ナムコ『パックランド』発掘報告書 後編
みなさまごきげんよう。わたしがゲームデザイン発掘隊、仙人教授のぱぱら快刀だ!
また会えてうれしいぞ。
みんな元気だったかーい? あなたが思うより健康です!
さて、今回の発掘ターゲットも前回に引き続き、みんな大好きナムコの『パックランド』である。
発掘調査報告の後編となります。
前編をまだ読んでないかたは、こちらをどうぞ!
前編の発掘報告書では、ゲームビジュアルと操作方法の習熟についてのツボを報告した。
この後編は引き続き、操作方法とその気持ちよさ、ステージ構成についてのツボを発掘していこう。
その前に、念のためゲーム紹介のおさらいから始めるぞ!
<ゲーム紹介>
『パックランド』は1984年8月に稼働開始したナムコ製の横スクロールジャンプアクションゲームじゃよ。
超有名なファミコン用の横スクロールジャンプアクション『スーパーマリオブラザーズ』の発売日が1985年9月13日なので、『パックランド』のほうが、およそ1年も前に登場しとったんじゃ。
『スーパーマリオブラザーズ』は超有名すぎるタイトルじゃが、それ以前にもこげなすんばらしいゲームがあったとはのう。
ま、当時を知るゲーマーの間では有名な話じゃ。
説明ありがとうございました長老。
さて、『パックランド』のゲーム内容をもいちど簡単に説明しよう。
主人公はパックマンだ。とはいえ昔々の単なる黄色い丸ではない。いまや手足が生え、つぶらな瞳と伸びた鼻、しゃべりの達者そうな口までついた、まあかなり人間に近づいた見た目に成長してる。
あいかわらず丸っこいですが。
こいつは当時から人気者で、のちのファミスタでは不動の4番バッターとして君臨することになる野球センスの塊なわけだが、そんなことはどうでもいいか!
<ゲームの特徴>
『パックランド』はそんな人気者のパックマンが、走ったり飛び跳ねたりしながら、妖精の国へ旅をするという大変メルヘンなゲームだ。
ゲーム画面の見た目も、当時の他ゲームとは一線を画したポップな絵面になっている。じつにオシャレだな。
操作方法もオシャレだ。
筐体のコンパネにはレバーが存在せず、3つのボタンしかない。すっきりとしたミニマルデザインだ。
このボタンをドラムセットのようにリズミカルに叩くことで、画面の中のパックマンは自由自在に動き回る。
ヒュ~、イケてるじゃんトレンディじゃん。
この操作方法が『パックランド』の最大の特徴で独特のプレイ感覚をもたらすのだった。
<発掘品目録>
例によって今回発掘したゲームのツボたちのリストを置いておく。
いつも言ってるけど、こういうまとめ表を作るのは企画マンの重要な仕事よ。
ついクセでリスト作っちゃったわ。って言うぐらい全集中の一覧の呼吸を常中しておこうね。
-前編- |
■ゲームビジュアルのツボ |
ツボNo.1 「スタート時にゲーム内容を匂わせる」 ツボNo.2 「ゲームを邪魔しない最小限のガイダンス」 ツボNo.3 「情報量を絞ったグラフィックスタイル」 |
■操作方法のツボ |
ツボNo.4 「ゲームによって操作を決める」 |
-後編- |
ツボNo.5 「操作の気持ちよさ」 |
■ステージ展開のツボ |
ツボNo.6 「ステージ展開でさりげなくストーリーを語る」 |
■繰り返しプレイさせるゲームデザインのツボ |
ツボNo.7 「ステージバリエーションで味変」 ツボNo.8 「序盤ステージで飽きさせない」 ツボNo.9 「難易度コントロール手法」 |
<『パックランド』のツボ>
前回からのBREAK TIMEは終了だ。再び、発掘の旅に出発だぜ!
操作方法のツボの途中からだったな。
さあいくぜ! ちゃっちゃらちゃっちゃーん!
■操作方法のツボ(前編からの続き)
ツボNo.5 「操作の気持ちよさ」
さて、ボタン3個で操作する『パックランド』だが、単純な操作系でありながら操作感がじつに気持ちイイ。その気持ちよさを生み出す理由を探ってみるね。
・叩く操作は気持ちイイ
『パックランド』の場合、ボタンは押すというよりも、叩くという操作になる。
ナムコはほんとボタンとか叩くの大好きだよね。『太鼓の達人』とか『ノックダウン』とか『ワニワニパニック』とか!
