セガ『スペースハリアー』発掘報告書 後編
みんな~、元気かい?
落ち込んだりもしたけれど、わたしも絶好調です。
毎度おなじみゲームデザイン発掘隊、“特別”発掘隊長のぱぱら快刀仙人です。
前回の前編に引き続き、みんな大好き『スペースハリアー』のゲームデザイン技法を紹介する後編だよ。このゲームのちょっと隠れた秘密への挑戦だ。
ぼ~っとゲーム遊んでんじゃねーよ!
さあ、はじまるぞー。
※「セガ『スペースハリアー』発掘報告書 前編」は、こちら。
<あらためてのゲーム紹介>
『スペースハリアー』は1985年稼動開始のセガの業務用機。
当時最先端の“疑似3D”表現技術を駆使した3Dシューティングゲームだよ。
『スペースハリアー』は、3Dシューティングというジャンルの、ひとつの基本形を確立させた作品だ。
3Dシューティングのお手本として、以後多くの作品に多大な影響を与えた歴史的名作!
縦スクの『ゼビウス』、3Dの『スペースハリアー』と並び称されるほどの、歴史的ターニングポイントになった重要タイトルなのです!
スペースハリアーについてのくわしい紹介は当サイトのアーカイブにもありますので、そちらも見てみてね!
<発掘品目録>
おっと、その前に。前回も紹介した全体の一覧だよ。今回は後編だからね。
前編をまだ読んでないかたは前編から読んだほうがおもしろいかもよ。
前編を読んだみんなは、このままGoだ!
― 前編 ― |
■タイトル画面のツボ |
ツボNo.1 「キービジュアルで印象づける」 |
■ゲームスタートシーケンスのツボ |
ツボNo.2 「世界観の説明が最小限」 ツボNo.3 「最初にプレイヤーの気分を盛り上げる」 ツボNo.4 「ゲーム操作ルールを一瞬で説明」 |
■ゲームプレイ中のツボ#1 |
ツボNo.5 「スピード感は立体空間で演出する」 |
― 後編 ― |
■ゲームプレイ中のツボ#2 |
ツボNo.6 「爽快感と破壊の演出」 ツボNo.7 「ゲームデザイン上の工夫いろいろ」 |
■世界観補強のツボ |
ツボNo.8 「効果的に異世界を見せる技」 ツボNo.9 「世界観は画でみせよ」 |
■ゲームプレイ中のツボ#2(前編からの続きです)
さて、やっとゲームプレイ中のツボ発掘までたどり着いた。
ここから先はゲームプレイ感覚に直結する重要なゲームデザインテクニックとなる。
「ツボNo.5」までは前編で紹介したので、ここからは「ツボNo.6」からのコンティニューだ。
それではさっそく行ってみよう~!
ツボNo.6 「爽快感と破壊の演出」
シューティングゲームである限り必要となるのは爽快感だ。
撃てば吹き飛ぶ。連射を叩き込む。敵は爆裂四散する。撃つか撃たれるか、その殺伐としたタマの取り合い。
これこそシューティングの醍醐味であり爽快感そのものだ。バキューン!
