「イチハラ指揮者の“カレー”なる日々」第8回 *「オホーツクに消ゆ」の音楽を紹介するんダーッ!*

  • 記事タイトル
    「イチハラ指揮者の“カレー”なる日々」第8回 *「オホーツクに消ゆ」の音楽を紹介するんダーッ!*
  • 公開日
    2020年08月21日
  • 記事番号
    3338
  • ライター
    イチハラ指揮者

元気ですか! 元気があれば何でもできる。元気があれば珍しく音楽のレビューもできる!

突然ですが、皆さんは殺人事件を解決したことはありますか?
私はあります。驚きましたか?
でも、誰にでもできるんです。そう、ゲームの中ならね。

オホーツク消ゆに関する基本的なお話

今回取り上げるのは『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』ファミコン版(以下『オホーツク』)です。

まず簡単にゲームについておさらいしておきますと、元々は1985年にPCソフトとして発売された、今で言うオーソドックスなアドベンチャーゲームです。
オーソドックスというのも、本作の前までは「いく」とか「しらべる」とかのコマンドを直接キーボードを打って文字で入力せねばならず……という話は本筋からずれるので割愛しましょう。

シナリオは泣く子も黙る堀井雄二さん。『ドラゴンクエスト』が生まれる前の作品であります。
本作の前が、かの有名な『ポートピア連続殺人事件』(以下『ポートピア』)、本作の次が『軽井沢誘拐案内(以下『軽井沢』)』と立て続けに制作され、堀井ミステリー三部作などとも呼ばれております。

私は『軽井沢』だけプレイしたことがありません。
というのも『軽井沢』はPC以外に移植されなかったんですね。
そうなると、当時はゲームが大好きな大人くらいしかプレイする環境がないわけで、私などは存在すら知りませんでした。

そんなわけで『ポートピア』と『オホーツク』はファミコンでプレイしたことがあったのですが、クリアには至りませんでした。両作とも雰囲気が怖くて、進められなかったんですね。
『ポートピア』は音楽がまったくなくて怖い。逆に『オホーツク』は音楽が怖かった。
今にして思うと真逆の理由ですね。

そんな私も大人になり、改めてクリアすることができました。
『オホーツク』は名作ですね。音楽もグラフィックも高品質で、ゲームとしての完成度が高いです。
あれほど怖かった音楽も大好きになりました。今回はそんな『オホーツク』の音楽を、サウンドトラックと共にご紹介したいと思います。

サウンドアドベンチャー『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』

1987年にサウンドトラックがリリースされましたが、後に廃盤。
ただ、ゲームと音楽の根強い人気は衰えることがありませんでした。
「たのみこむ」というサイトでサウンドトラック再販に向けての支持が集まり、2002年に1,000枚限定で復刻が決定したのですが、私は何と、その時に購入していた1,000人のうちの一人なのでした。
ゲームをクリアしてないのに。
(関係ないですが、「たのみこむ」って、今でいうクラウドファンディングの先駆けのような気がしますね)

このCDは2枚組になっており、DISC1にアレンジ版が、DISC2にはオリジナル音源が収録されています。商品構成としては隙のないものとなっていますが、不満点がないわけでもありません。

というのも、アレンジ版のアレンジそのものが全曲手放しで喜べるわけではないというのが一点。そして、これは多くの人が感じたと思いますが、オリジナル音源が1ループしか収録されていません。
ゲームのサウンドトラックといえば2ループが定番ですし、この当時のゲーム音楽は1ループが短いものがほとんどですので、鑑賞するには物足りないと言わざるを得ません。
収録時間にも余裕があるのに、なぜ1ループで終わらせてしまったのかという部分は疑問が残ります。

それでは1曲ずつ堪能していきましょう。

1. オープニング テーマ

これ! これがすべての元凶! 怖すぎる! カセットを差し込んで電源をパチッと入れると同時に流れてくるこの音楽。怖すぎでしょう。こんな怖いゲームできるかよ! と諦めてしまうのも無理はありません。
でもね、最後までプレイすると最高に味のある音楽に変化するのです。
もう35年も前のゲームなのでネタバレ前提で話を進めてしまいます。嫌な方は次の段落を飛ばしてネ。

