ニチブツ・ゲームミュージック変遷記 後編

ニチブツ・ゲームミュージック変遷記 後編  IGCC

1980年代に『ムーンクレスタ』(1980年)、『クレイジー・クライマー』(1980年)、『テラクレスタ』(1985年)などのヒットを放ち、その後も脱衣麻雀を中心に独自の立ち位置を築きつつ、20世紀の終わりを駆け抜けたニチブツ(日本物産)

ニチブツを語るならば外せないであろうサウンド面に焦点を当て、その歴史をざっと振り返る本記事の後編では、ゲームセンターの喧騒の中でひときわ個性を放った、1985年のFM音源導入期以降を紹介する。多くのゲームファンの心を揺さぶった「ニチブツサウンド」の誕生だ

なお、前編と同様、本編でも、アクションやシューティングなどの作品を「アミューズ」、麻雀や花札に代表されるアダルト向け作品を「麻雀系」と区別している。

1985-1987年 FM音源と『テラクレスタ』、そしてニチブツサウンドの確立

ニチブツのゲームミュージックが大きく注目を浴びるきっかけになった作品といえば、やはり『テラクレスタ』だろう。企画は『クレイジー・クライマー』の開発者・藤原茂樹※1藤原茂樹 : ニチブツを代表するゲームデザイナー。1980年代半ば以降のアミューズ部門を統括し、『テラクレスタ』をはじめとする数々の作品を送り出した。合体ロボ、トリッキーな動きの敵など、当時のニチブツゲームのイメージは氏によるもの。『テラフォース』を最後にハドソンに移籍。『ボンバーマン』を多人数対戦に対応させ、大ヒットに導いた。によるもので、サウンド担当は、すでに麻雀作品やアクションシューティングの『コップ01』(1985年)を手掛けていた吉田健志(よしだけんじ)※2吉田健志 : プロ・ミュージシャンとしてフォークグループで活動後、CM音楽・映画音楽制作などを経て、1985年に日本物産入社。『テラクレスタ』に代表されるFM音源全盛期から最後期まで、数多くの作品を手掛けた。ニチブツを代表するコンポーザー。である。

本作ではニチブツ初のFM音源となるOPLチップ(YM3526)を搭載。これは、ビデオゲームへの採用事例としては世界で2番目だという

▲FM音源版から数日で突貫移植されたPSG版『テラクレスタ』は、曲のループも短くなっている。映像は移植版のPS4用「アーケードアーカイブスシリーズ(海外配信版)」(以下同)。大人の事情でリンクは貼れないが、FM版もぜひご自身で検索して(笑)、FM版も聴いていただきたい 。©HAMSTER Co.

ゲームスタートとともに流れる勇ましいマーチ。そこへ切り込むドライブ感あふれるイントロ。うねりまくる鮮烈な主旋律。疾走する機関車のごとく太くすごみのあるベース。5chを使用したゴージャスなドラムセットが刻む、歯切れよいリズム。

高揚感あふれるメインテーマと恐竜の咆哮、変拍子を多用したボス曲が織りなす表情豊かな展開。そして、プレイヤーを称えるかのように、ネームエントリーのマーチが高らかに奏でられる。

本作が放つサウンドは、明らかにこれまでのニチブツ作品や、さらに言えば、他社も含めた多くのゲームミュージックとも一線を画すものだった。

当時、ビデオゲームで使われる音源はまだまだPSG(もしくは同系統のもの)が主流で、FM音源はOPMチップ(YM2151)やOPNチップ(YM2203)がごく一部のメーカーで使用され始めたばかり。各社が新音源のポテンシャルを引き出すべく試行錯誤するなか、『テラクレスタ』のサウンドの完成度は、別格の安定感・存在感をまとっていた。本作で使用されたYM3526は、YM2151やYM2203よりも安価で低性能とされるものだったにもかかわらず、である。

YM3526には同時発音9音モードと11音モード(メロディ6音+リズム5音)が用意されているのだが、ニチブツではリズムパートの存在を重視して11音モードが選択された。スネア※3スネアドラム : リズムの中心となる音を打ち出すドラム・セットの中心的存在。「ドン、タン、ドド、タン」というリズムにおける、「タン」を担うことが多い。、タム、ハイハット(オープン/クローズ)※4クローズ/オープンハイハット : ハイハットとは、上下2枚のシンバルを専用スタンドにセットしたもの。足元のペダルを使って2枚のシンバルの間隔を調節(オープン/クローズ)することで音の余韻が変化する。「チキチキタカチキ」などと主にリズムの刻みを担う。、バスドラム、クラッシュライドシンバル、コンガ、カウベル…と、FM音源だけでここまでのリズム音を用意し、フル活用していたゲームミュージックは、少なくとも国内ではニチブツ以外に例がないだろう。

