細部まで製作者のこだわりを感じる『ウルフファング』はロボットゲームの最高峰!
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ロボットもののゲームはヒットしないというジンクスを耳にしたことがある人は多いのではないだろうか。有名なところでは、さまざまな媒体で語られている『電脳戦機バーチャロン』(1995年/セガ)の開発エピソードで、企画を上層部に通すのに苦労した(*01)というもの。
当時の実売本数データが手元にないので、本当にロボットものゲームは売れなかったのかを客観的に示すことはできないが、(筆者自身が)当時ゲーム開発者だったこともあり、その制作者として立場とユーザーとしての立場の双方から見て、確かにコアなファン層からの支持は集めるものの、ヒットに恵まれたタイトルは少なかったように思う。
しかし一方で、現在でも評価の高いタイトルが実に多いジャンルでもある。家庭用ゲーム機では『重装機兵レイノス』シリーズ(1990~1997年/開発・メサイヤ)、『重装機兵ヴァルケン』シリーズ(1992~1999年/開発・メサイヤ)、アーケードでは『ファイネストアワー』(1989年/ナムコ)、PCではX68000の『ジェノサイド2』(1991年/ズーム)など、いずれも記憶に残っているのではないだろうか。
それら名作ロボットゲームの中でも、筆者が不動の最高傑作だと思っているのが、今回紹介する『ウルフファング 空牙(くうが)2001』(1991年/データイースト、以下『ウルフファング』)だ。
牙(ファング)シリーズ唯一の横スクロールアクション
本題に入る前に、牙(ファング)シリーズ(以下、牙シリーズ)について簡単に説明したい。牙シリーズは『空牙』(1989年)から始まり、本作そして『スカルファング 空牙外伝』(1997年)へと続いていくデータイーストの3部作だ。シリーズの特徴は「理屈抜きに格好いい」の一言に尽きるだろう。
『空牙』『スカルファング』ともに縦スクロールシューティングゲームであったのに対し、本作のみが横スクロールアクションとして作られた。
シリーズ共通のベースストーリーは、突如現れた謎の軍隊ラグナロックと統合軍の戦い。シリーズを通じて同型の戦闘機が登場したり、本作のようにゲームシステムが異なっていてもメインウエポンは同じだったり、世界観を貫いているのが見事だ。おかげで、ファンは牙シリーズに深くのめり込むことができた。
当時は『空牙』の続編が登場するという話を聞いて、筆者はてっきり縦スクロールシューティングなのだろうと思っていたのだが、リリースされたのはガチガチの横スクロールアクションで驚かされた。
しかもロボットもので、「これでは『空牙の』続編とはいえないだろ」という第一印象だったのだが、プレイすると随所で感じられる『空牙』の世界観にニヤリとさせられ、演出や楽曲の魅力にすっかり虜になってしまったことを覚えている。
アーケードゲームなので、難易度的には決して簡単ではないものの、フレンドリーなものに属するといえるのではないだろうか。上級者でなくとも、慣れてしまえば1コインでけっこう先まで進むことができた。
『ウルフファング』の基本操作や登場アイテム
本作は2人同時プレイが可能で、戦闘では1レバー+3ボタンを使う。ボタンはそれぞれ「メインウエポン攻撃」「サブウエポン攻撃」「ジャンプ」の機能が割り当てられている。
メインウエポン攻撃はボタンを押しっぱなしにすることで連射が可能。レバーで左右に打ち分けられるが、押しっぱなしにしている間は攻撃方向が固定される。
サブウエポン攻撃は一般的に言うところの「ボム」だと思ってもらえればいいだろう。『牙シリーズ』共通の仕様としてチャージ式になっており、使用後は一定時間経つと再び使用が可能になる。
ジャンプについては説明するまでもないと思うが、ジャンプ以外の使用方法として、しゃがみ状態(レバー下)のときに押すことで、機体が向いている方向にホバーダッシュすることができる。
レバーは基本的に左右移動と、斜め上方向の敵に向かって射撃するときに使用する。例外として、ステージ中に現れる特定の地形上では8方向に移動が可能になる。この特定の地形というのは、背景奥や足場がスロープ状になってる部分、水中戦や一部の対ラスボス戦でバーニアを使用した空間戦闘を行うときだ。
アイテムについては、Sユニット(ブースター)やスピードアップを除き、主要なものは『牙シリーズ』と共通している(本作では、チャージや猟兵が追加され、一部のメインウエポンが若干異なる)。
分岐ありの全5ミッション12ステージで繰り返し遊べるはずだったが…
ゲームは強制スクロールで進行し、5つのミッションをクリアするとエンディングとなる。ミッション3からはステージが分岐しており、高難易度ステージと低難易度ステージのどちらに進むかを選択していくことになる。分岐をどう選択していくかによって、全ミッションクリア時のエンディングも4種類用意されている。
ステージ選択の際にそのステージの難易度が明示されているのだが、「生還率」という表現が使われていることに注目したい。難易度をプレイヤーに示す場合、作り手は単純に「HARD」「EASY」、もしくは星の数などを使いがちだ。『ウルフファング』でも「MISSION RANK HARD(EASY)」と添えられてはいるが、目立つ大きさで表記されているのは「生還率」の文字
