地味な存在ながらもいまだに名作の呼び声高い『サイキック5』
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アーケードゲームは本当に難しい。下手をすればステージ1をクリアするのがやっとで、よほどの上級者でもない限り対応できないような理不尽な攻撃を敵がしてくるゲームもある。
しかし、1987年前後のアーケードゲームを思い返してみると、難易度は高いながらもプレイヤーが上達を実感でき、エンディングを目指す気になれるレベルデザインのゲームが多かったのではないだろうか。『サイキック5』(1987年/ジャレコ)もそんなゲームの一つだった。
開発は、当時ジャレコ(*01)のゲームを多く手がけていたNMK(*02)。NMKは、テーカン(後のテクモ)の『ボンジャック』(1984年)開発スタッフが独立後に起業した会社だそうで、『サイキック5』にも『ボンジャック』が思い起こされるプレイフィールが息づいている。
見た目がやや地味だったせいか、ゲームセンターの目立つ場所に置かれていることは少なかったようだが、完成度の高さで隠れた名作と評価する往年のプレイヤーは多い。
ここではそんな『サイキック5』について紹介する。
ジャレコ作品の中でトップクラスの完成度をもつアクションゲーム
『サイキック5』はサイドビューのアクションゲームで、敵と戦い、障害物を避けながら迷路状に入り組んだフィールドのゴール地点を目指す。ゴール地点に待ち構えている魔王(ボスキャラ)を倒せばステージクリア。全8ステージクリアでエンディングとなり、ループはしない。
レバーで移動し、2つのボタンにジャンプと攻撃がそれぞれ割り当てられている。アクションゲームでは標準的とも言える操作だ。ジャンプ中にレバーを上に入力することでホバリングもできた。
フィールド上にはさまざまなトラップやギミックが仕掛けられている。触れるとミスになる炎。パワーが弱いキャラでは開けるのに時間がかかる鉄の扉。乗ると消える床。壊せる壁。通過しようとすると現れて行く手を遮る床や壁など。クリアするためには、それらの場所を覚え、パターンを作り上げることが重要だった。
敵キャラクターは傘や本棚など、身の回りの家具・生活用品などで、手足を生やして動き回りながらプレイヤーの邪魔をする。これら敵キャラクターは、傘なら雨粒、電灯なら電球というように、その物体に関連した弾(子分!?)を発射してくる。ゆっくりした速度で少しずつ発射してくるので単体では余裕で対処できるレベルなのだが、ゲームが先に進むごとにフィールドの障害物やトラップと絶妙に絡み、どんどん嫌な存在になってくる。
本作でプレイヤーを悩ませるのは、敵の攻撃よりも、むしろフィールド上のトラップやギミック、時間制限ではないだろうか。筆者も経験上、敵キャラクターが直接の原因となるミスは少なく、時間切れや、操作ミスによる炎の床への接触で残機を減らすことがほとんどだった。それまでのジャレコのゲームで見られた、上級者でも対応困難な無茶とも言える敵の攻撃パターンなど「理不尽な難しさ」を感じさせない内容が、今でも名作と言われるゆえんではないだろうか。
一つとして無駄なものがなかった登場アイテム
本作にはさまざまなアイテムが登場する。アイテムはマップ上の破壊できる障害物や「?」マークの箱から入手することができる。大きく種類を分けると、ゲームを有利に進めるためのサポートアイテムと、大きくスコアを伸ばすために必要な得点アイテムがある。
本作において、サポートアイテムはクリアを目指すためには必須と言ってもいいかもしれない。
「?」マークの箱に入っているアイテムは、どこに何が入っているか固定されてはいたものの、プレイヤーの操作により中身を入れ替えることもできた。どのようなことかと言うと、食べ物アイテムを6つ取得するごとに画面右上にある5つの枠の中に、いずれかのサポートアイテムが表示されるようになっていた。その枠の上では黄色いカーソルが常に移動している。そして「?」を開けたときにカーソルが示していたアイテムが、本来のアイテムに代わって出現するのだ。つまり、枠に入手したいアイテムが出現していれば、欲しいタイミングで入手できるというわけで、ある程度、ゲーム展開をコントロールすることも可能だった。
【サポートアイテム】
パワーアップ | そのステージをクリアするまで全パラメーターが上昇。ミスすると効果を失ってしまう。これによりキャラクターチェンジしなくても楽に進める状況が生まれるのはうれしい。また、全敵キャラを一撃で倒せるようになるのと、魔王に2倍のダメージを与えられるようになる効果は絶大とも言えるだろう。 |
残り時間増加 | 残り時間に40秒が加算される。タイムオーバーでミスになることが多い本作ではぜひ入手したいアイテムだ。 |
時間停止 | 一定時間、画面が停止する。 |
EXTRA | 「E」「X」「T」「R」「A」の5種。すべてを取得することで残機が1UPする。 |
×2 | 取得以降の獲得スコアが2倍になる。 |
