「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第二十八回 ランキング
当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。
第二十八回目のテーマは「ランキング」です。
古くはアーケードゲームのハイスコア、昨今では同時に100人以上が対戦できるサバイバル系ゲームの勝利数など、ほとんどのタイトルにプレイヤーごとの実力を示す指標、すなわち「ランキング」が存在します。
「ランキング」があることで、プレイヤーはただ敵キャラや相手プレイヤーを倒すだけでなく、少しでも良い成績を収めようとモチベーションが自然と高まり、同時にほかのプレイヤーと成績が比較できることで競争したい気持ちも生まれ、ついついゲームに夢中になってしまいます。なので「ランキング」は、多くのゲームにおいて欠かせない要素と言えるでしょう。
以下、今回も筆者の知る限りではありますが、プレイヤーがますますゲームにハマってしまう「ランキング」の仕組みをいろいろ紹介していきましょう。どうぞ最後までご一読ください!
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
ハイスコア「ランキング」に隠されたさまざまな工夫
前述したように、古い時代の「ランキング」と言えば、その日の最高得点を記録したプレイヤーの得点や名前をずっと表示し続ける演出、すなわちハイスコア「ランキング」を指しました。
『スペースインベーダー』(タイトー/1978年)など、初期のタイトルは1位の得点だけを画面に表示していました。ですが、時代が進むと当コラムの第1回のテーマ「ネームレジスト」でも取り上げたように、たとえハイスコアを更新できなくても、上位の得点を獲得したプレイヤーは名前やイニシャルが入力できて、ゲーム―オーバー後にデモ画面で繰り返しハイスコア「ランキング」が紹介されるアイデアが導入されました。
昔のタイトルにはプレイデータをセーブする機能がほとんどなかったため、ハイスコアは電源を切ると必ず消えてしまいます。ですが、とりわけアーケードゲームにおけるハイスコア「ランキング」と「ネームレジスト」の演出は、プレイヤーの競争意識を大いに煽り、ついつい100円玉を繰り返し投入してしまう素晴らしい発明だったように思います。
「ネームレジスト」は、プレイヤー同士で得点の比較さえできれば事足りる演出ですが、さらによく調べてみるとプレイヤーの競争意識だけでなく、「ランキング」に入ったときの感動を高める、さまざまな工夫が盛り込まれていることがわかります。
以下の写真は『バラデューク』(ナムコ/1985年)の「ネームレジスト」画面です。本作は上位5位以内の得点を獲得すると、ゲームオーバー後に名前を書くことができますが、全48ステージをクリアしたプレイヤーに限り、到達ステージの表示が48ではなく、王冠のマークに変わる演出があります。全面クリア時のプレミアム感をより高めることで、プレイヤーはさらに快感が増すというワケですね。
なお、本作と同様の演出は『メトロクロス』(ナムコ/1985年)や『コズモ・ギャング・ザ・ビデオ』(ナムコ/1992年)、『V・Ⅴ(ヴイ・ファイヴ)』(タイトー、開発:東亜プラン/1993年)など、多くのタイトルに導入されています。
こんなプレミアム感あふれる粋な演出ができたのは、当然ですがハイスコア「ランキング」に到達ステージも追記するアイデアがあってこそ……なのですが、このアイデアを最初に導入したタイトルは何だったのでしょうか? あくまで筆者の知る限りですが、全32面をクリアすると到達ステージの表示が「33」と表示される『1942』(カプコン/1984年)が、その最も古い例のひとつです。
BARADUKE™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.
