カプコン『ラッシュ&クラッシュ』発掘報告書 後編
2022年、世界は『カプコンアーケード 2ndスタジアム』の配信開始で歓喜の涙に包まれた!
多くの名作ゲームが配信され、すべてが遊び倒されたかに見えた。だが、人類はまったく飽きていなかった!
オレは発掘神拳正統伝承者パパラ・ツボシロウ。ゲームデザイン発掘隊の隊長として、いにしえの名作ゲームを調査し、そのゲームデザインの優れた秘孔……つまりツボを発掘し世に知らしめていくため、この世界を旅している。
そして今、『カプコンアーケード 2ndスタジアム』に収録された名作『ラッシュ&クラッシュ』の発掘調査を指先ひとつで行なって、こうして報告を続けているというわけだ。
今回はその後編となる。待て、前編をまだその目で見ていないならば、この秘孔URLを突くがよい。
■前編はこちら
この発掘隊のシリーズ記事は、過去の名作古典ゲームを掘り起こし、その名作たる素晴らしきゲームデザインを調査、現代のゲームデザインにも活かせるであろう埋もれた知見=ツボを発掘することを目的としている。
この記事以外にもクラシックゲームの発掘報告は多数行なっているので、その記事も見てもらえるとうれしい。でも見るのは、まずは今回の記事からだな!
<ゲーム紹介>
くわしいゲームの紹介は前編の記事を見てもらうとして、ここではさらっとおさらいだけ。
本作『ラッシュ&クラッシュ』は1986年稼動開始の業務用ゲームだ。
荒くれ者っぽい集団にさらわれた妻と子どもを救うため、武装したかっこいい改造車で街や荒野を走る。行く手を阻む敵軍団と戦いつつ、敵の本拠地を目指すってストーリーだ。
ゲームジャンルとしてはトップビュー画面の“自由移動型”のカーアクションゲームとなる。
操作は8方向レバーと2ボタン。レバーでクルマを操作し、ショットボタンで敵や障害物を破壊できる。もうひとつは降車ボタン。クルマの耐久力が減って爆発しそうになったら降車ボタンで脱出できる。脱出しなければ車ごとボカンだ。
クルマを乗り捨てても、しばらくすれば仲間が新しい車を運んできてくれるので再び乗り込もう。そうして各ステージのゴール地点を目指して進んでいくのだ。
以上がざっくりとしたゲーム説明となる。ではさっそく発掘した「ツボ」の報告に移るぞ。
<発掘品目録>
発掘したツボの一覧をまずまとめておく。今回は後編だぞ。いっぱいあるな!
いつものように順に説明するぞ!
-前編- |
■ゲームスタイルのツボ ツボNo.1 「テンプレ合成から新しいゲームスタイルを作る」 ツボNo.2 「キャラ挙動で差別化をはかる」 ツボNo.3 「二段階ミス方式でピンチ演出を作る」 ツボNo.4 「弱体化ペナルティではゲームに変化も加える」 |
-後編- |
■テーマ設定のツボ ツボNo.5 「メカバトルをヒューマンドラマにする」 ■ストーリー演出のツボ ツボNo.6 「メカには人が乗り込むシーンをつける」 ツボNo.7 「ストーリーにルール説明も組み込む」 ツボNo.8 「ハッピーエンドに向かう目的設定にする」 ツボNo.9 「置物配置で背景設定を匂わせる」 ツボNo.10 「ゲームとは人間の生き様を描くもの」 ■難易度設定のツボ ツボNo.11 「難易度カーブで印象が決まる」 ツボNo.12 「流動要素と固定要素を戦わせる」 |
『ラッシュ&クラッシュ』のツボ
【テーマ設定のツボ】
車だけではなく、人がいる
『ラッシュ&クラッシュ』はクルマのゲームだが、それと同じくらい人間もいっぱい出てくる。
クルマのサイズに合わせているから、すごちっちゃいドット絵だ。そのスジのちびドット絵好きにはたまらないな!
主人公キャラだけでなく、敵の装甲車にも人が乗っている。敵もクルマから降りてきたり乗り込んだりする。人間キャラはみんな銃を持って射撃ができる。生身なのでクルマに轢かれれば全員すぐにおだぶつだがな!
