タイトー『オペレーションウルフ』発掘報告書 前編
全員整列! 気を付け!! 口を開く前と後に「サー!」をつけろ!
どうもこんにちは。ゲームデザイン発掘隊長のぱぱら少佐です。
名作古典ゲームのゲームデザイン技法を発掘し、現代のゲームデザインに活かそうというこのシリーズももうすっかりおなじみになりましたね!
さて、今回の発掘ターゲットは男の中の男のゲーム『オペレーションウルフ』だ。
男のゲームですが、もちろんおとなもこどももお姉さんも楽しめるゲームです!
ガンシュー、この甘美な響きよ。
『オペレーションウルフ』は当時世界中で大ヒットし、ガンシューティングというジャンルを決定的に確立した名作だ。
このゲームがそれまでのガンシューティングゲームとは何が違うのか、この名作を名作たらしめた要素は何か。そのゲームデザイン技法の真髄を、今回も発掘していくぞベイベー!
弾を撃つヤツはガンコンだ! 逃げる敵を撃つのはよく訓練されたガンコンだ!
ホント名作は参考になるぜ! フゥハハハーハァー!
<ゲーム紹介>
『オペレーションウルフ』は1987年に発売されたタイトーの業務用ゲーム機です。
それまでに存在したガンシューティングゲームといえば、飛んでいく的をライフルで狙ったり、出てくる敵を拳銃でパンッパンッて撃ったり、ほとんど西部開拓時代みたいな原始的で牧歌的な射的を楽しむものでした。
『オペレーションウルフ』の前身となるタイトーのガンシューティング『N.Y.キャプター』も、見た目わりとコミカルな敵を撃つゲームだったし、その続編ともいえる『バイオレントシューティング』も、敵のコスチュームがすこしだけマッドマックス風になった程度の、やっぱりコミカルなやつらで、バイオレントつーか、あいかわらずカワイイ感じなのであった。
その翌年に、突然リリースされたのが『オペレーションウルフ』である。
こいつは今までとは違う。まったく見たこともないガンシューティングだったのだった。
まず自分が持って撃つ銃が、軍隊で使ってるようなマシンガンである。
これまでのピストルや単発ライフルなんてチャチなもんじゃねえ、オート連射でズダダダダダダってバリバリ撃てる、殺傷力も爽快感もはるかに違う。
もっと恐ろしい銃器の片鱗を見たぜ。
つぎに注目すべきが、グラフィックがアメコミ調だ。
敵も自分も、シリアスでリアルなルックスを備えている。今までの2頭身や3頭身で表現された敵キャラクターとは一線を画している。やべえ、どうやらこいつはガチな戦争だ! 遊びじゃねえ! これって戦争なのよね。て強く印象づけられる。
そのうえそのマシンガンがイカす。
専門的にいうと、言っていいのかわからんけど、<UZI>というみんな大好き実在の短機関銃をモデルにした感じだ。違ってたらゴメン。それをフルオートでガンガン撃ちまくる。
しかもこのガンコン、撃つと、振動する。
銃弾の発射と共にブルブルと腕に反動が来る。フルオートだからブルブルガガガガガガブル……って手応えがある。シビれるぜ! こんなゲーム今までなかったぜ。
さらに、銃身の横に赤いボタンがついてる。何じゃこりゃ、とその赤いボタンをポチッとな~て押すと、画面上では何とロケット弾が発射されたことになる。
これはいわゆるボム的な広範囲強力攻撃だ。ピンチのときにはロケット弾! ヒュ~、やるじゃない!
待て、ガンシューでボムだと!? まずここからして新しいな。画期的な装備だ。
ゲームストーリーは単純明快だ。
どっかのジャングルに単身潜入し、敵の収容所から捕虜となっている人質を救出し逃亡させることが目的だ。
無敵のヒーロー兵士が敵地で単独活躍する、あの乱暴な有名映画の完全なオマージュに間違いない。
これ以上の詳細なストーリー説明は作戦上の機密事項のため、省略だ!
まあ実際これがこのゲームのストーリーすべてなんだけどな!
