“1/60秒”に賭けるプロゲーマーの情熱と葛藤に密着!ドキュメンタリー映画『リビング ザ ゲーム』

  • 記事タイトル
    “1/60秒”に賭けるプロゲーマーの情熱と葛藤に密着!ドキュメンタリー映画『リビング ザ ゲーム』
  • 公開日
    2018年03月07日
  • 記事番号
    266
  • ライター
    大堀 康祐

大堀康祐の映画レビュー『リビング ザ ゲーム』

僕自身も昔、ゲームが大好き過ぎて、「ゲームを認めない周りの人に何とかゲームを認知してもらいたい」「情報が少なくて困っているゲーム好きの人たちのコミュニティーを作りたい」そんな想いで35年前、ゲーム情報誌を立ち上げたり全国のハイスコア集計を提案したりしていました。

それらは一定の成果は出せたものの、僕自身の中で一つ結果を出せなかったのが、「ゲームを遊ぶことで生きていく(ゲーマーとして生きていく)可能性の追求」でした。攻略本の専属ゲーマーなどの仕事は当時あったのですが、やはり将来を考えると、ゲーマーよりもゲーム制作の道を選んだほうが現実的でしたし、当時の僕はゲーム制作にも興味を持ち始めていたので、「プロゲーマー」(当時はそのような言葉はありませんでしたが…)の道は自然とあきらめてしまうことになってしまいました。

ゲーム制作の道を選んでから何年かして、本作品の主人公であるウメハラさん(梅原大吾氏)の話を聞き、未開の「プロゲーマーを生業とする人生の歩み方」を模索し、突き進んでいる姿にすごく感銘しました。彼がプロゲーマーという生き方を確立したのです。

今回、本作を観て、プロゲーマーとして現役で活躍している方たちの「プロとしての意識の高さ」「ストイックさ」に感動し、また、ウメハラさんのスター性・すごさを再認識させられました。

ゲームを遊ぶことに「一度はまじめに向き合ったゲームファン」には、ぜひとも見ていただきたい作品です。

ゲーム文化保存研究所 大堀 康祐

時代の寵児か、社会のはみ出し者か。
真の強さを求めて、“ 1/60秒”で戦う世界がある。

INTRODUCTION

ゲーム・エイジが生んだプロゲーマーという職業。
世界中から羨望を集める彼(彼女)らの歓喜と苦悩の物語。

TVゲーム人気の隆盛は、それまでには考えられなかった職業を生んだ。人前でゲームする姿を見せることを生業とする「プロゲーマー」だ。彼らは、ゲーム関連企業などをスポンサーとし、世界各地で行われるゲーム大会を転戦して賞金を獲得。試合の模様は世界中にネットで中継され、大会会場では観客が熱狂する。

プロゲーマーたちの佇まいはテニスプレーヤーのそれを連想させる…。その中には、スター・プレイヤーやカリスマ的な選手がいる。彼らのどんな人々か、その実像に迫るドキュメンタリーが、本作『リビング ザ ゲーム』である。

プロゲーマーの熱き戦いとその裏舞台を描く

コマンド操作での複雑な駆け引きを可能にした「ストリート・ファイターⅡ」の登場が、1990年代に爆発的な対戦型格闘ゲーム・ブームを生み出した。2000年代に入ると大規模なゲーム大会が世界各地で開かれるようになる。日本発信のゲーム・カルチャーが、全世界の若者を虜にしたのだ。こうした背景の中、プロゲーマーが生まれた。

ラスベガスで毎年開かれる、最も権威ある格闘ゲーム大会「EVO」で2度の連続優勝を果たした梅原大吾。ビースト(野獣)とあだ名され、プロゲーマーとして世界中のファンから絶大な人気を誇る。その大吾に強いライバル心を燃やすのが、若きプレイヤー、ももちだ。恋人でプロゲーマーのチョコブランカとともに、格闘ゲーム界の頂点を目指す。さらに、アメリカ、フランス、台湾と世界各国の選手を巻き込んで、ワールドワイドなストーリーが展開する。

プロゲーマーは、常に社会の白い目とも闘っている。大人たちからは理解されない彼らの職業。葛藤しながらも、それでも格闘ゲームに生きる彼らは、果たして時代の寵児か、それとも社会のはみ出し者か。これまでない、1年以上に渡ってプロゲーマーたちの光と影に密着したニューエイジ・ドキュメンタリー!

