「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十五回 分岐

  • 記事タイトル
    「ゲームニクス」で考えるゲームの魅力 第四十五回 分岐
  • 公開日
    2024年07月26日
  • 記事番号
    11616
  • ライター
    鴫原盛之

当コラムでは、「ゲームニクス理論」をもとに、なぜゲームがおもしろくなるのか、どうしてプレイヤーはゲームに夢中になってしまうのかを、おもしろおかしくご紹介していきます。

第四十五回のテーマは「分岐」です。

第十五回の「追加ステージ」では、特定の条件を満たすと隠しルートなどが出現する例をご覧いただきましたが、今回は通常のルールとして、「分岐」による複数の攻略ルートが用意されたタイトルに絞ったうえでのご紹介となります。

途中で「分岐」するおもしろさを、最もわかりやすい形で実装しているのが、『弟切草』(チュンソフト/1992年)をはじめとするノベルゲームになるでしょう。

ノベルゲームの多くは、途中で複数の選択肢が表示されるシーンが出現し、プレイヤーがどれを選択したのかによって、その後の展開もエンディングも「分岐」することで、プレイヤーが何度も繰り返し遊べるように工夫されています。
 

「分岐」が登場するのは、もちろんノベルゲームに限ったお話ではなく、古くからいろいろなタイトルに導入されています。以下、今回も筆者が思い付く限りとなりますが、さまざまな「分岐」の使用例をご紹介しましょう。ぜひ最後までご一読ください!
 

「ゲームニクス」とは?
現亜細亜大学教授のサイトウ・アキヒロ先生提唱による、プレイヤーが思わずゲームに夢中になる仕組みを理論・体型化したもの。
本稿では、「ゲームニクス理論」を参考に、ありとあらゆるゲームのオモシロネタをご紹介していきます。「理論」というおカタイ言葉とは正反対に、中身はとってもユルユルですので、仕事や勉強の休憩時間や車内での暇つぶしなど、ちょっとした息抜きにぜひご一読を!
 

ステージクリア時にルートが「分岐」するアクション系ゲームの例

まずは、ノベルゲームが登場する以前の古い時代に登場した、アクション系の有名タイトルから「分岐」の例をご紹介します。

アーケード用レースゲームの『アウトラン』(セガ/1986年)は、全5ステージをクリアするとエンディングを迎えてゲームオーバーとなりますが、ステージ1~4の最終盤には必ず左右にルートが「分岐」する場所が出現します。

本作は左右2ルートに「分岐」することで、プレイヤーは全部で16通りの進みかたでレースを楽しむことができます。また本作では、最後にゴールしたステージによってエンディングの演出が、それぞれ異なるアイデアが導入されていた点でも特筆に値します。

本作と同様に、次のステージが2つのルートに「分岐」するシステムは、『ダライアス』(タイトー/1987年)シリーズをはじめ『ナイトストライカー』(タイトー/1989年)や『パズルボブル』(タイトー/1994年)シリーズなど、多くの導入例があります。
 

2ルートだけではなく、ステージによっては3ルート以上の「分岐」が出現する、複雑なステージ構造を導入していたのが、アーケードゲームでは珍しいアクションRPGの『イシターの復活』(ナムコ/1986年)です。

本作は、各ルーム内に配置された鍵を取って扉を開き、中に入るとステージクリアとなって次のフロアに進む仕組みですが、多くのフロアには、鍵と扉が複数用意されており、扉によって次に進むステージがそれぞれ異なります。

本作のプレイヤーに課された目的は、最終ステージのステージ128をクリアすることですが、扉がたくさん登場して多くのルートに「分岐」することで、ステージ128に至るまでのルートは無数に存在します。

同様に、ファミコン用アクションゲームの『アトランチスの謎』(サン電子/1986年)も、最終のステージ100までの間に、ルートが複雑に「分岐」するアイデアを取り入れています。
 

ちょっと変わった「分岐」のアイデアを導入していたのが、ファミコン用縦スクロールシューティングゲームの『頭脳戦艦ガル』(デービーソフト/1985年)です。

本作の1~12ステージにあたる地底エリアは、ステージの最終盤で『アウトラン』と同様に、左右2つのルートに「分岐」が出現します。「分岐」地点で右を選ぶと、次のコアエリア(13ステージ以降)への近道となる高難度のステージに、左に行くとコアエリアまで遠回りになる分、難度は低めのステージに進む、実にユニークなシステムを導入しています。

ちなみに本作の地底アリアは、ずっと右ルートに進むと1、4、7、12ステージの合計4ステージをクリアすればコアエリアに進めますが、逆にずっと左ルートに進んだ場合は、コアエリアに進むためには1、2、4、6、8、10、11ステージの合計7ステージをクリアする必要があります。

