コンテクストから考えてみる、ゲーセンのマーケティング(ゲーセン女子)後編

ゲーセン女子・おくむらなつこさんに本気で語っていただく「ゲーセンのマーケティング」の第二回目をお送りする。
ゲーセンは、どうすれば再び勢いを取り戻すことができるのだろうか。おくむらさんは、そのためのキーワードこそが「コンテクスト」なのだと語る。
「コンテクスト」とは、「文脈」の意。
前後関係や脈絡、背景などによって、同じ言葉であっても違った意味合いを持ってくる。すなわち、コミュニケーションを成立させるための共通情報とも表現できるだろう。では、その「コンテクスト」をどのように生み出し、そして育んでいけばいいのか。
おくむらさんが今回も熱く綴ってくださった。
「前編」は、こちらからどうぞ。

他業種から学び、業界全体で考え、ユーザーとともに、作る

スターバックスコーヒーのようなゲーセン以外の業種にも目を向けてみると、百貨店、本屋、グッズ店など、「メーカーから強力なコンテンツ(商品)を集めて売る」という「場」はいくつかあります。

ですが、最近こういった「場」であるお店に少しずつ変化が出てきていることに気づくと思います。

例えば本屋では

新刊、既刊
出版社別
作者あいうえお順

で本棚に本を並べ、目的的(*01)に本を買う人のための「検索型」から、

餃子、で棚を作り、
マンガ・雑誌・評論・新刊・既刊・食べる・作る・餃子好きな店員がオススメする本、などジャンルは問わず、餃子に関するものだけでくくって並べる

というような、目的なく本屋で時間を過ごしながら見つける「SNS型」が出てきています。

本屋に足を運ぶことで、店内にたゆたう情報の中からほしい情報が見つかるかもしれない、という「本屋での体験」がプラスされます。

そしてその体験は、新たな本屋のコンテクストを生みます。

例えば、「ゆっくり過ごす」「目的なくお店に入る」などです。

このコンテクストが小さなコミュニティ、例えば「目的なく就業後、一駅歩いて帰る」というコミュニティに追加されると、「本屋で本を買う」というコミュニティだけよりも、情報として本屋に触れる機会は増えます。
「ゆっくり過ごす」「目的なくお店に入る」という小さなコンテクストの積み重ねはそのうち、社会全体から見たときの本屋へのイメージへ変化をもたらし、ひょっとすると「本を買う目的ではなく、待ち合わせ場所として本屋に行く」という、生活者の新しい行動を生むかもしれません。

いかに強力な商品の持つ強力なコンテクストであっても、それひとつでは興味を持ってもらえなかった人を、こういったコンテクストの積み重ねによって「集客できた」「来店者が増えた」という事例です。

PORT24 浜松店
http://www.port24.co.jp/shop/hamamatsu
最新機種からレトロゲームまでオールジャンルを取り揃えた、静岡県浜松市西部地区最大級のゲームセンター。ビデオゲームのみならず、メダルゲーム、プライズゲーム、音楽ゲームなどの他、ビリヤード、ダーツ、食堂まで完備。浜名バイパス(国道1号線)坪井インター降りてすぐ!
このページの写真はすべて、おくむらなつこさま提供

ここからはわたしが考えていることです。

ゲーセンのコンテクストを生んでいけるのはメーカーでも、メーカーが発売するタイトルでもありません。
「ゲーセン」です。
それがゲーセンさんの強みで、ゲーセンが面白いところだと、わたしは思います。

しかし社会に影響を与えられるほどのコンテクストは、どこかのゲーセン1店舗で取り組み、発信するレベルでは生み出せません。
なにせ「社会現象」クラスなのです。
超大企業が一斉に実施すれば、あるいは……いえ、他業界を見る限りそれもできないのかもしれません。
となれば、1店舗ではなく「ゲーセン」全体での取り組まなければなりません。

街中、テレビ、パソコン、スマホ画面などに流れ続ける大量の情報の中で、自分がほしい情報のみをフォローしている生活者に、「自分と同じコミュニティに属している人が、ゲーセンというものについて話している、同じコミュニティなんだから共感できるものに違いない、ゲーセンとはなんだろう?」と、気づいてもらえる。
そういった生活者の気づきを得るためには、当然、彼らの共感を得る必要があります。
親指で情報を上から下に流している情報爆発時代は、伝え方や伝わり方が「感覚」になっているからです。

