「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第五回 コーヒーブレイク

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第五回 コーヒーブレイク
  • 公開日
    2020年05月22日
  • 記事番号
    3006
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、そうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第5回目のテーマは、主にアクションゲームにおいて、ミスをしないようにと集中して遊ぶあまり、疲労をためてしまったプレイヤーに束の間の休息を与え、緊張を和らげる効果をもたらす「ブレイク」の演出です。
今となっては「消えた文化」に近いのですが、ゲーム開発の技法、あるいは文化のひとつとして、特筆すべき一要素であることは間違いないでしょう。それでは、今回も最後までごゆるりとお楽しみください。

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

「コーヒーブレイク」が生み出した至高の演出

一定のステージ数をクリアしたプレイヤーに対し、ご褒美としてアニメーションを流して休息時間を提供する、いわゆる「コーヒーブレイク」という素晴らしいアイデアを真っ先に導入したタイトルと言えば、ご存知『パックマン』(ナムコ/1980年)です。

本作では2面と6面、それ以後は4面をクリアするごとに、主人公のパックマンと敵のゴーストたちが、ゲームの本編とはまったく異なるコミカルなアクションを披露し、なおかつここでしか聞けない曲を流す、「コーヒーブレイク」のシーンが登場します。これによって、プレイヤーに休息を与えるとともに、目と耳でも楽しめる時間を提供してくれます。

「コーヒーブレイク」には、実はもうひとつの重要なポイントがあります。それは、複数のパターンを用意することによって、プレイヤーにとっては「コーヒーブレイク」を見ることが、遊ぶうえでの目標にもなることです

「コーヒーブレイク」が数種類あれば、例えば「今回はコーヒーブレイクを2回見られたけど、次回は3回目が見られるようになるまで頑張るぞ」と目標設定がしやすくなり、挑戦意欲を高めてくれます。また、プレイヤー同士で腕を競い合う際にも、1プレイでコーヒーブレイクを何回見たかどうかで、その比較をすることも可能となります。
(※ちなみに、『パックマン』には全部で3種類のコーヒーブレイクがあります。)

前回もご紹介しましたが、『パックマン』を開発した元ナムコの岩谷徹氏は、著書『パックマンのゲーム学入門』(エンターブレイン刊)、および筆者も取材・執筆を担当したゲーム産業史のオーラル・ヒストリー収集事業によるインタビューにおいて、「当初はプログラマーから『ゲームじゃないものを作りたくない』と大反対されましたが、プレイヤーに有益であり、売上にもつながりますから」と「コーヒーブレイク」の必要性を説き、プログラムを組んでもらったと証言しています。

もしご興味のある方は、下記リンクから岩谷氏のインタビューを無料でお読みいただけますので、ぜひご覧ください。
「一橋大学イノベーション研究センター リサーチ ライブラリ」(岩谷氏のインタビュー)

当時の大ヒット作に取り入れられたということもあり、「コーヒーブレイク」はその後に登場した作品にも数多く導入されるようになりました。同じナムコの作品の導入例には、その続編である『パックマニア』(ナムコ/1987年)をはじめ、『ディグダグII』(ナムコ/1985年)、『ロンパーズ』(ナムコ/1989年)などがあります。

ナムコ以外のタイトルで、「コーヒーブレイク」を導入した有名な作品と言えば、『ペンゴ』(セガ/1982年)が挙げられるでしょう。本作では、2面クリアするごとに「コーヒーブレイク」となり、ベートーヴェン作曲『第九』をモチーフにした曲に合わせて、キャラクターがコミカルなダンスやパフォーマンスを披露します。
筆者も当時、2面クリア後に登場したキャラクターたちが一斉にお尻を振るダンスを初めて見たときには、あまりのおかしさに友人たちと爆笑してしまいました。

また、『ちゃっくんぽっぷ』(タイトー/1984年)では3面クリアごとに「コーヒーブレイク」となり、主人公の「ちゃっくん」だけでなく、敵キャラクターもいっしょになって寸劇を披露し、プレイヤーの目を楽しませてくれます。
一方、『Mr.Do!』(ユニバーサル/1982年)も3面クリアごとに「コーヒーブレイク」となりますが、こちらの演出は1種類だけしかありません。
ですが、「コーヒーブレイク」のたびに直近3面分のクリアタイムと、その達成手段を表示する機能を用意してプレイヤーを楽しませていました。
さらに本作には、10面クリアするごとに合計スコアとプレイ時間、および1面あたりの平均スコアとプレイ時間を表示する演出もあります。

上記の例はいずれもアーケードゲームですが、家庭用ゲームにも「コーヒーブレイク」を取り入れたタイトルはいろいろあります。

多くの家庭用ゲームにはポーズ機能が付いているので、「『コーヒーブレイク』なんて必要ないのでは?」と思いきや、例えばファミリーコンピュータ版の『サッカー』(任天堂/1985年)と『アイスホッケー』(任天堂/1988年)では、ハーフタイム時に前者はチアガールのダンス、後者は製氷車が製氷作業をするシーンがあります。

スポーツゲームにおいては前半、あるいは特定のセット終了後に陣地を入れ替えることがよくありますので、その際に作戦タイムならぬ「コーヒーブレイク」を挟むことで、プレイヤーの頭をリフレッシュできる時間を与えることは、とても理にかなっていると言えるでしょう(※前述の『サッカー』には陣地替えはないのですが……)。

余談になりますが、ファミコン版の『麻雀』(任天堂/1983年)では、ポーズを掛けると画面にティーカップの絵が表示されるようになっていました。
当時の「コーヒーブレイク」の認知度、あるいは浸透ぶりを示すものとして、今となってはゲーム文化・開発の歴史を知るうえでも貴重な一例ではないでしょうか?