この曲が流れるのはオープニング画面だけかと思いきや、北海道で事件を解決して東京に戻ってきた後のデカ部屋、ゲームとしては最終操作を行う場面で流れるんですね。
この音楽をバックに操作ができるとは思っていなかったですし、捜査開始からの出来事が脳内をフラッシュバックして、ガツンとやられました。見事な演出だと思います(そういった意図だったのかはわかりませんが)。
今では大好きな曲です。名曲!!!

怖いよね。

で・す・が! マイナス点もはっきり言ってしまうのが私の性分なので言ってしまいますが、これサントラだと間違ってますよ、多分。
まずオリジナル音源についてですが、いきなり主旋律から始まっています。
ゲーム内ですと、2小節のイントロ(といっても和声のみですが)があった後に主旋律が入ってくるのですが、サントラだといきなり主旋律から始まります。
再生した瞬間、あれっ!? と思った方も多いはず。収録時のミスではないかと思われます。
サントラ制作前にゲームを起動したり、プレイした人が収録に立ち会っていればわかることだと思うのですが……。
もしくは、サントラ収録音源こそが元々意図した音楽で、ゲームに使用するときにミスが発生したのかのどちらかでしょう。

アレンジ版はさらに疑問ばかりです。イントロはあるのですが、4小節に引き伸ばされています。2小節ですと若干肩透かし的な感じもあったので、これはアレンジとしてはありだと思います。
大問題はその先で、イントロが終わった後の主旋律。いきなり音が違います。原曲は”C#-F#”で下降する音形ですが、アレンジ版は”E-A”で上昇音形に変わっているうえ、調が違います。

原曲とアレンジ版の比較。

こうなると、もはや別の曲です。
誰かが唄うわけではないのに、どうして調を変える必要があったのでしょうか。調というのはその曲を構成する重要な要素であり、相応の理由がなければおいそれと変更してはならないというのが私の持論ですので、なおさら不満が募ります。

それに、この曲はイントロで提示される、悲しげで心細い、少し高い音域のベースがミソだと思っているのですが、アレンジ版はいきなりキーボードで和声を弾く構成となっており、完全に昭和歌謡な雰囲気になってしまっていると感じます。いや、昭和のゲームではあるのですが……。
さらには途中にギターソロが入ったりと、これ何のアルバムだったっけ……? と、思わずジャケットを確認してしまいました。
サウンドトラックのアレンジ版ですよと伝えず、この曲をオホーツクのオープニングだと認識できる人はどれくらいいるのかなと思ってしまいます。

そんなわけで、アルバムの顔である1曲目からちょっと残念な感じな幕開けとなっております。

と、こんな具合で書いていたら連載が何回あっても終わらなそうな予感がしますが……ペースアップしつつ全曲ご紹介していきたいと思います。

ところでですね、このCDのクレジットを見る限り、アレンジ版はどうやら藤原いくろうさんのアレンジのようなんですよね。
藤原いくろうさんと言えば、『ウィザードリィ外伝』で素晴らしい音楽を手掛られたかたで、ゲーム音楽とは無縁ではありません。『ウィザードリィ』といえばNJBPの公演で取り上げたタイトルですね。

また、私が昨年NHKの番組でX-JAPANのYOSHIKIさんのバックオケで出演させていただいたときに指揮した「ANNIVERSARY」という曲のアレンジもされていたようでして、ここ2年ほどでお名前を目にする機会が急に増えており、妙なご縁を感じます。

ともかく、超一流のミュージシャンであることは間違いありませんので、そのアレンジに文句をつけるということは、藤原いくろうさんに私ごときが喧嘩を売っているような気がして恐れ多いのですが、誰がアレンジしたとか関係なく素直に思ったことですので、正直に突っ走ってみようと思います。
突然連載が終わったら、何かあったのだと思ってください。

それではまた次回!
読めばわかるさ、ありがとーっ!

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