「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十四回 ボーナス得点Part2
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第二十四回目は「ボーナス得点Part2」と題し、前回に続いて「ボーナス得点」のさまざまなアイデアを取り上げます。
前回も、ぜひ皆さんに知っていただきたい「ボーナス得点」をいろいろお見せしたのですが、紙幅ならぬweb幅の都合上、どうしても書き切れなかったものがありました。そこで、今回も筆者が思い付く限りではありますが、古今東西の開発者たちが生み出した「ボーナス得点」システムの数々を、初期のアーケードゲームの導入例を中心にご紹介したいと思います。
どうぞ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
倍率ドン、さらに倍! プレイヤーをますます夢中にさせる「倍率ボーナス」
昭和の時代から多くのタイトルに取り入れられている「ボーナス得点」システムのひとつに、特定の条件を満たすと敵を倒したり、あるいは得点アイテムを取ったりしたときの得点に倍率を掛ける方法があります。
例えば『ボンジャック』(テーカン/1984年)は、そのものズバリの名前が付いたボーナスコインを取ると、以後敵を倒したときなどの得点が2倍になります。さらにコインを取ると倍率が3倍、4倍とアップし、最高で5倍まで上がります。
同様に『コズモギャング・ザ・ビデオ』(ナムコ/1992年)でも、ポイントアップのアイテムを取るごとに得点倍率がどんどんアップし、最高で16倍まで上がります。ですから、ポイントアップを取ってプレイした場合と、取らずに放っておいた場合とでは、得点に雲泥の差が生じることになります。
倍率アップのアイテムが存在しないタイトルにも、特定の条件を満たすと得点の倍率が変わる「ボーナス得点」を導入した例はいろいろあります。
有名タイトルから一例を挙げますと、『マッピー』(ナムコ/1983年)があります。本作では、同じ種類の得点アイテムを2個続けて取ると、2個目の得点が通常の2倍にアップします。さらに、同じ種類のアイテム2個をペアで取り続けると倍率が3倍、4倍と上がり、最高6倍までアップします。
また本作には、マイクロウェーブ(衝撃波)で敵を吹っ飛ばしたときにも、敵の親玉にあたるニャームコを巻き込んだ場合は「ボーナス得点」が2倍になるアイデアも導入されています。
90年代以降に登場したシューティングゲームにおいて、倍率アップによる「ボーナス得点」システムをより高度に発展させたタイトルのひとつが『Gダライアス』(タイトー/1997年)です。
本作は、キャプチャーボールを使って捕まえた敵が友軍機となって逆に敵を攻撃することが可能となり、キャプチャーした敵が発射したショット、または体当たりなどで敵を倒すと得点に倍率が掛かる仕組みになっています。しかも、倍率はショットやボム、「ため撃ち」をすると発射できるビームなど、敵の倒しかたによって変化するので、極限まで得点を稼ぐためには高度で非常にち密なパターンの構築が必要となります。
同じく、90年代に登場した『バトルバクレイド』(エイブルコーポレーション、開発:エイティング/1999年)や『ギガウィング』(カプコン、開発:タクミ/1999年)にもユニークな倍率システムがあります。
『バトルバクレイド』は、一定時間内に特定の敵を連続して倒すことで2倍、4倍、8倍と倍率が上がり、最高64倍までアップします。また『ギガウィング』は、敵を倒したときなどに出現する勲章を取るごとに倍率がどんどんアップし、うまくいけば倍率が何と数百万倍にも跳ね上がり、得点を兆単位のケタまで稼ぐことができる、驚愕の倍率システムを盛り込んでいます。
数ある倍率システムを採用したタイトルの中でも、とりわけ独創的なアイデアを搭載していたのが、おそらく『ガンネイル』(テクモ、開発:NMK/1993年)になるでしょう。
本作は、敵を倒したときに掛かる得点の倍率が、自機のシールドの数によって決まります。自機はダメージを受けるごとにシールドが1個ずつ減り、シールドがゼロの状態でミスをするとゲームオーバーになりますが、実はシールドのストックが少ないときほど倍率が高くなる仕組みになっています。
シールドが満タンのときは1倍ですが、シールドがゼロのときは3倍に(※シールドのキャパシティが4個のときは4倍、5個のときは5倍)アップします。さらにシールドがゼロのまま戦い続けると、ボス撃破時の「ボーナス得点」を最高100倍までアップさせることも可能となります。