そういえば前編で触れた『バッティングチャンス』もそうだな。
まあでも『リブルラブル』とかもあるから、レバーもけっこう好きなのかもしれないが。
そのボタンを押す、叩く操作にもいくつか種類がある。
「リズムよく叩く」
「タイミングを狙って叩く(ジャンプ)」
「ひたすらボタン連打する」
「位置合わせにちょんちょん叩く」
「左右のボタンを適宜に交互に叩く」などなど
ゲーム状況に合わせバリエーション豊富な叩きかたが必要になってくる。
まるでドラム演奏のように3つのボタンを叩き分けるのだ。
いろんなリズムで叩くのはほんと楽しくて気持ちいい。この気持ちよさは明確に論理的な理由はないんだよね。もう人類が原初からもつ本能というか。まあ感覚的なもの。
それをいろんなパターンで叩けるようゲームプレイに織り込まれているところに、『パックランド』のゲームデザインの妙があるのだった。
人間の楽しさの根源は何かを叩く行為にある。
ナムコが叩くゲーム好きなのはこういうとこなんじゃないかな!
・爽快なジャンプのひみつ
パックマンのジャンプにもちょっとした工夫が施されている。
まず、ジャンプの高さがパックマンの走る勢いによって変化する。立ち止まってるときはほんの少ししか飛び上がらず、勢いがあるときには高く飛び上がる。
そして空中では左右に進むボタンでジャンプ軌道を若干修正できる。
これらの要素によって、プレイヤーはさまざまなジャンプ軌道を制御できるようになっている。
『スーパーマリオブラザーズ』と同じような感じだ。
とにかく勢いをつけてピョーンって高く飛ぶのは楽しいし気持ちいいね!
だがそれだけではない。モンスターに追いかけられてる中、パックマンがパワーエサを食べる。
さあ立場が逆転だ。逆襲のときである。
イジケモンスターに変化し逃げていくモンスターめがけてジャンプで体当たり!
狩りの時間だ!! 飛び付け! ヒャッハー!! ってなるよね。
注目すべきは、このときパックマンのジャンプ力が普段より高くなっていることだ。
モンスター狩りを気持よくするため、また高い位置にいるイジケモンスターにも体当たりしやすくするため、このようなジャンプ力アップが組み込まれている。これは重要な点だ。
ルール的なパワーアップの際に、主人公キャラの基礎能力もパワーアップする。二重のパワーアップで爽快感も2倍!! ヒャッハー! 青いモンスターどもは消毒だ~~!
ほかにジャンプについては、地味だけど別要素もある。池越えジャンプですね。
ステージ中ギミックとして、なぜか踏み切り板というかジャンプ台がある。こいつに突っ込んで良きタイミングでジャンプをすると大ジャンプができる。
大ジャンプといっても、こいつは走り幅跳びだ。
目前にはでかい池があるので、こいつを飛び越える。
このとき移動ボタンを連打することで飛距離が伸びる。
滞空中に思いっきり連打して池を飛び越すのだ!
そう、カールルイスが幅跳びで足をかき漕ぐかのように!
うおおおおお連打連打連打オラオラオラオラオラッ!!
パックマンは水に弱い!
飛距離が足りずに池落ちるとパックマンは死ぬ。もしかしたら水に見えるだけで硫酸の池なのかもしれない。
落ちてたまるか。だから全力で連打するのだッ。
無事向こう岸にたどり着けば、連打したかいがあったぜ!
ホッとすると同時に小さな達成感が得られる。
この踏み切り板ギミックは避けては通ることができない。
プレイヤーに強制的に連打操作をさせる例ですね。連打を必修科目化してる。
適宜にこういったギミックを設けることで、叩く操作に変化を強いる、そういうゲームデザインになっています。
なかなか効果的で心憎い配慮ですな。
まあいい、ここは黙って叩けやオラオラオラッ!
・多彩なアクションプレイが可能
ここまでをまとめてみよう。
3つのボタンをリズミカルに叩くことにより「速度コントロール」「ジャンプ軌道」が細かく制御できる。
ゲームに慣れるほどコントロールが上手くなり、引っかかることなく消火栓や切り株を飛び越え、モンスターの群れの狭い隙間をすり抜けることができるようになる。
精度の高いコントロール性でパックマンを自在に立体機動させられるのだ。
楽しくなってきたぜ!