世界中の誰もが知っているド直球のストーリー設定。
そしてサブマシンガン。世界中の誰もが初見で理解共感できる題材だ。何てわかりやすい戦争ゲームなんだ!
じつは『オペレーションウルフ』は2種類の筐体バージョンがある。
前述の『N.Y.キャプター』、『バイオレントシューティング』で使われていた筐体を転用したもの。こいつはモニター部分と銃部分が別々に分かれていて、遠隔コード線で繋がっている。離れた場所から射撃するセパレート型だ。
マシンガンを自由に動かせるため、腰だめや屈み撃ち片手撃ちなど、自分に酔った自由なポーズで射撃ができる魅力があった。
もうひとつはマシンガンが筐体に据え付けられた一体型キャビネット。
『オペレーションウルフ』の専用筐体として開発されたものだ。
銃の底部が筐体に固定されており、銃口を向けられる角度が画面内を狙える範囲に限られている。
いにしえのライフル射撃ゲームによくあった構造だ。
後者の一体型のほうは筐体がコンパクトでフットプリントも小さいので、ゲームセンターでの設置性がいい。
たぶんみなさんが見たことあるのはこの一体型がほとんどだと思う。市中での出回りが圧倒的に多かった。
ゲーム内容もイカスので世界中で売れに売れた。超売れた。こんなに売れていいのかい? ってぐらい売れたんだ。つまり世界中みんなで所構わずミニUZIを撃ちまくってたワケです。すごいよね!
以上が『オペレーションウルフ』のゲーム製品概要となる。
どうでもいい話だが、ぼくがタイトーに入社しときこのゲームがちょうど開発中だったため、バグチェックで超プレイさせられたものだ。新兵時代の懐かしい戦いだ。
<ゲームの特徴>
ゲーム紹介がずいぶん長くなってしまった。
『オペレーションウルフ』については開発が近しいものだっただけに、どうしても熱が入って力説してしまう。
さて、ゲーム紹介側でほとんど書いてしまったけど、このゲームの主な特徴をまとめておこう。
・シリアスかつ明快なストーリー
・アメコミ調のリアリティのあるグラフィック
・マシンガンを連射する新機軸のゲーム内容
・副武器に強力攻撃オプションという新要素
・略称は開発時も市場でも『オペウル』である(まあこれはどうでもいいか!)
さて、今回の発掘作業ではこれらを中心に、特徴あるゲームデザインについてその秘密を、また今回も丹念に丁寧に探っていきます。
いくぜ野郎ども!
ああ、おれはこの戦いが終わったら故郷のあの娘と……(略)。
<発掘品目録>
その前に、今回紹介するゲームのツボたちを一覧にしておいた。
毎回言ってるけど、こういうまとめを作るのはゲームプランナー業の大事な仕事だからね。
-前編- |
■スタートシーケンス演出のツボ |
ツボNo.1 「気分がアガるアトラクトデモでゲームに誘導」 ツボNo.2 「いちばん最初に操作説明」 ツボNo.3 「すばやくストーリー状況と目的を理解させる」 |
■ビジュアル技法のツボ |
ツボNo.4 「1枚絵に魂をこめる」 |
-中編- (2021年12月10日掲載予定) |
■ビジュアル技法のツボ |
ツボNo.5 「アニメーションのコマ飛ばし」 ツボNo.6 「レベル・オブ・ディテール(LOD)でコストと表現にメリハリ」 |
■ゲームデザインのツボ |
ツボNo.7 「ゲーム情報を一箇所にまとめる」 |
-後編- (2021年12月17日掲載予定) |
■ゲームデザインのツボ |
ツボNo.8 「連射で的に当てさせる」 ツボNo.9 「凝った敵出現のレベルデザイン」 ツボNo.10 「ステージセレクトにルート戦略」 ツボNo.11 「ゲームプレイにピリッとアクセント」 |
並べてみるとたくさんあるな。
ひとつひとつ説明していくので、ごゆるりとお付き合いくださいませ。
