ゲームミュージックを通して世界で活躍するドナ・バークさんインタビュー
コンサート活動の今後
――ここ最近は『メタルギア』のコンサートで歌うことが増えていますが、今後の目標は?
ドナ コンサートでの次の目標は、「もっとたくさん曲をやりたい」です。先日のコンサートでも3曲しか歌わなかったから、もっと歌ってみたいですね。「Calling to The Night」(*01)もカバーで披露したいですね。あ、これは半分冗談、半分本気です(笑)
――それは楽しみです。今年は『メタルギア』のワールドコンサートが予定されていますが、海外公演ではどんなパフォーマンスをする予定ですか?
ドナ 海外公演を大規模にやるのは初めてのことですが、コンサートはもう東京公演2回と、大阪公演を経験してきています。
去年(2017年)の東京のコンサートが人生で一番緊張しました。それまで「Sins of the Father」を生で歌ったことがなかったですし、少し体調も良くなかったんです。それを、家族や同僚、会社の人たちが全員見ている前でパフォーマンスするのかと思うと本当に緊張しました。でも、海外なら知っている人がいないので、逆に思い切った気持ちでできると思うので、楽しみたいと思っています。
7月の東京での公演は、緊張感としては普通でした。去年の緊張感を乗り越えてからは楽しめるようになっています。今回、東京での公演を通してより自信を深められたと思います。
過去を振り返らず、今、そして明日を見つめて
▲ドナさんがボーカルを務めるジャズバンド「Ganime Jazz」は前述の「Calling to the Night」ジャズリミックス版を披露している(ドナ・バーク公式チャンネルより)
――バンド「Ganime Jazz(以下、ガニメジャズ)」(*02)では、アニメとゲーム音楽をジャズアレンジして披露されていますが、その内容と始めたきっかけを教えてください。また今後、どのようなコンサート活動を行っていきたいですか?
ドナ 2015年以降、私が挿入歌を歌ったアニメ『東京喰種トーキョーグール√A(ルートエー)』(2015年)、声優や歌手としてかかわった『メタルギアソリッドV ファントムペイン』がリリースされて、新しい何かを作りたいと思い始めました。過去の作品についてばかり語るアーティストになりたくない、と思っています。常に、今何をしているのか、ということを語れるアーティストになりたいと。
ガニメジャズという活動でそれを達成できるので、すごくうれしいと思っています。ガニメジャズは大変個性豊かなミュージシャンの人たちに囲まれて活動していて、また、ゲーム音楽でありながらジャズという新しい境地を切り開いていることがとても新鮮で楽しいです。今月(8月20日)はマレーシアで初コンサートを実現しましたし、2019年はオーストラリアツアーも予定しています。
――ほかのゲーム音楽でドナさんが気になっているものはありますか?
ドナ 実はプライベートであまり音楽を聞くということがないんです…。なぜかというと、仕事で常に音楽を聴いているので、それ以外のプライベートでは音楽から少し離れて、耳を休ませたいと思っているんです。車で長時間運転するときも音楽をかけません。ちょっとヘンなんですけど…。座って鳥の声を聞いたりするのは好きです。
――子どもの頃も水中の無音状態が好きだったとおっしゃっていましたね。
ドナ ガニメジャズのリハーサルは音楽がパワフルで、それをたくさん聞かなくてはならないので、できるだけそれ以外では耳を休めたいですね。でも、ガニメジャズではカバーをやったりするので、アニメの『NARUTO -ナルト-』(2002〜2007年)や『カウボーイビバップ』(1998~1999年)の曲などを聞いたりします。
声優・ナレーターとしても活動を広げる
――ドナさんはアニメ『魔法少女リリカルなのは』(2004年~)シリーズで、インテリジェントデバイス「レイジングハート」の声を担当されていますよね。きっかけは何だったのでしょう? 自分からオーディションに臨まれたのでしょうか?