では、『スペースハリアー』での爽快感はどのように作られてるか。
そのツボを見て行こう。
・敵が編隊で飛んでくる
ほとんどのシューティングゲームは、ザコい敵はたいてい編隊組んでやってくる。
しかもたいていは一直線に並んで飛ぶ。ゲームによってはフォーメーションを組んでる奴らもいるが。
どちらもカモだ。
編隊飛行のいいところは、敵が固まって飛ぶことにある。
このことで得られる効果は多岐にわたるので、順に紹介するね。
第一にプレイヤーにとって視認性がよい。
大きな塊で動くため、見落とす可能性が低い。これはワカラン殺しをかなり防ぐ効果がある。
第二は、見た目の敵の出現数が多いわりに、主人公機が受けるリスクは敵一機分とほぼ変わらないことだ。
安全だ。殺しに来てない。優しい。
第三に、編隊なら連続で撃ち落とすことが容易になる。とても気持ちイイ。
他にも適当にその辺を撃ってもどれかに当たるだろうという副次効果もある。
単独飛行なら一機やっつけたというだけのところを、編隊飛行なら何機もまとめて一網打尽だ。
さらに気分がアガらざるを得ない。俺ツエー。
『スペースハリアー』でも当然この原理を取り入れるどころか多用している。
みんなも編隊を使ってくれ。
そしてもうひとつ重要なことだが、ゲームを難しくしたいなら、この逆に敵機を単独単機で大量に出せばいいことが導き出せる。
ただしその場合、倒す爽快感は低下することになる。見落としやすい罠だ。
他の演出技法で補うことを考えよう。約束だぞ。
・一撃
『スペースハリアー』では、敵や障害物は耐久力がない(ボスはある)。
ほぼ何でも一撃で倒せるのだ。
なぜ一発で死ぬのか。簡単すぎないか。じつはこれには重要な理由があるのだ。
もちろん敵を一発で倒せれば単純に気持ちイイ。けど、それだけじゃないぞ。
ここで重要なのは、「3Dゲームでは、動いている敵に弾を当てることが非常に難しい」という事実である。
なぜか。
ちょっと専門用語になるが、3D上では、XY軸の他にZ軸も重ならなければヒットしたことにならないからだ。
2Dシューティングは平面上で2軸が重なればヒットするが、3Dは立体であるから一軸多い。
その分、ショットが当たりにくいということになる。
この原理により、同じ敵に連続的に弾をぶち当てることが至難の業になってしまうのだ。
もし3発ぐらい弾当てないと死なない耐久力を持ったザコ敵が、フラフラ画面内を飛び回っていたとしよう。
プレイヤーは絶対イラっとする。死ねっ死ねっ! トリガーを引く。一発当たっても敵はその場から移動し、あざ笑うかのようにあちこち飛び回る。
逃げんなクソ!当たれよ! ってなる。いやらしすぎ。こんなのストレスしかない。
敵が一撃で死ぬのは、こんな事態を防ぐためです。
一発当たれば一撃で死ぬ。チョロいぜ。じつに爽快だ! ってなるように。
もう一点。この原理を逆に利用し、ボス敵には耐久力を付けてみよう。
まずそれだけでボス戦の難易度は上がる。続けて当てるのは難しいからね。
それにボスは画面内にずっと滞留することが多いから、連続ヒットしなくても撃ってればいつかは弾が当たるし。
これだとボス戦中は、プレイヤーには多少ストレスが溜まるだろう(わざとそうする)。
そのかわり撃破したとき大爆発させたりとかする。
ついにやったぜ! ざまあ! 溜まったストレスは一気に解放され、ボスまでの道中とは異なる爽快感と達成感が得られる、というからくりです。
要は使い分けですよ、奥さん!
・倒した敵が超落下する(破片が飛び散らず視界が開ける効果)
『スペースハリアー』は、プレイヤー弾が当たった敵は、爆発しながらものすごい勢いで地面に落下する。
実機やプレイ動画等で確認してほしいが、落ちていくというよりはほとんどワープみたいな速度でドカンと落ちる。どんな重力だよ。
普通のゲームなら、倒された敵はまあその場で爆発する。爆発が地面に落ちるとかはない。
多少気の利いたゲームだったら、爆発と同時に破片をドバッと飛び散らせたり、爆発が慣性で流れていくとか、そんな感じで爽快感を出す。
そうしないで、爆発の絵を地面に落として、さらに地上用の爆発パターンになる。これは『スペースハリアー』独特の演出表現だけど、これがまた素晴らしい演出とゲームメカニクスを兼ねているのだ。
そこを説明しますよ。
ひとつめ。
爆発演出時に画面の表示負荷が増えない。
例えば爆発時に破片を四散させると、破片の数だけ画面で表示するオブジェクトが増えちゃう。これが処理負荷になる。そこを爆発パターンだけで済ませば、敵キャラクターが爆発に置き換わるだけで表示物は増えない。賢く省エネです。
それでいて爆発演出として破片が飛び散る等と同様の快感を表現できてる。
また落ちてくのが速いのが気持ちいいんだよね。高重力ばんざい。
ふたつめ。
爆発が即座に地面に落ちることで、倒された敵はそこにいなくなる。やっつけたことがわかりやすいと同時に、素早くハケることでその後ろにいる敵が丸見えになる。
後ろに控えてる敵の挙動がわかるし、その敵をまた撃ってもいい。
撃てばまたそいつはハケて、さらに向こうのやつが見える。
特に編隊飛行してくる敵たちと戦いやすくなる。親切な奴らだ。
加えて演出上でも効果絶大だ。
普通なら爆発の後ろにいる敵を撃っても爆風に隠れて見えない。3Dだからね。
でも撃たれた敵が次々落ちていけば、その次の敵がすぐ顔を出し、次の奴にまた弾が当たり、そのまた次の敵が見える。この繰り返し。
連続撃破しても爆発が重ならず、敵を次々撃破していく様子が全部しっかり視認できるのだ。
実に倒しがいがある。快感だ。ほんと親切な仕組みだなイェイ!
