「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十一回 セーブ
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第四十一回のテーマは「セーブ」です。
前回のテーマ「ポーズ」でも紹介したように、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、「原則2:マニュアル不要のユーザービリティ」の一要素として「原則2-A-⑥:ポーズ・セーブ・ロードの利用」を掲げています。さらに「原則3-B-⑦:セーブの安心感を伝える」の項では、「セーブ」には以下の3種類があると解説しています
1:すべてを自動でセーブできるもの
2:特定の条件下であれば、いつでもどこでもユーザーがセーブできるもの
3:セーブできる場面が、あらかじめ決まっているもの
近年は、オンライン対応のタイトルが増えたこともあり、「1」の自動で「セーブ」できる方式が、もはや当たり前になった感があります。ひょっとしたら近い将来、「セーブ」機能には単なるデータの保存にとどまらない、さまざまな工夫が施されているタイトルがあったことが、多くの人から忘れ去られてしまうかもしれません。
そこで、今回も筆者が思い付く限りとなりますが、過去の有名タイトルを中心に、「セーブ」利用したおもしろいアイデアや演出をご紹介していきましょう。どうぞ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
プレイヤーに安心感を与えることの重要性
80年代に登場したRPGなどでプレイデータを「セーブ」するためには、カセットテープを利用してデータの読み書きができるデータレコーダーや、フロッピーディスクが使用できるディスクドライブなどを、PCやゲーム機本体とは別に用意する必要が往々にしてありました。
あくまで筆者の私見ですが、古い時代のゲームは「セーブ」が完了したことをプレイヤーに伝えるメッセージが、画面に表示されないタイトルがとても多かったように思います。
これらのタイトルは「セーブ」実行中にゲームの進行が止まるため、プレイヤーはゲームが再開したタイミングで「あ、『セーブ』が終わったな」と、おおむね理解することはできました。ですが、もしプレイヤーが「セーブ」が完了する前に、うっかりPCやゲーム機の電源を切ってしまい、プレイデータを壊してしまった場合は計り知れない精神的ダメージを受けることになります。
そこで「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、前述の「原則3-B-⑦」を実現させる一要素として「どこまでセーブされているかをユーザーに確実に伝えて安心させる」ことを推奨しています。例えば「セーブ」完了時に、画面に「セーブしました」とメッセージが表示されるだけでも、プレイヤーは大きな安心感を得ることができます。
「セーブ」が完了したことを伝えるメッセージに加え、「セーブ」が進行中にステータスバーを表示させることで、プレイヤーはさらなる安心感を得ることができます。
時間の経過とともにステータスバーが進行することで、プレイヤーに「セーブ」が確実に実行されていることが明確に伝わるからです。さらに「セーブ」完了時にSE(効果音)を鳴らす演出も加えれば、プレイヤーの安心感はさらに増します。
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ゲームにさらなる戦略性をもたらした「セーブ」機能
アクション、アドベンチャーゲームなどにおいて、もしいつでもどこでも「セーブ」が可能だった場合は、プレイヤーは「別にミスしても、すぐやり直せるから適当に遊ぼう」と緊張やスリル感を得られず、おもしろ味がなくなってしまいます。
例えば『スーパーメトロイド』(任天堂/1994年)は、広大なマップが登場するアクションアドベンチャーゲームですが、ごく限られた場所でしか「セーブ」ができないため、常にスリリングな冒険を楽しむことができます。
逆に、黎明期に登場した『ザ・ブラックオニキス』(BPS/1983年)や『ハイドライド』(T&Eソフト/1984年)などのRPGは、いつでもどこでも、好きな場所で「セーブ」できるようになっていました。
これらのタイトルでは、もし途中でミスをしても、直前に「セーブ」した状態からやり直せるのでたいへん便利ですが、主人公のレベルが低い段階で強敵が出現する場所で「セーブ」した場合は、その場面から脱出不可能になる恐れもあります。
つまり「セーブ」機能の存在が、プレイヤーに使いどころを考えさせる、新たな戦略性を生み出しているワケですね。
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「セーブ」機能を利用して、実に高度な戦略性を盛り込んでいたのが、PC用アクションRPGの金字塔『ザナドゥ』(日本ファルコム/1985年)です。
本作は「セーブ」を1回実行するごとに、所持金100ゴールドを消費します。つまり、本作では「セーブ」する際に場所だけでなく、新しい武器を買うべきか、体力回復に利用するのか、それとも「セーブ」のために温存するのかなど、ゴールドの使い道も同時に考える必要があります。
