タイトー『エレベーターアクション』発掘報告書 後編

  • 記事タイトル
    タイトー『エレベーターアクション』発掘報告書 後編
  • 公開日
    2022年05月13日
  • 記事番号
    7509
  • ライター
    ぱぱら快刀

スパイ時代の酸っぱい失敗♪
シリコンバレーで身バレ、敵はアッパレやつらの気分はいま晴れ晴れ
隠れた情報、手に入れる方法、探してさまよう四方八方、山の上から叫ぶぜヤッホゥ! YO!

オレは秘密発掘エージェント、発掘調査チームを率いるニーサン・パパラだ。
今回はゴキゲンなスパイラップからスタートしましたこんにちは。

オレの使命をいまいちど説明しよう。ゲーム史に輝く往年の古典名作ゲームを調査し、そのゲームデザイン要素を研究。
現代のゲーム制作での教訓になるであろうツボを発掘し、調査報告書をまとめる。ざっとこんなところだな。

さて『タイトーマイルストーン』と『イーグレットツー ミニ』発売記念として前々回から続いてきた『エレベーターアクション』の発掘調査もこれで最後となる。
今回も貴重なツボを発掘していくぞ。
例によって以前の発掘報告を未見の方は
『エレベーターアクション』発掘報告書~前編~は、こちら
『エレベーターアクション』発掘報告書~中編~は、こちら
を参照してくれたまえ。

今回調査対象の『エレベーターアクション』は1983年稼働のアーケードゲームだ。
エレベーターだらけのビルを舞台に、主人公のスパイが大活躍するアクションゲームである。
もちろん『タイトーマイルストーン』や『イーグレットツー ミニ』でも楽しめるので、諸君らもぜひプレイしてみてほしい。

<発掘品目録>

発掘したツボの一覧はこちらになる。
こういったまとめ、目次を用意するのはゲームプランナーの大事なお仕事ですね。
まずは目をとおしてほしい。
  

-前編-
■ゲームデザインのツボ■
 ツボNo.1 「上から下へ降りていくスタイル」
 ツボNo.2 「しゃがみ攻撃:新アクションを活かす」
 ツボNo.3 「自分で操作できる足場(エレベーター)」   
-中編-
■ビジュアルのツボ■
 ツボNo.4 「キャラクターと世界観の表現」
 ツボNo.5 「カートゥーン&マンガ的表現を演出に」    
■アクションシステムのツボ■
 ツボNo.6 「文脈アクションでシンプルさを保つ」
 ツボNo.7 「良くできたマップを使い回す」
-後編-
■アクションシステムのツボ■
 ツボNo.8 「操作とアクション挙動を安定化する」
■ゲームシステムのツボ■
 ツボNo.9 「低コストかつ合理的な作り込みで面白味を増す」
 ツボNo.10 「ゲームルールの穴を埋める手際」

<『エレベーターアクション』のツボ>

■アクションシステムのツボ■

さてと。
アクションシステムのツボ報告、前回中編からの続きだよ。

ツボNo.8 「操作とアクション挙動を安定化する」

アクションゲーム制作で最も注力すべき要素は何か。
ゲーム内容ももちろん大切だが、最も重要なのは「アクション操作の安定性」です。

プレイヤーが意図するアクション操作が確実に行なえる。同一操作をすれば、同じ挙動同じ結果が安定して再現できる。
同じことを狙って何度でも繰り返すことができる信頼性。これです。
加えて、操作レスポンスが良好で、コントローラーを通しアクションの手応え手触りをしっかり感じられる。
操作感に不満がない出来であることも前提です。

ちっとダメな例を列挙してみる。
 「1ドットずれただけでジャンプ届かな~いシビアすぎ!」 
 「ラグりまくりで入力にアクションが遅れる!」 
 「下にレバー入れたつもりが斜め下かよ、違う動作になったやんけ!」 
 「さっきは当たったのにこんどは当たらない! 」
 「入力受け付けタイミングが狭すぎ! 先行入力ないんかい~!」
 「え? いまの高さ落ちたら死ぬん? さっきと高さ変わらんような??」