「コーヒーブレイク」は見て楽しむだけのものですが、短時間で終了するミニゲームを用意することで、「コーヒーブレイク」と同様の効果をもたらしていたタイトルも、古くからいろいろと存在します。

以下の写真は、『ワイルドウエスタン』(タイトー/1982年)で各ステージをクリアした後に遊べる、空中に投げ上げられたコインを狙い撃つミニゲームです。本作は、主人公のシェリフ(保安官)を操作して、敵のギャングを銃で撃って倒すというゲームですが、このようなミニゲームをステージ間に挟むことで「ブレイク」を演出しています。

ほかにも、一定のステージ数をクリアするごとに、本編とは異なるルールのミニゲームが遊べる例としては、『フリッキー』(セガ/1984年)、『プーヤン』(コナミ/1982年)、『コットン』(セガ/1991年)などがあります。

これらのミニゲームは、たとえミスをしても、主人公のストックが減ったり、ゲームオーバーにならないところが最大のポイントです。ミスによるペナルティを受けないことで、プレイヤーは緊張を強いられることがなく、飲み物やタバコに口を付けながらでも余裕をもって遊ぶことができます。

家庭用ゲームにおいて、ミニゲームを導入したことでおもしろさがぐっと増したタイトルとしては、『スーパーマリオブラザーズ3』(任天堂/1988年)を挙げることができるでしょう。
本作では、前作までの1ワールド4ステージ構成をやめ、1ワールド目から数多くのステージが登場するようになりました。しかも、途中でルートが複数に分岐したり、敵の飛行船が突如出現することもあり、各ワールドの最終ステージへ到達するまでには、旧シリーズ作品よりも多くの時間が必要となります。

そこで本作では、敵と戦いながらゴールを目指す通常のステージとは別に、途中でミニゲームが遊べる場所をマップ上に配置し、プレイヤーの緊張を緩和し、休息が取れるよう配慮されています。
しかも、ミニゲームの結果次第ではパワーアップアイテムや、主人公マリオのストックが増えるなどのご褒美がもらえるので、プレイヤーにさらなるモチベーションを喚起する効果もあります。

また、現在ではほとんど見掛けなくなりましたが、かつては対戦格闘ゲームにもミニゲーム、あるいはボーナスステージが遊べるタイトルが数多くありました。

以下の写真は、『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)のボーナスステージです。本作では、1人プレイ時に全3種類のボーナスステージが登場します。制限時間は1分にも満たないのですが、対戦相手が一切登場せず、失敗してもぺナルティをまったく受けませんので、ここでプレイヤーはひと息付くことができます。

また、今回は画面写真のご用意はできなかったのですが、ミニゲームによる「ブレイク」の演出が絶大な効果を発揮していたジャンルのひとつにクイズゲーム(※特にアーケード版)があります。

クイズゲームにおいては、プレイヤーに対して細かい操作テクニックを要求されることはまずありませんが、それでもしばらくプレイし続けていると疲労感を覚えます。そこで、くじ引きやルーレットなど、簡単なルールのミニゲームを時折遊べるようにすることで、プレイヤーは頭を一時的に休めることができるわけです。

筆者が記憶しているだけでも、ミニゲームが登場するクイズゲームには『ハイホー2』(日本物産/1987年)をはじめ、『苦胃頭捕物帳』(タイトー/1990年)、『ゆうゆのクイズでGo!Go!』(タイトー/1991年)、『クイズ宿題を忘れました!』(セガ/1991年)、『クイズ学問ノススメ』(コナミ/1993年)等々、枚挙にいとまがないほどたくさんあります。

クイズゲームは、アクションゲームのように鋭い反射神経や操作テクニックは特に要求されませんが、それでもしばらくプレイし続けていると疲労感を覚えます。そこで、簡単なルールのミニゲームを時折遊べるようにすることで、プレイヤーは頭を一時的に休めることができるわけですね。

以上、「ブレイクの演出」をテーマにした今回の当コラムはいかがでしたでしょうか?
今回は取り上げませんでしたが、『ギャラガ』(ナムコ/1981年)などの作品において一定間隔で登場する、高得点ボーナスのチャンスが得られる、いわゆる「チャレンジングステージ」の存在も、「ゲームニクス」を語るうえでは欠かせないアイデアでしょう。

ですが、こちらはタイトルによってはプレイ時間が長くなったり、ミスをするとペナルティを受けるため、「ブレイク」の効果がないものが少なからずあることから、今回のところはオミットしました。「チャレンジングステージ」の詳しい内容については、次回以降に機会を改めてご紹介できればと思います。

ことアーケードゲームにおいては、プレイヤーに100円で長時間遊ばれてしまうと、ゲームセンターのビジネスが成立しないという大原則があります。よって時代が進むにつれて、ボーナスステージなどの「ブレイク」の演出を取り入れたタイトルはどんどん減り、今ではほとんど見られなくなりました。冒頭で「消えた文化」と述べたのは、まさにこれが理由です。

なお、「ブレイク」の演出に関する詳しい内容は、サイトウ・アキヒロ教授と筆者の共著、「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)の第2章、「原則3-A-⑧ ブレイクを準備する」に書かれていますので、ご興味がある方はぜひご一読ください。

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