<『オペレーションウルフ』のツボ>
■スタートシーケンス演出のツボ
・「アトラクトデモ」についての事前知識
アーケードゲームにはいわゆる「アトラクトデモ」(「ループデモ」などとも言ってた)というものが存在する。
これは営業中だーれもプレイしてないときに、メーカーロゴ、タイトル画面、ゲームルール紹介、実際のプレイの様子をみせるプレイデモ、ハイスコアランキング表示などをぐるぐる一生繰り返しつづけるデモンストレーションのことです。
ゲーム機がゲーセンに設置されている状態で、お客さんにゲーム内容とかを自動でアピールする「セルフ宣伝」という重要な役割を担っています。
このゲームに興味を持たせ、インカムに繋げる。これ大事。
もっとも特別そんな深く考えず、ただ習慣的に実装しているヌルいゲームが多い印象もあるよ。
いろんなアーケードゲームのデモを見比べてみよう! きっと勉強になるよ。
いきなり余談になりますけど、このアトラクトデモで特にやっちゃダメな例をちょっとだけ紹介。
「メーカーロゴを1.5秒以上出しっぱなし」
「フェードイン、フェードアウトで黒画面が1.5秒以上ある」
「そもそもゲーム画面があんまり出てない」
「ゲームプレイデモがヘタクソ(ランダムで動いてるので死にまくってるとか)」
「クッソどうでもいいストーリーやキャラ紹介画面が多すぎ(ただしイケメンと美少女はべつ)」
などですね!
こういうのは大体、制作者の無頓着や自己満足や手抜きでアピール不足になっていることも多い。
あ、1.5秒というのは、ぼくの経験による体感で、人間が何かに視線固定して見続ける限界時間と思ってます。
なので、ほんとはもっと短く1秒以下に設定するのがいいですね。
ユーザーにとってくっそどうでもいい情報は1フレぐらいでも十分です。
お客さんがたまたま偶然パッとゲーム筐体に視線を移したときに、真っ黒画面だと最悪だから。電源ついてるかどうかすら疑われる。
要するに、大して興味を引かない画面を出すな!
人がチラ見する時間なんて1秒もないぞ!
あとヘタクソプレイのゲームなんかつまんなく見えるぞ!
ということです。
そんなんでは女子にもモテない。
話は短くおもしろく! 無言を続けるな! 長文はキモい! ということだ。
覚えておこうぜ。
ゲーセンではゲーム機はよりどりみどり。
ほんと一目一瞥でお客さんの興味を引かないと、インストラクションカード(ゲームの説明書いてあるやつね)すら見てもらえない。
誰もプレイしてくれないと、ほんとにただずっとデモをぐるぐる一生繰り返すだけ。
むなしい…、
ほんと悲しくなる……。
ゲーセンで誰にもプレイされないぼくなんて、インカム稼げないぼくなんて、今すぐ電源オフになって消えてしまいたい…、てなるよ。
ゲーム機なのに病むなよ。人を楽しくするのが使命だろ。
余談すぎたね。
『オペレーションウルフ』の話にもどろう。
ここからがツボの紹介だ。準備はいいか? いくぜ、パーティの始まりだ! ゴー、ゴー、ゴーッ!!
ツボNo.1 「気分がアガるアトラクトデモでゲームに誘導」
『オペレーションウルフ(以後はオペウルと略す)』で特徴的で印象的なのは、アトラクトデモループのアタマからタイトル画面までの、プレオープニングともいえる流れ。
これが超イカスんだよね。
・アトラクトデモ
緊張感漂うかっこいい出だしのBGMをバックに、迷彩服を着た1人の兵士が、出撃の準備だろうか、装備をひとつひとつ身につけていくクローズアップカットが続く。
内容はこうだ。
1 コンバットブーツの靴紐を強く締める(ギキュゥ!)
2 肩のホルダーにサバイバルナイフを収める(シュッ!)
3 太ももにロケット弾2本をゴツいテープを引き出して止める(ビッビビィ~)
4 マシンガンの遊底をスライドする(ガシュ!)
