見城こうじのアケアカ千夜一夜

  • 記事タイトル
    見城こうじのアケアカ千夜一夜
  • 公開日
    2024年01月26日
  • 記事番号
    10763
  • ライター
    見城 こうじ

第16夜『ワイルドウエスタン』(1982年・タイトー)

豊かなドラマ性を持つウエスタンシューティング

『ワイルドウエスタン』はアメリカ開拓時代の西部を舞台としたシューティングゲームです。馬に乗ったシェリフが列車と並走しながらギャングと撃ち合う、とてもドラマティックなシチュエーションの作品です。ゲーム内や当時の資料ではとくに言及されてなかったと思いますが、列車強盗のイメージなのでしょう。

当時としては西部劇の世界がとても丁寧に描かれており、ウエスタン風の勇壮なBGMが流れる中、馬に乗りながらの銃撃戦や列車に飛び乗っての撃ち合いがあり、給水タンクや丸木の橋などが登場します。最後は駅に到着というストーリー性があり、宙に投げられたコインを一発で撃ち抜くボーナスステージもあります。

敵を倒すと乗っていた馬も画面外へ去っていくのですが、しばらくは画面に残って障害物になるところもおもしろいですね。うろうろしながらフェードアウトしていく様子が何ともよくて。

ダイヤルスイッチで全方向の敵を狙い撃ち

操作はスティックでプレイヤーの移動、ダイヤルスイッチで銃口を8方向に切り替え、押し込むことで弾が発射されます。またもう一つ別にボタンがあり、列車の上にいる敵を追って飛び乗る際などに使います。

ダイヤルスイッチは、昔のテレビでチャンネルを変えるときに使われていた、ガチャガチャ回すツマミによく似ています。この時期のアーケードゲームでときどき使われていたコントローラで、主人公の移動とショットの方向を別個に選択したいゲームで採用されていました。

現代のコンシューマゲームであれば、ツインスティック+Rボタン等でおおよそ実現できる操作系なのですが、当時のアーケードのコントロールパネルだと、『ロボトロン2084』のような常にショット撃ちっ放しのゲームでない限り、配置的にこのダイヤルスイッチのほうが操作しやすかったんですね。

同じタイトーではこのゲームの他に『フロントライン』、そして任天堂の『シェリフ』や、新日本企画(SNK)の『T・A・N・K』などが有名かと思います。ミリタリー系や西部劇のゲームでよく使われていたことは、単なる偶然ではないかもしれません。こうした世界観と親和性があったのだと思います。

アーケードアーカイブス版では、まさにダイヤルスイッチの代わりに右スティック+ボタンで近い操作が実現されています。

常に列車と並走というユニークなシチュエーション

場面設定が独特なだけに、遊びとしても個性的な箇所が多く、まず常に画面の中央付近を走っている列車が強い存在感を放っています。

列車は長い障害物になっていて、ここを境に、敵と自分が左右に分断された状態からラウンドがスタートします。自分の出現位置は奇数面では右、偶数面では左に切り替わります。珍しい仕様だと思います。

敵を撃ちに行くには、上か下のスクロール画面のすき間に入る必要があるのですが、自分同様、敵も8方向に弾を撃つので、近づくタイミングが難しい。敵がこちらに近づいてくるのを待ち受ける戦法もあります。

線路は直線だけでなく、緩やかなカーブを描くこともあります。その場合、列車が画面の片側に寄るため、左右いずれかのエリアが狭くなり、少しだけゲームに影響を与えます。線路がスクリーン上でセンタリングされないことがゲーム性になっているわけです。

もう少し後の時代の製品であったなら、車両の数が変化したり、車両の一つを空っぽにして部分的に弾が通るようにしたり、線路がいろいろな方向に曲がっていく(スクロール方向が自在に変化する)等々、列車の仕様一つをとっても、さまざまなバリエーションが考えられたかもしれません。コンセプトがとても魅力的なだけに、いろいろ詮無いことを夢想してしまいます。

また、自分の弾丸は列車の側面に当たると跳ね返るので、これを利用して反射した先にいる敵を倒すこともできます。敵の弾は跳弾しません。

列車上で戦う熱いフィーチャー

このゲームを特徴づけるフィーチャーの一つに、先ほども書いた列車上での戦いがあります。敵が時折馬から列車に飛び乗り、そこから攻撃を仕掛けてくるのです。

列車上から敵が撃ってきた弾はプレイヤーに当たるのですが、こちらが馬上から撃った弾は敵に当たりません。そのためプレイヤーも列車に飛び乗り、そこで撃ち合う必要があります。

列車上にいるときに注意すべき点として、給水タンクを通過する際、そこから伸びるパイプが障害物になるので、飛び乗るときと同じボタンを使って身を伏せなければいけません。

この一連の列車上の攻防については、「列車を出しておいて、これをやらないわけにはいかないでしょ!」という作り手の想いが感じられ、今見てもじつに素敵なフィーチャーだと感じ入ります。

西部劇が身近だった世代が作ったゲーム?

タイトーは『ワイルドウエスタン』の他にも、近い時期に『ウエスタンガン』『ガンマン』『インディアンバトル』『ティンスター』などのウエスタンものをリリースしています。ロケテストで没になってしまったゲームもあったようです。

この時期のタイトーにウエスタンものの企画が多かったのは、開発者がこのジャンルの映画やドラマで育った世代だからだと聞いたことがあります。西部劇は昭和でいうと30年代ぐらいまで大変メジャーなジャンルでした。

ビデオゲームで使われる世界観は、その時代が反映されています。1970年代から80年代にかけて宇宙もののSFシューティングが多かったのは、もちろんビジュアル上、宇宙を表現することが容易であるとか、宇宙船や戦闘機であればアニメーションがあまり必要ないというスペック上の理由が一番ですが、1977年に『未知との遭遇』や『スターウォーズ』が公開され、宇宙SFブームが起きたからということも無関係ではないと思います。

そういう意味では、アーケードゲームの黎明期は、ギリギリで西部劇が人気だったころのリアルタイム世代(もしくはその残り香を知る世代)がゲームを作っていた貴重な時代といえるかもしれません。

では、また次回。

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