コミュニティが同じだからこそ体験が伝わる、共感を生まれる、そんなコンテクストが非常に大事です。
共感を生めるゲーセンのコンテクストを発信し、生活者に気づいてもらう。
そんな発信ができるのは、極度に「自分ごと(*02)化」できている人、に限られます。
もう、ファンですよね。
生活者に自分ごと化を促すほど、深く、心の底からゲーセンのコンテクストを自分の言葉で伝えることができるファンの人たちと、その人たちが属するコミュニティ――そういった人たちは、いったいどこにいるのでしょうか。

お気づきのとおり、各ゲーセンにいる、現役のゲーセンユーザーです。

現役のゲーセンユーザーが持っている文脈価値を最大限活かす

ゲームタイトルの機能や性能を転記する(だけ)
ゲームタイトルやプライズの入荷情報を流す(だけ)
ゲーム機の稼働状況を流す(だけ)

これらはとても「正しい」情報ですが、たくさんの情報の波の中では親指が止まるものにはなりません。

「ゲーセンまでわざわざ行ってゲームをすることでしか得られない体験って、どんなものなのか」を、社会(あらゆるコンテクストを持つ細かなコミュニティ)に、あらゆるコンテクストで訴求していくことが必要です。

繰り返しになりますが、ゲーセンの数十年の歴史の中で、新たなゲーセンのコンテクストは生まれていません。

PORT24 浜松店
(写真提供:おくむらなつこさま)

ゲーセンが、ビジネスの枠組み中でビジネスと両立させながら、新たなコンテクストを独自に生み出していくのは相当難しいことで、ましてや1社もしくは1店舗で考え、広めていくのには限界があると思います。
だから、今この時代、この国で生きている人としてゲーセン文化を味わっている、現役のゲーセンユーザーのコンテクストを手に入れることが、ゲーセンが社会への発信力を手に入れる方法の一つだと思うのです。
自分ごと化している現役のゲーセンユーザーと「共に」、かつゲーセンという「共同体」で、一斉に2019年のゲーセンコンテクストを生み出していくことが、必要だと感じます。

そんなものが本当にあるのか疑問でしたら、試しにtwitterで検索してみてください。
情報爆発前には見えなかった「ゲーセンユーザーの持つコンテクスト」が、可視化されています。
これだけのコンテクストがあり、そして「ゲーセンユーザー」たちは各店以外にも、共通で可視化されているのです。
twitterまでいかなくとも、このゲーム文化保存研究所(IGCC)のWebサイトを見てください。
アーケードゲームを作り、遊び、取り組み、今アーケードゲームを現役で愛している人たちが自主的に集まり、ゲーセンユーザーの持つコンテクストを生もうとされていることが、可視化されています。

新たなコンテクストを共に生み、ゲームセンターを文化にできるかどうか。
ゲーセン文化は今、とても面白い地点に差し掛かっています。

ユーザーも含めた業界全体で「共に」考え、取り組み、2019年のゲーセン文化を作っていく。

この時代にユーザーでいられる、そしてゲーセン文化を作るために自分自身も動くことができる、ことに、わたしはとてもワクワクしています!
ゲーセンユーザーのみなさん、ゲーセンのみなさん、「共に」ゲーセン文化を作りませんか。

さてさて。お読み頂いてありがとうございました。
引き続きご教授のほどどうぞよろしくお願いいたします!!