くっそストレスたまる。クソゲーやんけ。
上達してもプレイが安定しないから上達の意味ねー。やっとられん! 
この操作アクションを作ったのは誰だぁっ! てなるよね。

挙動の安定性や確実性に欠けるやつはアカン。こっちはおなじ操作をしてるはずなのに結果がまちまちで気まぐれてる。
穴を飛び越えるならまず百発百中で成功できる。私、失敗しないので。
このぐらい鉄板で操作できなければ、敵やステージとの戦いではなく入力操作との格闘になってしまう。
レバーやボタンはそもそも協力相手、プレイヤー側の味方のはずだ。
その味方同士とやりあうなんて不毛な仲間割れじゃないか! やめろおまえたち任務中だぞ!!

アクション操作の確実性や再現性はアクションゲームの要。その精度が悪ければ、どんなスパイでも確実なミッション遂行はインポッシブルだ。
情報部をクビになってしまうな。もうキミには頼まん!

『エレベーターアクション』はどうであろうか。
安定した挙動、確実なアクション再現性、これらがしっかりと出来ていると評価できる。
操作レスポンスは良好。実機では4方向レバーの採用で不意なナナメ入力も防止されてる。
レバー↓でしゃがみ、レバー↑で立ち上がる。不用意に立ってしまうこともなく、しゃがみの安定性も抜群だ。
その練られた安定性、至高のしゃがみに近い。やはりおまえはスパイになるべきだ。

全体として申し分のないエクセレントな仕上がりだ。とはいえ、これだけなら普通っちゃ普通だよね。
これら入力操作のダイレクト感や再現確実性はあるべき最低限のレベルとも言える。
だが入力操作以外にも、安定的なゲームプレイを保証する数々の技法が『エレベーターアクション』にはまだまだ仕込まれているのであった。
以下にその例を見てみよう。

1.エレベーターシャフト穴での一時ストップ処理

エレベーターシャフトにエレベーターが来てない場合、そこは落ちたら死ぬ穴だ。
主人公がトコトコ歩いていって穴に落ちると即死。スパイとて足もとがおろそかならこうなる。
が、実は軽々に穴に落ちてしまわないよう、落下防止機能がさりげなく組み込まれている。

主人公が穴に向かって歩いて行くと、穴の直前で自動的に一瞬立ち止まるセーフティ挙動が発動する。
見えない壁に一旦引っかかるかんじな。

その状態の間に歩くのをやめれば穴への落下は回避される。あぶなかったぜ。
寸前で立ち止まれてよかった。スパイの勘が働いた。
逆に、立ち止まり後もレバーを入れたまま歩き続けようとすると、見えない壁は破られ、主人公は死の穴へと落ちていく。
マヌケな失敗だ。こんどこそ足もとがおろそかなやつだぜ……。

せまい足場で落下抑制処理

この実際のゲーム画面での状況を見てほしい。
足場がせまい。このまま左右どちらかに一歩でも歩くと、いやそれどころか後ろを振り返っただけでも、足滑らせてあっという間に穴に落っこちてしまいそう。怖い。
だが実際には自動停止機構により、ちょっとレバーを入れた程度ではすぐには落ちないので安心してくれたまえ。よかった怖くない。

『エレベーターアクション』では穴の前でエレベーターを待つ状況が頻発する。
そこでうっかり落下死を防ぎ、ギリ位置でエレベーターを待てる安定性と確実性を担保しているのがこのアシスト機能だ。
そういえばリアルでもエレベーター待ちでなぜか扉の手前ぎりぎりに立って待つよねみんな。
そんなにピッタリ張り付いて待たんでもいいはずなのに。こういうの人間の哀しい習性なんだろうな。

実はこの自動立ち止まり機構には、さらなる一工夫が施されている。

エレベーターが近くまで到達し、半階分も飛び降りればもう乗りこめるぜ! という状態。
落ちても落下死はしないって状況のときは、このフチで一旦止まる落下防止アシストは働かないのだ!
歩いて行っても一瞬たりとも立ち止まることなく、エレベーター内にストンと降りる挙動に早変わりする。

