見城こうじのアケアカ千夜一夜
目次
第3夜『ムーンパトロール』(1982年・アイレム)
月面を突っ走れ! “立体画像”のスペースパトロールゲーム
『ムーンパトロール』は月面が舞台の横スクロール・アクションシューティングゲームです。月面車を操作してトラップをかわし、敵を破壊する。遊びの要素がいくつも組み合わされた、とてもセンスを感じるゲームです。
当時のアイレム社のフライヤーを読むと、セールポイントとして“立体画像”という言葉が使われています。まだ珍しかった背景の多重スクロールをそのように表現していたのです。遠景になるほどゆっくり動かすことで、奥行きを感じることができるというものです。
ジャンプ、ショット、加減速、すべての使いこなしが求められる
操作はレバーの左右で月面車の加減速、2ボタンはジャンプとショットに使います。ショットは前方と上方に同時に発射されます。
改めてプレイして感じるのは、強制スクロールで地表にトラップがある上に、空からも敵が攻めてくることの厳しさです。常に前方と上方に目を配らないと一撃でミスになる。ショットが2方向に撃てるということは、当然ながら、どちらも攻略上必要ということです。ゲームがノンストップで進む中、目を配るべきことが多い。シビアな作りです。
空中からの弾を避けるには、一刻も早く敵本体を撃破するのが大前提ですが、あとは自車の速度調整でかわさねばなりません。ここでよく考えられていると思うのが、敵弾が自弾で相殺できることです。自車が常に走り続けていて、回避の自由度が少ないので、この仕様があることでかなり納得度が上がっているように思います。
最初の空中敵は弱い弾を撃ってくるのですが、次の敵の弾は破壊力が高く、地表に着弾すると自車の前方に大きな穴を開けるので、それに合わせてジャンプする必要がある。なかなか凝ったギミックです。
地上の障害物に関しても、最初はジャンプでかわすトラップなのが、途中から岩やロボット戦車などショットで破壊する障害物が登場します。ここでショットをひたすら連射していればいいのかというと、それだと絶妙なタイミングで弾切れを起こすことになります。この辺の作りもうまい。
中盤になると坂道の地形が出てきたり、より繊細な加減速が求められるトラップ配置になってくるなど、難易度の上昇カーブもとてもよくできています。
最初の「ビギナーコース」が終わると、次は「チャンピオンコース」が始まります。敵弾の速度を上げるだけのような手法ではなく、後方から自車を追い越してくる敵が登場したり、新たなギミック配置になっているなど、手の込んだ作りになっています。
また、これらのコースを、当時普及し始めていたコンティニュー機能で楽しむことができるのもありがたい仕組みでした。
丁寧な作りでインテリジェンスが感じられるゲーム
『ムーンパトロール』はよく計算された知的なゲームです。きちんと作らないと破綻する可能性の高い繊細なゲームシステムだったともいえるので、おそらくかなりテストプレイを重ねてチューニングされているのではないでしょうか。もしくは、あらかじめ紙の上で計算ずくで設計されていたか。
ただ、作り込まれている分、100円を入れてプレイしたときに、最初は少し難しく感じられるようにも思います。先に述べたとおり、強制スクロールで地上のギミックに対処するだけでも息の抜けない遊びなのに、同時に空の敵との攻防もこなさなければならない。
おもしろいのが、同ゲームのフライヤーには「操作の仕方はいたってカンタン」「レバーをうまくつかうと、UFOの爆弾なんかも簡単によけられるよ!」(いずれも原文ママ)などの文言が見られることです。わざわざ何度も“簡単”という言葉を出して強調する辺り、アイレムもこのゲームがちょっと難しいと思っていたのかもしれませんね。
では、また次回。
©1982 IREM SOFTWARE ENGINEERING INC.
Arcade Archives Series Produced by HAMSTER Co.