「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第六十一回 ロード

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第六十一回 ロード
  • 公開日
    2025年12月26日
  • 記事番号
    13882
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第六十一回のテーマは「ロード」です。

筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著『ビジネスを変える「ゲームニクス」』では、「原則2:マニュアル不要のユーザービリティ」の一要素として「原則2-A-⑥:ポーズ・セーブ・ロードの利用」を掲げています。

第四十回で採り上げた「ポーズ」、四十一回の「セーブ」 とともに、ビデオゲームにおいて「ロード」は、もはや切っても切れない関係にあると言っても差し支えはないでしょう。

「ロード」の目的はもちろん、ソフトを動かすうえで必要なデータを正しく読み込むことです。ですが、ことゲームの「ロード」については、いざ調べてみると単なる読み込み作業にとどまらない、おもしろいアイデアや演出が持ち込まれていることがわかります。

以下、今回も筆者の思い付く限りではありますが、どうぞ最後までご一読ください!
 

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

 

「ロード」中にプレイヤーのストレスを解消する工夫

第四十一回でも触れたように、プレイデータを「セーブ」している最中は画面にステータスバーを、完了時には「セーブしました」などと表示すれば、プレイヤーに対しゲームが正常に動作したことが明確に伝わります。

その逆、すなわち「ロード」中もまたしかりで、ステータスバーや「NOW LOADING」といったメッセージを表示することによって、プレイヤーは安心感を得られます。
 

MMOでもスマホ用アプリでも、オンライン対応のタイトルではマップの切り替えやアップデート時など、ある程度の待ち時間が発生すると、プレイヤーはどうしてもストレスがたまってしまいます。

そこで「ロード」中に基本ルールや、知っておくと役立つテクニックを解説した、いわゆるTIPSを表示することで、プレイヤーは退屈しのぎができる、つまりストレスを緩和する仕組みを導入したタイトルが古くから数多く存在します。

ところで、「ロード」中にTIPSが表示されるアイデアを最初に導入したタイトルはいったい何だったのでしょうか? 筆者も調べてみたのですが、たいへん申し訳ないのですが、「これだ!」という確証は得られませんでした。

もしご存知のかたがいらっしゃいましたら、ぜひご一報を!
 

主にRPG系のタイトルにおいて、通常よりも「セーブ」または「ロード」の所要時間を短縮する「中断」機能を搭載したタイトルが、90年代からどんどん増えていった感があります。

「中断」を利用すれば、「セーブ」の際に本来は「メニュー画面を起動」→「セーブコマンドを選ぶ」→「上書きの有無をチェック」→「コマンドを実行」といったプロセスが必要なところを、「メニュー画面を起動」→「中断を選択・実行」の操作だけで完了します。同様に「ロード」時も、タイトル画面で「コンティニューを選択」→「中断データをロードする」だけで、すぐにゲームが始まるのでとても便利です。

このような「中断」を導入した例としては、『ファイアーエムブレム 紋章の謎』(任天堂/1995年)、『タクティクスオウガ』(クエスト/1995年)、PS版の『ファイナルファンタジーIV』(スクウェア/1997年)などがあります。

ただし、「中断」を使用して「セーブ」したデータは、多くの場合「ロード」すると消去されてしまうため、もし途中で失敗した場合は、やり直しができないデメリットがあります。

ですが、急な電話や来客があった場合などにゲームをすぐに終了できて、なおかつ「ロード」までの時間を短縮できる「中断」は、とても優れたアイデアだと筆者は思います。
 

「ロード」も遊びの一要素にする珠玉のアイデア

「ロード」中に、ステータスバーやTIPSを表示することでストレスが緩和できるとはいえ、プレイヤーはゲームが始まるまでの間、ひたすら「待つ」ことに変わりはありません。

以下の写真は、PS版『ナムコミュージアムVOL.3』(ナムコ/1996年)のタイトル画面で遊びたいゲームを選択後、データを「ロード」しているところです。

『ナムコミュージアム』シリーズは、各収録タイトルの「ロード」中にパックマンなどのキャラクターが、画面の左右に往復しながら歩くアニメーションが流れます。ここでプレイヤーがボタンを連打すると、キャラクターのスピードがどんどんアップします。

さらにボタンを連打し続けると、キャラクターが目で追えなくなるほどのスピードまで加速します。キャラクターが超高速になり、多くのプレイヤーが「もう、これ以上ボタンを速く連打するのは無理!」と思い始めて飽きてくるタイミングで、ちょうど選択したゲームが起動します。

極めて単純な仕掛けではありますが、「プレイヤーを退屈させてなるものか!」と、本シリーズ開発者の旺盛なサービス精神がうかがえる、実に見事なアイデアですね。
 

『ナムコミュージアム』シリーズよりも早く発売されたPS版『リッジレーサー』(ナムコ/1994年)には、「ロード」の待ち時間中にプレイヤーを楽しませる、さらなる工夫が盛り込まれていました。