「生還率」と書かれることでプレイヤーの気分はぐっと高まる。このような作品の世界観を大切にした表現もウルフファングの魅力だといえる。
ゲーム全体でのステージは全部で12種類。通常プレイでは分岐があるため、1プレイで全ステージを遊ぶことはできないのだが、コイン投入後に裏コマンドを入力することで、上級者向けスペシャルモードとして「12ステージ通しプレイ」が可能になる。
ただし、この裏コマンドがリリース間もない頃に明るみとなってしまったため、上級者の長時間プレイが目立つようになってしまった。結果としてインカム低下を招き、ゲーム寿命を縮めることとなったのは残念だ。
操作可能な全64体のロボットが命名されている徹底ぶり
本作でもっともインパクトを感じたのは、プレイヤーが操作できるロボットの多彩さだ。基本形で4種類が用意されているが、コンストラクトモードを選択することで自由にパーツを組み合わせ、64種類の自機をカスタムメイドできる。
移動力と跳躍力、接近戦用武器、サブウエポンの3要素それぞれを4タイプの中から選択して、攻撃力重視、防御力重視、対空型、対地型など、自分のプレイスタイルに合った使いやすい機体を組み立てられる。
これだけでも充分にロボット好きを引きつける魅力があるのだが、さらには、全組み合わせにおいてロボットの名称がついているという徹底ぶり。その名称も「蒼龍」「紫電」「飛燕」など漢字をベースにしたもので、旧日本軍の戦闘機や戦艦を彷彿とさせる。
こういうアナクロニズムは、筆者世代のオタクにとってはどストライクな要素なのである。いや、今でも好きな人は多いだろう。
少々話が脱線するが、庵野秀明(*02)監督の『エヴァンゲリオン』シリーズに見られる旧仮名遣いや作戦名、人物名。それ以外にも仰々しいまでの手法が登場するが、それらはすべてターゲット層にリーチするための演出手法であり、ヒットさせるためのテクニックの一つであると、筆者は昔から分析している。そんな要素をふんだんに取り入れているところも『ウルフファング』の魅力なのだ。
ロボットアニメファンを虜にしていった熱い定番演出の数々
全編を通じてこれでもかというくらいに取り入れられた演出の数々は、ひと目見ただけでコインを入れさせるには充分な訴求力を持っていた。
本来ならば各演出について詳しく解説していきたいところだが、本1冊書けてしまうほどの分量になってしまうので、ここでは箇条書きでピックアップするに留めることをお許し願いたい。気になる方は、本作が設置されているレトロゲームセンターでぜひプレイしてその目で確かめてほしい。
・敵機の待ち伏せに遭い、大型輸送機大鳳3の上部デッキ上で始まる白兵戦
・発光弾が打ち上がる中での夜間戦闘
・発射される中距離ミサイルの阻止と、それを妨害する敵重攻撃型装甲機兵ムスベルとの戦闘
・一騎打ちを挑んでくる強敵機兵や三位一体攻撃をしてくる2機の飛行型機兵
・「エスコートできるのもここまでだ!お前ら…死ぬなよ」(飛空戦艦ラグナロックⅡ突入時に司令官から送られるメッセージ)
・操縦者を生還させるために散っていくプレイヤー機
・随所に登場する『空牙』のプレイヤー機
・敵重装備大型装甲機兵フルングニルのファンネルによるオールレンジ攻撃
格好いい方の代表作としてデータイーストのゲーム史に君臨する名作
『ウルフファング』は、データイーストの歴代ゲームにおいて5本の指に入る傑作だと言っていいだろう。アクの強いバカゲーがどうしても目立ってしまうせいか、「データイーストのゲームはヘン」と思われがちだが、実は格好いいゲームを作らせてもピカイチのメーカーなのだ。
当時は筆者もゲームを開発する立場にいたが、データイーストは自由に作らせてくれる会社だなという印象を常に持っていた。実際はいろいろな制約もあったのだろうが、本作は細部までこだわった様子が随所から伝わってくる、制作スタッフのロボット愛が見事に結晶した作品だと思う。
記事ではほんの一部しか魅力を紹介できなかったが、まだまだ注目すべきポイントは残されている。百聞は一見にしかず。今回紹介しきれなかった魅力については、実際にプレイして確かめていただきたい。
できればオリジナル版でプレイするのが一番いいのだが、稼働しているレトロゲーセンが近所にない場合は、ソニーの「ゲームアーカイブス」を利用するといいだろう。PS3、PS Vita、PSP向けにダウンロード販売されているので入手は容易なはずである。
©PAON DP Inc.
脚注
↑01 | 参照記事:「バーチャロン生誕15周年,ビールと共に振り返るその歴史。「4Gamer.net Presents『電脳戦機バーチャロン』編年史(仮)」イベントレポート」 |
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↑02 | 庵野秀明 : アニメーター時代より『超時空要塞マクロス』『風の谷のナウシカ』など、有名アニメタイトルの制作に参加。現在はアニメ、特撮作品を中心に活動する映画監督であり、アニメ制作会社カラーの代表取締役社長を勤める。映画監督代表作は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ、『シン・ゴジラ』など。 |