ドナ 先方から声をかけていただきました。声をあてる前はまったく何も知らされていなくて、 それが人なのかマシンなのか、どんなものかも知りませんでした。(収録スタジオに)行ったら台本があって、読んでくださいと言われてそのまま台本を読んだんです(笑)。
それがまさか数年後「リリカル☆パーティー」(*03)が開催されて、埼玉と横浜アリーナの大舞台で1万2,000人もの観客の前に立つことになるなんて…。「何これ!」という驚きと感動でいっぱいで、作品が大きく成長したことを実感しました。「Stand by ready, set up(*04)」のおかげです!
今となってはファンも世界中にいて、あの時、自分はすごい仕事を任されていたんだなと思いますけど、実際に声を演じていた時は細かいことを教えてもらえず、よく分かっていなかったのです。今はイギリスのファンたちがガニメジャズで行うショーのために東京に来てくれたりもして、『魔法少女リリカルなのは』のサインを求められますよ。
――日本で英語の声優の仕事をすることについてお聞かせください。昔と比べて何か変わってきたことなどはありますか?
ドナ 一番変わったのは、昔はイギリスかアメリカのアクセントでしか声優の仕事はできなかったのですが、今はオーストラリアの英語も使えるようになって、バリエーションが増えたことです。
今の自分にとっては、オーストラリアの英語が武器になっています。これは新幹線のナレーションをしたことが役立ちました。新幹線のナレーションがオーストラリアの英語だったので、そういう業界にいらっしゃる方が「オーストラリア英語=ドナ」という認識を持ってくださり、仕事を頂ける機会が増えました。
――先ほどの『アウトラン2』のときにもオーストラリア英語という話が出ていましたが、アメリカ英語とそんなに違うのですね。
ドナ 有名な日本人の声優さんが、ひどい訛りが強い土地の出身だったと想像してください。その言葉をほかの国の人が聞いて、「ああ、これが日本語なんだ」なんて思ったら、ほかの日本人は、「いやいや、そんな喋り方しないよ!」と言うでしょう(笑) だから私、自分のことを『クロコダイル・ダンディー(*05)』って呼んでるんです。
(一同笑)
――『バーチャファイター4』(2001年/セガ )で初登場したベネッサ・ルイスの声も担当されているそうですね。
ドナ 収録をしたときは映像がなかったため、自分がこのキャラクターの声をやっていたとは知りませんでした。後で誰かに「これはドナの声でしょ」って言われて、「これ私じゃないよ」って答えたくらい(笑)。
――では『ARMS』(2017年/任天堂 )のドクターコイルの声もそんな感じだったんでしょうか?
ドナ ああ、これは最初から私がやったと分かっていました。だいたいゲームの声優の仕事をするときは、ゲームの中身は分からないんですが、『ARMS』のときは映像が用意されていて、映画にアフレコしている感覚になるくらいでした。京都の任天堂に新幹線で行って録音できたことで、1つ夢がかないました。任天堂の人たちはすごく楽しかったです。ボイスをやった後、実際に『ARMS』をプレイさせてもらったら、すごくおもしろかったです。それから、これはオーストラリアのアクセントでやりました。
――依頼が来るときに、最初からアクセントについても指示があるんですね。
ドナ その時はいろんな国籍の声が欲しいということだったので、私から「オーストラリアでもいいですか?」と聞くと、「どうぞ、どうぞ」ということでした。自分が一番のボスになるのは楽しかったですよ。
――今はこういう技の声を入れる、と目で見て分かる状態でしたか?
ドナ そう。大振りのパンチは「ブンッ」とキャラクターの動きを真似するようにイメージして、体全体で声を出していました。
――長年声優のお仕事をされていますが、昔と今で(英語セリフの)収録の仕方に違いはありますか? また、ご自身で声優をする際のスタンスに何か変化はありましたか?