エレベーターにはスムーズに乗り降りするが、穴にはすぐ落ちない」。
これは降り先が床か穴かを判定して挙動を変えていることになります。
細かい作りだ。文脈アクションの一形態ともいえます。実に気が利いているね。

まとめるよ。
これらのアシスト処理がなければほんの1ドットの違いで落ちたり落ちなかったり、乗れるはずなのに勝手にもたもたして素早く乗れなかったり。
操作がピーキー過ぎてお前にゃ無理だよ、って気分になる。
微妙な違いでどっちに転ぶかわかんないのでは信頼ならん。結果、落ちる恐怖と戦うことになる。
プレイヤーはリスクを嫌い、乗り場に近寄ることを避けるようになってしまう。

本タイトルはエレベーターに乗ることを試されるゲームではない
リスクに怯えず気軽に床の端まで近寄れ、ストレスなくエレベーターに乗りこめる。これはゲームの前提条件だ。
ちょっと動いただけでポコポコ落ちまくるのではゲームの趣旨にあわん。
そんなことのないよう、この落下防止アシスト機構が安定した操作性を実現させているのであった。

2.乗り降りでの小ジャンプ表現

エレベーターに出入りするとき、よく見ると毎回主人公がピョンと軽くジャンプして乗降している。
この小ジャンプ、動きとしては決して小さくないが、意識して見てないと気づかない。
ごく何気ない挙動だから目に入らないんじゃないかな。

エレベーター乗り込みの小ステップ

ふつうにそのまま歩けばいいのに、なぜかスキップしながら乗りこむ。そんなに嬉しいのか何が嬉しいんだよ余裕だなこのスパイ。
…べつに嬉しさを表現してるわけではない。
実はこの小ステップでの乗降にはちゃんと理由と必要性がある。

ひとつ、主人公がエレベーターとフロアをまたいだ状態で立ち止まれなくすること。
ふたつめ、エレベーターとフロアの微細な段差をうまく吸収させること。

まずひとつめ。
主人公がエレベーターとの境目に立てちゃうと、エレベーターが動くときに、ちょっと困ったことになる。
境目に立った半身の状態でエレベーターといっしょに上下するか、元いた場所に押し出すか、何かしらのプログラム的対処が必要だ。

その場合、対処方法としては、以下の4つが考えられる。

対処案1)半身のままエレベーターと一緒に上下する
対処案2)半身のままフロア側に残る
対処案3)半身は見た目わるいのでエレベーターかフロアどちらかに主人公を強制的に押し戻す
対処案4)半身の時はエレベーターは動かない

対処案1や2の場合にどう見えるか、ちょっと画像を加工してみて試したよ。

床とエレベーターの境目に乗った場合

床を突き抜けたりして見た目があまりよろしくない。つか、ぜったい挟まれて死んでるよね。死ぬるよねこれ!
床側に主人公を残した場合でも似たようなものだ。宙に浮くし、やっぱり挟まれそうだよ! これはダメだ!!

対処案3。エレベーターが動いたら、フロア上かエレベーター内か、どっちかにキャラを強制スライドで押し出してしまえ! いわゆるスナップ処理ですね。
いかん。キャラが不自然に弾かれたり吸い込まれたみたいに見えるよ……。うわっ…私の挙動、あやしすぎ…?

対処案4はどうか。半身乗りの間はエレベーターを動かなくする! 
閉まるドアに手を突っ込んで閉まらないようにするワザとおんなしだな。みんなも小学生のときよくやったよね!
待って! エレベーターが止まりっぱなしだと、敵が主人公のフロアにやってこれなくなっちゃうよ。
ほぼ安全地帯ができてまう。こんなところで究極の護身が完成か。まずいな。これはゲーム的には都合がわるい。

…どう処理しても何だか不格好だ。
そもそもだが、境目に立てるみたいな中途半端な状態になること自体がダメなんじゃないのか。
そんなややこしい場所に立ち止まれないようにしようよ!