・消失点に飛ばないショット弾
3Dゲームでは、プレイヤー機が正面を向いて画面奥にショットを放てば、その弾は3D画面の消失点に向かって飛んでいく。消失点は画面の真ん中辺りなので、プレイヤーがどの画面位置から弾を撃とうが、弾が前方に進む限り、その消失点に吸い寄せられるように飛んでいく。
これがダヴィンチ以来の正しい透視図法である。
この透視法により3D画面は矛盾のない立体空間に見えるのである。
ただし……。
人生もそうだけど、正しいことが正義とは限らない。ゲームでもそれは同じよ。
弾が3D的に正しく消失点に向かって飛んでいっては、画面の端に見えてる敵には絶対に弾が当たらないのだ! ががーん!
『スペースハリアー』では、3D的な正しさよりもゲーム的な正しさを取っている。
こんなクソみたいな現実など! ブッ壊してやる! ってことだ。
プレイヤー弾は透視法を無視し、プレイヤー位置そのままの正面奥に向かって飛んでいく。でないと当たらないからな!
3D的には、画面端で撃った弾が前方ではなく外側ナナメ前へ飛んでいっていることになる。
この処理により、ゲームプレイはわかりやすくなる。プレイヤーのやることはただ一つ。敵を正面に入れて、スイッチ。これが正義だよシンジ。
ゲームを気持よく成立させるためなら、どんな嘘でもついていい。
このような工夫することで、気持よく画面の敵を撃ち落とすことができる。
インチキだけどインチキじゃないぞ。
・誘導弾ロックオン
ゲーム中あまり気付かないことだけど、『スペースハリアー』のショットにはロックオンシステムがついている。
プレイヤーの正面に敵を捉えると、ピン!って音が鳴る。
画面上は何の変化もないけど、これがロックオンの合図ね。
ロックオンされた敵は、画面のどこに移動しても、次のプレイヤー弾が誘導弾になって当たる。まあたいていの場合、ロックオンした時点で正面にいるから普通に弾に当たるけどね。
先ほど述べたように、「3Dでは敵に弾が当たりにくい」という特性を考えれば、このような何らかの誘導弾システムを備えることが、プレイヤーに爽快に敵を倒させるための有効な手段で、爽快感の後押しになる。これはぜひ覚えておいてほしいです。
『スペースハリアー』は、当初は自機が戦闘機で開発してたっていうから、ロックオンは単にその時の名残かもしれないね。
だからかもしれないけど、誘導弾システムはいまいち有効に働いてない感じだし。
でもまあ誘導弾に頼るゲームになっちゃうのも何か違う。
なので保険的な役割にとどめる自重も大事ですよ!
ツボNo.7 「ゲームデザイン上の工夫いろいろ」
ここではゲームデザインを補強する、その他の細かい工夫を説明するよ。
・撃っても壊せない! をわからせる
『スペースハリアー』には撃っても壊せないオブジェクトも登場する。倒せないけどぶつかると死ぬやつだ。
専門用語でバキュラというとわかりやすい。
こいつら破壊不能なものにプレイヤー弾が当たったとき、これ壊せない奴や! と、どうやってプレイヤーに伝えるか。
重要な問題です。ゆえに、いろんなゲームでいろんな工夫が生まれている、テクニックの見せ場でもあります。
このゲームでは、破壊不能なモノに当たった弾は弾かれて画面外へ飛んでいきます。
このとき堅そうな金属音も鳴る。とてもわかりやすい。ここ重要。
当たった弾がその場で消滅するだけだとわかりにくいからですね。
進行スピードも速いから撃った弾の行方とかいちいち見てらんないし、3Dなので遠くで堅い奴に当たる場合もあるし(遠くはちっちゃくしか見えない)。
弾が跳ね返ってわざわざ画面外に飛んでいく。こうすることで、無効になった弾が単に消滅するよりも画面内に滞留している時間を長く取れ、視認しやすい。
あさって方向に飛ぶから目立つ。相乗効果で堅いから弾かれた、これ壊せない奴や! ってことが、目と耳で認識しやすくできているのである。素晴しいな。
ショットが防がれると、本来ならちょっと腹立つところだ。
でも画面外に散っていく弾と小気味いい反射音で、でも何か気持ちいいな! って転化させてる点もうまい。
破壊不能物に当たってもタダでは転ばない、その心意気を感じる処理である。
・ミス時の画面ストップ
敵もワンパンなら自分もワンパンだ。
ちょっとぶつかっただけで一撃で死ぬ。ぅわあぁあああ! ひどい!