PRODUCTION NOTE

世界をターゲットに制作を開始

「リビング ザ ゲーム」のプロジェクトが立ち上がったのは、Tokyo Docsと呼ばれるテレビ制作会社が中心となって開かれている国際イベントだった。世界中の放送局が集まり、日本を含めたアジアのドキュメンタリーの作り手が国際共同制作を目的に企画のプレゼンをするイベントだ。ここに持ち込まれたのが、本作のひな型となる監督・合津貴雄(東京ビデオセンター所属)のプロゲーマーの企画だ。合津は梅原の著作から「人生で最も大切なものが、社会からは全く評価されない」という葛藤を知り、ドキュメンタリー企画を提案。知られざるゲームの熱狂とその中心にいるプロゲーマーたちの苦悩は評判を呼び、優秀企画賞を含む三賞を受賞した。そこで、世界に通用するドキュメンタリー制作を目指すWOWOWと、台湾で最も有名なドキュメンタリーの映像会社CNEXが共同制作社として名乗りを上げ、制作が本格スタートを切る。

世界をまたぐ制作陣のドキュメンタリー

この作品は撮影に1年以上、編集に4か月というこれまでのテレビ・ドキュメンタリーの常識を大きく上回る制作期間を経て作られた。編集は社会から冷たい視線を浴びてきたゲーマーたちの人生、そしてゲームの中で彼らが何と戦っているかを視聴者にどう届けられるかが勝負だった。パンチ一つの裏にある、心理戦と1/60秒を争う攻防の魅力…。しかし馴染みのない人にはルールすらわからないゲームの世界に視聴者を惹きつけるため、制作陣が敢えて選んだのはナレーションを廃したスタイルだった。テロップも場所の表記など最小限に留めた。時に説明過多に陥る日本のテレビ・ドキュメンタリーのスタイルとは大きく異なるスタイルを可能にしたのは、国籍を越えたチーム編成にこだわったことだ。

監督は短編の自主映画からスタートし、本作が長編第一作となる合津貴雄。時に取材者の家に泊まり込み対話を続け、登場人物たちに迷惑がられながらもしつこい取材を続けた。編集は英BBCでいくつものドキュメンタリーを手掛けてきた名エディター、ハーバート・ハンガー。熱狂の戦いと若者たちのつつましい生活というギャップを、膨大な撮影素材の中から浮かび上がらせていった。世界大会にゲーマーたちの人生をシンクロさせる作品の重要な要素である音楽は、ドイツを拠点に劇映画やドキュメンタリーの楽曲を手掛けてきたコンポーザー、ビルガー・クレウゼン。

そんな本作はWOWOWで「国際共同制作プロジェックト 格闘ゲームに生きる」として放送された後、世界でも絶賛される。毎年20万人が訪れる世界最大のドキュメンタリー映画祭のカナディアン国際ドキュメンタリー映画祭や、広州国際ドキュメンタリー映画祭に正式招待された。日本のテレビ・ドキュメンタリーが世界に向けた発信力を持つことを証明してきた。そして、満を持しての劇場公開となる。

STAFF

監督:合津貴雄
大阪府出身。大学時代から自主映画の制作を始め、卒業後に一般映画館で作品上映を行う。2012年、東京ビデオセンター入社後、フィクションからノンフィクションに活動の場を移し、テレビの世界でNHKを中心に情報番組などに携わる。本作品は、監督初の長編ドキュメンタリーである。

撮影監督:宮川公一郎
三重県出身。東放学園専門学校を卒業後、(株)ファーストハンドに入社。フジテレビ「ザ ノンフィクション」、NHK「プロフェッショナル」など、多くのTVドキュメンタリーで撮影を担当する。撮影で一番大事にしている事はコミュニケーション。趣味は子育て。