「スタン!」「シャーン!」と金属的な打音がやけにリアルさを感じさせ、ゲームセンターの喧騒の中でも耳に届くこの音は、いつしか愛好家から「ニチブツドラム」と呼ばれるようになる。そして、吉田氏によって紡がれるアグレッシブな楽曲と合わせて名付けられた「ニチブツサウンド」は、同社の大きな特徴の一つとなった。

ところで、本作はYM3526の品不足という不運に見舞われ、基板の音源部分をYM2203に差し替えたバージョンが急きょ作られることになった。通称「PSG版」と呼ばれるこのバージョンでは、音源のPSGパート(3音)を音楽に、FMパート(3音)を効果音に割り当てているのだが、PSGへのアレンジやデータのコンバートはたったの3日間ほどで慌ただしく行われたらしい。国内では主にPSG版が出回ったため、FM音源版は当時発売されていたゲーム誌の付録であったソノシートや、各種サントラCDでしか聴いたことがないという人もいるかもしれない(厳密に言えば、それらに収録されたバージョンと基板で使用されているバージョンで、多少アレンジが異なるのだが)。

▲『コスモポリス ギャリバン』。派手な効果音でメロディは聞き取りにくいが、ドラムパートははっきり聞こえる。これぞゲーセンでも目立つニチブツドラム! ©HAMSTER Co.

この後、吉田氏は『コスモポリス ギャリバン』(1985年)、『UFOロボ ダンガー』(1986年)、『マイティガイ』(1986年)、『聖戦士アマテラス』(1986年)、『妖魔忍法帖』(1986年)、『キッドのホレホレ大作戦』(1987年)と、アミューズ作品のほとんどのサウンドを一手に担っていく。

▲『聖戦士アマテラス』。当時、FM音源だけでここまで凝ったリズム隊(ベース&ドラム&パーカッション)を持つゲームがどれだけあっただろうか? ©HAMSTER Co.

これらの作品の音源構成は、いずれも『テラクレスタ』とまったく同じだ。YM3526はYM2151やYM2203に比べて作成できる音のバリエーションが少ない上に、吉田氏が「使える」と判断した音色も限られていたためか、どの曲も似たように聞こえると言われることもあったという。

『妖魔忍法帖』の基板バージョンでは、サントラCD収録バージョンと違ってドラムパートがごっそりオミット(除外)されているが、それも先述のような「どれも似ている」という社内意見を反映しての措置だったようだ。吉田氏はサントラCDのライナーにて「同じバンドがゲームごとに演奏していると思ってほしい」と語っており、言い得て妙である。

吉田氏の作り出す音は、手弾き感に溢れているのも特徴だ。ギターのチョーキング※5チョーキング : 弦を弾いた後にその弦を押し上げることで音程を変化させるエレキギターのテクニック。ベンディングとも言う。アーミング※6アーミング : エレキギターに装備されているビブラート・アーム(トレモロ・アーム)によって弦の張りを変え、音程を変化させる奏法。のような奏法が積極的に採り入れられており、とりわけ、ほかに類を見ない「ニチブツドラム」によるリアル感も手伝って、あたかも少人数編成のロックバンドが演奏しているようなグルーヴを感じることさえある。このような人間味のある演奏を、当時のゲームミュージックで表現できている例は多くない。そして吉田氏自身も、エレクトロニックなサウンドというよりは、バンドとしての音を追求していたと語っている。

このようなサウンド表現を実現に導いたニチブツオリジナルのFM音源用サウンド開発システムを構築したのは、『マグマックス』(1985年)を担当した山田良一※7山田良一 : 1980年代にサウンド担当としてニチブツに在籍。『マグマックス』などのサウンド全般を手掛けつつ、ニチブツ独自のPSGやFM音源のサウンド開発環境を1人で構築した。だ。SMC-777にYM3526を積んだ基板を接続、専用のエディタやドライバが用意され、外部接続の音楽用ミニキーボードや各種スライダーによって音程や各種パラメータを入力するという、非常に先進的なものだった。YM3526において11音モードの使用が選択されたのも、山田氏から吉田氏へのヒアリングによるもの。徹底的に作り手に寄り添ったシステムとなっていたようだ。

ニチブツ・ゲームミュージック変遷記 後編  IGCC
▲ニチブツオリジナルのFM音源用サウンド開発システム

この時期のトピックとして、『コスモポリスギャリバン(1985年)の効果音にも触れておこう。現在確認できている範囲では、「ジャン!」というサンプリングによるクレジット投入音は、ビデオゲームでオーケストラ・ヒットが使用された初めての事例とされている

