アプリで始めるボードゲーム
目次
第4回:Ticket to Ride/チケット・トゥ・ライド
~「涙の乗車券」を片手に「線路は続くよ、どこまでも」~
去る3月16日、11年前の東日本大震災を彷彿とさせる地震で線路が寸断され、再び東北新幹線が止まる事態となった。地元である青森と東京の間の往復は夜行高速バスに頼らざるを得なくなり、真っ直ぐ寝れないので背中やら腰やらがガチガチに凝っていた中、3回目のCovid-19ワクチンを打ったところ、強い副反応で3日ほどのたうち回っていた健部である。皆さん、いかがお過ごしだろうか?
東北新幹線は4月14日にやっと全面復旧し、そのありがたさを一月ぶりに再び噛みしめているところだ。そんな時期に、路線敷設ゲーム『チケット・トゥ・ライド』を紹介するという流れも、何かの縁なのかもしれない。実に奇遇だ。
流石のドイツ年間ゲーム大賞!
紙版は2004年、フランス系アメリカのデイズ・オブ・ワンダー社から英語・独語・仏語版それぞれ別のタイトルで発売され、同年のドイツ年間ゲーム大賞の栄冠に輝いている。
https://www.daysofwonder.com/tickettoride/en/
英題『Ticket to Ride』は、ビートルズの1965年の名曲「涙の乗車券」の原題と同じだ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%99%E3%81%AE%E4%B9%97%E8%BB%8A%E5%88%B8
独題『Zug um Zug/ツーク・ウム・ツーク』は、英語に直すと「ステップ・バイ・ステップ」となるドイツ語の熟語だが、「トレイン・トゥ・トレイン」とも訳すこともできる。
仏題『Les Aventuriers du Rail/レザヴァンチュリー・デュ・ライル』は、訳すと「路線冒険家」のような意味になる。
作者はアラン・R・ムーンで、同賞を獲得するのは1998年の『エルフェンランド』以来2回目。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89
難しすぎず、易しすぎず、運と実力のバランスがとれたゲーム性は、ぼくを含め多くの人々を虜にした。
第1弾は1900年の北アメリカ大陸が舞台だったが、次から次へと拡張セットが出され、そのたびに新たな国のマップが追加されていった。
最初の日本語版は2006年、バンダイから発売された。
https://web.archive.org/web/20090221035529/http://www.asovision.com/banban/
現在の発売元はホビー・ジャパンだ:http://hobbyjapan.co.jp/ticket_to_ride_america/
ただし残念ながら、盤上の都市名は日本語化されていない(アルファベット記載)。
まあ、マップ上の位置だけわかれば都市名がわからなくともプレイできるので、紙版では対象年齢が8歳以上とあるところ、アプリでは(めんどくさい計算が自動でおこなわれるせいもあってか)4歳以上(もしくは全年齢)となっている。
世界最速級、ボードゲームの電子化!
実はこの『チケット・トゥ・ライド』こそが、メーカーによって公式にネットでプレイできる環境を整えられた、ほぼ最初のボードゲームなのだ。
プレイにはアカウントを作って登録する必要がある。開設当時、ぼくもアカウントを作って遊んでいたのだが、驚くべきことに、その最初のIDは今も生きていた。
どういうことかというと、改めてアプリ(Asmodee Digital)をダウンロードしたら、同じアカウントを認識してくれたのだ。思わず小躍りした。
基本的には2~5人用のゲームだが、アプリではもちろん1人でプレイできるモードがあり、AIのライバルと覇権を競い合うことになる。
それ以外にも、その場で集まった友だち同士で端末を順に渡してプレイできる「パス&プレイ」モード、ネットを通じて他のプレイヤーと遊べる「オンライン」モードなどがある。
そして気になるストーリーはといえば……。
プレイヤー諸君は、鉄道なき大陸に線路を敷設しようとしている、ライバル会社同士だ。
会社ごとに秘密の目的があり、特定の都市同士を結ぶと追加の栄誉が与えられるが、逆にそれができなければ信用を損なってしまう。
ただし至近の2都市間を結ぶ路線は1つか2つに制限されている。早い者勝ちなので、他の会社に路線を敷かれてしまうと、自分は別の迂回路を探さなくてはならない。
しかも各人に与えられたレールの分量は同等かつ有限であり、使いきるとそれ以上の敷設はできない。
なるべく無駄なく、長く、そして多くの路線を開通させた者が鉄道王として讃えられるのだ!
