アプリで始めるボードゲーム

  • 記事タイトル
    アプリで始めるボードゲーム
  • 公開日
    2022年01月21日
  • 記事番号
    6858
  • ライター
    健部伸明

第1回:6Takes/ニムト~あるいは牽牛は牧場をうっちゃって、織女とうまく逢引きできるのか?~

ネットや端末が日常生活に浸透しつつも、COVID-19が跳梁跋扈する昨今、人と人とのリアルでの出会いは制限され、コミュニケーションや遊びの形態も変化し始めた。かつては電子ゲームと微妙に折り合いが悪かった非電源ゲームも、最近では微妙にすり寄り始め、境界線は曖昧となっている。
ボードゲームを展開するにはそれなりの広さの場が必要で、アプリで再現してもスマホ画面が狭くて見にくい。しかしパッド(タブレット)の普及が、その困難を取り払った。むしろボードゲーム側でも、積極的にパッドやスクリーンに盤面を大写ししながら進めることを推奨するものまで出てきた。
そんなわけでこの連載では、電子環境と折り合いのよいボードゲームを取りあげ、順次その魅力に迫ってみたいと思う。ゆるりとお付き合いいただければ幸いである。
(なお本記事では、基本的には電源を使わないゲームをボードゲームと総称するが、実際には細かくカードゲーム、ダイスゲーム、タイルゲームなどに分類される。そのため同じゲームを、ときにはボードゲーム、ときにはカードゲームと呼ぶことがあるが、ご容赦願いたい)

ルールは簡単だけどエキサイティング!

さて、そんな初回に取りあげるのに最適なゲームは何だろう?
「間違いなくカードゲームの『6 Takes』である」と、ぼくは太鼓判を押す(Applications Systems Heidelberg Software GmbH):
8歳以上、30分、1~4人/2~10人
iOS版はこちらhttps://apps.apple.com/jp/app/6-takes/id845190066
Android版はこちらhttps://play.google.com/store/apps/details?id=de.application_systems.SixTakes&hl=ja&gl=US

スタート画面。各種設定がここで可能

というのも、覚えるルールは少ないくせに、突発的に予想もつかない展開となり、常にエキサイティングだからだ。
各ラウンド、それぞれが場に手札から1枚出す(プレイする)だけ。「出してはいけない札」みたいな縛りもないため、「間違った札をプレイしてペナルティをくらう」ということもなく安心。
全員の手札がなくなったらゲーム終了で、得点計算&勝敗判定に入る。
ほら、簡単でしょ?

1人プレイの画面

作者は、多くの本格ゲームを手掛けて来たベテランのヴォルフガング・クラマー。
このゲームも、ドイツゲーム賞1994ベストファミリー&成人ゲーム賞、フェアプレイ・アラカルト1994、メンサ・セレクト1994などの受賞歴があり、他にも多くの国際的な賞にノミネートされている。
そんなお手軽傑作ゲームで、ぼくらはどんな役割を担うのだろうか?
  

プレイヤー諸君は全員兄弟姉妹であり、親の牛牧場の経営を手伝っている。
だがこのIT時代、こんなしんどい仕事なんかまっぴらだ……と全員が密かに思っていた。
そんな折、引退して悠々自適に暮らしたい父親が、何と「一番牛の世話をうまくした者に、この牧場の経営権を譲ろう」と言い出しやがった。
皆「いいですね、それ!」と愛想笑いを浮かべながら、心の奥底では苦虫を潰していた。

こうなったら、一生懸命牛の世話をしているフリをしながらうまくさぼり、他の兄弟に手柄を押しつけてしまおう。
そうやって、この牛まみれの人生からオサラバするのだ!
だが、そう、うまくいくものだろうか……。

というわけで勝利条件も単純。
ゲーム終了時、自分担当(獲得した)の牛の数(マイナス点)が、最も少なかったプレイヤーが勝者となる(最も多かった者は牧場主となる。おめでとう!)。
通し番号が振られた全104枚の各札には、それぞれ牛が1頭~7頭、記載されている。番号の1桁目が「5」なら2頭、1桁目が「0」なら3頭、ゾロ目なら5頭。55番は、ゾロ目で1桁目が5なので合計7頭と、もっともヤバい避けるべき札だ。それ以外の全札には、1頭ずつしかいない。
こうした牛札を、どうやって獲得するかしないかが、このゲームのキモであり、楽しい阿鼻叫喚を生むシステムの根幹なのだ。

準備も単純。
最初の場札として、場に縦1列に4枚公開で並べる(これらが4つの牛の列の先頭となる)。
次に全員に手札として10枚ずつ配る。はい、おしまい。

各ラウンド、各プレイヤーは手札から1枚選び、目の前に伏せて置く。全員そうしたら一斉に公開し、番号の小さい順に、ルールにしたがって場に並べていく。

1 . 出した札は、その番号に応じて、場の4つの牛の列のいずれかに配置される。
2.現在の各列の最後尾(最も右側)の札を確認し、出した札より番号が小さく、より差が少ない列のさらに最後尾に、今出した札を配置する。
3.配置の際、その列が6枚になってしまうような場合はまず配置せず、そのプレイヤーはその列に既にある全5枚を(獲得札として)獲得し、手札とは別の場所に伏せて置いておく(だからゲーム名が『6 Takes』なのだ)。
4.どの列の最後部の札の番号も、出した札より大きい場合、好きな列1つを自分で指定してその全札を獲得札とする。
5.札を獲得した場合、今出した札は、空いた列の先頭として配置する(つまり列は、常に4つに維持される)。

これだけわかればプレイできる!

