初期作品ながら東亜プランらしさを強く感じる『スラップファイト』のユニークな魅力
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『スラップファイト』(1986年)は東亜プランが開発し、タイトーから発売されたシューティングゲームだ。この頃はシューティングゲームがまだゲームセンターの花形で、各社がアイデアを競い合いながら個性的な作品を生み出していた。
当時の東亜プランは、まだ創業2年目のフレッシュな開発会社だった。社名は業界内やマニアの一部に知られるだけで、一般ユーザーにはまだ知られていなかった。しかし、本作の前年にリリースされた同社が開発した初のシューティングゲーム『タイガーヘリ』(1985年/タイトー)が人気を博したことからも、同社の実力は本物であったことが分かる。
本作も『タイガーヘリ』同様に人気作となり、筆者が足を運んでいたゲームセンターでも常に誰かがプレイしているような状況だった。早く順番が回ってこないかと思いながら、ほかのゲームをプレイし、本作が空き台になる頃には肝心のプレイ代を使い切ってしまったのもいい思い出。
今回は、筆者にとって思い出深い『スラップファイト』の魅力を、詳しく紹介してみたい。
敵は地上物のみというユニークなシューティングゲーム
本作は縦画面・縦スクロールでゲームが進行する。登場する敵はすべて地上物となっており、その要素が本作をユニークなシューティングゲームとして成立させている。プレイヤーが操る自機は戦闘機なので、地上物である敵とぶつかってミスとなってしまうようなことはない。気をつけなければいけないのは、敵が発射してくる弾だけだ。
敵はすべて地上物ということもあり、ほとんどの敵が定められたルートを機械的に移動する。縦、横、斜めと直線的な軌道でゆっくり動く敵キャラとの戦いは、ほかのゲームとはまったく異なる感覚を味わわせてくれる。自機の攻撃が及ばない透明のトンネル内を移動している敵キャラは、唯一本体があらわになる箇所でなければ倒せないなど、地上物であることを生かしたギミックもちゃんと作られている点がなんともニクい。
敵は近距離から弾を撃ってこない仕様になっているそうだが、それを真に受けて接近すると被弾してしまうことがよくあった。接近中に弾を発射されるのか、近づき方が足りないのかは分からないが、いずれにしろ油断は禁物ということだろう。
この「敵が地上物のみ」という設定は、既に『タイガーヘリ』で採用されていたものだ。後述するパワーアップの内容にも『タイガーヘリ』との類似点を見出すことができる。もともと『タイガーヘリ』の続編として企画されていたのかは定かではないが、本作を例えるなら、SF設定にしてゲーム性を強化した『タイガーヘリ2』という表現がふさわしいかもしれない。
パワーアップは任意にセレクトできるグラディウス方式
パワーアップシステムは『グラディウス』(1985年/コナミ)と同じと言ってしまったほうが分かりやすいだろう。パワーアップ内容が画面下部に表示されており、特定の敵を倒すと出現する星型のアイテムを取得することで、パワーアップの種類が1段階ずつ切り替わっていく。任意のタイミングでパワーアップボタンを押すことにより、その時点で表示されている内容のパワーアップが行われる仕組みだ。
前年に登場した『グラディウス』が人気作となっていたので、本作のパワーアップシステムもその影響を受けた可能性は大いにある。このパワーアップシステムは、任意のパワーアップ要素が選択できる状態を保ちながらゲームを進行させることで、必要な時に有利な武器へ切り替えられる自由さが魅力だ。自機の各要素をパワーアップさせる順番も自由なので、ミスした後の復活のさせ方もプレイヤーごとの個性が出ておもしろかった。
パワーアップは一長一短、使いこなしが攻略のキモ
自機のパワーアップ、とくに装備する武器は種類によって一長一短がはっきりしていた。そのためか筆者の記憶では、全編を通じてこれが有利というものはなかった気がする。もっとも、上級者に言わせれば「何箇所かある厳しいシーンさえ乗り切ることができればコレ一択」という武器があったかもしれない。