注意:こちらの物語は、メーカーから提供されている正式な物語とは異なっている。ゲームの本質をわかりやすくとらえてもらうために、筆者が再構成したものである。悪しからず。
感覚的にプレイでき何度も遊びたくなる基本ルール
コンセプトは単純明快で「マップ上の対応する都市間を自分の線路で結ぶ」だけ。
手番での選択肢も次の3つのみ:
1.鉄道敷設
2.列車カードの獲得
3.行先チケットの獲得
1.鉄道敷設
各路線は白、黒、赤、青、黄、緑、橙、紫の8色、もしくはどの色でもいい灰色のいずれかで指定されているので、手番で「鉄道敷設」を選んだなら、指定された長さの枚数だけ、その色の手札をプレイしなくてはならない(灰色であっても、プレイするカードは一色で統一されている必要がある)。ここでプレイされたカードは捨て札となる。
至近の2都市間を直接結ぶ線路は最大でも2本しかなく、便宜上これを「複線」と呼ぶ(1本しかなければ「単線」)。プレイ人数が少なくなれば、大人数では複線だった部分も単線になる箇所がある。
敷設したらすぐにポイント(得点)は計上されるが、長いルートほどポイントは大きくなっている。
手札になるのは「列車カード」である。列車カードは上記の8色の列車が各12枚ずつと、虹色に輝く「SLカード」が14枚の、計110枚。SLはプレイの際、どの色にでもなる。
ゲーム開始時、各プレイヤーにはランダムに4枚、列車カードが配られる。
2.列車カードの獲得
列車カードは、各プレイヤーの手札、裏向きの山、山の隣に並べられた表向きの5枚(これを便宜上「川」と呼ぶ)、および使用済みの捨て札置き場の4か所のいずれかにあることになる。
川にSLが3枚以上ある場合、SLが2枚以下になるまで、今の川を全部捨て札にして、山から5枚めくって新たな川を作る。
山が尽きたら、捨て札をシャッフルし直して新たな山を作る(アプリなら自動でそうなる)。
手番で「列車カードの獲得」を選んだなら、次の2つのうちいずれかを選ぶ。
A.川にSLがあるなら、そのうち1枚を手札にし、山から1枚めくって川に補充する。
B.SL以外の川と、山から、合計2枚手札にする。川から手札にした枚数だけ、山からめくって川に補充する(山からSLをめくった場合はラッキーで、問題なくもう1枚手札にできる)。
3.行先チケットの獲得
ゲーム開始時に配られるカードはもう1種類あって「行先チケット」と呼ばれている(略して単にチケットと呼ぶ)。基本セットでは30枚ある。
基本的には3枚配られ、必ず2枚以上を選んで手元に残さなくてはならない(3枚全部選んでもよい。選ばれなかったチケットは山の底に戻す)。それが今回のゲームで果たすべき自分の密命となる。
各チケットにはポイントが書かれており、結ぶべき2都市間の距離が長くなればなるほど大きな数字になる。ゲーム終了時、無事接続できていればそのポイントを獲得できるが、逆にできていなければそれだけのマイナス点となる。
ゲーム中、チケットの山から新たなチケットを引くことができる。その場合、山から3枚引き、そのうち1枚以上を必ず手元に残さなくてはならない(選ばれなかったチケットは、山の底に戻す)。
普通は、手元にある全チケットの条件を満たし、さらにポイントを伸ばしたい場合にする行動だ。
チケットの条件を既に満たしていたなら(指定の2都市が既に自分の路線で結ばれていたら)、追加で何もせずにそのポイントは獲得できるので、必ず手元に残そう。
逆に、どれもまだ達成されていないなら、今の時点からプレイして最も達成しやすそうなチケットを手元に残そう。
ゲームの終了
各プレイヤーが保有するレールは一律45本。
誰かの手番終了時、手元に残ったレールが2本以下になったら最終ラウンドが始まり、そのプレイヤー含めて全員が1手番ずつプレイしたらゲームは終了。
この段階で、各プレイヤーの鉄道敷設のポイントは画面上に表示されている。
さらに各自の手元にあるチケットの条件が1枚1枚確認され、満たしていればポイントを加算し、逆に満たしていなければ減算される。
他に、マップ特有の追加得点方法があればそれを計算する。基本ゲームでは「最長ルート」すなわち一筆書きで最も長い線路を完成させたプレイヤー(複数可)が、10ポイント獲得する。
最終的に獲得ポイントが最大のプレイヤーが勝者となる。
同点なら、該当者の中で、条件を満たしたチケット枚数がより多いプレイヤーが上位とみなされる。それも一緒なら、その中に「最長ルート」を満たしたプレイヤーがいれば、より上位とみなされる。
それも一緒なら、その全員が優勝だ。おめでとう!