かっこいい。効果音もいちいちかっこいいぜ。
いったい何者なんだこいつは。ずいぶんと物騒な奴だな。
・主人公登場
その後に、準備万端整った兵士の上半身が画面に現われる。
迷彩服でベレー帽を被っているが、逆光で顔はよく見えない。
そこへでっかくゲームタイトルが表示され、タイトルコールの音声が吠える。「オペレーションウルフ!」ではない、「アポレーション(溜め)ウォゥフ!」だ!
ちょっと巻く本場の発音だね。
うう、かっこいい…。
どうやらこのかっこいい男は狼作戦とやらに挑むソルジャーらしい。
こいつが主人公か、つまり俺だ! 俺がコマンドーだ! 俺はこれから狼作戦に参加するのだ!
とまあ、まずアトラクトデモを見てるだけでこのぐらいアガる。血がたぎってくる。
・興味誘導
そもそもでいえば、筐体にゴツいマシンガンが据え付けられているから、何じゃこのゲームは? ってお客さんはまず画面をのぞき込む。
そしてこのエモいオープニングを見て血がたぎる。
もちろん作法としてまずそこでむせる。そしてコインいっこいれる。
ここ注目ね。
段階的な興味誘導が効果的に作用している。
この筐体を覗き込んだ俺は、狼作戦開始以前にして、すでに罠に捕らえられていた!
この狡猾さ、まさに狼と呼ぶに相応しい!!
このように、アトラクトデモの「自己宣伝」でお客さんの心をがっちりつかむのがツボのひとつだ。
ツボNo.2 「いちばん最初に操作説明」
『オペウル』はゲームスタートシーケンスもうまいこと出来ている。
まずはコイン投入直後の画面について説明するぞ。
前回の『パックランド』の発掘報告書では、コイン投入直後は混乱を避けるためゲームのタイトルロゴを表示すること! と書いた。
だが、このゲームは違った。
・スタートシーケンス
コイン投入後に、画面にはゲームタイトルではなく、1枚絵の簡単な操作説明画面が表示される。
タイトルロゴはない。かわりに操作説明の図がある。
最初に銃の扱いやロケット弾の存在を教えてくれるなんて、じつに親切な戦場だ。新兵に優しいな!
『パックランド』など他のゲームと違い、なぜこういうことができるか。
いくつか事情が異なるためである。
見ていこう。
1)だって専用キャビネット(筐体)だし
『パックランド』は汎用テーブル筐体、『オペウル』は専用アップライト筐体である。
テーブル筐体はそれぞれ外観が似通っているが、入ってるゲームはそれぞれ違う。
よく見ないとどんなゲームタイトルが入っているかがわからない。
しかし専用筐体ならそういうことがほぼない。
たとえば2画面筐体の『ダライアス』と4人プレイ筐体の『ガントレット』のキャビネットを見て取り違えるなんてことはない。
2)外観でもう『オペウル』とわかってるし
筐体を見ると、まずマシンガンがポンとついている。
筐体側面にはアメコミ調のゲームイラストがでかでかと描いてある。もう他のゲームと間違えようがないな。
なので『オペウル』ではコイン投入後のタイトルロゴをすっとばして、親切な操作説明画面を表示し、ゲームスタートボタンが押されるまで待機する作りが可能となっているのだ。
テーブル機とは事情が違う。
ゲームの営業形態を理解し、標準テンプレを鵜呑みにせず、最適なゲーム開始シーケンスを臨機応変柔軟に構成する。この姿勢はぜひ見習いたいところである。
なお、この構成にはもうひとつ利点がある。
操作説明画面でスタートボタンを押さなければ、納得いくまでずっと操作説明を眺めることができる。
あわてる必要はない。出撃前に気持ちを整え、牙を研ぎ澄ますのだ!