筆者が好んで選んでいたのはホーミングミサイルだ。連射が効くタイプの武器ではなかったが、全方位をカバーできる攻撃が行えるので、ほかの武器よりも使い勝手の良さを感じた。当時出入りしていたゲームセンターでも、ホーミングミサイルを使用するプレイヤーは多かったので、みんな同じようなことを考えていたのではないだろうか。
武器はウイングを重ねて装備することで、3段階まで火力を上げられる。1段階目は自機がやや大きくなる程度だが、2段階目以降は自機とほぼ同じ大きさのパーツが両サイドに装着されるので、自機は横方向にどんどん大きくなっていく。
しかし、ウイング部分は画面外に出ることがない。結果的に攻撃力が上がるごとに移動できる範囲は狭まっていくわけで、ハイリスク・ハイリターンの性格を持つパワーアップということになる。ただし、敵弾に当たってミスの判定がされるのは中央の自機本体のみ。ウイング部分に敵弾が当たった場合は、ウイングが破壊されて強化レベルが1段階下がるだけだ。考えようによっては、バリア的な役割を果たしてくれるともいえる。
各パワーアップの詳細は以下のようになっている。
パワーアップ詳細
スピード | 自機の移動速度を最大5段階まで上げることができる。標準の状態では移動速度がかなり遅いので、多くのプレイヤーはここからパワーアップしていくことになるだろう。 |
ショット | 標準の武器。射程距離は短いものの、連射が利くという利点がある。 |
サイド(サイドショット) | ほかの攻撃方法と併用して装備できる唯一の武器。射程距離は短いが、横方向への攻撃が可能になる。『グラディウス』のミサイルと同じで、装備必須のサブウエポンだ。 |
ウイング | これ自体に特有の攻撃方法はなく、メインウエポンの強化目的で使用する。最大3段階まで自機の横方向に連結されていき、メインウエポンの火力が上がる。自機が大きくなるので当たり判定も大きくなるが、ウイング部分を被弾してもウイングを失うだけなので、バリアのように使用することもできる。 |
ボムショット | 自機の正面で爆発を起こすメインショット。非常に高い攻撃力を持っているものの、連射ができず射程距離も短いという欠点がある。 |
レーザー | 前方にレーザー攻撃を行うメインショット。貫通力はあるが、ボタンを押している時間で射程距離が変化する。そのため、連射してしまうと近距離攻撃しかできなくなり、長距離攻撃をするためにボタンを長押しすると、サイドショットが単発になってしまう、常にジレンマがつきまとう武器だった。 |
ホーミングミサイル | 敵を追尾するホーミングミサイルを発射するメインショット。敵がいない状況下では放射状に16発のミサイルを一斉発射する。発射したミサイルが画面上からなくなるまで次の発射ができない欠点はあるが、自機の縦方向や横方向への直線的な攻撃しかできない他のメインショットよりも、使い勝手がよい印象だった。 |
シールド | 3発まで被弾に耐えられるようになる。しかし有効時間が存在するので、被弾しなくても時間とともに耐久力は減っていき、一定時間経過後にシールドは外れてしまう。まだこのルールをしっかり理解してないうちは、一定時間無敵だと勘違いしてミスすることがよくあった。 |
知っているとさらにゲームを楽しめた隠しフィーチャーの存在
隠しフィーチャーもいくつか存在し、そのことを知っているプレイヤーは、より楽しむことができた。大量得点できるものや、ミスした後の復活をほんの少し手助けしてくれるものもあったので、ハイスコアランキングを狙っているプレイヤーにとっては知っていて当然ともいえる要素だった。
では、具体的にどのような隠しフィーチャーがあったかをご紹介しよう。
ヘルパーの出現
ショットを使い続けることでヘルパー(僚機)が登場する。ヘルパーは画面内を勝手に動き回り、敵を攻撃してくれる。しかも無敵なので、出現させてしまえばかなり有利にゲームを進めることができる。ヘルパーは2P側のコントロールパネルで操作でき、ヘルパーを利用した2人同時プレイも可能。