当時、『パックランド』映像が含まれたナムコの公式プロモーションビデオというものがあった(店舗などで上映会とかしてた)。
短い時間ながらハイテク魅せプレイ動画が盛り込まれてる。プレイ動画では、モンスターに多重に囲まれ、誰がどう見ても絶体絶命の窮地に陥ったパックマンがいたりする。
死んだなこいつ。誰もがそう思った。
だがそのパックマンは、細やかな操作による信じられない動きをし、華麗にその死地を脱出する。
そのビデオにはこういった各種多数の超絶プレイがこれ見よがしに収録されていた。
パックマンはこんなに動けるものなのか、俺のパックマンとは違うパックマンだ。
たった3つのボタンにすぎなくても、プレイヤーの手腕によって驚くほど多彩なプレイができる、そんな証明をするかのような素敵ビデオ。これは惚れてまうやろ!
こんなカッコイイプレイ、ぜひ真似したいィ!
おこづかいは『パックランド』に全額投資だうおおおお!
まんまとナムコの罠にハマる単純な当時のわたしであった。おのれナムコ孔明またしても!!
公式のプレイ動画などでゲームの奥深い楽しさをアピールすることは、とっても大事ですね今も昔も。
しかしこういうことも、うまく練られた操作方法があってこそなのでした。
プレイヤーが憧れるようなプレイ操作ができるかどうか。
その点も操作方法をデザインするにあたって重要だということです。
■ステージ展開のツボ
・前置き
『パックランド』ではゲームのステージ進行も、他のゲームとはちょっと異なる構成になっております。
まずそれを説明するね。
パックマンがスタート地点からゴール地点へたどり着く。これが1ラウンドね(このゲームではROUNDが単位です)、ここまでは普通だな。その後の特殊な流れを箇条書きしてみるね。
・1ラウンド目 (往路1)スタート地点(自宅)から中間ゴールまで
・2ラウンド目 (往路2)中間ゴールから次の中間ゴールまで
・3ラウンド目 (往路3)2ラウンド目の中間ゴールから最終ゴール地点の妖精の国まで
・4ラウンド目 (復路)妖精の国から自宅へ帰る(帰り道では進行方向が逆の左になる)
4ラウンド分を1セットとして、これをトリップ(TRIP)と呼ぶ。
まとめると、1トリップは4ラウンドで構成されている。
4ラウンドごとに復路ステージがあって、家に帰り着く。そこで一区切りになる。そんな構成です。
まあ復路がボス面代わりといったところでしょうか。
『パックランド』にはボスはいないんだけどね!
このようにステージ進行はすこし特殊なんだけど、ストーリーとしてわかりやすい構造。
そしてこの4ラウンドで1トリップとするサイクルはゲームを通じて一貫して同じとなっています。
さて、ここまではいいかな?
ツボNo.6 「ステージ構成でさりげなくストーリーを語る」
・教会でブレークタイム
家を出発したパックマンは道中のすったもんだを経て、教会にたどり着く。
ここが中間ゴール地点だ。
すると、パックマンのかぶっていた帽子の中から小さな妖精ちゃんが飛び出てくる。
理解した! この妖精ちゃんを運ぶのが俺のミッションなのだ! なぜ冒険の旅に出たのか完全に忘れてたぜ! しかも俺は登山家ではなく運び屋だったのだ!!
こういうさりげない演出で全体のストーリーがわかってくるのがいいね!
しかもテキストとか小芝居でなく、こまかなしぐさや演出だけで想像力をかき立てるこのやり方よ!
少ないリソース消費でやっちゃうとこがまた素敵!
実はこの妖精ちゃん、各ラウンドスタート時に帽子の中に入っていくという演出カットもあるんだけどね。
ゲームプレイ時以外の、いわゆるアトラクトデモでその演出を見ることができる。
しかしいかなる理由かわからんけど、ゲームプレイ中にはカットされていて見ることができない。
プレイ時間を短縮したかったのか、単に実装忘れてしまったのか。謎です。
中間ゴール地点の教会の横にはめちゃくちゃデカいBREAK TIMEの看板が見える。
ここが旅の中間地点ってことがよくわかるね!