ツボNo.5 「メカバトルをヒューマンドラマにする」
もし人間がいないと、ただクルマ同士がぶつかりあうだけのメカゲームとなる。いかにも無味乾燥で寒々としたメカメカしい世界だ。だが、人類は死滅していなかった! ちまちまドットの人たちがいることで、メカだけが走り回っていた世界が、血の通った人対人の戦いへと転換される。主人公はクルマではなくて、それに乗ってるオレたちなんだ!
そして、このちまちま人がいることでゲーム的には次の3つの利点が生まれる。
1.よりドラマチックな背景ストーリーを設定できる
2.追加のルールとアクションを組み込める
3.簡単に倒せる雑魚敵としてストレス緩和に利用する
説明していこう。
ドラマチックなストーリー
ひとつめはドラマチックなストーリーだ。
ゲーム開始時の演出として、ちまドット人たちの寸劇がある。悪そうな武装車がやってきて悪そうな人たちが降りてくる。そして女子どもたちを襲い、クルマに押し込めて連れ去る。このサイズのちまちまドット絵でちゃんとキャラ分けしてあってそれを判別できるのはすごいな。
もしここに人間がいなかった場合、ゲーム目的は単に「武装車を操作し敵車を倒せ!」といった無機質なものになる。わかりやすい反面、やることが書いてあるだけで情緒も何もないな。
だが人を中心に据えることで「さらわれた妻子を取り戻す男の救出劇」という、より感情移入できるストーリー目的を設定できる。「おのれ許さん! 必ず助ける、それまで無事でいてくれ!!」
うむ、盛り上がるじゃないか。
追加ルールとアクション
2つめの理由。
クルマに乗り手がいることで「炎上するクルマから脱出すればセーフ」というゲームルールを設定できる。演出的にも爆発するクルマから飛び降りて生き延びるの、シビれるじゃねえか。それがオレなんだぜ? そして自車を乗り捨てても新たな新車への乗り換えができる。クルマは道具にすぎない。かっこいいじゃねえか。
なお、メカではなく人をゲームの中心としているのは、制作者による完全に意図的な設計だ。それは残機表示をみれば一目瞭然。左上な。
他にも、細かいがプレイヤーカーが爆発して死んだとき、クルマが消えて主人公のやられパターンが表示される。このように一貫しているのであった。
ガス抜きのザコ敵、ストレス緩和対象を作る
3番目だ。まあこれはひどい話なんだけど、このゲームでは敵車は強敵、人間キャラはザコ敵、という使い分けになっている。
耐久力のある敵車との戦いは、何だかんだいってストレスがたまる。
そこで簡単に倒せるモブ役として、生身で立ち向かってくる悪人さんたちの出番だ。ちびドット絵でちまちまかわゆく動くやつらだが、騙されるなそいつは悪人だ。じゃんじゃん倒していこう。
生身だからショットが当たれば一撃死だし、手軽にクルマで跳ね飛ばしてもいい。
人間キャラにザコ役を担わせることで、ザコ用の極端に弱い敵車を出す必要がない。これは「クルマは強い」という一貫性のある法則を保つことに繋がっている。
人間キャラをちゃんと悪人に見せてる点もうまいな。
かわいいちびキャラなんだけど、銃を持ってこっちを狙って撃ってくる。この攻撃アクションで、悪意をもった悪人ってことを表現できてる。よかった、遠慮なくはねてやれるぜ!!
敵車とバトってる最中に踏み潰しちゃって「ん~? いま何か踏んじまったかな~?」とか言ってみちゃったり。
人とクルマの共生社会。いいね。この対比関係があることで、世界観にもゲームとしても厚みが出ている。そして、それは次に説明するストーリー演出に繋がっていくのだ。
【ストーリー演出のツボ】
ゲーム開始冒頭ではストーリーの小芝居とゲームの目的が具体的に説明される。
クルマでやってきた悪漢どもが女子どもをさらっていく。主人公がクルマで駆け付ける。
くそっ、遅かったか……!
クルマから降りた主人公は家の中へ入っていき、挑戦状を発見する。
何でそんなことするんですか!! いったい何が目的なんだ。
想像に任せるしかないが、たぶんそこの首領との若い頃の三角関係のもつれとかのトラブルかもね。さあ、取り戻しにこい! どちらの愛がより強いか、きさまの愛の深さをみせてみろ~とか、愛ゆえに苦しむだとかどうとか云々があるんだろう。
ストーリーがこのようにテンプレ的なのは、話を早くできるからだ。
複雑なストーリーだと話が長くなる。そのストーリー説明に一生懸命、時間を割いてしまってはテンポも悪くなる。プレイ時間を切り詰めたいアーケードゲームではそれは死活問題だからね。大雑把な話で構わない。ザッパーだけに!