つまり、極限まで得点を稼ぐ場合は1度のミスさえも許されない、実に厳しい制約を強いられるわけですね。しかも、ライフが1個のときは警告音がずっと鳴り続けるので、プレイ中は常に尋常ではない精神的なプレッシャーが掛かります。
ステージクリア時の「ボーナス得点」に、特定の条件を満たすと倍率が掛かるタイトルもいろいろあります。『ワンダーボーイ』(セガ、開発:ウェストン/1986年)で、各ステージに1個だけ出現するアイテム、ポットを取ってクリアするとクリアボーナスが2倍になるのがその一例です。
クリアボーナスを導入したタイトルの中でも、「ボーナス得点」を非常に高く設定していたのが『ゲイングランド』(セガ/1988年)です。
本作は、制限時間内に敵を全滅させるか、プレイヤーキャラクター全員を出口に脱出させるとステージクリアとなりますが、前者の条件でクリアするとパーフェクトボーナスとして1万点が加算されます。さらに、次のステージでも続けて敵を全滅させると「ボーナス得点」が2万点になり、以後3万点、4万点とアップし、最高で何と100万点まで上がります。
このように、倍率を掛けることで「ボーナス得点」がどんどんアップするアイデアは、プレイヤーにとって見た目にも極めてわかりやすく、ゲームのモチベーションを大いに高めてくれます。
役をそろえて一丁アガリ! 集めて楽しい「ボーナス得点」
麻雀やスロットマシンなどのゲームは、特定の役をそろえることでアガリ、または当たりとなり、役の種類に応じた得点を獲得できるルールになっています。
これらと同様に、ビデオゲームにおいても役やアイテムなどを一式集めることで、「ボーナス得点」が加算されるアイデアを導入したタイトルがあります。前回ご紹介した『スイマー』(テーカン/1982年)で、同じ種類のフルーツを4個集めると「ボーナス得点」がもらえるのがその一例です。
以下の写真は『アルゴスの戦士』(テクモ/1986年)です。本作は、★マークのアイテム「アルゴスの星」を7個集めるごとに7万点の「ボーナス得点」が入るほか、5種類のインドラ(主人公のパワーアップアイテム)をすべてそろえると、16万点の隠し「ボーナス得点」が入る裏技があります。また『ASO』(SNK/1985年)にも、装着すると自機が強化されるアーマーを使わずにストックし、全8種類のアーマーをそろえると20万点がもらえる「ボーナス得点」が隠されています。
ほかにも『ペンゴ』(セガ/1982年)では、各ステージに3個あるダイヤモンドブロックを移動させて、すべて縦または横1列に並べると1万点(※外壁に沿って並べた場合は5000点)の「ボーナス得点」が加算され、なおかつ画面内のすべての敵が一定時間動けなくなってしまう、おもしろいアイデアが導入されています。
役をそろえると「ボーナス得点」ではなく、ボーナスステージに進めるアイデアを取り入れていたタイトルのひとつに『リブルラブル』(ナムコ/1983年)があります。
本作は、各ステージに隠された宝箱を発見すると出現する6体のトプカプ(妖精)を捕まえると、1体につき2000点が加算され、捕まえたトプカプの種類によって画面上部に「F」「L」「O」「W」「E」「R」のいずれかの文字が表示されます。つまり、全6種類のトプカプをすべて集めると「FLOWER」の文字が完成して、晴れてボーナスステージに進めるというワケですね。
麻雀の役やメンツとはルールが異なりますが、同じ種類のパワーアップアイテムを取り続けると「ボーナス得点」が入るシステムも非常に優れたアイデアです。
その代表例のひとつが『TATSUJIN』(タイトー、開発:東亜プラン/1988年)でしょう。
本作は、アイテムを取ることでスピードアップが5段階までアップし、ボンバーを最大10個までストックできます。スピードアップがフルパワーアップすると、以後は同じアイテムを取るごとに5000点の「ボーナス得点」が加算され、 同様にボンバーを10個ストックすると、以後1個5000点の「ボーナス得点」がもらえます。また、自機の武器もアイテムを取ることで3種類の装備に変化しますが、装備している武器と同じ種類のアイテムを取るごとに、やはり5000点の「ボーナス得点」になります。
この「ボーナス得点」を用意することで、フルパワーアップ後もアイテムを取る行為に意味を持たせ、プレイヤーがハイスコアを狙うためのスリル感も演出する、地味ながらも実に素晴らしいアイデアだと思うのは筆者だけでしょうか?