そういうわけで、床とエレベーターの境目にきたら強制的に自動でピョンと飛んで乗り降りさせる。これで境目で立ち止まる中途半端状態は生まれない。大解決。

このとき、座標のわずかな差で飛び乗るか乗らないかの判定が分かれるかもしれない。
実はその場合でもレバーを倒してる方向にステップジャンプするため、判定が多少アバウトでもプレイヤーは違和感を感じない。
そもそも小ジャンプして乗り降りしてることすら自然すぎて気づかないぐらいだからね!

自動ステップとレバー入力が同じ方向なので自然

決して嬉しいからスキップしているわけではないのだった。
なおこの小ステップでの乗り降りは、主人公だけでなく敵キャラも同様に行なっているぞ。
みんなでるんるんステップだ! エレベーター乗るの楽しいもんな。

このスキップ乗降のふたつめの利点も説明しよう。
エレベーターとフロアの微細な段差を吸収してくれる」効果だったね。

エレベーターが動くとき、フロアと微妙な段差が生じてる瞬間がある。
この微妙な段差を歩いて乗り越えるとすると、キャラクターの表示ポジションを段差先の高さに強制スナップ(吸着)させ、高低差の辻褄を合わせることになる。
見た目にはキャラポジションがガッと一瞬でズレたように見える。
これが下方向へのズレならまあ落下として見えなくもないが、上方向にはごまかしきれない。
瞬時にキャラ位置が小ワープする。またしても私の挙動、あやしすぎ? だ。

小さな段差もぴょん

この小さな段差は、エレベーターとフロアの間にしか生まれない。 
つまりエレベーターには常に小ジャンプで乗り降りすれば、微少な段差はぜんぶ飛び越える表現になる。はい解決。

以上、乗降の小ジャンプは「挟まれ防止」「段差吸収」で一石二鳥だ。1ジャンプで2度おいしい。
これ考えたひと天才だな! その練り上げられた乗降ステップ、至高のスキップに近い。
もう一度言うぞエレベーター、やはりおまえはスパイになるべきだ。

まとめ。
ややこしい場所には立ち止まれないようにする。これであやしげな挙動や例外処理を減らせる。
そのための手法は、飛びついたり転がったりなど、小さな自動アクションを挟むことだ。
なおこれらの対策処理は、主人公キャラだけでなく敵キャラにも適用されている。敵キャラ側の挙動も安定するからだ。

都合の悪いタイミングでのキャラ移動で不自然な挙動が起こることもあろう。それもおなじやりかたで回避できる。
その結果として、安定的で確実で、操作再現度が高い挙動をキープできるのだ。
気づかれない自然なかたちで安定ポジションへ強制移動させる。この対処法は有用だし応用も利く。
ややこしいところに立つな。俺の後ろに立つな。それがスパイの掟だ。ってことですね。

ちなみに、この境目で起こる問題などを、まとめて「境界問題」と呼んでます。
異なるエリア範囲同士が隣接してるとこでは、その接続部分を横断する際に、往々にして様々な問題が生じる」ということですね。

海と空と陸の境界。
街の中か外かの境界。
ドアと壁との境界。
地面と落とし穴の境界。
教会と寺院の境界。
1時間以上と1時間以下の境界。
まだ昨日かい、もう今日かい? 
などなど…。いきなりポエムですね。ラップだったりポエムだったりでスミマセン。
いやこの境界問題ね、ほとんどのゲームのいろんな場所でよく問題起こすので、制作時にはできるだけ注意を払う必要があるんですよ。強く言っておきます!!

ま、簡潔にいうと「男湯と女湯を行ったり来たりするときには気をつけな」てゆうスパイの教えなんですけどね!

3.鷹揚なジャンプキック判定

ジャンプ=キック攻撃。敵の銃弾を避けつつ、もしくは撃つまえに倒すために多用するスパイの必須技だ。
このジャンプキックも操作やプレイの確実性と安定感を保つため、ヒット判定エリアを大きく取りタイミングを合わせやすくしている。

足は前方に伸ばしているが、背後にいる敵も巻き込める。見ため的にはキックじゃなくて完全にヒップアタックだが、そんなことは気にするな。
とにかく敵近くでジャンプすれば、キックなりヒップなりで敵を倒せる。ヒップホップだね。

ヒップアタック?

