早すぎた難解パズルゲーム『ブロックアウト』の魅力

  • 記事タイトル
    早すぎた難解パズルゲーム『ブロックアウト』の魅力
  • 公開日
    2018年06月21日
  • 記事番号
    406
  • ライター
    外山雄一

ブロックアウト』は1990年にテクノスジャパンよりリリースされた。

まだ市場規模が小さかったゲーム業界にテトリス旋風が吹き荒れた1980年代後半。それはテトリス亜種をはじめ、無数の「落ち物パズル」が世界中で生まれ始め、その後の市場拡大の一翼を担うジャンルが確立された時代だった。

『ブロックアウト』はそんな時代にゲームセンターに登場したが、残念ながらヒットには至らなかった。しかし近年、「Game in えびせん」をはじめ、一部で再評価の動きがある。今回、あらためて本作の魅力を紹介すべく、同店の店長である海老原肇氏にお話を伺った

落ち物パズル黎明期に東欧で生まれた突然変異

その多くが2Dゲームである「落ち物パズル」は、シンプルなゲーム性ゆえの間口の広さから、30年以上経った今でもFree to Play(基本無料ゲーム)やeスポーツの1ジャンルとして、新作が作り続けられている。

そんな「落ち物パズル」の2Dゆえの良さをあえて採らず、3D化することで、新たなゲーム性を切り拓くチャレンジをした商品がいくつかある。『ブロックアウト』は、おそらく『テトリス』の3D化に最も早くチャレンジし、アーケードゲーム化までされた「早すぎた名作」といえるだろう。なぜ「早すぎた名作」であったのかは、後ほど詳しく語りたいと思う。

旧ソビエト連邦で1984年に生み出された『テトリス』に対し、オリジナルの『ブロックアウト』は1989年に東欧ポーランドでPC向けゲームとして生まれた。

▲日本版『ブロックアウト』のインストラクションカード

『ダブルドラゴン』(1987年/テクノスジャパン)のヒットによりアメリカ法人として設立されたAMERICAN TECHNOS(アメリカン・テクノス)社が、当時の『ブロックアウト』権利元であるCarifornia Dreams(カルフォルニアドリームス)社」とライセンス契約を交わし、日本でテクノスジャパン(*01)がアーケード版『ブロックアウト』として素早く移植。翌年2月にはゲームセンターに並んだ。

テトリス旋風真っただ中のゲーセンに突然現れた3D版落ち物パズル

セガ版『テトリス』(1988年)が日本中のゲームセンターで大ヒットし、その基板が足りないとまで言われた1988年~1989年、メーカー各社はポスト『テトリス』の開発を進め、ゲームセンター側もその登場を心待ちにしていた。

そんな1989年に販売された「落ち物パズル」は、『フラッシュポイント』(セガ)と『ブロックアウト』(実際の出荷は1990年2月)ぐらいであったため、『テトリス』ほどではないにしろ、他ゲームと比較すると引き合いは強かったようだ。

ただ、発売元のテクノスジャパンにとっては、自社タイトル『熱血硬派くにおくん』(1986年)及び『ダブルドラゴン』(1987年)と、それらの続編がヒットしていたため、アーケード版『ブロックアウト』はこの1作で終わる。

「落ち物パズル」ブームの初速に乗った形で本作は全国のゲームセンターに出回ったが、インカムは思わしくなかったようだ。『テトリス』の3D版ということが見た目で分かり、それゆえに何をすればいいゲームなのかも理解できるのだが、市場に3Dのゲームがほとんどなく、3Dゲームの操作経験があるプレイヤーも少ない時代だったため、『ブロックアウト』はあまりに難しすぎた

3Dゆえに難しいが完成度は高い

2Dの『テトリス』で、「テトリミノ(4つの正方形が連なったブロック群)」は一軸のみの回転で、コントロールパネルは1レバー+左回転の1ボタン(その後は左右回転の2ボタン)だった。

それに対して、本記事で紹介する日本国内版『ブロックアウト』は「ポリキューブ」(本作で操作するブロック)を3次元空間で移動/回転させるため、1レバー+落下、Y軸回転、Z軸回転の3ボタンとなっている

余談だが、海外版『ブロックアウト』(1989/AMERICAL TECHNOS)は国内版にX軸回転ボタンが追加され、回転だけで3ボタン、落下ボタンがレバー先端に付いた、1レバー+4ボタンの専用コントロールパネル仕様となっていた。おそらく日本版は、JAMMA規格(*02)にそって3ボタン化を選択したのだろう。

こうした操作の難しさに加え、3D空間の把握能力、ときには「ポリキューブ」で見えなくなった画面奥行き空間の記憶力まで必要とされるため、難易度は非常に高い

▲『ブロックアウト』基板。タイトルロゴが板面に印刷されるゲームは珍しい

また、CPUに当時スタンダードであったMC68000(*03)を使った基板は、3D処理を扱うにはいささか非力だったようだ。『ブロックアウト』は常に処理落ちしているような動きで、複雑な形の「ポリキューブ」が出現すると、それだけでさらに動作が遅くなる。このため操作性も独特だ。

しかしそれらを差し置いても、ゲーム全体の完成度は高い。表現こそワイヤーフレームであるものの、安価な基板売りながら、3Dのアーケードゲームをこの時期に作り上げた例は少ない。確かに難易度は高いが、決して攻略不可能ではなく、破綻もしていない。

『ブロックアウト』はどんなゲーム?