本作は、ゲーム起動時に「ロード」が完了するまでの間、懐かしのシューティングゲーム『ギャラクシアン』(ナムコ/1979年)をモチーフにしたミニゲームが遊べます。

ミニゲーム中は、敵キャラが少数出現するだけで、得点表示などの目立った演出も特になく、「ロード」が完了した時点で即終了となる、こちらもいたってシンプルな内容です。

「何だ、さっきの『ナムコミュージアム』と同じじゃないか」と思った人もいるかもしれませんが、さにあらず。実は「ロード」が完了するまでの間に敵を全滅させると、本編でプレイヤーが選択できるマイカーの数が増える、驚きの「裏技」が用意されているのです。

ほんのわずかな「ロード」時間すら、ひとつのエンターテインメントとして成立させてしまう、本作の「ご褒美付きミニゲーム」のアイデアも実に見事ですね。
 

「ロード」を利用した、懐かしの演出の数々

ここからは、もはや今では「消えた文化」と言っても差し支えないであろう、80~90年代のPCおよび家庭用ゲームにおける、おもしろい「ロード」の演出をご紹介しましょう。

80年代のPC用ゲームの多くは、フロッピーディスクで発売されていました。RPGやシミュレーションなど、特にプログラム容量が多かったタイトルには、1本のパッケージにディスクが3枚も4枚も同梱されていることがありました。

ここでネックになるのが、プレイヤーがディスクの操作を正しく行えるかどうかです。ディスクの枚数が多くなると、プレイヤーがセットする手順を間違える可能性が当然ながら高まります。

そこで、もしプレイヤーが間違ったディスクを挿入した場合は、多くのタイトルでは画面に「ディスクが違います」などと表示し、プレイヤーに誤りを伝えるプログラムが組み込まれています。

ところが、中には『アルバトロス』(日本テレネット/1986年)や『夢幻戦士ヴァリス』(日本テレネット/1986年)などのように、プレイヤーが手順を間違えた際に専用のイラストを画面に表示したり、ジングルを鳴らしたりする演出をわざわざ用意したタイトルもあるのです。

本作のように、見た目にも可愛らしい絵やサウンドを用意して注意を促すことで、プレイヤーのストレスが緩和されるとともに、PCが故障していないことを伝えて安心させる効果もあったように思われます。

また本作をはじめ、『スタークルーザー』(アルシスソフト/1988年)や『シルフィード』(ゲームアーツ/1986年)など、「ロード」中に特定のキー操作をすると好きなBGMが聴けるサウンドモードに移行するなどの「裏技」が用意されたタイトルが、当時のPC用ソフトには数多くありました。

このように、古い時代のPC用ゲームに盛り込まれた「ロード」中の演出や「裏技」も、ビデオゲームならではのユニークな文化の一種ではないかと筆者は思います。
 

家庭用、またはPC用ゲームのメディアが、フロッピーディスクからCD-ROMが主流の時代に移行すると、新たな「ロード」時の演出が作られるようになりました。

『ファイナルファンタジーVII』(スクウェア/1996年)で、プレイ中に別のディスクに切り替えたときに「ロード」が完了するまでの間、ディスク切り替え時にしか表示されないイラストが、数種類の中から1枚「ランダム」で表示されるのがその一例です。

1988年に、PCエンジンの拡張ハードとして登場したCD-ROM2(ロムロム)の対応ソフトには、起動時にプレイヤーが誤って本機やテレビのスピーカーを故障しないようにするための対策が施されていました。

その対策とは、プレイヤーが音楽CDと間違えて再生ボタンを押した際に、ソフトの最初のトラックに収録された「故障の原因となりますので、再生しないでください」などとしゃべる「ボイス」が流れることです。

実は、この警告を促す「ボイス」にも、タイトルによっては非常に凝った「ボイス」を収録したものがあります。『ぎゅわんぶらあ自己中心派』(ハドソン/1989年)で、「再生しないでね。お・ね・が・い!」などと女性の声優がしゃべる「ボイス」が流れるのがその一例です。

ちなみに、当時CD-ROM2用ソフトを開発していた元メーカーのスタッフによると、特殊な警告「ボイス」を最初に導入したのは、『鏡の国のレジェンド』(ビクター音楽産業/1989年)に収録された、本作に出演する酒井法子を起用したものではないかとのことでした。

それにしても、ゲームの本編とはまったく関係のない、警告用の「ボイス」にまで声優を起用し、わざわざ独自のセリフを用意していたとは……。今さらではありますが、開発スタッフの強いこだわりとエンターテインメント精神には大いにうならされます。
 

以上、今回は「ロード」をお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

ほんのわずかな時間であっても、プレイヤーを不安にさせない、あるいは退屈させないよう、先人たちが編み出した工夫の数々には本当に頭が下がります。

現在でも、マップの切り替えやオンラインアップデート時に、「ロード」完了までの待ち時間が発生する作品は多々あります。なので、今後も「ロード」中の演出に関する、新たなアイデアが生まれる可能性は大いにあるように思われます。

繰り返しになりますが、「ロード」に関するくわしい解説は「ビジネスを変える『ゲームニクス』」 の「原則2-A-⑥:ポーズ・セーブ・ロードの利用」の項で解説していますので、興味のある人は本書をぜひご覧ください。

それでは、また次回!

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