このおおらかさが多少の座標ズレを収束させて、確実で安定したプレイの再現に役立っている。
見た目よりも結果を一致させろ」これがツボです。
もちろん見た目も一致してるに越したことはないですが。

■ゲームシステムのツボ■

よし、次はゲームシステム全体について、気の利いた作り込みやアイデア部分の発掘に移るぞ。

ツボNo.9 「低コストかつ合理的な作り込みで面白味を増す」

1.ビル移動の進捗表示

毎ステージの舞台であるこのビルは30階建てだ。
結構な高さだが、階数を全部数えたわけじゃない。
なぜならば各階には階数表示板が設置されてるためである。親切だな!
ゲームは最上階から地下1階に向かって進む。つまりこの階数表示はゴールへのカウントダウンということになる。
階数をみればゴールまでの進捗もわかる。ミニマップ等を作る必要もない。
ゴールまでの先が見えなかった『クレイジークライマー』から着実に進歩しているぞ!

階数表示

2.ランプ破壊

天井にぶら下がってるランプ電灯は、銃で撃ち落とすことができる。
その真下に敵キャラがいると、落ちてきたランプが頭に直撃して死ぬ。いやな死にかただな。
ここでもマンガ表現だ。 

ランプをひとつ撃ち落とすと、ビル全体が真っ暗になる。
よく考えたらほかの電灯もあるのに全部真っ暗になるのはおかしいが、まあブレーカーが落ちてビル停電ということにしておこう。

さて、この暗闇中は敵を倒した得点が高くなるチャンスタイムだ。当時のゲームはハイスコアがプレイ目的なので、より高いスコアを目指すには積極的なランプ破壊が必須だ。
そのために、プレイヤーは自らに厳しい上級プレイを敢行する、という仕掛けだ。
ゲームプレイに変化をもたらし、飽きさせずに繰り返しプレイさせるための作り込みと言える。スコアリングシステムは重要だね!

ビル停電

「ちょ待てよ。暗闇ってただ得点が上がるだけかよ? 何でだよふざけんなよ。
リアリティ重視でさあ、暗闇中は敵は主人公を見失うとかさ、状況変化、取り入れよ?」

現代のゲームではやりがちな話だ。しかしこのゲームで主人公を見失うとか、それやっちゃうとめっちゃ簡単になるだけやん! 
それ一方的に殺戮ジャンキーすんだけのゲームじゃん! てなる罠。素人にはおすすめできない。

やりすぎる作り込みは悪影響になることもある。その凝った作り込みは本当に必要か? 
十分に疑って吟味検討することの大事なんだな。あえて自制自重する重要。
過ぎたるは及ばざるがごとしだ。

3.ゲーム難易度の制御

ステージマップでは一部の配置物が毎回変動するので、プレイごとにステージ難易度は若干の揺らぎが出る。まあでもそこは運しだい。
ではゲーム全体の難易度上昇はどう制御しているのか。その点も確かめてみよう。

この難易度制御の仕組みは「赤ドアの数」と「敵アクションのバリエーション増加」の2つだ。

・赤ドアの数

赤いドアつまり中間目標地点はステージ1では5つある。そしてステージが進むごとにドアは1か所ずつ増えていく。最大は8か所。と思ってたけど、入手した極秘資料によれば赤いドアの数は最大10か所のようだ。

株式会社タイトー提供

  
赤いドアの部屋が増えるほどマップ移動が多くなり攻略が難しくなります。
これはステージが進むごとに確実に難易度が上昇することが保証されている仕組みです。

・敵のアクションバリエーション増加

ゲームを通して敵キャラは1種類しか出てこない。例の黒服だけ。思い切ってるな。
1種類とはいうが、同じ動きとまでは指定してはいない…。
ステージが進むと、我々黒服の攻撃アクションがちょっとずつ増える…、増えた攻撃バリエーションの使用頻度も徐々に上がっていく……といったことも可能っ……。
というか、そう作ってあります。

ふつうなら、デカいとかハゲてるとかその両方だとかの強いボスキャラ的なやつとか、
敵の種類を増やす。しかしこのゲームは1種類の黒服キャラがどんどん強くなる方式だ。

最初は突っ立ったままのんびり銃撃してきた敵キャラも、ステージがすすむと積極的に「しゃがみ」を織り交ぜてくる。小癪な。
敵にしゃがまれると、こちらの立ち射撃が当たらない。生意気だ。
しゃがみ撃ちされると、銃弾を避けるにはジャンプするしかない。こざかしい。
あのな、この時代はな、中段攻撃をしゃがみガードだとかの便利な技はまだ生まれてないんだよ! やめろ!

