見城こうじのアケアカ千夜一夜

  • 記事タイトル
    見城こうじのアケアカ千夜一夜
  • 公開日
    2023年09月29日
  • 記事番号
    10259
  • ライター
    見城 こうじ

第11夜『サスケVSコマンダ』(1980年・新日本企画)

1980年生まれの忍者ゲーム “YES SHOGUN.”

『サスケVSコマンダ』は将軍を守るべくサスケが敵忍者と戦う固定画面のシューティングゲームです。シューティングといえばメカニカルな世界観のものが主流だった時代に、人間同士の戦い、それも和風の忍者の世界をモチーフとし、差別化に成功したゲームといえるでしょう。新日本企画は後のSNKです。

限られた色数とキャラクター数で表現された画面の奥行き感、五重塔や送り火まで描かれたキャッチーな遠景、ドラマティックで時にコミカルな演出、毎ステージ変化するボスバリエーション、ショットのオートパワーアップ。1980年という時代を考えると、驚くべき見事な作りです。

プレイヤーが負けたときの演出がどれも凝っていて、通常ステージでミスした際のコミカルなジングル、ボス戦で負けたときのボスと子分たちによる勝利の舞、さらに、アニメーション自体は通常ステージの流用ですが、ゲームオーバー時の石にけつまずいてスッテンコロリンするサスケ(ドジっ子忍者か)。そこここに制作者の愉快なセンスを楽しむことができます。

和風のゲームでありながら、テキストはほぼ英語表記、ごく一部のみ日本語になっています。海外バージョンというわけでもないのに、オープニングの将軍のセリフがいきなり“SASUKE PROTECT MY LIFE FROM NINJA.”で、返すサスケの言葉も“YES SHOGUN.”ですからね(原文ママ)。容量の制約が厳しく、一部でも日本語が使われていることがありがたかった時代のゲームです。

直線的な敵の動きと、雨あられと降り注ぐ高速弾

ゲーム展開はなかなかスピーディです。最初のステージこそ敵の動きも敵弾もさほど速くないのですが、2面目辺りからグッと高速化します。しかも弾速にバラつきがあり、かなりの低高度からも平気で撃ってくるため、敵の下に潜り込むのはきわめて危険です。

このゲームを特徴づける要素として、敵を撃つと死体がそのまま落下してくる仕様が挙げられます。いわゆる「撃ち返し弾」の走りの一つといわれています。死体自体が大きく、またこちらの弾を一方的に撃ち消してしまうため、純粋に大きな障害物が降ってくる感じです。敵弾同様、落下速度にバラつきがあります。

ボスを含めて敵の移動パターンには縦・横・斜めの動きはあるのですが、それらはすべて直線の動きで曲線がありません。ザコ忍者は直線的に画面を斜めに横切って飛び去るか、壁で反射するジグザグ移動をするかのどちらかです。また、敵弾は常に真下へ垂直に落ちます。強いていえば、ボスの「春花の術」の弾がちょっと曲線的といったところでしょうか。

同時期の『ギャラクシアン』の敵の軌道が曲線で構成されていたり、弾が斜めに流れてくる自在さと比較すると、このゲームの作りのシンプルさがわかるかと思います。敵の動き自体がそのように単純だったため、結果的に難易度を上げていく手段として、敵や敵弾の高速化を大胆にやらざるを得なかったのかもしれません。

画期的だった複数のボスキャラクター

このゲームを語る上で欠かせないのが、ボスの多彩さです。1ステージごとに毎回異なる術を使うボスが現れ、一対一の戦いを挑んできます。『火炎の術』『分身の術』『飛竜剣の術』『春花の術』『カワリ身の術』等、何と8種類も登場します。この時期に近いことをやっていたゲームが他にあるか、寡聞にしてぼくはわからない(にわかには思い出せない)のですが、ボスの概念すらまだ散見され始めた程度だった1980年に、この数はまさに破格だったのではないでしょうか。

実際には、別の術をアレンジして流用したり、2つの術を組み合わせることで別のボスに見せているものが半数ぐらい占めているのですが、その流用のテクニックも含めて感心させられます。何よりすべての術に名前があるのがカッコいい。落雷とともにボスが登場し、日本語で「火炎の術だ!」とメッセージが出る演出は、当時のゲーマーなら忘れることのできないシーンだと思います。戦いの前にボス自ら術名をバラすという自信のほどがまたよいのです。

ボス戦を盛り込んだ最初期のゲームとしては、たとえば『スペースインベーダー』の亜流である『スペースアタック』や『スペースファイター』には、ステージの最後に降下してくるUFOとの一騎打ちがあります。

また、『スペースインベーダー』ブーム後、間もない時期に発売された『アストロファイター』『オズマウォーズ』では、1ループのラストに明確にボスといえる専用の敵が登場します。そして、『侍』の対与力戦は、後の対戦格闘ゲームを彷彿とさせるものといえるでしょう。ですが、どのゲームのボスも基本的に1種類しか用意されていません。

もちろん、ゲーム全体で見たとき、それはあくまで限られたリソースをどう配分するかという構成の話であって、一騎打ちという配置をしていないだけで『アストロファイター』にも『オズマウォーズ』にも、当時としてはたくさんの敵キャラクターが登場しました。逆に『サスケVSコマンダ』の通常ステージには、(数えかたにもよるのですが)たった2種類しか敵が登場しません。

『サスケVSコマンダ』が画期的だったのは、登場演出なども含めて、ボスという存在をキャラクターとしてガッツリ“立たせた”上で、さらに8種類も用意したことに他なりません。少なくともその最初期のゲームの一つであることは間違いありません。

ちなみに小ネタですが、ボス戦に勝利すると、“YOU WIN”なるメッセージが出ます。では、負けたときは何と表示されるかというと、“YOU LOSE”ではなく、“I WIN”。ボスが「私の勝ちだ」と言ってるわけです。格闘ゲームなどを見慣れた現代の感覚でプレイすると、一瞬「あれ? どういうこと?」となるのがおもしろいところです。

ステージ3へ進むとサスケが自動的に成長(?)する

もう一点、このゲームのシステムで独特なのが、オートパワーアップです。ステージ3まで進むと、主人公サスケの攻撃が突然ツインショットに強化されるのです。この状態はプレイヤーがミスをしても解除されることはありません。パワーアップというよりも成長要素に近い考えかたかもしれません。

新日本企画はこの仕組みのことを「3パターンよりエキサイティングプレーになります」と表現しています。“エキサイティングプレー”、当時としても独特な表現で、それが何を表すかは進んでみるまでさっぱりわかりませんでした。これもゲームでよく使われる用語が統一されてなかった時代を表すおもしろい例の一つだと思います。

では、また次回。

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