というだけには留まらない。ゲームプレイに多彩な変化をもたらす心憎い効果がいくつもある。ここからがエレベーターを使ったアクションのおもしろいところの説明だ。

1.スリルと弛緩の演出
エレベーターが自分のフロアにやってくるまでの待ち時間。この間にも敵ガードマンが出現しプレイヤーを狙い追いかけてくる。ハラハラドキドキ、エレベーターはまだか! 戦いつつ待つ。ここでひとつスリルが演出されてるわけですね。

そうこうしてるうちにエレベーターがやってきたら、もうこっちのもんだ! エレベーターに乗り込みフロアを移動する。敵のガードマンは置いてけぼりだバイなら~。もう安心だぜ。このスリルと安心の緩急。これが短いスパンで繰り返されてる。いいね!

2.エレベーター乗降の確実性
ここで重要な点は、エレベーターへの乗り降り自体は安全かつ安定的に行えることである。
プレイヤーはエレベーターの隙間から落ちたり針山に怯えたりすることなく、サクッと乗降できる作りになっている。ムダなリスクやストレスを抱えることはない。気楽である。

このゲームの本旨は、エレベーターに乗った後の昇降操作や移動戦略にある。そこがゲームのキモだ。このゲームでは、いかにうまく操作しミスせずエレベーターに乗り込めるか? という技術は求められない。乗降そのものにはリスキーな要素を設定していない。ゆえにプレイヤーは積極的にエレベーターに飛び乗ることができる。ここを難しく作る必要はないのだ。ゲーム本来の狙い、目的を見誤らないことは重要なポイントだね。何でも難しくすればいいってもんじゃない。

3.多彩な展開を生む細かな工夫と作り込み
このエレベーターは、ただ乗り降りするだけではない。パッと見の想像をこえる細かな工夫、作り込みがいくつも施されている。「エレベーターの屋根に乗れる」「穴を飛び越えられる」「厚み部分に銃弾が当たる」「2段エレベーター」の4つだ。順に説明しよう。

ひとつめ。「屋根に乗れる」
主人公はエレベーターの上、屋根部分にも乗ることができる。せっかちな人はちょいと屋根に飛び乗ってフロア移動ができて便利。ただし屋根上ではエレベーター操作ができず、エレベーターの動きまかせ。それにエレベーターを吊ってるワイヤーの向こう側へは行けない。ちょっとドキドキするね。

屋根にも乗れるのは、プレイヤーの想定を上回るアクションで、「このゲームすげー!」と思わせる要素でもある。またこれによってチャレンジャブルな上級プレイも可能という、一粒で二度美味しい作りになっている。じつに芸がこまかい。味わい深いですね。
  

エレベーターの屋根に乗る

ふたつめ。「穴を飛び越える」
エレベーターシャフトの空いた空間は、ちょうどジャンプで飛び越えられる幅である。エレベーターを待つことなく、シャフトの向こう側へエイヤッと飛び越えるショートカット移動ができる。おお、そんなことができるのか! スパイ映画とかでもよくある飛び移りの再現だよ! ホント芸がこまかいな。エイヤッ、大事ですね。エレベーターを吊るワイヤーロープは壁あつかいなので、向こう側には進めない。ジャンプでロープにぶつかって、そのまま落下死することもある。嫌な死にかただ。見たくないな。

穴を飛び越える

穴を飛び越えるためにドット合わせだとかのピーキーな位置調整の意識は不要。このアクション自体はわりとラフな操作、フィーリングで簡単に成功できる。しかしながらこれは上級者向けのムーブだ。周囲の敵の射撃に注意しつつで、いつ飛ぶかの判断が難しいからね。操作はイージーだが、移動戦略としては難しいリスキーな選択! というバランスが効いている。

みっつめ。「銃弾の遮蔽物」
エレベーターの「天井と床の厚み」。エレベーターの内部空間は銃弾が行き来できるが、この厚み部分に敵味方の銃弾がヒットすると当然だが弾は消える。エレベーターが銃弾の遮蔽物にもなるのだ。細かい作り込み。エレベーターを何本も挟んだ射撃戦ではお互いの射線がなかなか通らないため、ちょっとした混乱をもたらす。ピンチやラッキーが実際に起こる。遮蔽物を挟んだ銃撃戦。スパイ映画でもよくあるシチュエーションの再現にもなってるね。

エレベーター枠に弾が当たる

エレベーターの枠に弾が当たって消える。たったこれだけの要素だが、これがちゃんと作り込まれてるために「ほんと芸が細かい! 良く出来てる!」って印象の仕上がりになる。おお、神が宿った瞬間だ。

よっつめは「2段エレベーター」だ。
エレベーターの箱が上下2連になっているものがある。どちらの箱にも乗りこめるし、乗りこめば昇降操作も同じだ。2つあるからエレベーターがやってくる待ち時間が少なくてすむぞ。と喜んだのもつかの間、どっちに乗りこむかによって一番上や一番下にたどり着けないことに気づく。くそ、乗る箱が違う! 上下に2つ設置しただけで、より便利になりつつ不便にもなる。ゲームプレイに変化と難易度のメリハリをもたらす。ほんとうまく出来てやがるぜ!

2段エレベーター

4.まとめ

エレベーターという単一ギミックでありながら、これらの作り込みにより何とおりもの使いかたやゲーム戦略を生み出せている。実にエレガントだよ。

その結果、ビル形状とエレベーター配置の組み合わせにより、多様なゲームプレイの変化と難易度変化を作り出している。エレベーターは単なる移動手段というだけではない。移動用の操作可能な乗り物として、マップ進行ルートの一部として、ゲーム攻略のギミックとして、幾重もの役割を持ち効果的に機能しているのだ。

さすが『エレベーターアクション』の名に恥じないエレベーターギミックだ。この作り込みがこのゲームのツボなのだ!
やっぱりエレベーターがこのゲームの主人公だな!
  

<次回予告>

おっと、今回の発掘調査報告はここまでのようだ。
次回は、ビジュアル面での効果、さらに詳細な主人公アクションの作り込み、マップ構成の工夫、などなどのツボを発掘していく。イーグルアイ! フォックスレディ! スネークドライバー! エレベーター! 気を引き締め、次の連絡まで待機せよ。
  

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