ヘルパー出現までショットをキープする時間は、ゲームスタート時から数えた場合で言うと、最初のボスを倒して透明チューブ地帯が登場するくらいまでの間だ。ショットの状態さえキープできればよいので、サイドショットやウイングなど、メインショット系以外のパワーアップやシールドを装備してゲームを進めれば、比較的容易にヘルパーを出現させることはできるだろう。
ヘルパー出現後は、おそらく画面内に存在できる自機の弾数制限があるのか、ウイングを装備しすぎてショットの弾数が多くなっているとヘルパーが弾を撃てなくなってしまうので注意が必要だ。また、メインショットをショット以外に変更してもヘルパーは弾を撃たなくなる(ウイング数を減らしたり、ショットを装備し直したりすれば、再びヘルパーは弾を撃つようになる)。
隠しキャラ
各メインショットに対応した隠しキャラが存在する。いずれも出現させるとボーナス点が獲得できるのだが、とくにショットとレーザーの隠しキャラは弾を当て続けることで大量得点できたので、ハイスコアを目指すためには重要な存在だった。
大量得点とともにパワーアップ
このフィーチャーは、スタートしてから弾を撃たずに、ひたすらゲームを進行させることが条件。つまり、このフィーチャーが有効なのは最初の1機のみとなる。ミスをするまでにたどり着けた地点に応じて、最大で20万点以上のボーナス点が加算され、先のエリアへとワープする。この際にホーミングミサイルとウイングも装備される。
スタート時に必ずアイテムを1つ入手
ゲーム開始直後やミスをした後に、レバーを右上に入れながらショットボタンとパワーアップボタンの同時押しをしていると、星型アイテムを1つ取得した状態にできる。要するに、スピードアップをすぐに選択できる状態だ。星型アイテムのない状態でミスをしても、再開時にすぐスピードアップができるので、復活が多少は楽になるメリットがある。
移植版は数少ないながらもファン納得の完成度で遊べる良作
移植作品としては、メガドライブ版が存在する。1993年に発売されたメガドライブ版は、家庭用テレビの横画面に最適化した移植になっているが、アーケード版をほぼそのまま楽しめる完成度と言っていいだろう。シールドの制限時間が排除され、規定の被弾数に達するまで効果が持続するなどの変更点はあるが、むしろオリジナル版よりも敷居が低くなって遊びやすい印象だ。バトルフィールドが宇宙になったアレンジ版も収録されており、飛行する敵の登場、緊急回避用のボムが使えるなど、続編のような感覚で遊べる良作に仕上がっている。アレンジ版の楽曲は古代祐三氏(*01)が担当しており、ゲームミュージックファンにもぜひ遊んでいただきたいソフトだ。
東亜プランシューティングの原点的存在
本稿を執筆するにあたって『スラップファイト』を遊び直してみたのだが、初期タイトルながら、すでに東亜シューティングらしさを強く感じることができた。東亜プランは本作以降、『飛翔鮫』(1987年/タイトー)、『究極タイガー』(1987年/タイトー)とヒット作を連発し、ついには『TATSUJIN』(1988年/タイトー)で「シューティングの東亜プラン」と誰もが認める存在になる。
この時代における縦スクロールシューティングのスタンダードを作り上げた東亜プランの原点を知るという意味でも、ぜひ『スラップファイト』はプレイしていただきたい。また、シューティングゲームは難しくて苦手だという人にもチャレンジしてもらいたい。迫りくる敵弾を避けながら敵を撃破するという、シューティングゲーム本来の楽しさをきっと味わえるはずだ。
©TOAPLAN Co., Ltd.
©TATSUJIN Co., Ltd.
脚注
↑01 | 古代祐三(こしろ ゆうぞう) : ビデオゲーム開発会社エインシャントの代表取締役社長。8ビットPC全盛期からゲームミュージックの作曲家として活躍している。代表作は日本ファルコムのPCゲーム『イース』(1987年)、『イースⅡ』(1988年)をはじめ、『ザ・スキーム』(PC/1988年/ボーステック)、『アクトレイザー』(SFC/1990年/エニックス)、『ザ・スーパー忍』(MD/1989年/セガ)など。 |
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