なぜか。ブレークタイムって書いてあるんだもん。休憩してまた出発するんだな。って意味にしかとれないよね。
しかしそれにしてもデカい看板だ。ものすごくアピールしたかったんだろう。
あと、中間ゴールがなぜ教会なのか。長らく謎に思ってたんだけど、教会=オバケが近寄れない、要するに安全地帯である説明だということに最近気付いた。バカだな俺。
・妖精を運ぶ
3ラウンド目のゴールには、異空間に繋がっているドアのようなものがある。ドアは開けっぴろげだ。不用心な異空間だな。
そこに飛び込むとあら不思議! 妖精の国にようこそ! ってなる。
ここのボス妖精に運んできた妖精を渡してミッション終了である。
ストーリーは完全に理解できた。
パックマンは迷子の妖精を拾ったので、ここへ届けに来たんだ。
そうだそうだそうだったぜ。すっかり忘れてたぜ!
他にもストーリー解釈はいろいろ可能だが、あえて言うことでもない。
上記のように、もっともシンプルな解釈でいい。間違っても、妻子を置いて夢の国で他の女と……ゲホンゲホン。何てことは考えちゃダメだぞ!!
・家に帰るまでがトリップです
妖精を送り届けた後、妖精の女王からお礼として光る靴をもらう。最新型の魔法の靴だ。
ただし時間がたつと魔法は消えるやつ。ご苦労! この靴で帰れや、ってことだな。
しょっぱいお礼だ。だがパックマンはあいかわらず嬉しそうな顔をしている。チョロいな。
もらった魔法の靴は、いくらでも空中ジャンプが可能なチート装備だ。
4ラウンド目はこれまでの右進行とはちがい、逆方向の左に進む。つまり帰り道ってイメージね。
行きに難儀してたステージギミックも、無限ジャンプでひとっ跳び! 楽しいなこれ!
行きは3ラウンドだが、帰りは1ラウンドだ。
ちょっと間尺が合わん気もするが、長い旅路も帰りは早い。
ゴール地点は自宅だ。
出かけるときは見送りもしてくれなかった妻子が手を振ってお出迎えしてくれてる。
待ち遠しかったんだろう、嬉しいではないか。いつも変わらぬ愛しき我が家よ。俺は帰ってきた!!
かくして、パックマンの冒険が完成する。
家に帰り着いた俺は、このあとメチャクチャにやりまくった。次の面以降のトリップをだぞ。
パックマンのちいさな冒険物語が感じられたかい?
ひとつのゲームプレイサイクルでひとつのストーリーが完成する。
『パックランド』のこれはまさに「体験」であり、ナラティブだ。ゲーム内に余計な説明や押しつけのシナリオはない。プレイヤーがゲームプレイで感じた体験が物語なのである。
この当時のゲームはたいていはこういう原初的なナラティブを備えていた。
現代ではほとんど失われていた技法だ。古典ゲームはほんと勉強になるね!