場をよく観察し、安全に配置できると思った札を出したのに、直前で他のプレイヤーにその列を奪われてとんでもないカードが置かれ、予想もしなかった列の牛を多数引き取らざるを得なくなったり……ギャーッという悲鳴と、クスクス笑いが発生するタイミングである。論理的推測の要素がありつつも、厳密な読みを許さない適度な運の要素(ランダム性)が、絶妙なスパイスになっている。

アプリでの対応人数は1~4人で、1台のケータイでも多人数プレイ可能。
1回で終了とする短時間モードのほかに、誰かが合計でマイナス66点になるまで続ける長時間モードもある。

一台の端末で4人プレイも可能

1人プレイの場合、対戦するAIキャラ1~4人まで選べ、また強さも3段階で設定できる。
バリエーションとして、ゲーム開始前に全札を公開し、順に手札として獲得していく「誰がどの札を持ってるかわかる」ガチ・ニムト・モードがある。全札を記録したり記憶したりして、最善手を目指す上級者にしかお勧めしない(苦笑)。

ガチ・モードの画面

なお『6 Takes』とはアプリ名で、紙版のゲームとしての翻訳名はドイツ語を踏襲して『6ニムト』あるいは単に『ニムト』となっている:
https://www.mobius-games.co.jp/Amigo/6nimmt.htm

アプリは英語だが、紙版の日本版元メビウスゲームズが、親切にも和訳ルールブックをPDF公開しているので、詳しくルールを読みこむこともできる:
https://www.mobius-games.co.jp/PDF/nimmt.pdf

遊びこんだ人のためのさらなる追加ルールも、バリエーション豊かに紹介されているので、必要に応じて参照するのが吉:
https://www.mobius-games.co.jp/Amigo/6nimmtVariant.htm

この紙版である『ニムト』では、プレイ人数は2~10人にまで拡大されている。
人数が多くなればなるほど、絶叫と笑いが絶えないため、ゲーム会では全員ゲームとして重宝されている。札の出しかたと、札を獲得するときの反応によって人となりが何となくわかり、すぐに仲良くなれる。鞄やポケットに入れて手軽に持ち運べ、手軽に取り出して、手軽に遊べる。これこそ優れものなのである。

さらにはこの紙版は、逆に牛をいっぱい取ったほうが勝つ『赤ニムト』、ゲームボードを加えた『ニムト・ボードゲーム』、番号ではなく動物の種類で遊ぶ『ニムト・ジュニア』、人気のゾンビものTVシリーズのガワをかぶせた『ウォーキング・デッド・ニムト』などシリーズ展開されており、いやあ飽きさせない。

このようにボードゲームの世界は実に広い。今後も電子の世界に足を踏み入れたゲームたちを、皆さんに紹介していければと思う。

次回はペンギンたちの熾烈な生存/縄張り争いをコミカルに描いたタイルゲーム『それはオレの魚だ!』を予定している:https://arclightgames.jp/product/%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%AF%E3%82%AA%E3%83%AC%E3%81%AE%E9%AD%9A

他にも扱ってほしいゲームがあったら、どんどんコメントしてほしい。可能な限り順次対応していこう。

紙版のパッケージ

ボードゲームイベント紹介

最後に、近々ある大きなボードゲームイベントをいくつか紹介したい。

1月29日(土)千葉ボドゲーン万博:
https://playnaritomi.wixsite.com/bodogeenbanpaku

2月6日(日)ゲームマーケット2022大阪:
https://gamemarket.jp/

2月19日 アナログゲームフェスタ:
https://agf-official.rikusa-games.tokyo/

主催側も十分な感染対策をしているとは思うが、参加する側も手洗い、アルコール消毒、マスク着用などでしっかり身を守りつつ、楽しく参加していただければ幸いである。

あと、さすがに行く人はいないと思うが、海外も紹介しておこう。

2月2日(水)~6日(日)ニュルンベルク国際玩具見本市
https://www.spielwarenmesse.de/en/

2月25日(金)~27日(日)カンヌ国際ゲーム祭
https://www.festivaldesjeux-cannes.com/en/

どちらも行ったことがあるが、前者はオモチャがメインで、ボードゲームは2ホールぐらい。プロ向けで、今後開発されるゲームのサンプルを元に、契約締結の打ち合わせがなされる。
後者は本当にお祭りな感じで、映画祭と全く同じ会場が舞台で赤いカーペットが眩しい。港に横付けで海の景色が素晴らしく、フランス年間ゲーム大賞の発表があったり、夜どおしゲームできるイベント多数。さらにカジノまで併設されている。

あと業界に深刻な影響を与えるのが春節(旧正月)だ。今年は1月31日~2月6日だが、その前後1ヶ月ぐらい、中国での印刷がストップする(=ボードゲームの製造が止まる)。春節前後で社員の入れ替えがあるので、打ち合わせを一からやり直さなければならないとか、品質が一定しないとか、とにかく大変。

そんなこんな悲喜こもごもの荒波を乗り越えて、海外ボードゲームは日本にやって来る。
次回もいろんな情報をお届けしたい。乞御期待!

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