さらに進むと、何ということでしょう! おそるべきことに「伏せ撃ち」までしてくる。
床面ギリギリに銃弾が飛んでくる下段攻撃だ。ちょ待てよ、主人公のオレですらできない技…だと……?! 
むかつくな。そんでこいつもジャンプ以外に回避手段がない。

敵の伏せ撃ち

そして敵の攻撃バリエーション増加は、主人公の攻守双方に影響を及ぼします。
回避が難しくなり、さらに倒すのも難しくなっていく
その違いを図でまとめてみました。

敵キャラの姿勢が低くなるにつれ、自分が避けにくく、敵には当たりにくくなる様子が掴めると思う。
自キャラには「ジャンプ」、敵キャラには「伏せ状態」が、それぞれ最強姿勢として対になってる点もお気づきだろうか。
目には目を、伏せにはジャンプをハンムラビ。お、一句できましたな!

アクション増加だけではなく敵の銃撃頻度も徐々に増加していく。目と目が合ったらもう撃たれる。
てめえガン飛ばしやがったな? どこ中だよ? アメリカ中だよ、中央情報局な!
そんなこんなでバンバン撃たれるようになっていく。増える銃撃への対処が厳しくなり、いずれ手に負えなくなって一巻の終わり。
おれのスパイ人生がこんなビルの片隅で終わっちまうとはな。

まとめよう。
ゲーム全体の難易度上昇曲線は、「赤ドア数」「敵の攻撃要素」で制御している。
ここで追加された要素は「伏せ撃ち」というアクションバリエーション1つだけ。最小限だ。

さらに重要な点。これら難易度制御を「個数」や「頻度」といった数値変化で実装していることだ。
難易度を簡単な数値パラメーターだけで制御する。この手法は調整も容易で難易度上昇バランスも作り込みやすい! 
それは制作コストも安く済むということでもある。その練り上げられた難易度制御…もうこれはいいか!

4.移動と弾速とジャンプとエレベーターの絶妙な速度バランス

さて次も数値調整の話。実はわたしが一番うまく作り込まれてる印象を受けたのがこれ「各オブジェクトの速度バランス」である。

「主人公と敵キャラの歩き速度」「発射された銃弾の速度」「ジャンプ高さと距離と滞空時間」「エレベーターの上昇下降速度」。
これらの速度のバランスが抜群によくできているのだ。何というマリアージュだ、おお…おお……。

敵の銃弾をジャンプで躱す局面。銃弾が速くても遅くても、ジャンプが低かったり速かったり遅かったりしても、タイミングがシビアになりとたんにプレイアビリティが悪化する。
こんなん避けらんねーよクソゲーかよ! ってなりかねない。だが『エレベーターアクション』では確実かつ容易にそのプレイができる!!

「歩く速度」と「エレベーター上下の速度」なども、弾速やジャンプ速度と心憎いほどうまく調和し噛み合っている。
銃弾のヒット判定のサイズもうまい。こういうの「実によくしつけられてる」って表現したくなるよね。

この絶妙バランスこそがこのゲームの肝であり、ゲームを面白くしている最大の要素であると断言する。
これまでに説明してきた多くのツボ、多くの優れた要素も、このバランスひとつですべてが台無し、クソゲー呼ばわりされてしまうからね。怖いよね。

さらにこれはゲーム内オブジェクトの速度バランス(ゲームバランス)の話だけには留まらない。
ゲームを遊ぶプレイヤーの反応速度に対しても絶妙な速度なのである。
プレイヤーがゲーム画面を目視し、把握し、判断し、操作する。そのための時間的猶予がちょうどよい加減なのだ。ようするにゲーム全体の動作スピードね。
ゲーム全体の動作が速すぎれば一般プレイヤーがついていけないし、遅すぎればタルくて軽快感も爽快感も失われてしまう。

「ゲーム内の速度バランス」と「遊ぶプレイヤー側の反応速度」、この2点についてもちょうど良き案配にバランスされている。
見事というほかない。まさに練り上げられた作り込み。至高の領域に近い。こんどこそ本当に近い。わたし、エレベーターになる!!