ミスでやられたとき、画面は一時停止する仕様になっている。
こうすると、何に当たってやられたのか、ちゃんと視認できるのでフェアです。
ワカラン殺しではない。お前のミスだよ。というアピールが効いている。見間違えることがない。
加えて、いきなり画面スクロールが止まるから、びっくりする。
あ? 死んでた。これまでノリノリのトランス状態でアドレナってゾーンに入ってたプレイヤーが正気に戻る瞬間だ。一旦集中力を切らせる。
プレイヤーの安全のためクールダウンさせるわけですね。
ついでにハリアーくんが復帰するまでの時間で、残機と現在状況を確認できる余裕を持たせる効果があることにも気をつけられたい。
ハリアーくん復帰後はそのまま一時停止が解除され、ミス直後からの継続プレイになる。いちいちチェックポイントに戻されるなどのやり直しがない。
話が早くて助かるし、またすぐトランスできる。こいつはやめられねえ!
・難易度の作りかた
ゲームは、進めるほどにだんだん難しくなっていくものだ。プレイヤーの上達に合わせて適切に難しいチャレンジを与えないと、すぐ飽きてしまうからです。
あとアーケードゲーム特有の事情として、1コインであまり長く遊ばれてしまうと売上げに影響する。
なのでゲームが進むほど難しくし、よろしいところでゲームオーバーに追い込まなければ商売あがったりだ。
そのためゲームの難易度を変化させる仕組みはとても重要だ。
ゲーム開発の初期段階からしっかり設計しておかないと困ることになる。
では『スペースハリアー』ではこの難易度をどうコントロールしているのか、見ていきましょう。
このゲームの敵の攻撃はとても単純で、ハリアーくんが今いる位置に向けてまっすぐ弾を発射するだけ。
特殊な軌道や効果の弾もない。発射してきた時点でその場から移動すれば、簡単に避けられる。
あいつらアホだな。当たるかよ。
画面内をぐるぐる回り続ければ、敵弾はすべて躱せる。どれだけ撃たれても、当たらなければどうということはない。
ぐるぐる回る。円の動きの円月殺法。回りながら撃ちまくる。敵機の捨て身の体当たりがきても撃てば止められるし。
ハハッ、一方的に勝てるぞ。この基本テクニックがあれば楽勝じゃないか!
おい。このままだと簡単すぎるだろ。回ってるだけでいいなんて。これでどうやって段階的に難しくしていけるんだ。さてそこで、敵以外の障害物の登場と相成るわけです。
破壊不能な柱とかを地面に立てる。
プレイヤーはこれらも避けなければならない。壊して誤魔化すことはできない。避けねば。
その結果、基本のぐるぐる回りの軌道やタイミングをアドリブで調整し、敵弾と障害物の両方をかわしていくことになります。
障害物を増やせば増やすほど、ぐるぐる回りのアドリブが難しくなっていく。
うっかりするとミスってどっちかにぶつかる。これが難易度を上げていく基本的な仕組みです。
さらにもう一つ。
増えるのは障害物ばかりではない。敵が撃つ弾も増やすぞ。
敵が弾を発射する間隔を短くすれば、その分、避けなければならない弾も増え、ますます回転避けのアドリブが難しくなるのだ。
さらにさらに、編隊飛行のザコ敵の他に、単体出現の敵の出現を増やす。これで難易度がまた上がる。
前に指摘したことを覚えているだろうか?
そう、単体出現の敵は編隊とは違ってまとめて倒しにくいのだった。
倒されにくい敵は画面内に長く滞留し、そのぶんだけ多く弾を撃つことができる。あーもういいかげんにしろ!
