ナムコ『パックランド』発掘報告書 前編

  • 記事タイトル
    ナムコ『パックランド』発掘報告書 前編
  • 公開日
    2021年06月11日
  • 記事番号
    5381
  • ライター
    ぱぱら快刀

やっほーみなさんこんにちは!
すっかりおなじみのゲームデザイン発掘隊、隊長のぱぱら快刀仙人です! よろしくね!

今回の発掘ターゲットは、みんな大好きナムコの『パックランド』だよ。黎明期の横スクロールジャンプアクションの名作だ。
ここで衝撃の事実を述べよう。このゲーム、ゲーセンでの稼働開始が『スーパーマリオブラザーズ』の発売よりもおよそ1年も早い! 何てこった!

『パックランド』は、まだジャンプアクションゲームが一般的ではなかった時代に突然変異的に登場した、オーパーツとしか言いようがないほど完成されたゲームなんだよね。むかしのナムコゲームはマジですごいな!!

では、今回とりあげる『パックランド』がいかに素晴らしいか。
そのゲームデザイン技法の真髄の発掘にはりきって挑戦していくぞ~プイプイ!!
  
  

<ゲーム紹介>

『パックランド』は1984年のナムコのアーケードゲーム、つまり業務用機です。
1984年8月の稼働開始らしい。
前述したように、おなじ横スクロールジャンプアクションの金字塔『スーパーマリオブラザーズ』の発売日が1985年9月13日なので、『パックランド』のほうがおよそ1年も前に登場していたことになる。
『スーパーマリオブラザーズ』以前にこんなゲームがあったとはな!
これはもう埋もれてた歴史的大事件じゃないか!(ま、当時を知るゲーマーの間では有名な話だけどね!)

『パックランド』はナムコの看板キャラクターであるパックマンが、妖精の国へ旅をするという大変メルヘンな内容のゲームだ。
ゲーム画面も、当時の他ゲームとは一線を画したポップなグラフィックスタイルが目を引く。

だがそのゲーム画面を見てまず最初にビビったことがある。
何と! このパックマン、手足が生えてて目鼻も口もあるぞ! 誰だよこいつ? ビビったよね。
あの黄色の丸っこいやつがえらく成長したもんだな!
まあ口だけはもとからあったけどな。

じつは手足のあるパックマンは、この時代でもナムコの宣伝ポスターなどで描かれていたけど、ゲームとして動いてたのは初だったんだよ。
あの口だけ丸野郎が立派になって返ってきた! これがグラフィック技術の進歩ってやつだぜ。いい時代になったものだ。
  

<ゲームの特徴>

ボケつつ驚くのはそれだけではなかった。おいテーブル筐体のコンパネ(コントロールパネル)をみろよ。ボタンが3つだけで、レバーがどこにもないぞ!
これは『ハイパーオリンピック』なのか!?
ぼくの地元のゲーセンだと『パックランド』の隣のゲーム機がデータイーストの『空手道』だったので、間違えてレバーが1本そっちに行ったのかと思っちったぐらいだぜ! なんてね。

『パックランド』のコンパネには、本来レバーが生えてるはずの左側の穴に赤いボタンがはめられてる。こいつがジャンプボタンだ。
で、右側はふつうに2ボタンがある。ショットとボムではない。
何と、左に進むボタンと右に進むボタンだ。

  
とどのつまり、「進むボタン」をパタパタ押してパックマンを左右に動かし、「ジャンプボタン」で障害物や敵モンスターを跳び越えてかわし、画面を右に進んではるか先にあるゴールにたどり着くゲームってことだ。
そうやって妖精の国とやらへ行くのである。
弾とかは撃てない。口からリップルレーザーも出ない。シンプルこの上ない。チョロい内容だ。

なお、敵のモンスターたちもパックマン同様、昔より成長した見た目になっていて、こいつらにも腕が生えている。
腕だと!? あいかわらず生意気なやつらだ。
ただしオバケなので足はないままだ。よかった。足なんて飾りですよ! そのわりにはモンスターどもは車や飛行機やホッピングに乗ってやってくる。足がないのにどうなってんだ!? 飾りですよ!!

