アプリで始めるボードゲーム

  • 記事タイトル
    アプリで始めるボードゲーム
  • 公開日
    2022年03月18日
  • 記事番号
    7286
  • ライター
    健部伸明

第3回:Detective: Season 1/ディテクティヴ:シーズン1

~リアルな現代の事件現場に科学捜査で斬りこみ、捜査官として君自身が事件を解決せよ!~

前回は「ボードゲーム界における氷上の格闘技」ともいえる『Hey, that’s my Fish!/それはオレの魚だ!』を紹介した、あの記事が掲載されるまでの間、ぼくは北京オリンピックのカーリング女子の試合に、毎日釘づけであった。冬季オリンピック競技のなかでも最もボードゲームの攻防に近いため、スーパーショットの逆転に次ぐ逆転に一喜一憂していた。彼女たちの銀メダルに心から敬意を表したい。

ちなみにカーリングに最も似ているボードゲームは、ビリヤードのキャロム
カロム
およびクロキノールである。

さて、その後もCOVID-19の猛威は留まるところを知らず、ワクチンのブースター接種で何とかブレーキをかけようという昨今、皆さんいかがお過ごしだろうか? 受験も卒業式も終わった頃だ。春めく世界で新たな一歩へと進めていけていればよいのだが……

と書いていたところ、まさかのロシアによるウクライナ侵攻である。一気に時代が百年逆行したかのようだが、原発や核兵器が存在するぶんタチが悪い。現代の戦争は「電子化されてどんどんゲームに似てきて現実感がなくなっている」と言われ続けてきたが、今回は(ミサイルありとはいえ)どろどろの肉弾戦である。日々の破壊や死傷者のニュースに、胸がつぶれそうである。

ゲームはときに、戦争や闘争をヴァーチャル化してエンターテインメントにするが、その逆はない。今回の戦争が、可及的速やかに収束することを願う次第である。

特務捜査官諸君の奮闘に期待する!

前回までは、アプリもあるし、紙版もあるゲームを紹介してきた。しかし今回は、電子でもない紙でもない、両方が混然一体となった次世代のゲームを紹介したい。すなわち『ディテクティヴ:シーズン1』である!

日本語版はアークライトから発売されている。12歳以上、1~5人、各シナリオ90~120分。
1人でも十分楽しめるが、わいわい会話を楽しむなら3人以上をお勧めする。

数々の受賞歴を誇るオリジナルゲーム

実はこの商品は、全世界で10万部以上の大ヒットを飛ばし、フランス年間ゲーム大賞、ドイツ年間ゲーム大賞、ダイスタワー・ベストテーマ賞、ゴールデンギーク賞4部門(年間ゲーム大賞、ベスト協力ゲーム部門など)、30以上の受賞 およびノミネートに輝く傑作『ディテクティヴ』の入門編としてデザインされたものなので、最初にプレイするには最適なのだ。ぜひ仲間とチャレンジしてほしい。

ところで、これが今回のウクライナ侵攻とどういう関係があるのかって?
今ウクライナ難民を最も受け入れている国は?
はい、西の隣国ポーランドです。大戦でさまざまな苦汁を味わった当事者なので、ウクライナに対する同情はハンパない。そしてユダヤ人を救った杉原千畝の例を出すまでもなく、ポーランドはヨーロッパ一の親日国なのである。
まとめるなら、『ディテクティヴ:シーズン1』は、ウクライナと日本にとても深い関係がある、ポーランドのゲームなのである。

作者は天才の名をほしいままにするイグナチー・チェヴィチェク。
他にも『ロビンソン・クルーソー』『インペリアル・セトラーズ』『エンパイア・オブ・ザ・ノース ~北方の開拓者たち~』『プレタポルテ』『ウィッチャー ザ・ボードゲーム』など、日本での知名度は低いわりに、邦訳されたボードゲームは多い。

『ディテクティヴ:シーズン1』は、そんなイグナチーの最高傑作のひとつ。マーダー・ミステリーが流行っている昨今、実に正統派にハードボイルドな科学捜査ゲームなのである。
それでは、プレイヤー諸君の立場を物語る演説を紹介しよう。
諸君の上司からであるので、耳の穴をかっぽじって心して聞かれたい。
  