■繰り返しプレイさせるゲームデザインのツボ
さて、ここからはレベルデザインの工夫の話をする。
ゲームを飽きさせないで離脱率を下げ、リピーターを維持するために、繰り返しプレイに耐えうる強度のゲームデザインが必要だ。
そのためには、ゲームの進行にあわせて、高次ラウンドに進むほどに新展開とゲームギミックの追加を行なうのが尋常な手段だ。でないと似たようなプレイばかり繰り返すことになり、作業感出てきて苦痛だし、要するに飽きてしまうからね。
『パックランド』では、いくつかの基本手法でこれらを行なっているので、順に発掘していこう。
ツボNo.7 「ステージバリエーションで味変」
似たようなステージが続くと、まあ飽きる。
必要なのはそれまでのステージとは違う見た目やプレイ感覚をもたらすこと、つまり新展開をどれだけ盛り込めるかである。
とはいえ『パックランド』のステージバリエーションづくりは、ごく普通な手法なので説明も手短にしていこう。
ステージの地形バリエーションは大きく分けて3種類。
派生を入れ6種類の基本ステージ(パーツ)が用意されている。またステージは前半と後半で異なる地形パーツが組み合わされている場合がある。
<ステージ種類の例>
【平地】 街中、森、砂漠 平らなステージを突き進む
【アスレチック】 岩場、池 ジャンプアクションで進む
【ダンジョン】 壊れ橋、館 迷路のようになっている
このうち、砂漠面は背景色の設定と障害物のサボテンだけ、池面は水面と浮島程度の付け足し。
それぞれ省リソースで表現され、安価な追加バリエーションとして貢献している。
また、アスレチック(岩場、池)とダンジョン(壊れ橋、館)には、ステージに合わせた専用のギミックが用意され、それぞれでさらに差別化が図られています。
このほか、同じステージ画像を使い回しながらも、背景色の変更で昼間・夕方・夜など時間を変えたバリエーション増やすテクニックも使われていますね。
カラー変更はもっともコストの安い方法なので、積極的に使っていきたいですね。
ツボNo.8 「序盤ステージで飽きさせない」
ゲームを繰り返しプレイする際、プレイのたびに序盤ステージを何度も遊ばなければならない。しかしですね、ゲーム開始直後の序盤はその成り立ち上、上級者にとっては難易度が低く簡単にクリアできちゃう。
楽勝すぎてあくびが出るぜ。
プレイに緊張感がなく、繰り返すうちに退屈で面倒な作業になってしまうのですよ。
これを防止するためにどのようなゲームデザインが有効か。ゲーム開始時のステージセレクト等による序盤ステージのワープも方法の一つだよね。
でも『パックランド』ではそれ以外の正攻法での解決も図られている。
それをいくつか見てみるよ!
・隠し要素いろいろ
「不思議なことがあたりまえ!」という『パックランド』の宣伝キャッチコピー。
これはじつはゲーム内の隠しフィーチャーを示唆する言葉だった。
特定の消火栓の上に乗る、何もない場所でジャンプする、などで画面にボーナスフルーツ(取得すれば得点)が現われたり、パワーアップアイテム装着されたり、その他さまざまな不思議なことが起こってほっこりするのだ。
また街中ステージでは、背景かと思ってた建物の屋根の上に乗って走って行けたりもする。
こういった意外ポイントを探って見つけたりできるだけでも、けっこう楽しい。
単純単調な序盤ステージにも熟練者だけが得られる複雑さを持たせることで、プレイの緊張感を維持することができるのだ。
そして上達すれば序盤ステージでもやることやれることが増える。
特にフルーツが出現する隠しフィーチャーは、見た目も華やかでスコアリングにも有効、かつ実装コストの低い方法である。参考になるのう。
フルーツを効率よくスムーズに取るためにはパックマンの動きが限定されちゃう点も重要で、このため敵モンスターの間をギリギリでくぐるとかのカッコイイプレイが必要になってきたりもする。
つまり序盤から魅せプレイができる。
ゲーム序盤が退屈な初心者の練習の場から、腕の差を見せつけるかっこうのステージに早変わりするのであった。
・スコア稼ぎ要素
ゲームが上手いことは永劫にゲーマーの価値のひとつであり勲章であり目標である。
ゲームの上手さをどのように客観的計測すればいいのか。この時代においてはそれはハイスコアであった。
スコア至上主義! 呼びたくば呼べ! 負け犬の遠吠えは気持ちいいのう!!
ゲーム序盤でのスコア稼ぎ、しかもリスクを負った稼ぎかたがあればあるほど、熟練者にとって序盤は超楽しいステージになりえる。
しかも序盤ステージ本来の難易度を考えれば、操作にも余裕がありまくるから、スリルと引き換えのスコアにチャレンジするだろう。やらいでか!
やるかやられるか、1面の最初の稼ぎに失敗すれば即電ブチ!(やってはいけません)、そんな勝負ができれば退屈とは無縁だ。何度でも繰り返しプレイができる。
また、道中に設置されているパワーエサ周辺での立ち回りも熟練者では違う。
敵をかわしつつ引きつけ引きつけ、ギリギリでパワーエサを取る。
そうしてイジケモンスターを一網打尽し倍々のボーナスポイントを余すことなく貪欲に獲得する。
かっこいい。熟練ならではの腕の見せどころだ。
・アーティスティックゴール
中間ゴール地点到達時にも一工夫があった。
ゴールの瞬間にタイミングよくジャンプボタンを押してみよう。ゴール時に着地寸前のポーズになると、その姿勢や高さに応じて規定ボーナス点が入るのだ。
最大で7650点(ナムコ点)だからデカい。
ただし高得点を狙えばその分、タイミングがシブい。タイミングを誤れば0点ということもありえる。
こうした高得点ポーズをキメるため、ゴールに来るたびにタイミング練習ができる。お得じゃないか!