編集:ハーバート・ハンガー
オーストリア出身。イギリスのNational Film and Television School を卒業後、英BBC・米HBOでドキュメンタリーを中心に、編集に携わる。2014年より、長年の夢だった日本での生活を始め、NHK、WOWOWなどで、日本の映像クリエーターたちとの作品制作に、精力的に取り組んでいる。英語、ドイツ語、スペイン語、そして日本語を使いこなす国際派の映像編集マン。

音楽:ビルガー・クラウゼン
ドイツ出身。2008年より長編映画の作曲家としてのキャリアをスタート。映画、TVドラマ、ドキュメンタリーまで幅広く活動する。

CAST

ももち(日本)
人生の岐路に立つ世界王者。元ホテルマンという経歴を持ち、プロゲーマーの道に進む。堅牢なプレイスタイルで2014年の世界大会を制した気鋭のプロゲーマー。恋人は日本人女性初のプロゲーマー「チョコブランカ」で、更なるキャリアアップのため2014年に二人で上京した。2016年にはゲームイベント・次世代のゲーマー育成を業務内容に起業、代表取締役を務めている。

梅原大吾 (日本)
2010年に日本で初めてのプロ契約を交わしたゲーマー。格闘ゲーム界で“The Beast”と称され、カリスマ的な人気と実力を誇る絶対的存在。 2004年の世界大会Evolutionで見せた劇的な逆転劇は伝説の一戦と記憶され、Youtubeでの総再生回数は1億回を超えると言われる。 「世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー」など三つのギネス記録を持つ。 ニューヨーク大学や慶応大学にプロゲーマーとして初めて講師として招かれ講演を行うなど、その勝負哲学はゲーム業界以外にも注目され著書も多数。

ジャスティン・ウォン (アメリカ)
15歳からゲーム大会で賞金を稼ぎ続ける北米最強のプレイヤーで、ホワイトハウスで初めて開かれたゲームイベントにゲストとして招待されるなど、格闘ゲーム界のレジェンドの一人。梅原と伝説の一戦を演じたことでも知られる。ニューヨークの貧しい家庭の出身だが、夢を掴むため、ゲーム産業が盛んな西海岸へ移住、アメリカンドリームを掴んだ。

ルフィ (フランス)
欧州では不動の最強プレイヤー。名前の由来は漫画「ワンピース」の主人公ルフィから。フランスの大手広告代理店でサラリーマンとして勤務しながらも、ゲームセンターからのスポンサー契約を勝ち取りプロゲーマーに。2014年、欧州から生まれた初めての格闘ゲーム世界チャンピオンに上り詰めた。安定した生活をとるか、ゲーム一本で生きるか、心が揺れ動いている。

ゲーマービー (台湾)
日本語、英語を流暢に話す元ホテルマン。賭博業に生きた父の下で育ち、ゲームだけを心の支えに少年時代を過ごす。本作の登場人物の中で最も多くの職を経て、プロゲーマーとなり、人生の伴侶も見つけた。ラスベガスの世界大会EVOでは二度決勝の舞台に進むもいずれも準優勝。初の世界王座を目指す。

『リビング ザ ゲーム』

世界で名立たる5人のプロゲーマーたちの生活に密着し、知られざるゲームの熱狂とその中心にいるプロゲーマーたちの苦悩を描いたドキュメンタリー作品。本作が長編第一作となる合津貴雄を監督に、英BBCでいくつもドキュメンタリーを手掛けたハーバート・ハンガーが編集を担当。国際特別編成チームによって制作されたワールドワイドな作品となっている。

監督:合津貴雄
出演:ももち/梅原大吾/チョコブランカ/ゲーマービー(台湾)/ジャスティン・ウォン(アメリカ)/ルフィ(フランス)
2016年/ 日本・台湾/ 88分 /ハイビジョン作品 /英題:LIVING THE GAME
製作:WOWOW/ 東京ビデオセンター/ CNEX Studio
配給:東京ビデオセンター
ⓒWOWOW/Tokyo Video Center/CNEX Studio
公式サイト
2018年3月3日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー
ほか全国順次公開

※この記事は(レビューを除き)メーカー提供のプレスリリース・資料を元に作成しました。

大堀 康祐

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