「雑誌・攻略本・同人誌 ゲームの本」展スタッフインタビュー(後編)

  • 記事タイトル
    「雑誌・攻略本・同人誌 ゲームの本」展スタッフインタビュー(後編)
  • 公開日
    2022年04月15日
  • 記事番号
    7366
  • ライター
    鴫原盛之

北海道小樽市の市立小樽文学館にて、ゲーム雑誌や関連書籍の展示イベント「雑誌・攻略本・同人誌 ゲームの本」展が開催中です。

本展は、ゲームソフトやハードではなく、ゲーム雑誌や攻略本、同人誌の展示を通じ、ゲーム文化の変遷を紹介するもの。会場内には、史上初とされるビデオゲームの攻略本「インベーダー攻略本」をはじめ、休刊となって久しい懐かしのゲーム雑誌や、今では滅多に見られない同人誌や関連書籍などが多数展示されています。

後編でも、本展を企画した藤井昌樹氏、北海道大学博物館学研究室の寺農織苑氏、ゲーム本コレクターの山本耕平氏のお三方に、本展に込めた熱い思いを存分に語っていただきました。ぜひ最後までご一読を!
  

今まで以上に、楽しいナラティブ体験ができる展示が実現

―― 展示物の大半は山本さんのコレクションとのことでしたが、最終的にどの本を、どの順番で展示するのかは、どなたが決めたのでしょうか?

寺農:展示の基本的な流れは、すべて藤井さんですね。

山本:私の自宅にお越しいただいて、現物を見てもらったうえで構成を考えました。

藤井:ほかにも展示したい本の候補がいろいろあったのですが、徐々に絞り込んで決めました。CDのブックレットとか、ゲームブックも掲載する構想があったのですが、とても納まり切れないので現在の形にまとめました。

―― 最終的には、絞り込んでも約1000点の本を用意したわけですから、会場に運ぶだけでもかなり大変だったのではないでしょうか?

寺農:乗用車で、何度かに分けて運びましたね。

山本:段ボールで、だいたい20箱分ぐらいの量になりました。で、不思議だったのが、本を運び終わった後もコレクションが意外と減らない、思ったよりも家の中が広くならなかったんですよ。ウチの奥さんから「そのまま寄贈すればいいのに」って言われちゃいました(苦笑)。

寺農:実は、当初は図録の裏表紙の写真が、何を写したものなのかが分かるように文章を入れておいたのですが、私が入稿ミスをしたせいで載せることができませんでした。本当は、写真といっしょに本が3500冊、ゲームソフト4500本、ハードが20台、基板が40枚と、所蔵点数も書いておく予定だったんですよ。これだけたくさんのコレクションをお持ちなので、900点を抜いただけでは、多分ご自宅は微動だにしないんだろうなあと(笑)。

藤井:北海道に限らず、今では全国各地で、それから海外にもコレクターがいることが可視化された感がありますよね。今後は、ほかの地域でも同様の展示が開催できるようになったらいいなと思っております。

―― 本展の準備にあたり、皆さんであらゆるゲーム関連書籍や資料を何度も読み直したと思います。何か新しい発見などはありましたか?

藤井:我々のように昔を知る世代は、やはり展示物を見ることで「当時はどういう読みかたをしていたかな?」と当時を想起したり、「こんな本や雑誌が出ていたのか!」と、今まで知らなかった本を発見できたりして楽しめるなと改めて思いました。
以前に開催した「小樽・札幌ゲーセン物語展」のとき変わらず、私は展示を通じてナラティブ体験(*01)を、ほかの人と共有しながら楽しんでいただきたいという思いが強くあります。ゲームの場合は、本であろうとサントラであろうと、媒体にかかわらずそこは同じなんだろうなあと。
それと今回は、「ゲーセン物語展」とは違って家庭用やPCゲームも含めた展示になっていますので、より幅広い多様な世代のかたに楽しんでいただける展示になっているかと思います。

―― 確かに、私(鴫原)も今までに見たことがない雑誌や攻略本がいくつも展示されていたので、会場では何度も驚かされました……。

藤井:おもしろかったのが、ネット上に「「コンプティーク」って、こんな昔からあったんだ!」という書き込みがあったことですね。今の雑誌しか知らない人にとっては、そういう発見があるんだなと思いました。また初期の時代の攻略本には、メーカー非公式のキャラクターイラストを使用したものがたくさんあるんですよ。出版社ごとに、同じキャラクターでも絵が全然違っていたりするのも、今見るとすごく楽しいですよね。