『スーパーマリオブラザーズ』でも最後にゴール旗に掴まる位置で得点が変わる。
『パックランド』のはそれに似ている。ゴールの瞬間にキメポーズ。このタイミングだっ! という地点で、力を込めてジャンプボタンを打つ!
このフィニッシュ感!
飽きない繰り返しプレイを助ける有効な手段なのだ。
何となくダラダラとゴールするのはレースゲームだけでいい。
おまえたちはアクションゲーだろう? 最後はアクションでビシっとキメるんだよ!!
・ヘルメットの妙
『パックランド』では消火栓や切り株などの障害物がある。
このうち、特定の障害物の裏にまわって逆方向に身体で押すと、消火栓などがずるずると動いていく。
ふしぎだ。
水道管とかどうなってるんだ。まあでもそのまま限界まで押すと、パックマンの赤い帽子が、青いヘルメットに変わる。
そう、パワーアップアイテムが装着されたのだった。
何でそうなんねん!
それはまったく不思議なことだけど、まあこの世界では当たり前だから気にすんな!
通常、飛行機に乗った敵モンスターが落とす子モンスターにぶつかると、パックマンは倒れてミスになる。
だがこのヘルメットがあれば、その子モンスター攻撃を完全ガードすることができる。ヘルメットだからな。
そしてパックマンが他のミスをして死なない限り、そのトリップ中はヘルメットがずっと装着されたままだ。
ここまでだと、隠し要素でむしろゲームが簡単になってるんじゃない? と思うかもしれない。
もちろん簡単にはなるが、序盤ステージはもともと簡単なので、大した違いはない。
それよりも、子モンスターをヘルメットでガードしたときに、1匹ごとに得点になることが重要だ。
すなわちこの時点で、降ってくる子モンスターを避けるのではなく、ヘルメットで受け止めると高得点! というゲーム内容へと変貌する。メットでガードされた子モンスターは300点とかになって消滅だ。
消滅とか! パックマン不殺の誓いはどうした!
とにかくこのヘルメットの存在で、序盤ステージが点稼ぎの草刈場になるのであった。
降らせろ! 子モンスターの雨を!! とモンスターへ懇願したりするようになる。
すべてスコアに飲み込んでやるぞ!!
まったく『パックランド』の序盤はやりがいがあるぜ!!
ツボNo9 「難易度コントロール手法」
さて、いよいよ最後のツボは難易度コントロールに関わるゲームデザインの話だにょ。
ゲームは通常、先へ進めば進むほど、おおむね難易度が高くなっていかねばならない。
例外もあるが、まあ一旦そういうことにしておこう。話がややこしくなるから。
ゲームでは適切に難易度をコントロールする仕組みが必要で、あらかじめゲームデザイン設計の中に組み込まれている。
多くの場合はレベルデザイン側でコントロールを担っているが、その素材やパラメータは、ゲームデザイン側の設計になる。ちょっと難しい話しちゃった!
簡単にいうと『パックランド』ではどのような手段でゲームを難しくしているか? って話で、最後にその主だった要素を列挙し確認してみよう。
・モンスター種類と軌道
モンスターはほぼ全員乗り物に乗ってプレイヤーを轢き殺しに来る。
「自動車(2階建てバスみたいなのもある)」は地面をまっすぐ走る。
「飛行機」空中を水平飛行。ときどき急降下したり子モンスターで爆撃するやつがいる。
「UFO」空中を正弦波形を描いてふわふわ飛んでいる。地面近くに来たら危険。
「ホッピング」地面の上を放物線状にバウンドしてくるので、下をくぐる。ジャンプにフェイントかけるやつがいる。
乗り物に乗せることで、外観と挙動を一貫させてる点に注目。
乗り物種類=動きに直結しているので視認性と行動予測が一致し、たいへんにフェアだ。
またトリッキーな軌道を描く乗り物ほど攻略が難しくなる。
ああ見えてけっこうやさしいモンスターどもだな。ほんとは良い奴なんじゃないか?