ゲーセン女子(GameCenterGirl)とは

アーケードゲームが大好きで、ゲーセン通いをしているOL2人組です。ほぼ毎日のゲーセン通いを15年続け、巡ったゲーセンは500店(※現存店舗のみ)を超えるようになりました。
プレイ、筐体、雰囲気、店舗設備などを楽しみに、ゲーセンに入りびたってはベガ立ち、たまにワンチャン狙いプレイしている日々です。
わたしたちは、(特定のゲームの攻略や速報などではなく)大好きなアーケードゲームやゲーセン全般をご紹介しながら、文化としての「ゲーセン」をもっと一般的にしたい、日常にしたい、ゲーセン文化を広めたい!と活動中です。

ゲーセンデビューは小学1年生。
それからずっとゲーセンで遊んできました。
中学校でいじめにあい、学校に居場所がなくなった時、救ってくれたのはゲーセンのゲーム仲間。
本名や年齢や職業を知らなくても、趣味が同じなら仲間になれることを教えてくれたのは、その場を提供してくれたのは、ゲーセンでした。

そんなゲーセンは今「閉店ラッシュ」。
2008年に約8200店だったゲーセンが、2015年には約4860店に(※許可を受けた店舗のみ)。
日本のエンタメを文化的に支えてきたゲーセンが、こんなに大好きなゲーセンが、ただただ閉店していくのを黙って眺めていたくはないと思いました。

文化は生き物です。
生活の近くにあって、いつも親しまれ、消費され、育成され、発信されるもの。
つまり文化は生活に寄り添うものだと考えています。
生き物ですから成長しますし、絶滅することもあるでしょう。

残念ながら、今のアーケードゲーム業界は時代に取り残され、生活者にとって身近なものではなくなりました。

「ゲーセン女子」の二人組み。左側が おくむらなつこ さん、右側が えんがわなつみ さん。
(写真提供:おくむらなつこさま)

アーケードゲームは「昔、その時代の人にとって、とても素晴らしい文化だった」。
わたしたちの知っているゲーセンって、幅広い遊び方、幅広いユーザー、幅広い店員さんたちがあって、ゆるくても下手でもガチでもランカーでも、大画面で大音量で思いっきりゲームして楽しむ、そのお店のそのゲームに集まって思いっきり楽しむ、わくわくするコミュニティです。
そんな、ゲーセンコミュニティの笑顔を守りたい。
閉店によってコミュニティを、そして仲間を失うプレイヤーを作りたくない!!!
居場所を作ってくれたゲーセンに、恩返しがしたい!!!
ゲーセンのもつイメージを、コンテクストを、ちょっとだけ変えられる(かもしれない)発信をし、ゲーセンを過ごす場所のひとつに選んでもらえるようにしたい。
そして、そういった「コンテクスト」をゲーセンとゲーセンコミュニティに引き渡せれば、後は、わたしたちが誇り、信じている「ゲーセン」「ゲーセン店員」「ゲーセンコミュニティ(ユーザー)」が、多くの人々を引き込んで、ゲーセンイメージを文化的に変えていってくれると信じています。

わたしたちは本気で、社会へのゲーセンコンテクストの訴求をしています。
考えていきたいわたしたちに、ゲーセンさん! ゲーセンユーザーさん!! ぜひ力を貸してください!
どうぞよろしくお願いいたします!!!

あとがき

全二回に渡ってお送りした「コンテクストから考えてみる、ゲーセンのマーケティング」。
ファンマーケティング支援会社にお勤めのおくむらなつこさんならではの視点で、ゲーセンを盛り上げるために今、何をなすべきかを綴っていただきました。

私たち「ゲーム文化保存研究所(IGCC)」のスタッフたちも、ゲーセンに魅せられ、育ててもらった者たちが揃っています。その活動の原動力となるのは、「ビデオゲームへの恩返し」。
しかし消費税が10%にアップし、ゲーセンの経営はこれまで以上に厳しいものになっていると聞きます。となれば、その恩返しをするのは今、この時なのでしょう。
私たちはひとりのプレイヤーとして、「楽しい」と思ったこと、「ワクワクする」ことを「自分の視点」と「自分の言葉」で、たくさんの人の心に届くよう活動を続けてまいります。

おくむらなつこさんには、今後も定期的に当Webサイトへ原稿をお寄せいただくことになっています。
どうか、ご期待ください。

脚注

脚注
01 目的的行動
一般的には目標指向的行動とほぼ同義。特定の目標への到達を目指してそれに向って行われる行動のこと。
コトバンク: https://kotobank.jp/word/%E7%9B%AE%E7%9A%84%E7%9A%84-397558 より引用。
02 ここでは「他人事」の反対で「自分に関係ある事柄」、つまり当事者意識を持つという意味。

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