ちなみに、この当時のゲームでよくある手法は、この小芝居部分をゲーム外のアトラクトデモに追い出し、ゲーム開始時には挑戦状だけ表示して始まるっていう簡潔なパターンだ。
それに比べると『ラッシュ&クラッシュ』はかなり丁寧な見せかたになっている。
それにはいくつかの理由があるが、次以降のツボで説明しよう。
ツボNo.6 「メカには人が乗りこむシーンをつける」
メカバトルもののスタートシーケンスには、大別してメカスタートとキャラスタートがある。
メカの発進シーンだけなのがメカスタート。パイロットの搭乗シーンの後にメカの発進シーンが続くのがキャラスタートだ。
この違いは主人公とメカの主従関係を明確にする。キャラスタートでは誰が何に乗っているのかの説明があることで、感情移入度が深まる。なので、基本的には必ずキャラスタートで始まるべきだ。
完全にメカが主人公って場合は例外だけど、基本的にメカに感情移入はあんまりしないよな。
メカしか出てこないゲームの場合、メカデザイン以外にはプレイヤーの関心はゲームシステムやシーン演出技法などのゲーム設計方面に向かうことになる。だからむしろそこを見せたいゲームの場合は、あえて人間描写は省き、気を散らさない、同時に制作コストも抑えるようにすることはある。
あとまあゲームクリア時にどんでん返し風に、乗ってたのは女性パイロットでした~! みたいなサプライズ演出を狙う場合もあるな。だがまあ女子が乗っとるんなら最初から言ってくれ! と個人的には思う。
『ラッシュ&クラッシュ』はちょっと変則のキャラスタートで、各ステージのスタート時はプレイヤーキャラを操作しクルマに乗り込ませるシーケンスとなっている(これは自車から脱出できるゲームシステムのリマインダーとしての効果もある)。
ここにまたひと工夫があって、最初のステージ1だけは主人公が自動的に乗り込む。そしてステージ2からが自力操作。もちろんこれは「最初はやってみせ、次はやらせてみる」っていう山本五十六方式にほかならない。
メカへの搭乗シーンがあることで、メカだけではなく、キャラクターやストーリーもフォーカスされる。これによりゲームの魅力がグッと上がっているのだ。
ツボNo.7 「ストーリーにルール説明も組み込む」
ストーリーはゲーム目的を示すとともに、世界観やキャラの魅力を引き立たせるために使われる。
さらにもうひとつの用途として、ゲームルールとその根拠の説明に使うこともできる。
先ほどの挑戦状をもう一度見直してほしい。挑戦状には24時間以内に来い、って書いてある。
24時間! なつかしのテレビドラマみたいですね。
このゲームでは各ステージに時間制限があり、4分以内にゴールまで行け、ってルールになっている。なぜ制限時間があるかといえば、ゲームシステムが強制スクロールではないからですね。任意スクロールのゲームはそのままだと長時間、同じ場所で粘られちまう。それじゃ営業的に困るんですよ! 粘るのやめて!
この挑戦状の一文が、このゲームには制限時間があるという重要ルールの説明になっている。
そしてこっそりとだが、各ステージの制限時間が4分である根拠にもなっている。
各ステージ4分で、全部で6ステージあるから、合計で24時間。1ステージ4分は中途半端な印象だったけど、こういうことなんだね。そこまで深読みする人はあんまりいないかもだけど。
……4分が6ステージだと、ほんとは24分だったorz……、まあ雰囲気で合ってればいいんだよ!!