追加購入モジュールについて
先ほどぼくは、アカウントが生きていて小躍りしたと言ったが、それにはわけがある。
実は紙版のゲームにはシリアル・ナンバーがあり、それをボーナス・コードとして入力すれば、アプリ上で新たなマップやモジュールが解放されるのである。
どうもぼくは遥か昔に「アメリカ1910」「ヨーロッパ」「ヨーロッパ1912」の3つのコードを入力していたらしい。したがってログインした瞬間、これらのマップ/モジュールも無料でプレイできるようになったのだ。
むろん紙版を持っていなくても、アプリ上でそれぞれ購入すればプレイできる。
マップごとに特殊ルールがあり、各ゲーム開始時にその解説がある。
そんなわけで、せっかくなのでぼくがプレイできるモジュールについて少し解説してみたい。
ヨーロッパでの特別ルール
ヨーロッパのマップでは、次の4つのルールが追加される。
A.長距離チケット
B.トンネル
C.フェリー
D.駅舎
A.長距離チケット
ゲーム開始時、通常のチケット(ヨーロッパでは40枚)以外に、より点数の高い(20ポイント以上の)長距離チケット全6枚から各プレイヤーに1枚ずつランダムに配られる。通常のと合わせて計4枚から、2枚以上を手札に残す。ここで選ばれなかったチケットと余った長距離チケットは、山の底に戻さずゲームから除去される。
B.トンネル
ギザギザのある路線はトンネルだ。鉄道敷設を選んだら、列車の山から3枚めくり、路線と一致する列車(SL含む)の出た枚数だけ、追加で手札からカードを出さなければ敷設失敗。プレイしようとしたカードは手札に戻る。1手番無駄にしたことになる。
なおSLだけプレイして敷設した場合、山からめくられたカードはSLだけ確認すればよい。
C.フェリー
フェリーは海路であり、路線の一部(または全部)にSLのシルエットがある。
そのシルエット部分は、必ずSLをプレイしなくてはならない。
D.駅舎
ゲーム開始時、各プレイヤーに3個の駅舎が配られる。使用しなければ、ゲーム終了時に1個4ポイントになる(つまり1個も使わなければ12ポイント)。
手番でできる選択肢として「駅舎建設」が増える。都市に対して同色の列車カードを規定枚数プレイすれば、そこに自分の駅舎を建てることができる。各都市には1つしか駅舎を立てることはできないので、これも早い者勝ちである。自分の1個目の駅舎は、どの列車カードでも1枚プレイすればいいが、2個目は同色2枚、3個目は同色3枚のプレイが必要である。
駅舎があると、そこから1ルートだけ他人の路線を使って、チケット1枚だけの条件を満たすことができるようになる。
またゲーム終了時に同点だった場合、チケット完遂数の次に、「最長ルート」を持っているか確認する前に、建てた駅舎の個数が多いプレイヤーを上位とみなす。
1910アメリカでの特別ルール
このセットが解放されると、1910年を舞台とする「1910アメリカ」、基本ゲームと合わせた「メガ・アメリカ」、特定の大都市だけに集中する「ビッグ・シティーズ」の3つの追加モードで遊ぶことができる。
◎1910アメリカ
まずチケット30枚が、異なる35枚の1910セットに差し変わる。
「最長ルート」での追加10ポイントがなくなり、代わりに「最大チケット枚数」での追加15点が導入される。条件を満たしたチケット枚数が最も多いプレイヤーが、このポイントを獲得する。
◎メガ・アメリカ
チケットが、1900年の30枚、1910年の35枚、さらに「ミステリー・トレイン」4枚が合わさって、計69枚になる。
チケットはゲーム開始時に5枚配られ、少なくとも3枚は手元に残さなくてはならない。
ゲーム中の「行先チケットの獲得」の際には、山から3枚ではなく4枚引き、そこから少なくとも1枚を手元に残すこと。
ゲーム終了時の追加得点では、「最長ルート」10ポイント、「最大チケット枚数」15ポイントのどちらも計上される。
◎ビッグ・シティーズ・アメリカ
