「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十四回 シーンリズム

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第三十四回 シーンリズム
  • 公開日
    2023年06月30日
  • 記事番号
    9841
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第三十四回目のテーマは「シーンリズム」です。

前回の「ゲームテンポ」でも少し触れましたが、「シーンリズム」とは「個々の場面(シーン)で感じられる、瞬間的な心地良さ」と、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では定義しています。例えばRPGでは、心地良い「ゲームテンポ」を生み出す構成要素として、ダンジョン内でのバトルや町での買い物、レベルアップ時のイベントなどなど、場面に応じた数多くの「シーンリズム」が用意されています。

同じく、前回の当コラムでも説明したように、本書には「テンポとリズムの有無こそが、エンターテインメント(ゲーム)と非エンターテインメント(学習)の領域を分ける大きな要素」であり、「一方ビデオゲームでは、ユーザーの気持ちに寄り添うように、制作者がリズムとテンポを設定している。これにより没入感が高まり、何時間も夢中になって遊ぶわけだ」とも書かれています。

以下、今回も本書で定めた「原則3-A:ゲームテンポとシーンリズム」をはじめとする各原則を元に、特におもしろい「シーンリズム」の例をいろいろとご紹介しましょう。どうぞ最後までご一読ください!
   

  
「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!

  

文字の表示とSEだけでも生み出せる「シーンリズム」のおもしろさ

心地良い「シーンリズム」を生み出す、原始的な仕掛けのひとつが文字表示の調整です。紙の本や雑誌を読むのとは違って、モニター越しに表示される文字は、表示の仕方を工夫しないとプレイヤーはストレスがたまりやすくなります。

メッセージ表示における、プレイヤーのストレスを解消する仕組みを用意した古い例のひとつが『ドラゴンクエスト』(エニックス/1986年)です。本作では、メッセージの表示スピードが「SLOW」「NORMAL」「FAST」の3種類があり、ある程度プレイ回数を重ねてゲームに慣れたプレイヤーは、表示を「FAST」に設定することで、よりスムーズにゲームが進み、ストレスをためずに快適に遊ぶことができます。

ゲームにおいては、プレイヤーが文章を読みやすくするために、表示する文字の量と方法を調整、工夫することも重要なポイントとなります。例えば、会話シーンで長いセリフを表示する場合には、途中で適度な改行を入れることでぐっと読みやすくなります、また、長文のためページをめくる(※表示中の文章を消す)必要が生じる場合は、文章の途中ではなく、ちょうど「。」が付いた区切りのいいタイミングで改ページをすることで読みやすくなります。

元祖サウンドノベルゲームの『弟切草』(チュンソフト/1992年)は、必ず文章の最後に、ボタンを押すと次の文章に進む場合は三角マークが表示され、ボタンを押すと改ページされる場合は、紙面のデザインのアイコンが表示されます。これらの文章送りシステムによって、プレイヤーはまるで紙の本のページをめくっているかのような、「次のページはどんな展開になるんだろう?」というワクワク感を演出しています。

適度なタイミングでの改行や改ページが入ったり、さらにはボタン入力による文字送りに合わせて背景のグラフィックが変化したりすることで、リズミカルにメッセージを送るという行為自体が快適になり、心地良い「シーンリズム」が生み出されるのです。
   

文章の表示に、BGMやSEをシンクロせることも、快適な「シーンリズム」を演出するためには欠かせません。1文字表示されるたびに単音を鳴らす、あるいは次の文章を表示するための矢印が表示されたときに、ボタンを押すと「ピッ」などという音が鳴るだけでも、プレイヤーの印象はガラッと変わります。

先日 、『かまいたちの夜』(チュンソフト/1994年)のシナリオを手掛けた我孫子武丸氏が、Twitterで以下のような投稿をされていました。文字送りのちょっとした部分にまで、先人たちがいかに工夫していたのかがよくわかりますね。