ツボNo.10 「ゲームルールの穴を埋める手際」

さて、いよいよ最後のツボだ。
見てきたとおり『エレベーターアクション』は非常に良く出来たゲームシステムとゲームバランスを備えている。
であるが、実はちょっと困る不都合な部分がちょっとだけ残っている。ちょっとだけね。

それがいわゆる「仕様の穴」。虎の穴でもパンツの穴でもないぞ。似てるけど。
実はどんなゲームでも、仕様やルール同士の衝突や矛盾、都合の悪いルールの抜け穴、そういったことが往々にして生まれてしまうものだ。
『エレベーターアクション』にもそういった穴がある。当然だがその穴はしっかり埋められている。ではその穴と巧妙な穴埋め対処を探っていこう。行くわよアナ!

1.エレベーターの上下往復

誰も乗っていないエレベーターは自動的に上下往復を繰り返している。
一番上まで行ったら折り返して下降する。一番下でまた反転。エレベーターに乗るには自分のいる階に再び戻って来るまで待つことになる。
呼び出しボタンとかがないからな!

では、上下に非常に長いエレベーターの場合、めちゃくちゃ待たされることになるのでは? 
それは困る。現実でもなかなか来ないエレベーターに発狂した経験はだれしもあるはずだ。これは問題だ。つまり仕様の穴だ。どうしよう?

大丈夫だ、問題ない。ホントに1番上や1番下まで往復させたりはしてねえよ。エレベーターが画面外へ出て見えなくなったら、すぐに折り返して戻ってくる処理にしてあるでな。

ここで重要なのは「少し待たされる」状況を作るのがゲームシステムの目的だということです。
だから裏でもバカ正直に動作させて延々待たせる必要はない。画面から見えなくなったところで忖度してさっと折り返す、「待たせたな!」。
親切だし、目的にかなってる。プレイヤーは発狂しない。
見えないところで上手に優しい嘘をつけ! こういうところだぞ。

2.ドア残しクリア

赤いドアから機密書類を盗め、か。だが…もし盗まなかったら?
スパイが命令違反か。任務を忘れ、己の保身だけのために地下から脱出か。組織への忠誠心に欠けたそんなやつもいるだろう。
たしかにゲームルール上はそれが可能。しかし任務としては絶対に許さん。すべての赤ドアを探索せねばならない。
任務を放りだし、ただ地下まで降りるだけのゲームに成り下がるか! 何の苦労もないじゃないか。
逃げ得だ。許せん。ぐぬぬ…どうして封じてやろうか……。
あと単にうっかり赤ドア忘れてただけのドジっ子スパイちゃんもいるから、手厳しいこともできないね。

解決方法はシンプルだった。赤いドアを残して地下の脱出口に到達すると、何と! 罰として残っている赤ドアの前に強制ワープさせられてしまうのだ。
せっかくだから俺は赤の扉にワープするぜ! わーい目の前もう赤ドアだよ! …すごい親切な罰だな。

実はこれにはちゃんと理由がある。
もし残りの赤ドア前にワープしなかった場合、「なぜ脱出できないのか?」を説明する必要がでてくる。それを回避しているのだ。

「せっかく脱出口に来たのに何で脱出できないんだよ!」「意味わからん。バグじゃねーのかこれ!」プレイヤーは発狂する。
しかし赤ドア前にワープさせれば「ああ、忘れてたんか、赤ドアな、てへっ、すマンモス~!」プレイヤーは戻された理由が一瞬で理解できる
さっさと赤ドア入って取ってこいよ。機密書類とヤキソバパンな。