実は本作、100ゴールド未満でも「セーブ」ができるのですが、その場合はペナルティとしてカルマが上昇します。カルマが上昇すると、主人公のレベルアップができなくなるなど非常に不利な状態になり、さらに状況が悪化するとエンディング到達が不可能になってしまう恐れもあります。
プレイヤーにとっては何とも厄介な罠ですが、本作の「セーブ」機能を利用して高度な戦略性を実現させたアイデアは実に見事ですね。
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「セーブ」機能をもエンターテインメント化するアイデア
「セーブ」という機械上の 処理を、メニューやコマンドの演出に工夫を凝らし、遊びの一要素として成立させた例があることも、ビデオゲームならではの特色と言えるでしょう。
その典型例のひとつが、前述のメッセージ表示の発展形として、「セーブ」メニュー起動時に「セーブ」するかどうかを主人公に問い掛けるキャラクターが出現する、あるいは特定のキャラクターに話し掛けると「セーブ」の方法をアドバイスしてくれる演出です。
例えば『ドラゴンクエスト』(エニックス/1986年)シリーズでは、王様や教会の神父などと会話をしながら「セーブ」をする仕組みになっていることは、もはやくわしい説明は不要でしょう。
また『ファイナルファンタジーIX』(スクウェア/2000年)は、「セーブ」時にアイテム「モーグリのたてぶえ」を使用して、モーグリを呼び出してから「セーブ」を実行する仕組みになっています。本作のように「セーブ」役のキャラクターが出現し、なおかつ会話ができることで、単に「『セーブ』しますか?」とメッセージだけを表示するよりも温かみのある演出になっていることは明らかでしょう。
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前回の第四十回「ポーズ」では、「ポーズ」機能を利用した裏技の例をいくつかご紹介しましたが、実は「セーブ」機能を使った裏技も古くから多くのタイトルに仕込まれています。
以下の写真は、プレイステーションのメモリーカード管理画面で『ファイナルファンタジーVII』(スクウェア/1997年)と『鉄拳2』(ナムコ/1996年)の「セーブ」データを表示させたところです。
前者は、複数の「セーブ」データを記録したメモリーカードをPS本体にセットしてメモリーカード管理画面を表示させると、実はデータごとにアイコンのキャラクターがそれぞれ変わる演出があります。(※筆者注:写真の一部には別タイトルのアイコンも表示されています)
さらに後者では、繰り返しプレイして初期状態では使えないキャラクターをすべて出現させた「セーブ」データの作成に成功すると、「我支配下にありすべての格闘家を使用可能」と、プレイヤーを祝福するメッセージが(画面右上に)表示される粋な演出が用意されています。
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あくまで筆者の私見になりますが、「セーブ」機能を楽しい遊びへと昇華した最たる例として真っ先に思い浮かぶのが『メタルギアソリッド』(コナミ/1998年)シリーズです。
本シリーズは、主人公のスネークが無線などを利用して仲間を呼び出して「セーブ」する仕組みになっていますが、「セーブ」を実行する前後でスネークたちがユーモアに富んだ会話をしばしば披露し、プレイヤーを大いに楽しませてくれます。
ほかにも、初代『メタルギアソリッド』では特定の場所でカメラを使用すると、開発スタッフの心霊写真を撮ることができ、さらに写真のデータを「セーブ」するとアルバムモードが追加される裏技があります。
その続編の『メタルギアソリッド2』(コナミ/2001年)では、スネークの仲間であるオタコンの「ことわざ講座」をすべて聞いたうえで「セーブ」を繰り返すと、13回目の「セーブ」時に、前作の「セーブ」担当役だったメイ・リンが登場し、オタコンとの漫才が見られるという、実に凝った演出が仕込まれています。
データの記録さえできれば事足りる「セーブ」機能に、裏技をも盛り込んだ数々の演出を用意した本シリーズは、今振り返っても実に画期的だったように思います。
©Konami Digital Entertainment
以上、今回は「セーブ」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
かつて、「セーブ」の際にカセットテープやフロッピーディスクを使用していた時代は、「セーブ」が完了するまでに多大な時間を要するため、タイトルによってはプレイヤーが気軽に「セーブ」を実行できず、ストレスを抱える原因となるケースもありました。
「ゲームの本編とは別のところで、プレイヤーがストレスを抱えるのは良くない」と多くのゲーム開発者が考え、優れたエンターテインメント精神を発揮した結果、「セーブ」の演出がどんどん進化したように思えてなりません。
繰り返しになりますが、「セーブ」のよりくわしい内容は「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則2-A-⑥:ポーズ・セーブ・ロードの利用」の項で解説していますので、興味のある人は本書をぜひご覧ください。
それでは、また次回!