人気キャラクターの原点にしてベルトスクロールアクションの始祖「熱血硬派くにおくん」
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昭和の晩年はヤンキーが輝いていた時代だった。
念のため、ヤンキーとは何であるかを説明しておくとツッパリ学生、いわゆる不良学生というやつだ。現実世界では学校荒廃などと言われ、社会問題にもなっていたが、物語世界ではその独特の風貌がキャラクター化しやすかったためか、ヤンキーをモチーフとしたコンテンツが多数作られた。
1980年代初頭の「なめ猫(*01)」、『ビー・バップ・ハイスクール(*02)』(1983~2003年/講談社)など、アラフォー世代以上の人にとっては懐かしく思い出されるのではないだろうか。
ビデオゲームもその例外ではなく、ヤンキーをモチーフにして大人気となったタイトルがある。それこそ、今回紹介する『熱血硬派くにおくん』(1986年/テクノスジャパン)だ。
それまでのゲームにはなかった不良が主役という設定が斬新だった
本作は不良同士のケンカをテーマにしたゲームだ。本作の開発メーカーであるテクノスジャパンは、これ以前にプロレスゲームの『エキサイティングアワー』(1985年/テクノスジャパン)を制作している。『エキサイティングアワー』は当時としては大変良くできたプロレスゲームであり、ゲームセンターで常に誰かがプレイしているような人気作となっていた。テクノスジャパンは、おもしろい格闘アクションゲームの作り方についてノウハウは持っていたというわけだ。
そのノウハウをベースに、当時話題を集めやすかったヤンキーをキャラクターにしてゲームを作ったのだから、人気作となる要素は充分に満たしていたといえるだろう。
筆者が本作と出会ったのは、当時足を運んでいた高田馬場のゲームセンター「GongoGongo(ゴンゴゴンゴ)」だった。ビルの細い階段を上がって入店すると、入口のすぐ側に置いてあったテーブル筐体で稼働していたと記憶している。いつ行っても、うまいプレイヤーがずっと遊んでいてなかなか自分はプレイできず、ひたすら順番が来るのを待ちながら『忍者プリンセス』(1985年/セガ)で遊んでいたことを思い出した。
ややクセのある操作感覚だが、慣れると多彩なアクションに夢中になれた
本作は2画面分ほどのフィールドで、集団を相手にケンカを繰り広げるアクションゲームだ。一見ベルトスクロールアクションのように感じるが、ステージの端はそれ以上進めないように制限された地形になっている。操作は上下左右の移動に使用するレバーと、ジャンプボタン、左右への攻撃に対応した2つのボタンを用いる。攻撃ボタンが主人公を中心として左側用と右側用に分かれているのがミソで、主人公の後ろから襲ってくる敵に対して、レバーで振り向くことなく対処することができるのだ。現在では、主人公が向いている方向のみに攻撃するシステムが主流になっているので、本作を初めてプレイする人は戸惑いを感じるかもしれないが、慣れてしまえばなかなか便利な操作方法だ。
ジャンプキックやつかみからの攻撃、倒れた敵にマウントしてダメージを与えるなど、攻撃方法は後年になって流行するベルトスクロールアクションゲームと変わらない。というよりも、本作がベルトスクロールアクションの基本を完成させたというのが正しいのかもしれない。
しかし、操作に対するレスポンスはお世辞にもあまりよろしいとはいえなかった。この時代で使われていたハードウエア環境を考えたら致し方ないかもしれないが、敵の攻撃に対して反射的に対応しても主人公は反応してくれず、敵の攻撃を先読みしながらあらかじめ入力しておくという感覚に近かった。コツをつかむまでは思うように動かせず、あっという間にゲームオーバーになっていたのが悔しかった。
少ないステージ数ながら、それを感じさせないゲーム内容が見事
当時、すでにゲームのステージ数は多くなってきていたが、本作は全4面。このステージ数の少なさは珍しい部類に入っていたのではないだろうか。
ただし、1ステージあたりのクリアにかかる時間は長めだったので、物足りなさを感じるほどのボリュームでは決してなかった。ループ制で、2周目以降も難易度が急上昇したような記憶はないので、長くプレイを楽しめた。
各ステージは、初めにザコ敵と闘い、ある程度倒すとボスが参戦してくるといった構成になっていた。ザコもボスも体力が設定されており、何度も攻撃して体力を0にしなければ倒すことができない。この辺も後年に登場するベルトスクロール型格闘ゲームと同じであり、本作が基本系となったといえる要素である。ちなみに、ステージ1と2ではそれぞれ画面の端がホームや埠頭の末端となっており、そこに敵を落とせば一撃で倒すことができた。
ステージ1は駅のホーム、ステージ2では埠頭で暴走族と対決。ステージ3は場末の盛り場のような夜の街でスケ番たちと戦うという、いかにもヤンキーが多そうなシチュエーションだ。そして最終ステージは「本職の方」と戦うというぶっ飛び具合。拳銃や刃物で攻撃してくる相手に素手で立ち向かっていくのだから、主人公「くにおくん」の度胸は半端じゃない。たとえどんな相手でも、仲間を傷つけた奴は許さない熱い男なのだ。
移植版やスピンオフシリーズが次々と作られる人気リーズに成長
人気作となっただけに、家庭用ゲーム機への移植も多く行われた。古くはファミリーコンピュータ版があるが、ハードの制約上変更点も多く、これはオリジナルゲームとして楽しんだほうがいいかもしれない。アーケード版とほぼ同じものを楽しみたいなら、PS4やNintendo Switch向けのアーケードアーカイブス版がおすすめだ。
また、本作をきっかけに生まれたキャラクターの「くにおくん」であるが、その後『熱血高校ドッジボール部』(1987年/テクノスジャパン)などのスピンオフ作品が次々と作られていった。ゲームの完成度の高さに加え、頭身を落としたかわいらしいデフォルメスタイルがプレイヤー層を拡大し、「くにおくんブランド」が形成されたことは、ゲーム好き読者にはもはや説明不要だろう。
後のベルトスクロール格闘の基本形として完成されていたゲームシステム
多人数を相手に闘う格闘系アクションゲームは、本作以前にも『スパルタンX』(1984年/アイレム)などが存在したが、それらのほとんどはサイドビュー表現によるもので、左右移動しかできなかった。主人公も敵も、攻撃パターンはシンプルで単調だったといえるだろう。
そんな状況の下で登場した本作は、奥行きのあるフィールドに多彩な攻撃パターン、状況に応じた行動パターンをとる敵キャラなど、非常に斬新な印象を与えてくれた。もちろんレトロゲームなので、内容は現在のゲームと比較にならないような簡素なものだ。しかし、本作がその後に続く格闘アクションゲームの基本形になったであろうことは想像に難くなく、時を経て『ファイナルファイト』(1989年/カプコン)などの名作につながっていったのではないかと想像する。
本作は今遊んでも充分に楽しめるが、格闘アクションゲームの進化を知る上でもぜひプレイしてもらいたいゲームの一つである。近くのレトロゲーセンで見かけたら、ぜひプレイしていただきたい。
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