ここでの重要ポイント。脱出させない罰則のムチと、赤ドア前にワープする親切なアメ
おわかりだろうか。マップを戻されるという、本来はストレスになるネガティブ要素に、得する(ように見える)ポジティブ要素を付け足すことで、マイナスを緩和しプレイヤー様の怒りを鎮めてるわけです。こういうところだぞ。

3.永久パターン防止

機密書類を盗まずさっさと脱出しようとするけしからんスパイがいるなら、今度はビルを降りずに永遠に敵を殺しまくる殺戮ジャンキーのスパイもいるだろう。ゲームを進ませる気ナッシング。同じ場所に留まってスコアを稼ぎまくる。いわゆる永久パターンという困った事象だ。

これもゲームルール上は可能になってる。しかも100円で一日中粘る。そんなヒマ人もいるんだよ。
ゲーセンとしては商売あがったりだぜ。
こんなやつはもうスパイじゃない。処刑対象だ。何とかして永パは防止せねば……。

はい、実際に処刑します。
実は各ステージには見えない制限時間が設定されている
同一ステージのまま一定時間を越えると、敵ガードマンたちは殺意全開で主人公を鬼殺しにくるエマージェンシーモードが発動するのであった(このときBGMが変化するよ!)。
敵はしゃがみ撃ち伏せ撃ち何でもアリ。すべてを織り交ぜた最高難易度で迫ってくる。ふふふ、生きて帰れると思うなよ?

エレベーターに逃げても無駄だ。
そいつは細工ずみだ。どうだ操作しにくいだろう。
これまでと違い、エレベーターの操作レスポンスが著しく低下している。昇降操作がまったく鈍い。
階の途中で上下したりもできない。くくく、エレベーターをこまめに動かす回避技も封じたぞ。きさまに残された道は死のみだ!

ここでも重要なポイントがある。制限時間経過で即時ミス(死亡)にするシステムにしないのは、万に一つの生き延びるチャンスを与えるためだ。
ふふふ、わたしとて慈悲はある。もしステージの脱出口に近い場所にいるなら、この地獄の鬼難度をかいくぐり、逃げおおせてみろ。
ハッハー、逃げろ、逃げろ、ハーハッハー!

プレイヤーが殺戮ジャンキーじゃなく、まじめにプレイしてたけど手間取って制限時間を越えることもある。
そういったときにも生きてクリアする可能性がワンチャン残される
そしてそうなった局面はこのゲーム中でもっともスリルを感じる時間だ。殺られるか、脱出が間に合うか? 
ヒリヒリするぜ。興奮するぜ。これが生きてる実感だぜヒーハー。
でも見方によってはへんに希望を与えるだけサドンデスより残酷かもしれないな……。 

単に罰を与えてゲームルールの穴を封じるだけではない。
同時に慈悲とスリル感も備えた対処法になっているのだ。こういうところだぞ。

  
さあ、まとめといこう。
このように『エレベーターアクション』にもいくつかの「仕様の穴」があった。
それらの対処法をみると、一つの法則に気づく。

「不都合や不具合を埋めたり防止する際、できるだけプレイヤーにも何らかのメリットを与える。」

このことが鉄則のように貫かれている。
まさに「飴と鞭」。捕らえたスパイを拷問する際は、こうやって自白させるのだ。アメもムチもおいしいご褒美です!

終わりに

一見冷酷非情に見えるスパイの世界も、わりと慈悲に溢れる愛ある世界だった。
このたびの発掘調査では実によい発見ができたと思う吉宗であった。

『エレベーターアクション』は一見単純なゲームに見える。
が、これだけ単純に見えるゲームにさえ、さまざまな工夫が施されていた。そのゲームのおもしろさは、練られた作り込み、愛ある作り込みが結実した姿であったのだ。
エレベーターアクション/私を愛したエレベーター。はやく映画化されないかな!

さて、今回の発掘調査はいかがでしたでしょうか! 
最初はちゃっちゃって調査おわると見積もってたんだけど、思いのほか多くのツボが発見されたよ。
報告書も長くなっちゃったね。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
次回の発掘調査にもご期待ください、バキューン! チャラッチャラ~、チャララ~~ン、テーロリロ~~ダ、デデ~ン~♪

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