大きく加点していくための得点アイテムは、宝石や笑顔のマーク、さまざまな食べ物を模したもので見た目にも楽しかった。なかでも、食べ物には1種類ごとに取得率というものがあり、ステージクリア時に集計された。
何パーセント取得できたかでボーナス点が加算され、全アイテムを取得できればパーフェクトボーナスも上乗せされた。このパーフェクトボーナスは普通のプレイでは時間切れになってしまい、獲得は無理だったように記憶している。当時、上級者は魔女を確実に倒して連続的に無敵状態に突入することでパーフェクト達成していたのだが、やはりパターンの作り上げと高いテクニックが要求される特別なボーナスだったのだ。
さまざまなプレイスタイルを生み出す5人のキャラクター
状況に応じてキャラクターを切り替えながら攻略していくのも、『サイキック5』のおもしろさの一つ。本作ではパラメーターの異なる5人のキャラクターが用意されており、その場に適したキャラクターを使用することがクリアへの近道でもあった。ゲーム開始時点で使用できるのは「ナオキ」と「アキコ」の2人。ほかの3人はステージの途中で救出することで選択可能になる。
パラメーターは「ジャンプ」「ホバー」「パワー」「アタック」の4種類。高い壁を越えるには「ジャンプ」、空中に長く浮かぶには「ホバー」、鉄扉を早く押し倒すには「パワー」、敵に大きなダメージを与えるには「アタック」と、それぞれ大きいほど性能が高い。
ここで着目したいのは、キャラクター選択はあくまでもゲームを進行する上で有利になるだけだということ。キャラクター選択ミスが「詰み」につながるようなことのない、見事なレベルデザインのゲームだ。上級者になると同キャラ縛りでクリアを目指すなど、プレイヤーレベルに応じてさまざまな楽しみ方ができる。
キャラクターの特性
ナオキ | 初期段階から使用できる。全パラメーターが平均的で、オールマイティーに使える主人公キャラ。 |
アキコ | ナオキとともに初期段階から選択可能。ホバー力に優れ、長距離を空中に浮いたまま移動しやすい。 |
ブンタ | 太っちょキャラ。ジャンプ力とホバー力が劣るものの、パワーに優れ、鉄扉が多い場所で活躍する。 |
マコト | ジャンプ力抜群で移動スピードも速い。ノッポキャラなので敵の攻撃に当たりやすい欠点がある。 |
ゲンゾー | 空中静止可能なホバー力と最強の攻撃力を持つ爺さん。ただし、その他の能力が最弱で、移動速度も遅いためにに使い所が限られる。 |
移植版は佳作ながらもテイストが異なる内容
移植版はファミリーコンピュータ版のみ。商標的な理由があったのか分からないが、『エスパ冒険隊 魔王の砦』(1987年)というタイトルに変更されてリリースされた。ゲーム自体についても、見た目はオリジナル版の雰囲気を感じさせるものではあるが、アクションRPG的な内容に改変されており、オリジナル版とは別物のゲームと言っていいようなものだった。
そのため『サイキック5』がどのようなゲームか興味があったとしても、『エスパ冒険隊』=『サイキック5』だと思わないでほしい。『エスパ冒険隊』はあくまでも『エスパ冒険隊』というゲームとしてプレイすべきものである。
この頃は業務用基盤と家庭用ゲーム機の性能差が大きかった時代。完全移植は難しいので、プログラマーが技術力とアイデアでオリジナルに極力近づけるか、思い切ったアレンジで違った楽しさを提供するかの二者択一で移植が行われていた。『エスパ冒険隊』は後者の手法で移植された典型的な例だと言えるだろう。
しかし、『サイキック5』はファミコンでもオリジナルに近い内容で移植が可能だったはずで、筆者のような原理主義的ファンにとってはやや残念だった。
そういった意味では、オリジナルを尊重した移植が行われるようになった現在の状況は喜ばしいことである。『サイキック5』もアーカイブとしてどこかのメーカーさんがオリジナルのままに移植してくれませんかね。
ちなみに、移植作品としてではなく『エスパ冒険隊』というオリジナル作品として見た場合には、アクションRPGとしてなかなか楽しめる佳作なのだ。「プロジェクトEGG」で配信中なので、興味があれば遊んでみてはいかがだろうか。
高難易度が目立つジャレコゲームの中では特異な存在
アーケードゲームは業務用としての性格上、どうしても高難易度のものが多いのだが、本作は易しい部類に入るゲームだと思う。特に高難易度が目立つジャレコゲームの中では、本作は難易度的にベストバランスの佳作と言っていいだろう。
初めのうちはスコアを意識せず、繰り返しプレイして自分なりのパターンを作り上げてしまえば、上級者でなくとも全ステージクリアは難しくないはずだ。全ステージクリアができるようになったら、そこからスコア稼ぎのパターンを研究するのもおもしろい。
筆者が考える「出来の良いゲーム」の条件の一つとして、クリアするごとに違った目標を立てられ、飽きずにくり返し遊べることが挙げられる。本作はまさにそんなゲームの一つだと思う。稼働中のゲームセンターもわりと見かけることが多いので、もし近くのゲームセンターにあればぜひプレイしてほしい。
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