アーケード用シューティングゲームの『ギャラガ’88』(ナムコ/1987年)は、まれに出現するカプセルを2個取った状態で特定のステージをクリアするごと自機がワープし、別ルートに進む「分岐」が発生します。ワープに成功すると高得点のボーナスが加算されますが、ワープするごとに高難度のステージに「分岐」するという、これまたおもしろいアイデアを取り入れています。
 

ゲームの途中でルートが「分岐」するおもしろさ

RPGにも、冒頭でご紹介した『弟切草』と同様に、冒険の途中でプレイヤーが選択した会話や行動などによって、その後のシナリオやエンディングが「分岐」する作品がたくさんあります。

例えば『真・女神転生』(アトラス/1992年)は、プレイヤーの行動によって「LAW(ロウ)」「CHAOS(カオス)」「NEUTRAL(ニュートラル)」の3ルートに「分岐」することで有名です。

シミュレーションRPGの『タクティクスオウガ』(クエスト/1995年)は、第1章と2章のクライマックスの場面で出現する選択肢によって、第3章で「LAW」「CHAOS」「NEUTRAL」の3ルートに「分岐」します。最終章となる第4章は、全ルート共通のシナリオに合流しますが、プレイ内容によってエンディングが複数に「分岐」する、実におもしろいアイデアが導入されています。
 

実はアクションゲームでも、同じステージ内にルートが「分岐」する場所を設けることで、プレイヤーに複数の攻略パターンを考えさせる、あるいは冒険できる場を増やし、ゲームをよりおもしろくしたタイトルもたくさんあります。

その最も原始的な例としては、第八回の「ハイリスク・ハイリターン」で紹介した、『ドンキーコング』(任天堂/1981年)の3面(※ファミコン版は2面)で、リフトを利用した連続ジャンプして近道を進むか、あるいはリスクを避けて遠回りするかの2ルートに「分岐」するステージデザインが挙げられます。

また、ベルトスクロールアクションRPGの『D&D タワー・オブ・ドゥーム』(カプコン/1994年)は、1面などで2つの選択肢が出現する場面では、選択肢によってその後のマップも敵の出現パターンも、それぞれまったく異なるルートに進む仕掛けが用意されています。本作のような「分岐」のシステムは、前述した『ドンキーコング』の発展形と言えるかもしれませんね。

1面から、いくつもの「分岐」が用意されているのが『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』(セガ/1991年)です。

本作は、1面から右(横方向)だけでなく、上下にも広大なマップが用意されています。ルートがたくさん存在することで、本作は最短距離を真っすぐ進んでゴールを目指すだけでなく、時には遠回りして1UPなどのアイテムを取ったり、リングをたくさん集めたりするなど、プレイヤーの腕やその時々の気分に合わせて、さまざまな楽しみかたが用意されています。
 

「分岐」を利用したアイデアいろいろ

ここからは、ちょっと変わった「分岐」のアイデアを盛り込んだタイトルをご紹介します。

アーケード用アクションゲームの『バラデューク』(ナムコ/1985年)は、ステージ内にいる「オクティ」と呼ぶ敵を全滅させてから、ゲート(出口)に入るとステージクリアとなるアクションゲームですが、一部のステージに2つのゲートが用意されています。

本作は、ゲートが2つあるステージをクリアすると、次のステージのスタート地点が選択したゲートによって変わる特徴があります。つまり本作は、ゲートを複数用意することでプレイヤーに対し、どちらのゲートを通れば次のステージが攻略しやすくなるのかを考えさせているワケですね。
 

あくまで筆者の私見ですが、「分岐」のおもしろいアイデアを取り入れた数あるタイトルの中でも特筆したいのが、シューティングゲームの『レイディアントシルバーガン』(トレジャー/1998年)です。

本作のステージ構成は非常に変則的でステージ3からスタートします。このステージ3はA~Eの5エリアで構成されており、最後の3Eをクリアすると、今度はステージ2またはステージ4のいずれかを選択する「分岐」が発生します。加えて、ステージ2のBエリアでは途中で狭い通路に進入すると、敵を倒すことでより高得点の稼げるルート、もしくは(ほぼ)ミスが確定してしまうようなルートに「分岐」する場面が繰り返し登場します。

シューティングゲームに、ステージクリア後の「分岐」と同一ステージ内で「分岐」する両方のアイデアを取り入れ、繰り返しやり込める要素を盛り込んだ本作は、まさに「分岐」のハイブリッドですね!
 

以上、今回は「分岐」をテーマにお送りしましたが、いかがでしたでしょうか?

プログラマーが実装する際の手間はさておき、極めてシンプルなアイデアでありながら、攻略ルートを「分岐」させるだけでも、遊びの幅が大きく広がることが、改めておわかりいただけたのではないかと思います。

なお「分岐」のよりくわしい内容は、サイトウ先生と筆者の共著「ビジネスを変える『ゲームニクス』」の「原則4-D:習熟度に応じて内容を変える」の項などで解説していますので、興味のある人は本書をぜひご覧ください。

それでは、また次回!

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