ククク…もっと難易度を上げてやろう。
単体出現する敵の移動速度が速ければ、ますます倒しにくくなる。
これがどういう意味かわかるかな。より多くの弾をお前めがけて撃てるのだ。
覚悟したまえハリアーくん。
かくして、ぐるぐる回りで楽勝だぜ、最後までいけるぜ! というプレイヤーイケイケ状態から、汚え! 避けられるかこんなの! という絶望の淵まで、難易度を自在に調整していくことができるのであった。
ルールはごくシンプルなのに、仕様やリソースをまったく増やさずに、こうやって計画的段階的に難易度を作れるのだ。ホントすごい。勉強になるよね!
・『スペースハリアー』のゲームの本質は「もぐらたたき」である
この項の最後に、とっても重要な指摘を置いておきます。
ここまで見てきたことをまとめると、3Dシューティングの本質は「画面上に現れている敵にプレイヤーを重ねて撃つ」ことだといえます。
これはつまり、本質的には『もぐらたたき』と同じだということを意味します。
何てこった。あいつら実はもぐらだったのかよ。ハリアーくんはハンマーか。名前も似てるしな。それはどうでもいいか。
とにかく、3Dシューティングとは、『もぐらたたき』を土台にそれを大胆にアレンジしていったものと心得よ。ってことですわ。
『もぐらたたき』のプリミティブなおもしろさや悔しさ、それらが基礎です。
それをどうアレンジして拡大していくか、ゲームデザインの腕が問われることになります。
3Dシューティングのゲームデザインで迷ったとき、『もぐらたたき』の基礎に回帰して眺めてみること。
それが有効な処方箋になる。
これはぜひ覚えておいてほしいです。『ワニワニパニック』でもいいですけど!
■世界観補強のツボ
今回の発掘もいよいよ終わりに近づきました。あとちょっとだがんばろう。
ここは「ファンタジーゾーン」という異世界です。同名ゲームも異世界だけどね。この世界観はどう作られているのか。そこ見ていこう。
ツボNo.8 「効果的に異世界を見せる技」
・へんてこなグラフィック
異世界ですから、まあ非現実的なへんてこなものを並べないと、あんまりファンタジーなゾーンには見えません。ここまでは普通ですね。
『スペースハリアー』では、異世界的雰囲気は最初にタイトル画面で印象づけられます。
タイトル画面はクレジット投入後画面も兼ねているので、プレイヤーは必ずこの画面を目にするという計算ずくです。
ひとつ目のマンモスとロボが並んでいます。この時点で普通じゃない。いったいどんな世界なんだ。と興味を引かれます。
ところが、ゲームスタート直後のステージ1では、あれ? 何かわりと普通の野っ原じゃないの?
という見せかけになっています。
ここにテクニックがあります。最初は普通の世界を見せる。その後に徐々におかしな世界へシフトし引き込んでいく。この流れですよ!
まず現実世界っぽい風景を見せる。その後に本来の異世界風景を見せていく。このギャップも重要です。
最初から異世界満点なものを見せても、プレイヤーは単にへんてこなグラフィックだな……と思うだけかも知れません。ちゃんと普通の世界も描けるんですよ。というアピールにもなります。わたしは狂ってなどいない!
