見城こうじのアケアカ千夜一夜
目次
第9夜『フォゾン』(1983年・ナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント))
ステージクリアすると「完成」の2文字。不思議なゲーム
『フォゾン』はケミックを操作して敵アトミックの攻撃をかわしつつ、モレックと結合していくことで、指定された形を完成させるアクションゲームです。表示プライオリティを随時入れ替えることで巧みに表現されたアトミックの立体的な動きが、とても印象に残る作品です。
操作は8方向レバーと分離ボタン。ボタンは一度結合したモレックが不要だと思ったとき(間違えて結合したときなど)に分離するために使います。この際、原則として最後に結合したモレックを切り離すことができます。
……とここまで書いてみて、まったく知らない人が読んだら、何を言ってるのか全然わからないんじゃないかって改めて思いました。
この記事を書くにあたって、アーケードアーカイブス版も購入し(毎回購入しています)、どんな内容だったか見直したのですが、当時の印象のとおりで本当に風変わりなゲームでした。そのゲームシステムはいうに及ばず、化学式が描かれた背景、そこに表示される「この形を完成せよ」「完成」「体当たりせよ!」「ボタンを押せ」等の無機的なメッセージ、そして物静かなサウンド――。
当時、メディアでビデオゲームが扱われること自体珍しかった時代に、漫画家のあさりよしとお先生が『宇宙家族カールビンソン』の中でこのゲームのパロディを描いていて、この作家にしてこのチョイスあり、さすがだなと妙に納得した覚えがあります。
プレイヤーキャラクターがドンドン大きくなっていく
前述のとおり、『フォゾン』は結合を繰り返すことで完成形を作る遊びなので、ステージクリアに近づくほど自分が大きくなっていくという特徴があります(それもステージが進むごとに指定される形が大きく複雑になっていく)。
ただ、プレイヤーのやられ判定があるのは、あくまで中心部にいる本体(ケミック)のみです。自分の見た目が大きくなったからといって、やられ判定まで大きくなるわけではありません。
ところが、結合したモレックは、外周の壁に対しては当たり判定があるため、本体が自由に動ける範囲はその分狭まっていき、敵の攻撃を避けるのが難しくなっていきます。自動車でいう車両感覚がリアルタイムに変化していくようなものともいえるかもしれません(?)。
ミッションに関しても、ステージ3辺りから2つのモレックの小さなすき間に別のモレックを滑り込ませて完成させる課題が出てくるのですが、この辺から既にかなり難しい。
ただ、攻略としては、分離ボタンを使って一度バラしてから組み直すことで、自分のやりやすい順番で結合していく攻略も可能なんですね。とはいえ、3面からノーヒントでこれは厳しかったのではないかと今見ても感じます。
たった一つのボタンがモレック分離用というのもじつに渋くて、シューティングゲームのようなアグレッシブに攻めるためのボタンではありません(くっつけては離してを繰り返してスコア稼ぎに使うなどはあるにしても)。
プレイヤーキャラクターが大きく、かつヒットチェック(やられ判定)までもが変化するゲームというと、他にもたとえば『クレイジーバルーン』や『くるくるくるりん』が頭に浮かびます。
前者であればプレイヤーの風船の揺れ具合、後者であればバーの回転に合わせて細い通路を通過するといった、昔でいう「イライラ棒」的なゲームなのですが、その解法は比較的パズル的なものでした。
それに対して『フォゾン』は、敵側がきわめて自由な動き(に見える)で暴れ回っていて、パズルというよりもアーケードライクなアクション要素が強い。そこがこのゲームの独自性であると同時に攻略の難しさだったようにも思います。
もしもこのゲームのフィールドが固定の長方形ではなく、外周がより複雑な形状で可変、つまり『クレイジーバルーン』のような迷路風だったり、もしくは『くるくるくるりん』のようなスクロールゲームだったとしたら、そこにはまた別のパズル寄りの遊びが生まれていたかもしれませんね。
敵のアルゴリズムのベースは『パックマン』?
敵アトミックの動きには緩急があって、普段はひとかたまりで移動し、周期的に分裂して広範囲に攻撃を仕掛けてきます。かつ、分裂時の動きがアトミックの色ごとに異なるという性質を持っています。
この仕様で思い出すのが、同社『パックマン』のゴーストの動きです。『パックマン』も色ごとに敵のアルゴリズムが異なっていて、かつ、周期的に散開してそれぞれの巣にもどる仕組みがあります。同じ会社のゲームということもありますし、『フォゾン』のアルゴリズムの発想元になっているのかもしれません。
この他にも『フォゾン』には、チャレンジングステージ(ショットで敵を一方的に破壊できる)があり、これも当時のナムコのお家芸でした。
つまり、『フォゾン』にはそれまでのナムコゲームのノウハウであったり、切り札的なフィーチャーがいくつも使われているわけです。
ステージが始まっていきなり無敵アタックの時間が始まるといった、やや唐突ともいえるフィーチャーもそうなのですが、シンプルなゲーム内容に少しでも緩急をつけるために、こうした要素を組み込んでいったのかもしれません。
ゲーム史に“フォゾン(保存)”してほしい貴重な作品
『フォゾン』はビデオゲーム史全体から見ても、とても異端のゲームといえると思います。ルール・世界観・演出、どれをとっても、当時にして誰がこんなゲームを発想し、商品として作り上げようなんて考えるでしょうか? それだけに時が経って改めて見ると、じつに貴重な存在だと感じます。
最後にする話ではないかもしれませんが、「この形を完成せよ」「完成」「体当たりせよ!」「ボタンを押せ」等のメッセージを見返していて、改めて気づいたことがあります。「体当たりせよ!」にだけ「!」(感嘆符)がついているのです。一切つけないほうがこのゲームらしくて美しかったのになあ、なんてことを思ってしまいました。
では、また次回。
PHOZON™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
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