▲ROUND1序盤。ちなみに「ブロックアウト」とは「全消し」のことだ

本作は、画面手前から奥へ落ちていく「ポリキューブ」を操作し、隙間なく並べて消していくことが目的のエンドレスなパズルゲームだ。「ポリキューブ」は、立方体である最小の1キューブから最大の5キューブ構成まで24種類がある。

本作では1つの面はROUND(ラウンド)と呼ばれ、ROUNDは1~10まで10種類が基本となっている。各ROUNDのプレイフィールドは、もっとも狭い3×3からもっとも広い5×5までさまざまな形状が存在する(※途中でボーナス面として2×2のROUNDが挟まるが、ゲームオーバーにはならない)。

「ライン」(線)をそろえて消すのが目的の『テトリス』に対し、本作の目的は画面奥に向けて広がる空間に「FACE」(面)をそろえて消すことだ。各ROUNDに設定されたノルマの数だけ「FACE」を消すとクリアとなる。

各ROUNDの内壁の形状の違いから、物理的に回転しない大きさのポリキューブは出現しないため、ROUNDごとに出現するポリキューブの種類は決まっている。ROUND1~5までは、キューブが平面的に繋がったシンプルな形状の11種のみが出現する。ROUND6で初めて三次元的に繋がったポリキューブが出現し、その後もROUNDが進むにつれて少しずつポリキューブの種類が増える。

ポリキューブの種類によって出現位置と方向が決まっているため、瞬時に形状を理解して、向けたい方向に正確にポリキューブを回転させる操作が必要となる。これができるようになると、ROUND10ぐらいまではクリアできるようになるだろう。

ROUND10から出現する十字型、ROUND11から出現の立体4キューブ3種あたりから複雑度は増す。本作はゲームスタート時に、ROUND20からの開始を選ぶこともできるが、ここをクリアするにはかなりのテクニックを要する。3×3という狭いプレイフィールドの中に、三次元的に5つのキューブが連なったポリキューブが登場し、それらを隙間なく素早く詰め込んでいかなければならないためだ。

一説には、本作を初めてプレイする人がいきなりROUND20をクリアしようとすると、平均で50~60プレイが必要とまで言われている。

ROUND21を超えてもノルマはROUND50まで増え続ける。また、ポリキューブ24種すべてが出そろうのはROUND28になってからだ。5つのキューブの組み合わせとしては、さらに幾何学的に複雑な形状をしたポリキューブを出現させることも可能なはずで、実際のところ元のPC版には登場する。しかし本作移植スタッフは、ただでさえ瞬時に形状を把握するのが困難なポリキューブの種類を、あえて絞ることでゲーム全体の難易度を下げることを選択したようだ。

また、多くの「落ち物パズル」に倣えば、次にどんな種類のポリキューブが出現するかの「NEXT表示」があるのが普通だが、本作にはない。これはおそらく、それを2Dで表示すると形状が認識しにくく、3Dで表示するといっそう処理速度が厳しくなることから断念したのだと思われる。もし、本作に「NEXT表示」があれば、より戦略性が増して当時の評価が高まったのか、はたまた、逆に魅力がスポイルされたのか…それは今となっては分からない。

ギリギリのバランスで成り立った奇跡のゲーム

▲白い顔こと「THE BLOCK MASTER」のモデルは当時のテクノスジャパン社長という説アリ

本作はアーケード移植に際して、さまざまなアレンジが行われている。
複雑なポリキューブ廃止およびROUNDクリア型採用といったゲームデザインの変更、謎の白い顔「THE BLOCK MASTER」と音声の追加、ゲーム全編を通して響く幻想的なサウンド、2P VS MODEの追加…。これらの改良により、複雑で高難易度のゲームを破綻させることなくアーケードゲームに落とし込んだスタッフの力量は、かなりのものだ

惜しむらくは、本作の高い難易度に対応できるプレイヤーが当時は少なく、オペレーターの評価が低かったことだろう。一時期は中古市場での基板価格は数千円と設定され、それでもほとんど売買されなかったらしい。

しかし、このたびの「Game in えびせん」における本作の再評価によって、常連ハイスコアラーによる攻略が進んだことで、中古基板の相場も上昇した

海老原氏は本作の魅力について、「ポリキューブを回すアクション性、運ゲー(*04)であるがゆえのドラマ性、自由度の高さゆえに見えるプレイスタイルの個性」を挙げた。同時に、本作を「ありとあらゆる要素がギリギリのバランスで成り立っている、早すぎた難解パズル」と表現している。

リリース当時「ゲームセンターの隅にある難しいパズル」と感じて、あまり遊んでいなかったプレイヤーも多いと思われるが、30年近くたった今でも、新たな攻略に挑んでいるプレイヤーもいる。今プレイすることで、新たな本作の魅力に気付くことができるかもしれない。

▲「Game in えびせん」ではライブストリーミング配信プラットフォーム「twitch」にて毎週水曜日20時から『ブロックアウト』のプレイ動画を配信をしている

Ⓒ ARC SYSTEM WORKS

【取材協力】

Game in えびせん
住所:東京都練馬区旭丘1-75-12 ヤジマビル2F
電話:03-6909-4776
営業時間:12:00~24:00
休み:なし ※年末年始(12/30~翌1/3)のみ休業
駐車場:なし
公式サイト
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外山雄一

脚注

脚注
01 テクノスジャパン : 1981年~1996年にかけて営業していたビデオゲーム開発・販売会社。アーケード向け『熱血硬派くにおくん』(1986)、『ダブルドラゴン』および家庭用ゲーム向け『くにおくん』シリーズが有名。
02 JAMMA規格 : 日本アミューズメントマシン協会が1986年に定めたゲーム基板と筐体を接続するコネクタの配列のことを指す。
03 MC68000 : 米モトローラ社(当時)が開発した16ビットCPU(中央処理装置)。1980年代半ば~1990年代初めにかけて、アーケードゲーム基板での採用例が多かった。
04 運ゲー : プレイヤーの腕前よりも「運」によって結果が左右されがちなゲームのこと。

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