ツボNo.8 「ハッピーエンドに向かう目的設定にする」
男は女や家族のために戦うものだ。戦え! 愛と正義のために。ドラゴンとか魔王とかを殺しに行く場合は世界のために戦うわけだけど、世界という集合にはすべての女性が含まれているから、つまりこの世のすべての女のために戦うってわけです。これはモテる。
女や家族のために戦うストーリーの目的は、だいたい三択のどれかになる。
「救出」「護衛」そして「復讐」だ。
『ラッシュ&クラッシュ』のストーリー上の目的は妻子の救出だ。
ステージを制限時間制にしなきゃならないので、救出は相性が良い。
このうち復讐、敵討ちってのはあまりおすすめできないかな。なぜなら復讐ではエンディングが悲しくなるからだ。たとえ復讐が成功したとしても、失ったものは戻っては来ない。救われない。むなしさと哀しみの苦い味をなめるだけだ。ハードボイルドだな。せっかくのゲームクリアの達成感がやや削がれてしまう。
だが救出劇ならハッピーエンドで終わることができる。
晴れ晴れとした充足感。悪の掃除が終わり、愛する者たちを取り戻した! 達成感と満足感。無事でよかった。うむ、めでたしめでたしで終わる話はやはり良いものだ。
なお、護衛ストーリーは一番のおすすめだ。常に護衛対象と一緒にいられるからな。ほとんどデート。家族ならピクニック。うれしいな、楽しいな。もちろん最後もハッピーエンドになるし。
問題があるとすれば、普段のゲームオーバー時に悲しいことになりがちなこと。自分が死ぬだけならいいが、護衛対象が死んでしまったりするのはつらい。命までは取らないとしても連れ去られるのは悲しい。今まで一緒にいたのに離ればなれになるなんて。まあ、そのときは救出ゲームに切り替えればいいんだけど、それはそれで作るほうも遊ぶほうも大変になる。
最後がポジティブにハッピーエンドで終わるのは、クリアした喜びも倍増する。
くれぐれも最後に地球を割ったり人類が滅んだりするネガティブエンディングにしないでくれよ。それが許されるゲームメーカーは少ないから!
ツボNo.9 「置物配置で背景設定を匂わせる」
ステージをクリアすると、そこは中継基地、仲間たちのアジトだった。
仲間たちに出迎えられ、ひとときの休息を得る。人間味あふれる演出だ。オレはひとりじゃなかった!
ステージをクリアしてすぐに落ち着く間もなくハイ次ね! みたいに機械的に進んでいくのは流れ作業感しかないからな。オレは人間だ! 殺人機械なんかじゃない!
そのアジトと仲間たちなんだが、そこにはセリフとかは一切ない。
にもかかわらず仲間とアジトってことはちゃんとわかる。その理由は画面上の「置物」の配置の工夫にある。
まず場所の見た目が砦というか基地っぽい。小芝居としては沢山の人が手を振ってこちらへ駆けよってくる。服も主人公と同じだ。周囲には新品のプレイヤーカーとその運搬トレーラーが並んでいるのが見える。
このトレーラーはゲーム中に何度もお世話になってるやつ! 何てこった……「ピンチのときに新車を用意してくれるのはこいつらだったのか!」って察することができる。
ここは安全地帯だ、そしてオレには助けてくれる仲間たちがいる、これが仲間の絆か……。
語られないストーリー背景をほのかに感じざるを得ない。
ここで上手いのは、ゲーム内で使っているグラフィックを再配置しているだけ、ってとこ。絵素材の制作コストをかけず、ありものを再利用して装飾している。作ったものは何でも使え、あちこちで使えって精神ですね。
最小限の手間で画面の情報量を増やし、意味ありげな匂わせ配置でストーリー設定や世界観に厚みをもたせている。ローコストだが効果的だ。
あえてのストーリー説明ではなく、ただプレイヤーに感じ取ってもらう。これが世界観に厚みを出す秘訣だったのだ。見よこれがナラティブだ。
……ところで仲間たちは一緒に戦ってくれないの?