山本:そうそう。イラストが違っていたり、時代を追うごとに少しずつ絵が洗練されていく過程をご覧になったりするのも、絶対におもしろいと思いますよ。

―― ナルホド、世代によって違った楽しみかたが見出だせそうですね。

藤井:それから、会場にはコミュニケーションノートを設置していますので、「私、こんな本を持ってます」とか、ぜひ書き込んでいただきたいですね。展示をきっかけに、また新たなかたと知り合えるきっかけができればいいなと思っております。

山本:実はコレクター仲間って、身近になかなかいないんですよ。ぜひ、いろいろなかたにお越しいただきたいですね。

寺農:会場には、ノートといっしょにアンケート用紙も置いてありまして、昔のゲーム雑誌や攻略本を知る世代と、雑誌がほとんどない今の若い世代との間に、どんな認識の差があるのかを調べようと思っています。アンケートは、きちんと統計学に基づいた構成になっていますし、展示も博物館らしく年代順、系統順になっているので、展示が終わったらどこかの学会でアンケート結果などを発表しようかと検討しております。

会場に設置された、コミュニケーションノート(左)とアンケート用紙

懐かしのゲーム関連書籍を自由に読めるコーナーも設置

―― 会場の奥には、昔の子供部屋を再現したコーナーも用意してありますよね? こちらもナラティブ体験につながる、とてもいいアイデアだと率直に思いました。

藤井:以前に小樽文学館で実施した、漫画雑誌の「ガロ」の展示を参考にしました。小樽文学館では、「ガロ」以外にも当時の部屋を再現する企画をよくやっているんですよ。

寺農:ですので、本や雑誌以外のほとんどの備品は、小樽文学館さんで持っていたものをお借りしています。

山本:こちらのコーナーでは、実際に手に取って読める本もいくつかご用意していますよ。

―― ただ飾るだけでなく実際に読めるとは、ますます良い体験ができますね! でも、貴重な本を不特定多数の人に触られるのは、コレクターのお立場としては正直不安なのではありませんか?

山本:自分が見る側の立場になって考えた場合は、「やっぱり読みたいな……」と絶対に思いますので、できるだけ皆さんにお見せしたいなと思ってご用意しました。そもそも、私はゲームソフトは自分で遊ぶために、本は読むために集めたものですから、ぜひ皆さんもごいっしょにお楽しみいただけたらと思います。
  

―― とてもありがたいお話です。では、ご自身の膨大なコレクションを、その一部とはいえ多くの人に見ていただける展示が実現したことを、率直にどう思われましたか?

山本:ひとりで20年近くかけてコツコツと集めたものを、こうして皆さんにお見せする機会をいただいてすごく感謝しています。自身のコレクションがずっと日の目を見ることなく、ただの自己満足で終わるのはもったいないし、何らかの形で情報を発信したいなあとずっと考えていましたので、本当にうれしいですね。藤井さんや寺農さんにお会いできたときには、何か不思議な縁を感じました。
集めた物をどうするのかは、コレクターによっていろいろな考えかたがあるとは思いますけど、ただ集めるだけでなく、ほかに何かやってみたいと考えている人も、意外とたくさんいるのではないかと思います。

―― 昨年の「ゲーセン物語展」をはじめ、藤井さんはゲームを題材にした展示を次々と実施されていますが、すでに次回の展示の計画も進んでいるのでしょうか?

藤井:少しだけ案はあるのですが、もし何か開催するときは、私だけでできる小規模な展示にすることを想定しています。ただ、短い間に立て続けに展示をやりましたので、しばらくの間はお休みをいただくことになるかと思います。
今回の展示を通じて見えたキーワードは、「地域性」と「ナラティブ」2つです。私は単なるゲームファンのひとりにすぎませんが、ファンだからこそ残せる記録もあるだろうと。プレイヤーの経験から掘り下げたエモーショナルな体験は、メーカーや出版社にはけっしてできないのではないかと思います。
ちょっとお話がそれますが、私が昔ファミコンのディスクシステムを遊んでいた頃、真冬の寒い日にディスクの書き換えをしようと、ディスクライターを置いた店に出掛けたら、途中で寒さのあまりディスクが凍ってしまって書き換えができず、壊れたディスクを持ったままトボトボと家に帰ったことがあるんですよ(苦笑)。今でこそ笑い話ですが、こんな北海道ならではの体験があったことも残していけたらいいなあと。
それから、同人誌は今回の展示で取り上げ切れなかったものがまだたくさんありますので、もっと深く掘り下げたいですね。