まだまだあります! 後世まで語り継ぎたい「ボーナス得点」の名アイデア
プレイヤーが「ボーナス得点」を狙うほどミスをする可能性が増す、すなわちリスクとリターンの関係こそが、古くからビデオゲームならではの大きなだいご味のひとつになっています。
80年代に登場したタイトルにおいて、リスクとリターンのバランスを見事に作り上げたタイトルのひとつに『フリッキー』(セガ/1984年)があります。
本作は、ステージ内に散在するピヨピヨ(ヒヨコ)を全員集めて出口に送り届けるとクリアとなるアクションゲームで、いっぺんに多くのピヨピヨを連れ出すほど高い「ボーナス得点」が獲得できるルールになっています。ただし、ピヨピヨをたくさん集めるほど行列が長くなってしまう、つまり当たり判定が大きくなるため、移動中に敵のニャンニャン(猫)に捕まりやすくなるデメリットが生じます。
同じく『タイガーヘリ』(タイトー、開発:東亜プラン/1985年)にも、ステージクリア時に自機の真横に装着したヘルパー(小型ヘリ)を、敵にやられずに持ち越すことで「ボーナス得点」が増えるアイデアが導入されています。
「ボーナス得点」の獲得に失敗したら即命取りになる、スリル満点の裏技があることでも有名になったのが『スターフォース』(テーカン/1984年)です。
本作の敵の一種、ラリオスは各パーツが合体後に8発ショットを当てれば倒せますが、コアが光ってから合体するまでの間、わずか1.5秒ほどの時間内に8連射して破壊に成功すると、5万点の隠し「ボーナス得点」が獲得できます。
もし合体前の破壊に失敗した場合は、背後から迫って来るパーツに体当たりされて自機を失うリスクがあります。ですが、成功すると特別なジングルが鳴り、画面に「SPECIAL BONUS」と表示され、プレイヤーに至福の快感をもたらす秀逸な演出が用意されていることもあり、危険を承知でついついチャレンジしたくなってしまうのです。
ここまでは、主にシューティングの事例を中心にご紹介してきましたが、対戦格闘ゲームにも黎明期から素晴らしい「ボーナス得点」のシステムがあります。
以下の写真は、ご存知『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)です。本作に登場するリュウまたはケンの必殺技のひとつである昇竜拳は、実は相手にヒットさせたときの得点が状況によって変化します。
昇竜拳を放つとリュウ、ケンは上空へと大きく飛び上がりますが、空中でヒットした場合は300点で、技を発動した直後、すなわち地面に足が付いた状態でヒットしたときは1000点の「ボーナス得点」が入ります。
つまり、1000点を獲得するためには、相手をギリギリまで引き付ける必要があり、もし昇竜拳の入力に失敗すると反撃を受けるリスクが極めて大きくなります。また1000点を獲得したときは、相手に与えるダメージの量が300点のときよりも大きくなるメリットもあります。得点だけでなく、ダメージにもボーナスが加算される、実に見事なアイデアですね。
最後に、「ボーナス得点」を獲得したプレイヤーを大いに褒め称える、ビデオゲームの歴史に残る名演出をご紹介しましょう。
そのタイトルとは、冒頭でも取り上げた『マッピー』です。本作に登場する敵のニャームコは、移動中に得点アイテムと重なると、一定時間アイテムの背後に隠れる性質があります。もしプレイヤーがニャームコの姿をうっかり見落とすと、待ち伏せ攻撃をまんまと受けてしまう恐れがあります。
しかし、ニャームコが隠れている間に素早く接近してアイテムを取ると、何とニャームコが「1000」と書かれたプラカードを掲げ、1000点の「ボーナス得点」が入る、実にユニークな裏技が用意されているのです。ニャームコが、まるでプレイヤーに対して「参った!」とでも言っているかのような、あまりにも素晴らし過ぎるアイデアを考案した開発スタッフの発想力には、ただ脱帽するばかりですね……。
以上、前回に引き続き、古今東西の「ボーナス得点」アイデア集をお送りしましたが、どんなご感想をお持ちになったでしょうか?
本稿に執筆にあたり、数十年ぶりにプレイしたゲームがいくつかあったのですが、今でも「ボーナス得点」を狙って遊ぶおもしろさに変わりはないことに改めて気付かされました。時にはゲームオーバーになるリスクを負ってでも、プレイヤーが得点稼ぎについついハマってしまう仕掛けの数々は、今後も手を変え品を変え、いろいろと発明されるのではないかと思った次第です。
なお、「ゲームニクス理論」における「ボーナス得点」に関するくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-B:ストレスと快感のバランス」などのページに書いてありますので、ご興味のあるかたはぜひ御覧ください。
それでは、また次回!