捜査官諸君。世界随一のテクノロジーを擁する調査機関アンタレスへようこそ!
君たちは国家調査局アンタレスの一員として、FBI連邦捜査局の権限の元に任務を遂行する。司法機関に所属する公僕として、鋭意職務に励んでほしい。
常軌を逸する事件の解決のために設立されたばかりの当機関は、これから1年間、国民、マスコミ、米国司法省から厳しく監視されることになる。コンピュータ科学、鑑識、心理学における最新技術を駆使しながら、本分を果たしてもらいたい。間違いなく、疑いもなく、プロ意識、倫理感、そしてそれらを補完する一連の技能が、諸君の武器となろう。事件解決のためには、休んでいる暇などないぞ! とはいえ、昼休みは12:30PMからだ。

 ~ アンタレス創始者リチャード・デラウェアの新捜査官へのスピーチより抜粋

  

電子ゲームでも紙のゲームでもない奇跡の融合

そんなわけで、皆さんは世界一の犯罪捜査機関アンタレスの捜査官になるのである。提示された事件は、3つ+1つ=4つ。それぞれのタイトルは次のとおり:

第1話:自然死なるや?
第2話:血とインクと涙
第3話:崩せぬアリバイ
番外編:郊外に死す

ぼくとしては、順番どおりではなく、まず第2話からプレイしてほしいと思う。
というのも、第2話はオーソドックスな本格推理もので、電子機器はほとんど使わなくていいのである(使うのは、ほぼ答え合わせの時だけ)。

その後は、第1話でも第3話でもかまなわい。最新の科学捜査に基づいており、とてもエキサイティング。
で、最後は番外編に挑戦してほしい。一番ルールが多いので、基本の三部作をクリアしてからのほうがよい。

ちなみにこの番外編は、『かまいたちの夜』などの推理ゲームでおなじみの我孫子武丸氏が翻訳を担当しており、とても緊迫する文体になっている。

このゲームの最大の特徴は、ボードゲームを所持するだけでは解決できず、下記の専用のウェブページを活用しないと、そもそもプレイできないところにある。
https://antaresdatabase.com/

このページにアクセスすると、何が起きるのか?

事件の進展に応じて、リアルな科学捜査のデータが提供されるのである。すなわち防犯カメラ映像、検屍報告、通話記録、指紋照合、DNA照合、エトセトラエトセトラ……マジでリアルに捜査してる気分になってくる。

リアルな監視カメラ
検屍報告
証拠の一致率

ゲームには時間制限があり、移動したり、特定の場所をくわしく調べたりするごとに、1時間単位で経過していく。制限時間が過ぎたら、答え合わせの時間。上記のサイトにアクセスして「最終報告」を選ぶと、ネット上で一連の質問が飛んでくる。
それにすべて答えると、プレイヤー諸君の推理が正しかったかどうか評価が下る。
成功なら他のシナリオをプレイしよう。失敗なら、今回の捜査の反省点を振り返り、次回にチャレンジ!
実に濃密な時間を体験できること請け合いである。

ホームズや、コナンや、金田一少年や、相棒や、アメリカン刑事ドラマの主人公になったつもりでドキドキわくわくお楽しみいただきたい。

最終結果

イベント情報

2月25日(金)~27日(日)カンヌ国際ゲーム祭
https://www.festivaldesjeux-cannes.com/fr/
こちらは無理矢理開催されたが、残念ながら日本ゲームは受賞しなかった。その後のクラスターが心配である。

2022年4月23日(土)~24日(日) ゲームマーケット2022春
https://gamemarket.jp/access

2022/5/7(土)名古屋ボードゲーム楽市@1st
https://twitter.com/nagoya_bodoge

5月28日(土)開催千葉ボドゲーン万博
https://playnaritomi.wixsite.com/bodogeenbanpaku

2022/12/24(土)ホッカイドウシュピールフェスト
https://www.h-spielfest.com/

これらは現状、実行のつもりで動いている。とはいえ、コロナの状況でどう転ぶかわからない。参加希望のかたは、事前に中止されていないか問い合わせたほうがよい。

今後の展望

さて次回は、アプリと紙版の両方があるゲームに再び戻ってみよう。
定番中の定番、鉄道ゲームの雄である『チケット・トゥ・ライド』でGO!

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