ばかやろう! これ以上、大事な仲間を危険にさらせるか!! これはオレの戦い、巻き込むわけにはいかない。命がけで新車を運んできてくれるだけで十分だ。感謝しています。
うむ、かっこいいな、お前。
ツボNo.10 「ゲームとは人間の生き様を描くもの」
このように『ラッシュ&クラッシュ』とは、単なるカーチェイスというだけではない。そこにはヒューマンドラマがある。つまり、人の生き様を、人生を描いたゲームなのである。
ゲーム黎明期では単なる無味乾燥な自動車ゲームだったものが、こうしたクルマと人の生き様を描くドラマ要素を併せ持ったカーアクションゲームへと発展していく。その流れはその後も連綿と現代へと紡がれ、様々な自動車人生ゲームの発明へと繋がるのであった。
クルマと人とのつながりという意味では、のちの『ゼロヨンチャンプ』『グランツーリスモ』など、カーライフシミュレーター系のコンセプト。これは文芸的な類型といえる。
また、ゲームシステム的な類型でいえば、初代『グランド・セフト・オート』がその発展型のひとつだろう。
同じ見下ろし型視点のカーチェイスゲームで、主人公キャラがクルマから乗り降りし、別のクルマへの乗り換えがあり、人間同士の銃の撃ち合いもある。敵の悪役もいれば、手助けとなる仲間たちもいる。そして、ストーリーを持ったゲーム展開で主人公の生き様を描く。類似点が非常に多いよな。
もちろん直接的なルーツや進化ってわけじゃないにせよ、ゲーム分類の進化系列でいえば間違いなく同じ方向の延長線上に位置する。
「主人公がクルマを乗り継いで戦う」という本質を取り出し、それを突き詰めていけば、現代ゲームのひとつの金字塔にたどり着く……、そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい。
つまり……我々がその気になれば『ラッシュ&クラッシュ』を『グランド・セフト・オート』に直接発展させることも可能だったろう……、ということ……ざわっざわっ。
何てこった。ひとつのテーマをとことん突き詰めて発展させていけば、そんなこともできるんだな。
昔の名作をよく見渡せば、今もまだ見過ごされている埋もれた良テーマ、金鉱脈はたくさんありそうな気がする。てめーらゴールドラッシュだぞ!掘り返せェ!
【難易度設定のツボ】
さて、最後にゲームの難易度の話をしよう。
「カプコンゲームは難しい」この時代のアーケードゲーム界隈ではこんなイメージが強かったと思う。実際にはそんなことはないし風評被害だな。たぶん『魔界村』の影響がでかかったせいだと思う。その『魔界村』が難しいってのも、主にレッドアリーマーが強すぎることからくる印象だし。何かあいつ1人のせいでカプコンゲームは難しいとかの風評被害ができたんじゃ……? とんでもねえやつだな。そういえばカプコンのゲームで難しいのって何かみんな赤いやつだよな。レッドアリーマーとかベガさんとかセクションZとか。リオレウスも赤いし。
さて『ラッシュ&クラッシュ』は、そんな時代の中でも屈指の高難易度を誇るタイトルと評価されている。だがなぜここまで難しいゲームであらねばならなかったのか。
その理由はひとえにゲームデザインの特性によるものだと推測される。どういうことか説明しよう。
ツボNo.11 「難易度カーブで印象が決まる」
難易度カーブ
特段に難しい印象があるその理由は、他の一般的なゲームと異なる独特の難易度上昇曲線にある。
まず一般的なゲームの場合を説明しよう。ゲーム進行と難易度変化をグラフにプロットすると、おおむねこのようなイメージグラフになる。
最初は簡単な状態からスタートし、ステージが進むほど(右に行くほど)難易度が上がっていく。
その途中途中で急に難易度が高まる、いわゆる「壁」が設けてある。例えばボス戦とか。プレイヤーはこの壁を越えるごとにカタルシスと達成感を得る。
その後、難易度をちょっと下げてみたり、また壁を作ったりの緩急をつけつつも、終盤に向かって全体的に難易度が盛り上がっていく展開になるよう設定されている。
アーケードゲームやコンシューマゲームのほとんどは、この難易度上昇パターンを採用している。前述の『魔界村』もこのパターンで、レッドアリーマーさんなどが壁役だ。赤い壁、つまり赤壁だな。燃やしたい。シューティングやアクションゲーはもちろん、パズルやRPGなども基本この曲線になっている。まあ鉄板のパターンです。
しかし『ラッシュ&クラッシュ』は、それとは異なる難易度上昇パターンだ。こんな感じ。
まず開始時から難易度が高い。そしてその後には多少の緩急がありつつ徐々に上昇していく。ただしそびえ立つようなわかりやすい壁はない。まあ壁というよりは敷居が高いってことですね。
『ラッシュ&クラッシュ』がこのような難易度曲線になる理由は2つある。
