見城こうじのアケアカ千夜一夜
目次
第12夜『クイックス』(1981年・タイトー)
アメリカで生まれた陣取りアクションゲーム
『クイックス』はタイトーのアメリカの子会社で開発された“陣取りアクションゲーム”です。敵“クイックス”の攻撃をかわしながら、マーカーを操作してラインを引き、任意のエリアを囲んで獲得していき、占有面積が全体の75%に到達した時点でクリアという遊びです。
その特異で中毒性のある内容から、多くの続編や類似製品が作られた、ゲーム史に残る大変ユニークな作品です。
当時、日本国内で大規模な大会が催されており、ぼくもこのゲームが大好きで記録を申請しました(が、ランキングにはかすりもしませんでした)。
まっさらな状態からすべてがプレイヤーに委ねられる自由さ
『クイックス』の一番の魅力は、その自由度の高さであるように思います。まっさらな状態からステージが始まり、どうやってエリアを取っていくかはプレイヤーの自由。いきなり大きなエリア獲得にチャレンジしてもいいし、とりあえず細かく刻んでいってもいい。
ぼくの場合は、細長いエリアをいくつか伸ばして、狭い通路や小部屋のようなものを作り、後々クイックスをそこに誘いこむための布石を打っておくようなプレイが好みでした(ごく普通かな?)。
クイックスはかなり狭いすき間にも入っていくことができるので、用意しておいた細い道に迷い込むとしめしめと思ったものです。ただ、クイックスの動きはランダム性が高いため、思ったとおりに来てくれるとは限らず、そのもどかしさがまた楽しくもありました。
操作系に関して非常にユニークだと思うのが、2つのボタンがマーカーの「低速移動」と「高速移動」に割り当てられていることです。低速移動でエリアを獲得するとスコアが倍になるのです。
低速移動は敵クイックスにやられるリスクが増大します。逆にメリットはスコアが高くなることだけです。スコアを気にしないのであれば、常に高速移動のボタンを使っていればよいわけです。スコア以外の意味・メリットが何もないルールのためだけに、ボタンがわけられているゲームはとても珍しいと思います。贅沢なボタンの使いかたです。
1981年当時、日本のアーケードゲームの大半は1レバー1ボタンでした。それ以上の操作は複雑すぎると考えられていたわけです。それに対し、アメリカのゲームは『アステロイド』にしても『スペースウォーズ』『ディフェンダー』にしても、同じアーケードでありながら、当時にしてずっと複雑な操作系が実装されており、それをよしとする文化があったように思います。開発者の理念の違いといってもいいかもしれない。
だから、『クイックス』でスコアの違いのためだけにボタンを2つ用意するというのも、アメリカの開発者からすると、それほど特殊な発想ではなかったのかもしれません。
また、久しぶりにプレイして改めて感じたのが、その操作の難しさです。大きな矩形を作ってエリアを獲得している限りは感じないのですが、小さく小さくエリアを区切っていこうとすると、細かい凹凸が発生し、後に自身がそこを移動するときに苦労するのです。
アーケードでプレイしていたときにも感じていましたが、この操作の大変さはコンシューマ版になってもまったく同じですね。こういう細かいプレイができることが『クイックス』の深さであり、同時に難しさでもあります。
それぞれに明確な役割を持つ3種類の敵
メインの敵であるクイックスは、ゲーム史上でも類を見ないルックスと性質を持っています。複数の線分から成る、いわゆる「すだれ」のような幾何学的な姿をしており、これが常に形状や大きさを変化させながら、プレイヤーが未獲得のエリアを自由に動き回るのです。その挙動はなかなか読めません。
クイックスに触れていけないのはマーカーだけでなく、伸ばしている最中のラインにも触れられた瞬間にミスとなります。一気に長いラインを引いてエリアを獲得しようとするほど、大きなリスクを伴うわけです。
敵はクイックスの他にも、エリアの境界線上を移動するスパークス、そしてラインを伸ばしたままのんびりしているとライン上に現れてマーカーを目指して追ってくるヒューズがいます。どちらもマーカーが接触するとミスになります。
スパークスに関しておもしろいのは、時間経過でまず数が増えて、次に追跡アルゴリズムがよりシビアになります。初期の状態では、ライン上をたどって追ってくることはないのですが、そこまで追ってくるようになるのです。この差はとても大きい。単純に物量だけで押すでもなく、移動速度がアップする等でもなく、より“クレバー”になるのです。何とも美しくもイヤらしい。
そして、ステージ3に突入するとクイックスの数が2体になり、より難しくなるのですが、そこで「スプリットボーナス」という概念が発生します。エリアの占有率が規定の値に到達しなくても、2体のクイックスを別エリアに分断できれば、その時点でステージクリアとなるのです。
考えてみると、分断した場合には「狭い側のエリアにいたクイックスは撃破され、ゲームはそのまま続行」(残されたクイックスの動きはより凶悪になる等して)というルールもあり得たと思うのですが、その時点でステージを終了させてしまうというのは、ある意味思い切ったルールですね。
アクションゲーム≒陣取りゲーム?
「陣取りゲーム」について考えてみるに、たとえば黎明期のゲームでいえば『ブロッケード』はまさにそういう遊びですし、近年でいえば『スプラトゥーン』も陣取り要素をうまく体現したゲームだといえます。
『クイックス』もそれをプリミティブな形で表現したゲームの一つです。プレイヤーはクイックス等への直接的な攻撃手段を持たず、自分が行動しやすい形を作りながら、ひたすらエリアを獲得し、敵を追い込んでいく。きわめてシンプルな構造です。
オプション(ディップスイッチ)の難易度設定がこのゲームの特徴をよく表していて、ステージクリアに必要なフィールド占有率の値が変更できるようになっています。デフォルトが75%で、それ以外に50、60、80があります。『クイックス』シリーズとその亜流以外に、こんな難易度の調整方法があるゲームはなかなかないかもしれません。
その上で、長年ゲームを見てきて思うのは、実際には「ほとんどのアクションゲームには陣取りの要素がある」ということです。
すべてというと言い過ぎと怒られるかもしれませんが、少なくとも大半のゲームには当てはまるのではないかと思います。
PvE型であろうとPvP型であろうと原則は一緒で、アクションゲームとは、攻撃を出す(出される)ことで、特定の範囲にヒットチェックを発生させ、そこに“自分の支配下のエリア”を作り出す遊びです。常に陣地を作り続けることで自分を有利に運ぶ遊びとでもいうか。
ゲーム側で用意された敵や仕掛けも、その多くは攻撃判定(もしくは障害物判定のみの場合も)を持っていて、プレイヤーの行く手を遮ります。その判定が及ぶ範囲イコール敵が支配するエリアということになります。
シューティングでも格闘でもプラットフォーマーでも、それこそパズルアクションでも、そのような見方ができます。シューティングの敵弾・弾幕も、それ自体が敵の支配するエリアといえます。
ごく短いスパンで刻々と移り変わる双方の陣地を把握しながら、次に自分がどこに移動して、どう敵陣をかわし、どこに陣地を作ればいいのか、アクションゲームの大半はそういうことを考える遊びである、ということがいえるのではないでしょうか。
では、また次回。
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