ツボNo.3 「すばやくストーリー状況と目的を理解させる」
さて、研ぎ澄ましたその牙でスタートボタンを押すと、いきなり青空の下にジャングルが描かれた背景画面になる。
オープニングシーンの始まりだ。
そしてすぐに画面上部から1人の兵士がパラシュートに吊られてふわふわジャングルへと降ってくる。
画面下部には一言、「作戦開始! 人質を救出せよ!」とだけの簡単なテロップ。
理解。
つまり単身ジャングルに降り立ち、密かに行動して人質を救出する。
これが狼作戦のミッション内容ってことだな。
もうこの画面だけで、己が置かれた場所と状況、そして目的、すべてが明らかだ。
これが『オペウル』のゲームスタートのオープニングシーンのすべてだ。
驚くべきことだが、デモはこれだけで終わり、画面は実際のゲームプレイへと切り替わる。
たったこれだけで、基本操作、開始状況とゲーム目的(ストーリー)を説明しきっている。
話が手短で早い。
戦場では一瞬の隙が命取りになるからな! あと話が短いと女子にもモテる。
しかもだ、『オペウル』ではこのゲームスタートシーンがゲーム内のすべてのデモの中で一番凝った作りになっている。
パラシュート兵士が降ってくるという動きがあるからな。
驚くべきことに、他の演出デモシーン、ステージクリアの演出デモや、何ならエンディング画面までもが、すべて1枚絵で、しかも静止画だぞ!
どうだビビったか。
それほどまでしてゲームの導入部分に力を入れ、ゲーム目的その他をプレイヤーに伝える努力をしているのである。
『オペウル』に限らず、古典ゲームのゲームスタート時のオープニングデモは非常に短い。
この短いオープニング時間の中で、ストーリー設定、プレイヤーの目的や初期状況、あるいは基礎的なゲームルールや操作方法など、ゲームによって様々だが、ゲームデザイナーが必要と思う情報を、手短に、しかも少ないリソース消費で伝えるゲームが多い(もちろんインカムを稼ぐために時短が必要という理由もある)。
話を『オペウル』に戻そう。
振り返って、コイン投入後からのシーケンスを見直してみよう。
1.コイン投入後 → スタートボタン待ち画面(基本操作説明):1画面
2.スタートボタン押下後 → オープニングシーン:1画面(1カット)
3.ステージ選択画面:1画面
4.ゲーム開始:ゲーム画面
なんてこった!
コイン投入から実際のゲームプレイが始まるまで、使っているのは合計で3枚の背景画面だけだ。
使ってるリソース超すくなっ。
古いゲームは、現代にくらべハードウェア性能が著しく低い。
ゆえに使えるリソース(データ容量やプログラムサイズなど)も非常に小さい。
しかもそのリソースはできるだけゲーム本編に使いたい。
という事情で、短くできるところは徹底的に短くする。
このためアーケードゲームでは、プレイヤーはすぐにゲームプレイを始められる。長々とした会話シーンや、親切だけどしつこいチュートリアルなどない。
まず実戦だ! ある意味非常に快適である。
見習いたい潔さだ。
このへんの事情、第1回発掘報告書の『スペースハリアー』前編の回でも同じようなこと指摘しましたね。
あ、第2回の『パックランド』でもしたような気がする。
ま、そちらも合わせて読んでいただきたい。
・簡素でもショボくては逆効果
優先度がわりと低い演出などはシンプルに作らざるを得ない。
だがしかし、ショボすぎてもならない。
序盤演出があまりにショボすぎると、ゲームスタート直後にプレイヤーの気分もアガらない、高揚しない、たぎらないし、むせもしない。
ぶっちゃけやる気ない状態でゲームを開始することになる。
つまんね、って気持ちからのマイナススタートだ。
やだねこんなの。
であるから、リソース消費が少ないシンプルさがありながら、でもイカす内容のスタート演出が必要とされる。大変だ。こうした二律背反する状況と対峙し、さまざまな工夫で乗り越えた先人の苦労が偲ばれる。
名作は死なず、ただ工夫があるのみ。
名作と呼ばれ、現代でも名が残るゲームは、ゲームスタート時の工夫での盛り上げが上手い。
