月が綺麗な秋の夜には、永遠のファミレス「ムーンパレス」へ。ドリンクバーだってあるんだ。『ファミレスを享受せよ』
いい感じの遊び心地
いい感じのポップさ
いい感じのカジュアルなビジュアル
いい感じの2Dドットなゲームも豊富
いい感じの重すぎない&軽すぎないゲームらしさ
「発見! インディーゲーTreasures」は、
そんな“ちょうどいい感じ”なインディーズゲームを紹介していく月イチ連載です。
今回ピックアップした1本は、こちら。
『ファミレスを享受せよ』!
タイトル:『ファミレスを享受せよ』
開発元:月刊湿地帯 Studio Dragonet
パブリッシャー:Waku Waku Games
リリース日: 2023年8月1日
価格:1,500円
配信プラットフォーム:PC(Steam)/ ニンテンドースイッチ版は今秋発売予定
魅惑の空間“ファミレス”。
友だちとくだらない話をいつまでもしていた青春の場、
ドリンクバーで未知の味を求めてミックスチャレンジしてワイワイしたり、
一人気分を変えて受験勉強をしたり。
多くの人の心に存在しているファミレスという光景。
そんなファミレスの、どこか懐かしくて、どこか異空間な味わいが、たっぷりとセンス抜群に込められたアドベンチャーゲーム。
それが、この『ファミレスを享受せよ』です。
『ファミレスを享受せよ』は、永遠のファミレス「ムーンパレス」に迷い込んだ主人公となって物語を辿っていくアドベンチャーゲーム。
部屋で試験勉強をしていた主人公は、ふと見上げた窓の外に綺麗な月をみて、ファミレスへ行くことに。
初めて訪れた、深夜もやっているファミレス・ムーンパレス。
席に案内されて注文をして。すべてが普通の光景。
……だったはずなのに、いつまで待っても注文はこない。ふと気がつくと店内の様子は変わっていて、そこは出口も入口もなく、自分と数名の客だけがいて店員は見当たらない。
そして、永遠に時だけが流れていく。
謎のファミレス“ムーンパレス”だったのです。
『ファミレスを享受せよ』は画面内をクリックして調べたり、店内の先客と話題を選択して会話するという、シンプルな選択型アドベンチャーゲーム。
物を調べたり客との会話によって新たな会話の選択肢が増えることもあります。
店内にいる数名のお客さんたちは、みな自分よりも前からムーンパレスに閉じ込められている、いわば先輩たち。
主人公はひとまず状況を知るために、先客たちに自己紹介しつつ会話をしていくのですが……次々に、ムーンパレスの異質さ、状況の異常さを知ることになります。
ムーンパレスというファミレスは一体、何なのか?
閉じ込められている彼らは、過去に何があったのか?
……なあ君、ファミレスを享受せよ。
「享受」は「受けいれて自分のものにする」という意味。
ドリンクバーだってあるんだ。
みんなドリンクバーが大好きで、ドリンクバーもみんなのことが大好き。
時が止まったように静かな店内。わずかな先客さんたちは動き回るでもなく、自分の席でそれぞれに時を過ごしている。
まるで、深夜の一番深い時間帯のファミレスの光景がずっと続いているかのよう。
ムーンパレスにいる他の客たちは、みな物静かで気だるげ。異常な状況に慌てている主人公……というかプレイヤーとは打って変わって、彼らはみな静かだ。
どうして彼らは慌てていないのか? それもまた、彼らと会話することでわかっていきます。
本作のスクリーンショットを1枚、ふと見ただけで「おっ」と反応した人もいるかと思いますが、
本作の魅力は、まさにそのビジュアルに代表されるテイストであり雰囲気の良さ。
イエローとブルーグリーンに彩られたビジュアルは、満月に照らされた夜の世界のようで、味わいのあるイラストベースな光景やキャラクターたちを、異世界の夢の世界のように、魅力的に見せてくれる。
ときおり挿入されるBGMは8bit風で、ホッとするような懐かしさとともに、どこか、怖さも伝えてくる。
アドベンチャーゲームとして大切な“会話テキストのクオリティ”は本作の魅力の中でも特に優れていて、キャラクターそれぞれの性格が見えてくるような言い回しや言葉を、短めなセンテンスでテンポよく広げていきます。
自然な受け答えで、少し気だるげで、でも冷たいとは思わせない。彼らが置かれている状況ゆえのくたびれた精神状態が伝わってくるような、独特な味わいをうまく伝えてくるテキストになっています。
永遠に続くファミレス。
エモーショナルなビジュアルとサウンド。
心地よい非現実。
それぞれのキャラクターが語る、少し気だるげな言葉たち。
次第に明らかになっていく物語にその先への想像力を掻き立てられ、
途中には、不気味さや恐ろしさも感じながら、
それぞれのキャラクターたちの、そしてムーンパレスの物語を味わっていく。
本作は約3時間ほどでエンディングまで到達するぐらいの軽めに味わえるボリューム。
それでいて、一度プレイして理解度が高まった上で再プレイすると、より細部が見えてくるところもあり、テキストや見せ方のクオリティの高さを再確認できるものになっています。
少し肌寒くなってきた秋の静かな夜に、
特に月がキレイな夜に、ボーっと浸るようにプレイすると、
心の奥底で“ファミレスを享受できる”ことでしょう。
現実にいながら見る夢のような、深海に溶けていくような。
良質なセンスを持つインディーゲーム特有の味わい深い時間をぜひ。
……なお、ゲーム中にもサウンドギャラリーモードがありますが、作者の月刊湿地帯(おいし水)さんは自身のYoutubeチャンネルで公開されているので、まずはこちらから。そしてゲームと共にサントラも。
Ⓒ 月刊湿地帯 / oississui.
Developed by Studio Dragonet.
Published by Waku Waku Games.