バカゲーのふりをした異色の良作『チェルノブ』

  • 記事タイトル
    バカゲーのふりをした異色の良作『チェルノブ』
  • 公開日
    2019年08月16日
  • 記事番号
    1175
  • ライター
    こうべみせ

画像の表現力も上がって、各社が華やかなグラフィック表現を競い合うようになってきた頃、ゲームセンターにとんでもなく地味に見えるゲームが登場した。

ゲーム開始時のストーリー紹介画面こそアメコミ(アメリカンコミック)調の色彩豊かなものだが、本編は単調な色彩で描かれているというギャップ。最終ステージにも登場するリアルな自由の女神と共に描かれるゲームタイトルは、ソビエトの原子力発電所名をもじったもの。共産主義のシンボルである「鎌と槌」に「ATOMIC RUNNER」「戦う人間発電所」のサブタイトル。

とにかく、モニター画面から怪しいオーラを出しまくっているゲームだった。今回はそんな異色作『チェルノブ』の怪しき魅力を存分に暴いていきたい。

悪乗りしすぎで物議を醸した問題作

▲巨大土偶などツッコミどころ満載の敵キャラ

『チェルノブ』は1988年にデータイースト(*01)からリリースされた横スクロールアクションゲームだ。全7ステージ構成。主人公チェルノブが、捕らわれていた研究所(?)から自由の女神像で待ち構えるラスボスを目指し、走りながら戦っていく。道中、鉄仮面の恐竜、巨大土偶、何だかよく分からない合体ロボ、胴体の短いドラゴンなど、データイーストのバカゲーにありがちな、ゲーム内の世界観統一を放棄したかのような脈絡のないデザインの敵が次々登場する。ソビエト連邦(現ロシア)からニューヨークを目指しているのだから、もっとお国柄を感じさせてもいいと思うのだが、それをしない(できない!?)のもデータイーストの魅力なんだろう。もっとも、それがデコゲー(*02)の世界観だったのかもしれない。

原発事故の影響で超人となった炭鉱夫が、謎の組織「デスタリアン」と戦うというストーリーはかなりシュールだ。

本作発表の2年前に起きた旧ソ連チェルノブイリ原発事故を明らかにもじったタイトルと副題。原発事故に巻き込まれた炭鉱夫が異常能力を身に付けるという設定。ラストシーンで燃え上がる自由の女神など、きわどい要素が満載で、「データイースト大丈夫か?」と思っていたところ、やはり現実世界でもいろいろな物議を醸してしまった。

当時の社会的事情と相まって、当時はかなりの問題作となっていたようだが、このような何でも笑ってすまそうとする態度もデコゲーならではといえる。

複雑そうに見えて実は思い通りに操れる良好な操作性

▲強制スクロールで後戻りができず、目の前に現れる敵をやっつけるしかない

操作は1レバーに3ボタン。ボタンの機能はそれぞれ「攻撃」「ジャンプ」「向きの切り替え」に割り当てられている。ゲームは強制スクロールで進行していき、次々と現れる敵を攻撃ボタンで倒していくというものだ。レバーを後方に入力してもその場で立ち止まりスクロールに流されるだけで、プレイヤーは後ろへ戻ることができない。向きの(前後)切り替えによって後方の敵を攻撃することができるが、その時にアイテムが落ちても拾いに行くことができないのだ。こう説明すると操作が複雑なのではないかと思うかもしれないが、遊んでみると思いのほか操作性がいい。慣れてしまえば思い通りに主人公を操れるようになるだろう。

初心者でも分かりやすい親切なアイテムデザイン

▲当時のインストラクションカード。アイテムが解説してある

アイテムは大きく分けて「武器」「攻撃パワーアップ」「ジャンプ力アップ」の3種類。運んでいる敵や、背景の所々で燃えている炎を攻撃することで入手できる。武器アイテムは武器の種類がそのままアイコンとなっているので、非常に分かりやすい。光線銃の「光子力光線」「エネルギーブーメラン」「光輪」「重力分銅」「赤城山ミサイル」「電撃むち」と6種類あり、標準の武器である光線銃が、威力・使い勝手の両面から見て最強だと筆者は感じている。

同じ武器アイテムを連続して取得してもパワーアップにはならず、武器の強化は攻撃パワーアップアイテムで行う。ショットパワーアップアイテムは「UP」という文字なので、これまた分かりやすい。色によってパワーアップする内容が異なり、赤色は火力アップ、黄色は射程距離を伸ばし、青色で連射力の強化となる。それぞれのパワーアップは3段階。

ボーナス得点アイテムはコインで、「¥」が円高、「$」がドル安と当時の為替を反映したようなネーミングなのがデータイーストらしい

演出はバカゲーだがレベルデザインはしっかりした佳作

▲「LET’S GO GO GO」などシュールなメッセージも魅力

『チェルノブ』は、バカっぽさではデコゲー四天王の一角に数えられると個人的に思っている作品だ。ただ『チェルノブ』の場合は最初から狙って制作された「確信犯的バカゲー」のにおいが漂っていると思う。1986年にチェルノブイリ原発事故が起こり、世間的にピリピリしていたこの時期に、あえて原発事故の影響で超人的な力を手に入れる設定にし、何故にこのタイトルをつけたのか、大いに突っ込みたいところである。