『ドラゴンクエスト』シリーズなどのRPGやアドベンチャーゲームでは、男性キャラのセリフは文字の表示音が低く、女性キャラと話すときは表示音が高くなるアイデアを導入しているタイトルがたくさんあります。この演出も、例え声優が演じたボイスが入っていなくても、心地良い「シーンリズム」を生み出していると言っても差し支えないでしょう。

以下の写真は、スーパーファミコン版『ファミコン探偵倶楽部Part2 うしろに立つ少女 前編/後編』(任天堂/1998年)です。本作のようなコマンド入力方式の推理アドベンチャーゲームでは、場面によってはジングルが鳴って一瞬だけ文字の表示がストップしたり、文字が「・・・」のときはSEが鳴らず、驚いたり困ったりして言葉が出ない様子を演出したりするなど、プレイヤーの緊張感を高めるアイデアが導入されています。

また『キャプテン翼』(テクモ/1988年)や『ガンパレード・オーケストラ 白の章/緑の章』(SCE/2006年)などのように、セリフをしゃべった人物やシチュエーションによってフレームの種類を変えたり、あるいはフレームそのものを消したりするなどの方法で「シーンリズム」を演出している例もあります。
   

ほかにも、「シーンリズム」の範ちゅうには入りませんが、ノベルゲームのように文章量が非常に多いタイトルの場合は、いわゆる「バックログ」機能がしばしば搭載されます。万が一、プレイヤーが会話の途中で重要な内容を忘れたり、うっかり読み飛ばしたりしたときに本機能が重宝することは、もはやくわしい説明は不要でしょう。

アニメーションを利用した「シーンリズム」の調整

文字の表示だけでなく、アニメーションを利用して心地良い「シーンリズム」を演出するアイデアも、初期の時代から数多くのタイトルに導入されています。

「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では、アニメーションによる「シーンリズム」の演出は大きく分けて2種類あり、そのひとつを「ボタン操作によらず、画面の一部が常にアニメーションするもので、主に『ゲームテンポ』を構成する要因にもつながる、グラフィックをBGMのように用いる方法である」と説明しています。

以下の写真は、プレイステーション2版『ことばのパズルもじぴったん』(ナムコ/2004年)で、ボタン操作によらず常にアニメーションする演出を盛り込んだ一例です。本作では、ステージ選択時に画面上部の文字とカーソルを常時アニメーションで動かすなどの方法で「シーンリズム」を演出し、またポーズ中はメイン画面を暗くしてポーズメニューを目立たせる工夫もしています。
   

アニメーションによる、もうひとつの「シーンリズム」の演出方法を、書籍「ビジネスを変える『ゲームニクス』」では「プレイヤーのボタン操作によってアニメーションが開始され、これによって『シーンリズム』が演出されるため、SEを使用するのと同様の効果が生じる」と解説しています。

例えば『マリオパーティ』(任天堂/1998年)シリーズなどのテーブル(パーティ)ゲームでは、ユニット(プレイヤーキャラクター)が分岐点に到達すると、選択可能なルートを示す矢印がアニメーションするのが定番の演出となっています。

また『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』(任天堂/2011年)では、主人公リンクの立ち位置や状況に応じて、コントローラーの操作方法や行動可能なアクションをアニメーションで教えてくれる、ヘルプ機能も兼ねた演出があります。
   

UI、ビジュアル、音楽をシンクロさせた「シーンリズム」

第十二回の「ゲーム音楽」でも紹介しましたが、主人公や自機がパワーアップしたときにBGMが変わるなど、音楽を利用してプレイヤーのテンションを大いに高める演出も典型的な「シーンリズム」の一種です。『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂/1985年)で、マリオがスーパースターを取って無敵状態になるとBGMが変わるなど、その例は数えきれないほどたくさんあります。

加えて、プレイヤーがレバーやボタンを押したり、あるいは画面をタッチ、フリックしたりなどのアクションに合わせて、グラフィックや音楽がシンクロするとさらなる快感を演出します。