後に、オーケストラヒットはゲームミュージックにおいて一大ブームとなるが、その初出は本作であり、『A-JAX』(コナミ/1987年)や『ダライアス』(タイトー/1986年)あたりがブームの牽引役になったと考えられる。

1987-1988年 OPL2チップへの移行とサンプリングドラムの導入

1987年発売の『超時迷宮レジオン』から、YM3526に替わって、その上位互換チップとなるOPL2チップ(YM3812)が採用された。とはいえ、本作時点ではまだ社内のFM音源ドライバが3812に対応しておらず、これまでの3526相当の機能のみが使用されていたようだ。

同環境で制作された『テラフォース』(1987年)では、当時まだ新人だった吉田昇※8吉田昇 : 1980年代後半にニチブツのサウンド専任として在籍。『テラフォース』のほか、ファミコンソフト『アルテリオス』のサウンドを手掛ける。が作曲を、三田ヨシノリ※9三田ヨシノリ : 1980年代後半、ニチブツに在籍。サウンドツールの制作や麻雀系作品の作曲を手掛けた。サウンドプログラムを担当。特に、ドラムの音色は一聴で分かるほど、吉田健志氏のそれと差別化を試みたものになっており、メインBGMのキャッチーな曲調も伴って新鮮に響く

▲吉田昇氏&三田氏による『テラフォース』。これまでのFM音源曲と比べると、音色や曲調に違いが感じられるのではないだろうか ©HAMSTER Co.

この頃になると、ゲームミュージック人気の追い風もあって、ゲームメーカー各社はサウンド面にいっそう力を入れるようになっていた。大手メーカーでは比較的高価なYM2151がスタンダード音源となり、タイトルによってはサンプリング音源がプラスされるなど、表現力も飛躍的に広がった。かたやYM2203やOPL系は、比較的資金力に乏しいメーカーや低予算の作品に使われるケースが多く、ニチブツもその一例であった。

このような状況の中、アップデートを進めていた社内の音源ドライバが、ついにYM3812に対応。さらに素敵なことに、これまで効果音専用として使われていたサンプリングが、楽曲に対しても使えるようにもなった。この新機能を生かしてリリースされた第1弾が、テレビ化などもされ爆発的な人気を博した時代劇漫画を原作とするアクションゲーム『子連れ狼』(1987年)である。

後年、吉田健志氏は「これでやっと大手に負けない音作りができる、とうれしかった」と語っているが、本作のサウンドはそんな気持ちを投影させるかのように、スネア、大太鼓、拍子木、ティンパニなど、さまざまな打楽器をちりばめた聴き応えのある和風ロックに仕上がっている

続く『アームドF』(1988年)も、サンプリングとYM3812ならではの音色を採り入れ、全6ステージ分+αと多くの楽曲が用意された充実した作品となっている。吉田健志氏がこれまで手掛けてきたシューティングゲーム・サウンドの、攻撃的で音符を隙間なく詰め込んだような楽曲に比べ、テンポも抑え気味で全体的に重厚なものが多く、曲調の変化も見られ始める

▲YM3812+サンプリングによる『アームドF』。スネアやタムは、サンプリング音に既存のFM音源ドラムを重ねて鳴らすことで、ハイハットやシンバルなど、FMを使ったドラムセットとの一体感が保たれている ©HAMSTER Co.

YM3812へ移行後のただ1つの例外が『クレイジー・クライマー2』(1988年)。本作では事情により旧型のYM3526が再び採用されており、基本的にサンプリングドラムも使用できない仕様だった。しかしステージクリアミュージックでは、プログラマーが遊びで作っていた本作の(サンプリングによる)効果音で奏でられるリズムと、吉田健志氏がそれにテンポを合わせて作ったFM音源楽曲を同時に演奏し始めることで、サンプリングのパーカッション・パートを実現させるという荒業が使われている。なお、微妙にテンポが異なる2パートを出だしだけ「せーの!」で合わせて演奏させているので、しばらく聴いていると両者が徐々にずれてくるのはご愛嬌だ。

▲YM3526再びの『クレイジー・クライマー2』。メイン曲はラテン・ブラジル系でそろえられている。36秒目からのゲームオーバー曲は、前作のファンならお気づきであろう、あの曲のアレンジだ ©HAMSTER Co.

そしてこの頃、実質的にニチブツの屋台骨を担っていた麻雀系作品や『対戦早押しクイズ ハイホー』(1987年)などのクイズゲームでは、一貫してPSGチップ1個という構成が使われ続けてきたが、ついに『麻雀刺客』(1988年)よりYM3812が搭載された。サウンドツールを制作した三田ヨシノリ氏が、本作の作曲も担当している。

脚注   [ + ]