・ステージ種類とフィールドギミック
前にも書いたが、ステージは3種類に大別でき、それぞれ異なった味付けに合わせて難易度を上げて行けるようにしている。
「平地」系
主にモンスターを避けて進むゲーム内容。
出現するモンスター種類と数、出現タイミング等だけで難易度を制御する。
特殊なフィールドギミックでプレイヤーをビビらす場合もある。
「アスレチック」系
奈落に落ちないよう、崩れる足場や動く足場を移動していく内容。
ステージ形状と固定の足場、移動用ギミックの配置などで難易度を制御する。
適宜にモンスターを出現させることでさらなる難易度上昇が可能。
「ダンジョン」系
迷路状に複数ルートがあるエリアの道を選んで抜ける内容。
通路形状の違いや、制限時間(タイマー)を厳しくすることで難易度を付ける。
敵モンスターを配置することでさらに難しくできる。
ヘッドライト
周囲が闇に包まれて画面が見えなくなるシーケンスがある。パックマンの頭についてるヘッドライトで前方の一部分のみが見える。ちょっとしか見えないからステージがさらに難しくなる。
ただ真っ暗だと危険すぎるエリアでは使用されない。
タイマー
時間制限を短くすることで、プレイヤーに素早い無駄のない移動を強要し、攻略を難しくする。
トリッキーな手法なので使い処は限定的。難易度というよりはゲーム攻略プレイを変化させることで、目先を変える効果のほうが大きいし、それが狙いっぽい。
タイマーがなくなってもパックマンはすぐには死なないけど、パワーアップ装備がすべて剥奪される。
家に帰る途中で魔法の靴がなくなると、空中ジャンプで池を渡れなくて死ぬ。みたいなトリッキーな面があったりする。
タイマーの短さに気付かずプレイすると、ちょ、待てよ! マジかよ! どうすんだよ! と慌てふためくこと必至である。うまいこと仕掛けてくるもんだ。
どうであろうか。このように、ステージのプレイ内容に合わせた難易度コントロールを、ほぼ最低限のリソースでカバーする設計になっている点が『パックランド』の素晴しいところです。
うまい! じつにうまい!
凶悪なトゲトゲの針とか落ちてこねえ。斧やレーザービームも飛んでこねえ! パックマンは不殺のゲームだからな! ナムコ万歳!! って思いました、まる。
終わりに
今回も発掘報告書を読んでくれてありがとう。
『パックランド』は、横スクロールジャンプアクションゲームの黎明期に編み出されたものなので、先行するゲームがほとんどない中、開発者はさまざまなゲーム構成要素を手探りで発明していかなければならなかったと思う。
そんな工夫の結果が、ゲーム内容のそこここに散りばめられていた。
今回の発掘調査ではそういった「ツボ」を再発見できたことが大変よかったと思います。
この「ゲームデザイン発掘隊」の重要な目的は、いわゆるクラシックでトラディショナルなオールドゲームを題材に、優れたゲームデザインの「ツボ」を独自の視点で掘り起こし再評価していくことにある。
これらの「ツボ」は、古典ゲームがもたらす貴重な遺産だぞ!
オールドゲームは、現代のゲームに比べれば内容が実にシンプルだ。
シンプルだからこそゲームデザインの骨格が分かりやすく抽出できる。
そのデザインが作用するメカニズムも明確だ。
ゲームデザインの本質的な意味と仕組みを理解する上で、とても参考になるアーキタイプに満ちている。
そして何より、当時のゲームデザイナーたちが、新たな未知のゲームを開拓していく上で、いかなる創意工夫で挑んでいったのか。
その思考過程と結果を読み取ることで、現代でも通じる何かしらの示唆を得ることができると信じているのであった。何となく考古学や歴史学っぽいでしょ?
古典をいかに読み、いかに知見を学び取るか。
この報告書を読んでいるみなさんには、そういう視点で見て欲しいと願う、隊長であった。
おっと、真面目な話になってしまった! ではまた次の発掘調査で会おう!!
あとおもしろいと思ってくれたかたは、Twitterで#IGCCでツイートしてね! 宣伝宣伝!
次の原稿も、いや調査もがんばらないとな。
みなさまからの励ましのおたよりもお待ちしております。
あでぃおーす!!
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