次に、得点とは別の方法で「ランキング」を集計する例をご紹介します。
レースゲームの場合は、得点の代わりに走行タイムで「ランキング」を集計するのが当然かと思いきや、実は古い時代のアーケード用レースゲームはタイムではなく、むしろ得点で「ランキング」を集計するのが普通でした(※ちなみに家庭用でも、ファミコン版の『F1レース』(任天堂/1984年)など得点表示を導入した例があります)。
『マリオカート8』(任天堂/2014年)や『グランツーリスモ7』(SIE/2022年)などのタイトルで、最近レースゲームを遊び始めた皆さんは、おそらく「なんで得点があるの?」と不思議に思ったことでしょう。
どういうカラクリなのかと言いますと、例えば『ハングオン』(セガ/1985年)はじめ『アウトラン』(セガ/1986年)、『スーパーハングオン』(セガ/1987年)のセガ製体感レースゲームは、いずれもゴールすると残りタイム1秒につき100万点のボーナスが加算される仕組みになっていました。つまり「ランキング」自体は得点で集計しますが、速くゴールできるほど高得点になるので、実質的にはタイムアタックをしているのと同じことになります。
また『ポールポジション』(ナムコ/1982年)や『ポールポジションII』(ナムコ/1983年)には、決勝レースでゴールしたときの残りタイムだけでなく、CPUの車を追い抜いた台数や、予選通過時の順位に応じたボーナス得点も加えたうえでハイスコア「ランキング」を集計するアイデアも盛り込まれていました。
©SEGA
ゴール地点ではなく、各ステージまたはチェックポイントを通過した際の所要時間、いわゆるラップタイムを使用して、プレイヤー同士で順位を競うのもレースゲームのおもしろいところです。前出の『ハングオン』では全ステージクリア後に、『スーパーハングオン』では各ステージをクリアした直後に、プレイヤーのラップタイムとその日のベストラップを表示して比較することが可能になっていました。
家庭用の有名タイトル『スーパーマリオカート』(任天堂/1992年)に端を発する『マリオカート』シリーズも、プレイヤー同士の対戦だけでなく、コースをいかに速く走るかを競うタイムアタックモードも楽しめることは、多くの皆さんがご存知のことでしょう。本作はベストタイム、およびベストラップを更新すると、その記録が自動でセーブされます。
ちなみに、シューティングゲームの『レイディアントシルバーガン』(トレジャー/1998年)には、ステージごとにハイスコアを集計する機能があり、たとえ総得点でハイスコア「ランキング」に入れなくても、ステージ記録を更新すれば「ネームレジスト」ができるシステムが搭載されていました。このアイデア、もしかしたらレースゲームのラップタイム集計にヒントを得たのかもしれませんね。
©Nintendo
『マリオカート』シリーズは、Wii版の『マリオカートWii』(任天堂/2008年)で、初めてインターネット「ランキング」の集計機能が搭載されました。自宅にいながらにして、世界中のプレイヤーといつでも腕が競える、まさに夢のようなシステムでした。
以下の写真のように、本作では「ランキング」画面に切り替えると、プレイヤーが国内、または世界中のプレイヤーに対し、どの程度の実力があるのかがひと目でわかるようになっていました。
また本作では、元祖『スーパーマリオカート』の分身(ゴースト)と同様に、「ランキング」1位のプレイヤーの動画を自由にダウンロードして見ることができるのも、プレイヤーの競争意欲を大いに煽る、これまた素晴らしいアイデアですね。
©Nintendo
対戦ゲームに見る「ランキング」の工夫
ここからは対戦格闘ゲームをはじめとする、対戦プレイを重視したタイトルの「ランキング」のシステムをご紹介していきます。
『ストリートファイターII』(カプコン/1991年)の大ヒットを機に、90年代に数多くの作品が登場した対戦格闘ゲームも、実は元祖『ストII』をはじめ、初期のタイトルには得点表示があり、ハイスコア「ランキング」と「ネームレジスト」も用意されていました。
第二十三回~第二十四回の「ボーナス得点」でも説明したように、『ストII』シリーズには必殺技をタイミングよく当てたり、連続技をヒットさせたりすると「ボーナス得点」が加算されるほか、体力満タンで相手をKOするとパーフェクトボーナスが獲得できるなどの素晴らしいアイデアが盛り込まれていました。なので、1人プレイでハイスコアにチャレンジする意味もちゃんとあったのです。
その後、ブームの最盛期に登場した『バーチャファイター』(セガ/1993年)や『鉄拳』(ナムコ/1994年)などのタイトルには、得点表示が存在しませんでした。その代わりに、CPU戦を全面クリアするまでの時間で「ランキング」を集計し、レースゲームと同様にタイムアタックが楽しめるようになっていました。
とりわけアーケード版では、ゲームセンターに集まるプレイヤー間だけでなく、アーケードゲーム専門誌『ゲーメスト』や『マイコンBASICマガジン』などに掲載されていた、全国ハイスコア「ランキング」コーナーを介して、各地のハイスコアラーたちが日々腕を競っていました。
対戦格闘ゲームの評価については、どうしてもプレイヤー同士での対戦がおもしろいかどうかにフォーカスされがちですが、実は『バーチャファイター』『鉄拳』両シリーズなどのように、タイムアタックによる「ランキング」も楽しめた事実は改めて強調しておきたいところです。
ちなみに『月華の剣士・幕末浪漫第二幕』(SNK/1998年)やPS版『鉄拳2』(ナムコ/1996年)などのタイトルには、制限時間内に相手を何体倒せるかを競うタイムアタック、またはサバイバルモードで「ランキング」を集計するシステムも導入されていました。
©SEGA ©SEGATOYS
TEKKEN™2 & ©Bandai Namco Entertainment Inc.