このことは今後の発掘報告でも折に触れて指摘することになるだろう。
あ、でも名作を老兵と呼ぶのはちょっと違うな、
名作はただ消え去るのみってのはないし! そんなのまさかだよマッサーカーだよおっかさん。
■ビジュアル技法のツボ
ツボNo.4 「1枚絵に魂をこめる」
『オペウル』におけるゲーム進行中のデモ画面は
・オープニングシーン
・ステージクリア画面(5種類)
・ゲームオーバー画面(2種類)
・オールクリア画面
となっている。
オープニングシーンも止め絵と言えば止め絵なので、全て1枚の静止画でまかなっている。
ただし、その止め絵にものすごくチカラが入っている。
といっても描き込みの情報量とかではない。
構図や描き込みのセンスがいいのだ。
ポージングや情報密度のメリハリ、キャラの表情や小道具などをうまく使い、状況や主人公の心情を明確に伝え、プレイヤーの魂に響くような絵を作っているのだ。
例をあげよう。
敵兵士から収容所の位置を聞き出すシーン。
男の胸ぐらをつかんで銃を突きつけている。2人の表情の対比。いかにもなダメな奴っぽい兵士がビビった顔で収容所の方角を指さしている。これ吐かなかったら無慈悲に殺されるやつだな。
集落の村娘にケガの手当をしてもらってるシーンでは、足を伸ばして床に座り、傍らに武器を置き、タバコを咥えた姿で、リラックスしていることがわかる。
小道具の使い方がうまい。
ゲームオーバー画面では、苦悶の表情で手のひらを前に伸ばし、まさに倒れんとしてるポーズで、無念さを表わしている。
別のゲームオーバー画面では、不運にも捕虜になって終わるが、これまでのカッコイイ姿とは落差のある情けないポーズの対比が効いている。捕虜であることがグレー服と鉄格子の窓というわずかな描き入れだけで、黒ベタ背景を見事逆手に取っているところにも注目してほしい。
パッと見で状況、行動、心情、がよくわかる絵になっている。
絵としても動きや変化を感じる一コマになっていて、しかもアメコミ調でシリアスにカッコイイ。
これはどういうことか言おう。
見る人の想像力を最大限利用した演出ということである。
そしてその想像力をしっかりくすぐる絵の構図やポーズになっている。
長々としたセリフ回しや、説明っぽい演技アニメーションなどない。
じつに男らしい作りだ。
男ならクドクドと説明するな! 黙って背中で語れ! 男には自分の世界があるのだ!
<次回、中編! 発掘継続>
ふう。
今回の戦闘はここまでだ。全員無事か? 何人残っている?
皆、ここまでついてきてくれて感謝する。
この前編では『オペレーションウルフ』の表現演出技法についてみっちりと調査した。
しかも次回でもまだちょっと続く。
思った以上に長大な報告書になってしまったな、やりすぎた反省しています。
『オペレーションウルフ』のメイン開発担当者は、タイトーはおろか業界でも筆頭クラスの超絶絵師さんだった。
そのためかビジュアル演出には数々の技法がふんだんに使われている。
最低限の1枚絵であっても、躍動感に満ちあふれたポーズや構図なため、絵に動きがなくてもそれだけで動きのあるかのように見える。
効果的かつ効率的な演出だ。
センスの成せるワザだな。しかも少ないリソースとコストで実現されるてるため、一石二鳥だ。
作った人は作業の手も早いけど、じつは面倒くさくて手抜きでサラッとやりたかったんだと思う。
それでこれか。センスだなぁ……。
ただそのかわり、ドット打つときには1ドットに思いっきり魂こめて打つ、そんなスタイルの人だった。
ドット打つボタンの音が「パシーン!」て部屋中に響くんだよな、マジで。
魂はいってる。
さあ、メランコリックな昔話は終わりだ。戦いはまだ続くぞ。
次回の中編では、ゲームビジュアルのツボの続き、そしてゲームデザインのツボについて調査結果を述べていく。
ここからが本当の戦いだぜ……。
今はゆっくりと休むんだ、休めるうちにな……。
©TAITO CORPORATION 1987 ALL RIGHTS RESERVED.