ステージ間のメッセージ「LET’S GO GO GO」や全ステージクリア時の「OWATTE SHIMATTA(終わってしまった)」(なぜかローマ字表記)、クリアメッセージも英文表記と思いきやローマ字表記。とどめは、ベタ色チップを並べただけの巨大なギザギザ「エンド」の文字だ。

ともすれば、狙いすぎとも受け取れる過剰なバカ演出が目立つ本作だが、良好な操作性と絶妙な難易度を持った良作であることも間違いない。とにかく、全編を通じて「こりゃ無理ゲーだ」と思わせるようなシーンが少ないのだ。落ち着いて対処すれば切り抜けられたり、(ミスをしても)「こうすればよかったんだな」と納得のいくミスであるシーンが多い。繰り返しプレイすることで確実にワンコインクリアへと近づくことのできる、数少ないゲームの一つだったのではないだろうか。

オリジナル版よりもアーケードゲーム的なメガドライブ版

▲なかなか移植の少なかった名作

そこそこ名の通った作品かつ移植が容易そうな内容ながら、他プラットフォームへの移植はX68000版(*03)とメガドライブ版(*04)のみと意外に少ない。X68000版は電波新聞社(*05)による移植だったので、再現度に関しては言うまでもなくオリジナルとほぼ同じものだった。

しかし、現在では動作環境的にも希少な状態となっているので、ここでは入手しやすいメガドライブ版をおすすめしたい。
メガドライブ版の大きな特徴は、オリジナルからのストーリー変更とグラフィック強化、BGMのボリュームアップにあるだろう

ストーリーに関しては、さすがにオリジナルのままでは危険だと判断したのか、妹を助けるために兄が強化服を着て敵に立ち向かうという当たり障りのないものに変更。グラフィックは大幅にパワーアップ。多重スクロールや詳細に描きこまれた背景、キャラクターなど、「こちらのほうがよほどアーケードゲームらしいだろ」と突っ込みたくなるぐらいリッチなものになっている。

ステージBGMはアーケード版においてそれほど多くなかったが、ステージごとに用意されているなど変化に富むものになった。

敵の配置などはオリジナルと異なるが、アーケード版をやり込んだ熱心なファンでもない限り、気になる要素ではないと思う。むしろ、操作性はゲームパッドとなっても良好で、難易度もアーケード版に近い印象のため、興味があればぜひ遊んでほしい。

良くも悪くも心に残ったインパクトのあるゲーム

▲最後の画面に現れる「我前に敵は無し」という文字。ある意味、確かに「敵」のない個性を独走するゲームであった

とんでもないストーリーゆえに世間を騒がせてしまったタイトルではあるが、それに比例するほどヒットしたかというと微妙かもしれない。

しかし、古くからのゲーマーならほとんどの人が覚えている、良くも悪くも心に残っているゲームであることは確かだ。実際、私を含めて当時のオタクやゲーマー連中には不謹慎ネタを好物としていた人間が多かったし、プレイはしなくても彼らの感覚に「刺さる」ゲームであったことは間違いないだろう。

もちろん、こういう悪乗りを嫌う良識派が多いことも分かってはいるが、単純にアクションゲームとして見た場合に完成度の高いものであることは確かだ。 レトロゲームセンターでも見かける機会が多く、いまだに人気の高い名作と言っていいだろう。

©PAON DP Inc.

こうべみせ

脚注   [ + ]

01. データイースト: 1970年代後半から2000年初頭まで活動していたゲームメーカー。愛称は英文社名略称の「DECO(デコ)」。ピンボールゲームメーカーの大手でもあった。
02. デコゲー : ファンによるデータイースト製ゲームの呼称。同社はバカゲーの印象が特に強かったため、主に同社のバカゲーに対して使われることが多かった。
03. X68000 : 1987~1993年にシャープから発売されていた16ビットPC。「パーソナルワークステーション」とも呼ばれた。当時のアーケードゲーム基盤に極めて近いスペックをもった独自PCで、数多くのアーケードゲームがほぼオリジナルの内容で移植される人気機種だった。
04. メガドライブ : セガから1988年に発売された家庭用ゲーム機。当時としては高いスペックを有し、アーケードゲームの移植も数多くされていた、南米では現在でも人気が高く、公認互換機が売られている。
05. 電波新聞社 : 日刊電波新聞を発行する業界新聞社。当研究所所長の大堀康祐がライターとして活躍していた雑誌『マイコンBASICマガジン』も電波新聞社によるもの。出版以外にも、アーケードゲームをPCやコンシューマー機に移植・販売し、その高い移植度が評判だった。

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