まずひとつめ。
開始時から難易度が高いのは、イジワルとかではない。ゲームの最初に覚えることが多いためだ。独特な自車操作への慣れ、降車ボタンと再乗車の仕組み、耐久力ゲージと炎上爆発のルール、ゴールまでの制限時間が存在する、など独自性の高いゲームルールが多数ある。なのでゲーム開始直後は意図しなくとも難易度がナチュラルに高くならざるを得ないのだ。
ふたつめは、ゲーム途中にボスキャラ的な存在がないこと。そのために壁といえるほどの壁がなく、なだらかな稜線が続くことになる。ボス的な存在がいないのは、このゲームが本質的には「レース型」であるためゲームデザイン上相性がよくないからだろう。また最初に敷居が高いため、加えての壁は不要だろう、と判断されたのかもしれない。
この難易度上昇曲線のパターンは、将棋や麻雀といったリアルのテーブルゲームにもよく当てはまっている。最初に複雑なルールを覚える労力が必要だけど、一度ルールやプレイ感覚を覚えてしまえば、あとはひたすらゲームサイクルを繰り返しながら、徐々に少しずつ上達していく、というイメージだ。
現代ではこの「敷居高いタイプ」は、対人対戦型のゲームに多く見られる。FPSやRTSとかですね。初心者のうちは覚えるルールや装備とかが多すぎて、右も左もわからないままコテンパンにやられてしまう。そこで挫折せずルールやマップを覚え、基本の戦術を身につければ、それ以降はそこそこ戦えるようになって楽しくなってくる。
序盤を越えれば、それ以降は極端に難しくなったりはしない。最初の崖を登って頂上にたどり着けば、そこからの難易度は良き案配の傾斜、楽しいハイキングコースがずっと続いている、どこまでも進んでいける、という状態だ。
2つのタイプの違い
まとめよう。
Aタイプ(壁タイプ)は最初はとっつきやすいが、慣れたころに高い「壁」が現れ、何度も挫折や絶望を味わう。だがその都度、チャレンジ意欲が煽られ、クリアが成れば大きな達成感を得られる。波の振れ幅は大きく刺激的。縦ノリ感がある。
Bタイプ(敷居タイプ)は、初見プレイで要領がつかめないままやられてしまい、成功体験よりも先に挫折をまず味わうことになる。だがそこで挫けず何度かトライしているうちに操作にも慣れ、ルールを把握し、プレイの勘所も掴めてくる。そうして敷居を一度越えてしまえば、そこからは熟練するほど先へ先へと進めるようになり、徐々に到達距離が伸びていく。上達を少しずつじっくり実感できる。横ノリのスイングに乗ってるかんじかな。
壁型はできなかったことができるようになる、ブレークスルーのカタルシスが連続する。
敷居型は玉を磨くほどに輝きが増していくような反復鍛錬、スルメ的な味わいでやみつきになる。
そういったテイストの違いがある。
どちらが良いとかではなく、特性が異なっているだけ。みんな違ってみんないい。
難易度曲線の作りかたは自由だ。ただし覚えるルールが多いゲームは不可避的に敷居型になる。そのうえでどちらの曲線スタイルが適しているかは、タイトルが狙う市場や商品性、ゲームデザイン思想などに依存するわけである。
ツボNo.12 「流動要素と固定要素を戦わせる」
ゲームの難易度は、ゲーム内のさまざまな要素が相互に複雑に絡み合って生み出される。
『ラッシュ&クラッシュ』では自車がドリフトで荒ぶるじゃじゃ馬だ。振り回すのは楽しいのだが、狙いどおりの移動やアクション、回避行動を正確に行なうことは至難である。プレイヤー側としてはかなり困る。だが作り手側としては自車のドリフト表現は絶対に譲れないポイントだったのだろう。そのためこの慣性操作を立脚点として固定し、他の要素を調整することで難易度をバランスさせている。
難易度構成要素
このゲームでの難易度を左右する構成要素は、大きく分けると3つになる。
「コースマップ」
「敵の挙動」
「プレイヤーカー挙動」
このうち各ステージのコースマップは、地形や配置物は毎回同じなので固定された要素だ。
そしてプレイヤーを襲ってくる敵車の挙動は流動的要素だ。おおよその出現位置や出現種類は決まっているものの、出現後の動きや再出現はプレイヤーカーとのバトル状況で大きく変化する。
プレイヤーキャラは、一般にはプレイヤーの意図どおりに操作できるので、変動のない「固定的な」要素と考える。しかし本タイトルでは前述のとおり、かなり荒ぶっている上、壁や敵車にぶつかるたびに意図しない方向に弾き飛ばされるわで、もうピンボール玉みたいな感じだ。結局としてはプレイヤーカー自身の挙動も流動的な要素と捉えられる。
敵キャラの挙動が流動的、自機のコントロールも流動的、これではピンボールの玉同士が戦うようなもの。この組み合わせではバトルは噛み合わない。車はお互いにドリドリして動くのでどっちの弾もなかなか当たらないし!