1人でも遊べるとはいえ、対戦格闘ゲームでプレイヤーの腕を比較する際に一番わかりやすい指標は、やはり勝利、または勝ち抜き(連勝)数です。ですから、時代が進むにつれてハイスコアとは別に、対戦プレイでの勝ち星を集計した「ランキング」が登場するのは必然の流れだったと言えるでしょう。
これも筆者が調べた限りではありますが、対戦格闘ゲームでハイスコア「ランキング」と同様に、対戦プレイの連勝「ランキング」を導入した最初のタイトルは『龍虎の拳』(SNK/1992年)です。これと同様の機能は『龍虎の拳2』(SNK/1994年)や『鉄拳』などにも導入されており、また『真サムライスピリッツ』(SNK/1994年)などの『サムスピ』シリーズでは、最多勝ち抜き者のみ「ネームレジスト」ができるようになっていました。
ちなみに、対戦プレイの勝利数「ランキング」の表示は、初期の『ストII』シリーズにはなく、『ストリートファイターIII』(カプコン/1997年)から勝利数「ランキング」も集計するようになりました。また、同じカプコンの『ヴァンパイア』(カプコン/1994年)シリーズでは、ハイスコア「ランキング」の得点と一緒に勝利数を表示していました。
これあくまで推測ですが、対戦プレイの勝利数「ランキング」をSNKがいち早く導入したのは、ひょっとしたら当時のライバル、カプコンとの差別化を図る狙いがあったのかもしれませんね。
©SNK CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED.
また、プレイヤー同士で腕を競う要素ではありませんが『鉄拳』シリーズなどのタイトルには、デモ画面でキャラクター別のプレイヤー使用率「ランキング」をパーセンテージで表示する、ユニークなアイデアが用意されていました。
ほかにも『ギルティギアX』(サミー、開発:アークシステムワークス/2000年)には、全プレイヤーの対戦プレイの勝敗を元に計算した、キャラクター別の対戦ダイヤグラムが表示される機能があります。店舗ごとに、どのキャラが猛威を奮っているのか、逆にどのキャラが苦戦を強いられているのかがわかる、こちらもおもしろいアイデアでした。
TEKKEN™2 & ©Bandai Namco Entertainment Inc.
データセーブ・ロード機能の普及で「ランキング」がより多彩に
前述した『マリオカートWii』などのように、現在ではインターネットを介してサーバーなどにプレイデータをセーブできるようになったことで、日本全国または世界「ランキング」、あるいは月間や年間など期間限定の「ランキング」が集計されるタイトルは、珍しくも何ともない時代になりました。
サーバーなどを介したデータセーブが可能となった結果、インターネットのない時代には存在しなかった、新たな「ランキング」のアイデアが次々と誕生した感があります。
アーケードゲームで画期的な「ランキング」を導入したのが、当コラムでも再三ご紹介している、業界初の全国オンライン対戦を実現した『麻雀格闘倶楽部』(コナミ/2002年)です。本作および本シリーズは、勝敗に応じて獲得できるポイントや「ファイトオーブ」と呼ばれるアイテムの獲得数に応じて、段位が変動するシステムを実装しているのが大きな特徴です。
段位によるプレイヤーのランク付けに加え、一定期間ごとに集計される「ファイトオーブ」の獲得数のほか、リーグ戦や期間限定イベントでの成績を競う「ランキング」も随時開催されており、最新のデータはデモ画面のほか、公式サイトなどでも見ることができます。
本シリーズでは、優秀な成績を収めたプレイヤーには「第1回全国大会優勝」などと特殊な称号が付与されることもあります。獲得した特殊称号は、対局中にプレイヤー名といっしょに表示されますので、自身の腕を他のプレイヤーに大いに自慢できるのも実に嬉しい演出ですね。
©2022 Konami Amusement
このような段位認定、あるいはプレイヤー「ランキング」のシステムは、『クイズマジックアカデミー』(コナミ/2003年)や『バーチャファイター4』(セガ/2001年)など、オンライン対応タイトルに相次いで導入されました。
また『バーチャファイター4』では、携帯電話用の有料サイト『VF.NET』を利用してプレイヤー同士でチームを結成すると、チーム間での成績を競うチーム「ランキング」にも参加できる、こちらも画期的なシステムを導入していました。
このような段位認定システムは、家庭用ソフトの『スプラトゥーン』(任天堂/2015年)シリーズでも「ウデマエ」という名称で登場することは、多くの皆さんがご存知のことでしょう。
©SEGA