チケットは、大都市認定されたシカゴ、ダラス、ヒューストン、ロサンゼルス、マイアミ、ニューヨーク、シアトルしか指定しない35枚に差し変わる。
チケットはゲーム開始時に4枚配られ、少なくとも2枚は手元に残さなくてはならない。
ゲーム終了時、「最長ルート」も「最大チケット枚数」も追加ポイントにはならない(適用されない)。
1912ヨーロッパでの特別ルール
アメリカの1910版に相当するヨーロッパ版のセット。同じく3つの追加モードが加わる。
◎1912ヨーロッパ
標準チケット40枚に、19枚の1912セットが加えられ、59枚になる。
長距離チケットの枚数は6枚で同じだが、内容は1912のものに差し変わる。
◎メガ・ヨーロッパ
標準のチケットが、1900年の40枚、1912年の(19枚ではなく)49枚が合わさって、計89枚になる。
長距離チケットは、1900年の6枚、1912年の6枚を合わせて、計12枚となる。
ゲーム開始時、長距離チケットは1枚ではなく2枚配られる。通常のと合わせて少なくとも3枚は手元に残さなくてはならない。ただし、そのうち長距離チケットは1枚までしか選ぶことができない。
◎ビッグ・シティーズ・ヨーロッパ
長距離チケットは使用しない。
チケットは、大都市認定されたロンドン、パリ、マドリード、ローマ、アテネ、アンゴラ、ベルリン、ウィーン、モスクワしか指定しない45枚に差し変わる。
チケットはゲーム開始時に5枚配られ、少なくとも2枚は手元に残さなくてはならない。
ゲーム終了時、「最長ルート」も「最大チケット枚数」も追加ポイントにはならない(適用されない)。
ゲーム中の「行先チケットの獲得」の際には、山から3枚ではなく4枚引き、そこから少なくとも1枚を手元に残すこと。
さらなる展開
なお、これらのモード/モジュールの日本語ルールは、いずれもメーカーの公式サイトからダウンロード可能なので、くわしい部分を確認したい方は参照されたい。
ただしあくまで紙版のルールなので、ここまで説明してきたアプリ版とは、多少のルールの差異があるのでご注意願いたい。
1900年アメリカ:https://ncdn0.daysofwonder.com/tickettoride/en/img/721301-T2R-Rules-JA-2018.pdf
1910年アメリカ(ファイルの末尾):https://ncdn.daysofwonder.com/tickettoride/en/img/ta_1910_rules.pdf
ヨーロッパ各種:https://ncdn0.daysofwonder.com/tickettoride/en/img/t2re15-rules-JA.pdf
これ以外の有料の追加マップは、現在のところ、ペンシルヴァニア州、フランス、スイス、ドイツ、北欧、イギリス、インド、アジアとなっている。
紙版では、さらに多くの拡張セットがある。
それこそ、無限に遊べそうである。
次回予告
以前から告知していたが、明日・明後日、2022年4月23日(土)~24日(日)に「ゲームマーケット2022春」が開催の見込みである:https://gamemarket.jp/access
そこで紙版が先行発売され、4月28日正式に発売される『グルームヘイヴン スタートセット 獅子のあぎと』というゲームがある。
そのSteam上で遊べる電子版もまた、来たる5月17日に解放となる:
https://store.steampowered.com/app/1809490/Gloomhaven__Jaws_of_the_Lion/
これは、英語最大のボードゲーム情報サイトであるボードゲームギーク(BGG)で、4年以上も第1位の評価に輝くバケモノ的なゲーム『グルームヘイヴン』を、チュートリアル・モードで徐々にルールを憶えられるようにした安心設計版である。
次回は、その魅力に深く迫ってみたい! ではまた来月!