まじめに戦闘していては、いずれ耐久力がなくなるだけでじり貧。「こんなやつらに構ってられるか! オレはゴール地点を目指すぞ!」って戦闘を最小限に切り上げて先に進んだほうがいい。そうだ、あの拳王ですら戦いを避けるっていうし。
ほんとの敵は敵車じゃない
このために、本作ではじつは車同士のバトルには重きが置かれていない。代わりにプレイヤーへの攻撃は主にステージマップが担っている。
マップ上の障害物は強い。配置の大型車両などが固定砲台としてドカドカ射撃してくるし、プレイヤーカーが接触すれば大ダメージや一発死という仕掛けも満載だ。ぺちぺち撃ってくるだけの敵車とは殺る気が違うな!
結果、マップ上の危険地帯をいかに無事すり抜けていくか? という「避けゲー」、いや「抜けゲー」がこのゲームの本質となっている。この文脈では、敵車はマップの危険地帯を走破中に現れるお邪魔カーに過ぎない。
しかし彼らが登場するおかげで、そのままなら簡単に避けられるような、固定の置き爆弾などに対しても、敵車を避けようと焦って自車がドリフト慣性で滑ってうっかり踏んでしまたり、敵車の体当たりで爆弾方向に弾き飛ばされてしまったり、そんな不幸な事故が起こるわけです。うっわ、邪魔……。でもそれがやつらの仕事です。うっざ。
流動する自車vs固定のマップとの戦い
メインで戦う敵は、じつはステージマップであった。ここで得られる教訓はふたつだ。
「流動要素と固定要素を戦わせる」
流動物同士の戦いは噛み合わない。わが拳は流るる水! きさまの剛拳では捉えられまい! そう、変幻自在の柔の水と、剛の岩とが戦うからおもしろい。岩同士のガチンコ対決もいい。しかし水と水では相性が悪い。混ざるだけじゃん。スライム対スライムしょっぱい。
「難易度構成はメインの戦いを基準にする」
このゲームでの難易度要素の位置付けをまとめると、自車とステージマップの戦いがメイン、敵車はプレイヤーカーをマップの罠に追い込む猟犬、そして戦闘行為はお邪魔カーやマップ上の障害物を排除する手段、といえる。その上で各要素にはその位置付けに見合った強さや難しさが設定されており、各自がそのポジションの領分を大きくははみ出さない。
そこのトゲ車! 出しゃばるな! マップの邪魔だ、今すぐ移動しろ! ってな関係性だな。
常識的に考えれば、何となく自車vs敵車をゲームのメインに据えてしまうだろう。しかし『ラッシュ&クラッシュ』ではその先入観に囚われず、ゲームデザインを慎重に見極め、大胆にリバランスしている。素晴らしい仕事だ。すべての要素を何でもかんでもがっつり難しく作るのではなく、抑揚をつけることが大切なんだね。
<おわりに>
以上が今回発見した『ラッシュ&クラッシュ』のツボだ。どうだったかな。
このゲーム、最初はカーバトルゲームに見えたけど違ったね。
ラグビーとかアメフトのイメージだね。立ち止まったら負け! みたいな。
危険が密集したエリアをぶつからないよう走り抜けていく。それを阻もうと敵が次々現れタックルで邪魔してくる。すべてをすり抜けてゴールにタッチダウンする! というイメージ。
敵や危険地帯の一部の障害物は、躱すだけでなくショットで破壊するオプションもある。
立ち止まらず、常に動き続け、その流れのなかで身を泳がせ、すり抜けて行くのだ。
人生という激流に揉まれもがき生き延びる、その希望がこの『ラッシュ&クラッシュ』というゲームといえるだろう。みんなの人生は妻子にたどり着けたかな? よけいなお世話か、てへっ。
今回の発掘報告はここで終わる。また次の発掘調査で会おう!
最後に、『ラッシュ&クラッシュ』を『カプコンアーケード 2ndスタジアム』でより楽しむコツを書き綴る。
ゲームスピードを調整できるステキ機能があるから、ゲームスピードを1段階落とす。ちょうどいいスピード感になって、考えながら詰め将棋的な感覚でプレイできる。
さらにゲーム中に時間を巻き戻せるリワインダー機能を積極的に併用しよう。詰め将棋の指し直しができるから、なかなかおもしろいパズルゲームになるぞ! 良く設計できているゲームは、アレンジして遊んでも楽しいね!
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