現在では『ストリートファイターV チャンピオンエディション』(カプコン/2020年)などのように、公式eスポーツ競技(※本作の競技名は『ストリートファイターリーグ』)が開催されているタイトルは、プロゲーマー同士による公式「ランキング」が公表されるものもあります。プレイヤー自身だけでなく、ファンが観戦を楽しむための演出としても利用されているワケですね。
『ドラゴンクエストX』(スクウェア・エニックス/2012年)などのようなMMORPGでは、ボスの討伐タイムや大富豪、スライムレースなど、プレイヤーに対しさまざまな「ランキング」を提供し、長年プレイしても飽きさせないように工夫しています。
参考リンク:https://hiroba.dqx.jp/sc/public/worldRanking
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ちなみに、インターネットが一般家庭にあまり普及していなかった時代に、インターネット「ランキング」をいち早く導入したタイトルのひとつが、有名音楽ゲームの『ダンスダンスレボリューション(インターネットランキングVer.)』(コナミ/1998年)です。
本作では、ゲームオーバー後に画面に表示されるスコアとパスワードをメモしておき、PCで公式サイトにデータを入力すると「ランキング」に参加できるようになっていました。当時のアーケードゲームの基板にはネット接続システムがなかったので、今の目で見るとかなり手間が掛かる方法ではありますが、24年も前にインターネット「ランキング」を実施していたことは特筆に値します。
シューティングゲーム『式神の城』(タイトー、開発:アルファ・システム/2001年)シリーズも、かなり古い時代から「インターネットランキング」を実施していたタイトルに挙げられるでしょう。本シリーズはアーケードでも家庭用でも、ゲームオーバー後に表示されるパスワードを公式サイトに入力することで参加できる、期間限定の「スコアトライアルキャンペーン」が開催されていました。
昭和の時代には、アーケードゲームは前述の『ゲーメスト』や『マイコンBASICマガジン』、家庭用ゲームのハイスコアは『ファミリーコンピュータマガジン』などでハイスコア「ランキング」を実施し、毎号にわたりプレイヤー同士が腕を競うハイスコアコーナーの記事が掲載されていました。
当時のゲームセンターおよびプレイヤーは、ハイスコアが書かれたハガキや封書を編集部に送って申請し、編集スタッフが手作業で「ランキング」を集計していました。ですから、専門誌を介さなくても集計が可能インターネットの登場は、まさに革命的なことでした。
また90年代以降は、アーケードゲームでもデータをセーブできる基板を使用したタイトルが増え、従来の「ネームレジスト」を利用したハイスコア「ランキング」も、電源を切っても残るようになりました。
データがセーブされることで、高得点を記録したプレイヤーは、その栄誉をずっと称えてくれる優越感に浸れる一方、初心者や発売からしばらく経ってから始めたプレイヤーにとっては、気軽に「ネームレジスト」を体験できる機会が減る弊害もあったように思います。なので「ランキング」を実施する場合は、期間を区切って成績を集計する「ランキング」の存在は、極めて重要に思えてなりません。
改めて「ランキング」システムの推移を振り返ると、やはりビデオゲームの歴史や系譜などを語るうえでは、コンピューターのソフト、ハード両面の性能の変遷も、切っても切れない関係にあることを痛感しますね……。
参考リンク:http://www.alfasystem.net/game/shiki/Result/scoreM.3.1.html
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以上、今回は「ランキング」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?
ちょっとおカタい話になりますが、ゲームの研究者や、勉強熱心な業界関係者の間では有名なロジェ・カイヨワの著書『遊びと人間』では、遊びの基本的原理の1つに「アゴン(競争)」を挙げています。ビデオゲームにおいて、その意識をプレイヤーに煽る演出の最たるものが、まさに「ランキング」であると言えるでしょう。
なので、ハイスコアに端を発したであろう「ランキング」のアイデアは、今後もソフトやハードの進化に合わせて、新しいものがどんどん誕生し続けるように思えてなりません。
なお、「ランキング」についての「ゲームニクス理論」の詳しい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-D-③:スコア(得点)を見せる」や「原則3-D-⑪:発表できる場の提供」などのページにくわしく書いてありますので、興味のあるかたはぜひご覧ください。
それでは、また次回!