―― 楽しいお話が尽きませんが、そろそろお時間が迫ってまいりました。それでは最後におひとりずつ、本展の注目ポイントをIGCCの読者に向けて教えてください。

山本:雑誌の系統図にも、ぜひ注目していただきたいですね。歴代の雑誌のリスト自体は、すでにいろいろな所で見られますが、出版社ごとに枝分かれして、実はこれだけの数があったとか、全体の流れがよく見える図になっていると思います。
系統図を作っている最中に「こんな雑誌があったのか!」とか、新しいハードが出るたびに雑誌がこれだけ増えていたとか、あるいは出版社ごとに雑誌がいつ創刊されて、いつ頃衰退したとか、栄枯盛衰が見えてすごくおもしろいなと思いました。世代に関係なく、自分が本を読んでいた時代はこの辺りで、この本はこんな流れで出た本だったとか、実際の展示物と照らし合わせながら、いろいろ参考になると思いますよ。
系統図は図録にも載せてありますので、ご覧になっていただけたらうれしいです。ただし、まだ完全版にはなっていないと思いますので、もしご存知のかたがいらっしゃいましたら、私自身の研究テーマにもしたいので、ぜひ情報をお寄せいただければと思います。
  

寺農:高橋名人のコーナーなど、地域性に特化したところにも注目していただきたいですね。ゲームのソフト・ハードを使った展示は、ほかの地方の博物館とかでも実施することがあるのですが、ただ飾っただけで地域性がまったくないことが多いんです。
今回の展示では、北海道という地域と絡めた展示ができたと思っております。札幌周辺にお住まいのかたにも、札幌出身の高橋名人の本や、かつては「札幌南無児村青年団」みたいなサークルがあったことを、ぜひ見ていただきたいです。
  

藤井:展示物のボリュームに注目してください。そもそも、今回の企画は山本さんの膨大なコレクションを見たときの衝撃がきっかけでしたし、とにかく数のインパクトを皆さんにお見せしたいと思い、雑誌のバックナンバーとかを壁一面にずらっと飾ったりして、今までの展示にはなかったボリューム感を出すことができました。まずはこちらを見て、大いに驚いていただきたいですね。
あとは、先ほどから何度もお話しているナラティブを、皆さんがそれぞれにお持ちのナラティブを体験していただけたらうれしいです。
  

後書き:取材を終えて

現在までに数多くのゲーム雑誌や関連書籍が登場し、半世紀近い歴史を刻んできたことが一目瞭然にわかる、とても素晴らしい展示でした。

ゲームメディアの中心が紙からインターネットへと移って久しい昨今ですが、ネットがなかった時代でも雑誌、攻略本、同人誌など、さまざまな媒体が存在したことを学べるという意味でも、本展を開催した意義は非常に大きいと思います。

また、私事にてたいへん恐縮ですが、会場内には筆者こと鴫原が、かつて執筆を担当した雑誌や攻略本、著書をいくつも展示してくださり、身に余るほどの光栄でした。今後も読者の皆さんに対し、後々の良い思い出につながる記事を書かなくてはと、改めて背筋が伸びる思いです。

コロナ対策を十分に行ったうえで、時間があれば会場にぜひ足を運んでいただき、本や雑誌から見たゲーム文化のおもしろさをお楽しみいただければと思います。

左から寺農紫苑氏、藤井昌樹氏、山本耕平氏

「雑誌・攻略本・同人誌 ゲームの本」展

・会場:市立小樽文学館
・開催期間:2022年3月5日(土)~4月24日(日)
・入場料:一般300円、高校生・市内在住の70歳以上150円(※中学生以下、障害者は無料)

・参考リンク:小樽文学館 ミニ企画展「雑誌・攻略本・同人誌 ゲームの本」展のページ
http://otarubungakusha.com/yakata/exhibition

脚注

脚注
01 「ナラティブ」:藤井さんによると、このナラティブは2020年に開催された「文化庁メディア芸術祭小樽展」で定義された「個々人の体験から紡ぎ出される物語」と同義になるとのことです。

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