最初からおかしな世界や狂った世界を畳みかけて押しつけるのは、異世界表現的にはまあ悪手ということですね。こういうところだぞ。
・多関節のボス
いまでこそ珍しい技術ではありませんが、当時では3Dでの多関節キャラは圧倒的インパクトのある表現でした。これも最初から見せないで、少しじらす。ステージ1のボス戦で初めて目にするように計算されています。
それでこそプレイヤーは驚くし、ボス感も強調されます。
あと、多関節どうだよスゲーだろ!といって乱用するのも下品ですね。
そこをぐっと我慢して、さもこんなの別に自慢とかじゃねーしというフリをする。
新技術はなるべくさらっと使うのがクールです。
多関節でも見た目のデザインバリエーションを変えて骨とかにしてみる、二股なやつにしてみる、など変化も大きくしよう。使い回し感がなくなります。
技術を見せるのではなく、新技術を使ったセンスを見せる。これが心得というものです。
この使いこなしだからこそ「技術のセガ」と賞賛されるわけです。オシャレといっしょです。さらっと着こなしてこそかっこいい。
ツボNo.9 「世界観は画でみせよ」
・あえて語らない
異世界表現に限ったことではないですが、設定はあえてくわしくは語らない。
そのほうがプレイヤーの想像がふくらみます。
ファンタジーゾーンにようこそ! これだけでまあほぼ済ませるぐらいがちょうどいいのです。
最初から世界設定や主人公の生い立ちとか、くどくど説明されるとウザッってなりがちよね。
ぶっちゃけ興味ねーし。
がんばって作った世界設定だから見せたい、聞かせたい。みんなに共感してほしい。わかります。
しかし押しつけはゲーム制作初心者がやりがちな失敗ケース。勇気を持って、あえて語らないテクニックも妙手であるのです。
他にも異世界の場合、説明するとかえって設定のアラや矛盾を突っ込まれてしまう危険があります。
何かチープだなあって印象になってしまってはおしまいです。
沈黙は金なり。せっかく考えた世界設定ですし、アピールしたい気持ちはあるでしょう。言わぬが花ともいいます。ぐっと飲み込むのがクールだよ。
でも『スペースハリアー』は世界設定とかそんなに考えてないんじゃないかな。って個人的には思ってる。そのぐらい適当なほうが僕好みですし夢がある。それでいーんです!
・潔いエンディング
最終ステージはボスラッシュです。ぼくここまで行ったことないけどね。友だちのプレイをみてました。
これまでのボスと順に戦う。まるで回想シーンですね。
見た感じ楽勝ステージっぽいですな。見た感じですけど!
さて、そうこうしてすべてのボスを倒すと、いきなり突然にコングラッチュレーション、ユーウィンって表示されてゲームが終わります。ほんとそれだけ。何か勝ったらしい。エンディングは何の説明もなくスッっと終わります。拍子抜けするぐらいです。この潔さ。惚れ惚れしますね!
そして画面奥から竜みたいなもふもふの猫さんが迎えに来ます。
ボーナスステージで背中に乗ったあいつですね。
ハリアーくんが飛び乗ったら、そのまま画面奥に消えていきます。ゲーム中に出現するキャラだけで構成された省エネエンディングです。
ハリアーくんは猫さんに乗って消えてしまった。
そしてここで! 金ぴかのでかいTHE ENDロゴがでてきました!
金ぴかのタイトルロゴと繋がった感。これでエンディング終わりDEATH。ほんと説明とかひとっ言もねーな。すべてはプレイヤーの想像に委ねる。だがそれがいい。すべてすぎるけど。
これはどういう戦いだったんだ。何とか理解しようとして妄想も働く。そういえば、ボーナスステージでは終わると猫さんからたたき落とされてた。エンディングでたたき落とされないのは、猫さんに何か認められたんでしょうな。うむ、和解した。みたいな。
異次元の異世界度に大満足です。世界観は語らないで見せるだけ、見て理解されるものがすべて! ってのは実にいいものだ。かっこいいよね。真似したい。
<発掘を終えて>
ここまでお読みいただきお疲れ様でした。書いたわたしもお疲れ様でした。
『スペースハリアー』は、あまりにも良くできすぎてました。
評価すべきポイントがたいへん多かったので、発掘品も膨大でしたよ。
他のタイトルではなかなかここまではないかな。
「ゲーム仕様には、必ず理由と必要がある」
ゲームデザインの真髄はこれです。
そして、よくできたゲームからそれを読み取り解読する作業は、本当にタメになる。おわかりいただけたであろうか。
ぼ~っと遊ぶだけではなく、なぜおもしろいのか、なぜそうなってるのか、これらを推測分析して学びとるのです。それを己の血肉として溜め込むのです。
そうすれば、どこの何のゲームとは名指しはしないけど、なんちゃらストライカーみたいな超名作ゲームも簡単に作れちゃうのよ。すごいよね。
最後にもうひとつ。ゲームデザインには、その全体を貫く思想や方針が存在するはずです。
個々の仕様の分析のみならず、そこまで読み取る。
これができれば、ゲームを見る目も大きく進歩すると思います。
発掘調査にゴールはない。私は行く、次なるゲームの新たなる知見の発掘へ。
次回もお楽しみに~!
みんな元気でがんばるんだよ!
©SEGA ©SEGATOYS