ドナ 台本が良くなったと思います。世界中のファンたちからこの翻訳がおかしいといった情報が集まってきて、台本の言葉が自然に良くなってきていますし、テクノロジーも良くなってきたと思います。
さまざまな分野の人のレベルが上がり、それに伴って声優の力も上がってきたため、トータルで作品としての完成度が高くなってきたと思います。
今、日本のゲームは世界中で遊ばれているので、翻訳力も伸びてきているし、全体的に技術も向上しているので、ボイスアクターのミス1つですごくゲームの質が悪くなるというようなことはないと思います。
――先ほどの「レイジングハート」や『メタルギアソリッドV ファントムペイン』のiDROID(*06)のように、自分の声がグッズとして販売され、ユーザーの皆さんに使ってもらっているということについてはどのような感想をお持ちですか?
ドナ とってもクールだと思います! 以前、ファンの方のために、個人的に専用メッセージをやってあげたりしたこともあります。
――え、それは仕事としてですか?
ドナ いいえ、個人的に。あるファンがすごい勇気を振り絞ってお願いしてきてくれたことがありました。内容は、例えば「お母様からの電話です」とか…。これはオフィシャルのフレーズにもありますが。最近だと、ドイツやロシアのファンに『サイレントヒル2』や『同3』の声でメッセージを作ってあげました。
――すごいですね、うらやましい! 自分だけのメッセージなんて、ファンにとっては2つとない宝物ですよね。では最後に、日本のファンに向けて一言お願いします。
ドナ 私は1997年から日本に住んでいますが、日本にいるのが大好きで、日本に住めることは何よりも素晴らしいとだと思っています。とても美しい近代的な東京の街並みや、田舎の落ち着いた景色も楽しんでいます。
日本人がシャイなのを知っていますが、実は私もシャイなんですよ。とても自信家に見えるかもしれませんが(笑)。たまに日本のファンに会うとき、自分がうるさいんじゃないかと気になります。もし、そうだったらごめんなさい。
シャイなファンの人たちが、ライブ会場で「ハーイ」と声をかけてくれるとき、その勇気を見せてもらえたことに感激しています。皆さんに本当に感謝しています。
※敬称略
ドナ・バーク(Donna Burke)
西オーストラリア出身の歌手、ナレーター、声優、作詞家。歌手としては、『メタルギアソリッド ピースウォーカー』の主題歌「Heavens Divide」や『メタルギア・ソリッドV ファントムペイン』の主題歌「Sins of The Father」が世界中の多くのファンから支持を得たほか、オーストラリア、イギリス、アメリカ英語を駆使してアニメ、ゲーム、アナウンス、CMなどさまざまな方面で声優・ナレーターとして活躍。作詞家としても、他のアーティストやゲーム、テレビドラマに歌詞を提供するなど、マルチな才能を発揮。2016年東京にて結成した「ガニメジャズ」ではボーカルを担当し、ゲーム・アニメ楽曲ファンを魅了している。
脚注
↑01 | Calling to The Night :『メタルギアソリッド ポータブルOPS』のエンディングテーマ。ゲーム本編ではナターシャ・ファローさんが歌っている。ぜひドナ・バーク版も聞いてみたい。 |
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↑02 | Ganime Jazz : 2016年にドナさんを中心として結成されたジャズバンド。ゲームやアニメの曲をジャズ調で演奏する独特のスタイルが特徴。アルバムも近日発売予定。公式サイト |
↑03 | リリカル☆パーティー:2005年の初回開催以降、2018年5月で6回目の開催を迎えた『魔法少女リリカルなのは』シリーズのファンイベント。ドナさんは4回目の2010年さいたまスーパーアリーナ、5回目の2013年横浜アリーナに登壇して、その声を披露した。 |
↑04 | Stand by ready, set up : 主人公・なのはが変身する際にデバイス「レイジングハート」から発声されるセリフ。 |
↑05 | クロコダイル・ダンディー : オーストラリアのコメディ映画(日本公開1987年)。ワニと格闘して生還したという、オーストラリア奥地で暮らす伝説の男「クロコダイル・ダンディー」と、彼に取材を挑んだニューヨーカーの女性新聞記者がドタバタ騒動を繰り広げるというストーリー。それくらい田舎者で訛りもひどいというジョーク。 |
↑06 | iDROID :『メタルギアソリッドV』で主人公スネークが所持している情報端末。ドナさんはこの「iDROID」のシステムボイスを担当した。 |