その古典的な演出の代表例が、主にシューティングゲームなどに登場する、発射すると広範囲に爆風が広がり絶大な威力を発揮する、いわゆるボンバー(ボム)による攻撃です。

ボンバーのアイデアを最初に導入したと言われているのが、アーケード用シューティングゲームの『タイガーヘリ』(タイトー、開発:東亜プラン/1985年)です。本作ではボンバーを放つと、ヒューンという投下中のSEが少し流れてからドカーンと大爆発し、周囲の敵をあっという間に一掃することで、プレイヤーにこの上ない快感をもたらしてくれます。

『タイガーヘリ』の後に登場した、『TATSUJIN』(タイトー、開発:東亜プラン/1988年)や『達人王』(タイトー、開発:東亜プラン/1992年)、あるいは『マクロス』(バンプレスト/1992年)などのタイトルでは、ボンバー投下中のSEもアニメーションもなく、ボタンを押すと瞬時に爆発して効果を発揮する仕組みになりました。例え投下の演出がなくても、ボタンを押す動作と爆発時のSE、アニメーションとが見事にシンクロした「シーンリズム」を演出しています。

さらに『ダライアス外伝』(タイトー/1994年)では、画面内の敵と敵弾をまとめて渦巻き状に吸い込んでから炸裂する、その名もブラックホールボンバーという斬新なアイデアを導入し、従来のボムとはまた違った快感を生み出しています。
   

ボタン操作とビジュアル、SEが見事にシンクロした「シーンリズム」によって、ゲームが一段とおもしろくなった例として絶対に忘れてはいけないのがゴルフゲームです。その中でも、ファミコン版の『ゴルフ』(任天堂/1984年)に初めて実装された、ボールを打つときの操作方法および「シーンリズム」は、歴史的な発明であると言っても過言ではありません。

本作では、ボタンを1回押すとバックスイングが始まり、もう1回押すとトップの位置が決まり、さらにもう1度ボタンを押すとボールを打つ、某有名マンガのセリフに例えた「チャーシューメン方式」が初めて導入されました。操作に慣れるまでは少々時間を要しますが、「1(チャー)、2(シュー)、3(メン)!」とボタンを押すリズムがとても心地良く、しかもボタンを押すタイミングによって、ボールの飛距離や軌道(フックまたはスライス)を調整できる、非常に優れた「シーンリズム」を生み出しています。

本作の登場を機に、「チャーシューメン方式」は任天堂作品に限らず、『みんなのGOLF』(SCE/1997年)シリーズを筆頭に多くのゴルフゲームに導入されたことからも、いかに素晴らしい発明だったのかがおわかりいただけるでしょう。
   

『パラッパラッパー』(SCE/1996年)や『ビートマニア』(コナミ/1997年)などの音楽ゲームのなかった時代に、プレイヤーのアクションに対してBGMをシンクロさせる、おもしろいアイデアを導入していたのが『スーパーマリオワールド』(任天堂/1990年)です。

本作では、マリオがヨッシーの背中に乗ると、BGMにリズムパーカッションの音色が加わり、逆にヨッシーから降りるとリズムパーカッションが鳴り止む仕組みになっています。今の目で見れば単純なアイデアかもしれませんが、ヨッシーを仲間に加えることに成功したプレイヤーのテンションを高める、とても良い演出だったように思います。
   

以上、今回は「シーンリズム」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

普通にゲームを遊んでいるだけでは気がつかない、文字の表示やSEの細かい部分にまで工夫を凝らす、開発者の皆さんのこだわりぶりにはただ敬服するばかりです。見た目はけっして派手ではありませんが、ゴルフゲームにおける「チャーシューメン方式」も、ボタンをリズム良く押すことでゲームがますます楽しくなる、「シーンリズム」の演出における傑作中の傑作であると筆者は思います。

繰り返しになりますが、「シーンリズム」に関する「ゲームニクス理論」のくわしい解説は、筆者とサイトウ・アキヒロ先生の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則3-A:ゲームテンポとシーンリズム」などのページに書いてありますので、興味のあるかたはぜひご覧ください。

それでは、また次回!

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