ゲーム紹介が長くなってしまった。パックランドについてはついアツくなる。さっさと本編にいくぞ!
  

<発掘品目録>

その前に、例によって今回発掘したゲームのツボたちを一覧にまとめる。
前も言ったけど、まとめ表を作るのは企画屋の重要な仕事だぞ。こういうとこからしっかりやらなきゃね!
あと今回も前回の「スペースハリアー発掘報告書」(前編後編)と同様、前後編に分かれております!
よろしくお願いいたします!
  

 -前編-
■ゲームビジュアルのツボ
   ツボNo.1 「スタート時にゲーム内容を匂わせる」
   ツボNo.2 「ゲームを邪魔しない最小限のガイダンス」  
   ツボNo.3 「情報量を絞ったグラフィックスタイル」
■操作方法のツボ
   ツボNo.4 「ゲームによって操作を決める」

  

 -後編- (2021年6月18日公開予定)
   ツボNo.5 「操作の気持ちよさ」
■ステージ展開のツボ
   ツボNo.6 「ステージ展開でさりげなくストーリーを語る」
■繰り返しプレイさせるゲームデザインのツボ
   ツボNo.7 「ステージバリエーションで味変」
   ツボNo.8 「序盤ステージで飽きさせない」
   ツボNo.9 「難易度コントロール手法」

並べてみると、またたくさんあるな。
ひとつひとつ説明していくので、ごゆるりとお付き合いくださいませ。
  

<『パックランド』のツボ>

さて発掘調査の開始だよ。
いつものとおりゲームの進行順に見ていくぞ。
なお今回のツボ発掘調査はいつもよりじっくり見ていくことになる。よし、がんばるぞ~。

そういえば、さっきチョロい内容と書いた。
だが『パックランド』は実際にはチョロいどころか、これだけシンプルなのに超遊び応えのある分厚い手強いゲームなのだった。それを実現した超絶なゲームデザイン技法のツボを、これから発掘していこうと思います。
前置きがずいぶん多くて悪かった。
さあ、ツボを探す冒険へ出発だ!
いま陽が昇る!!

■ゲームビジュアルのツボ

・前置き

アーケードゲームの作りには一定のお作法がある。まず最初の重要なものを紹介しよう。
それは、プレイヤーがコインいっこ入れるとタイトル画面になり、スタートボタンが押されるのを待つ、という作法だ。
この流れがないと、ちゃんとクレジット入ってるのか、何のゲームにコイン投入してしまったのか(わりと大事)、プレイヤーにわからないからね。
実に気が利いているだろ。

コイン投入後、もし何も変化がなくタイトル画面(またはスタート待ち画面)にもならなければ、コインが正常に投入されてないんじゃねーの? って理解できる。
返却口を確認しよう。
詰まってたり10円玉だったりする。あるある。
誰かが忘れていった100円玉が見つかることもあるぞ! あるある。
そんなときは投入口から筐体の中に戻してあげようね!

あるいはコインが「飲み込まれる」つまり金だけ取られてクレジットが上がらない事態も稀にある。最悪だ。
その場合は店員を呼んで何とかしてもらう。
詫びクレジットをねだって2クレ入れてもらうのもまた作法だ! あるある。

さて『パックランド』も、もちろんそのアーケードゲームのお作法に則った作りだ。
なのでコインを入れ、タイトル画面になってスタートボタンを押せばつつがなくゲームがスタートする。
まず最初にTRIP 1が始まる的なメッセージ画面のあと、瞬時にパックマンの国パックランドに連れて行かれる。
わりと殺風景な景色の中、ぽつんと一軒家の前で手足の生えたパックマンが歩きだそうという画面になる。
なるほど、これは見るからに旅立ちだ。
男の旅立ちはいつもひとりである。このパックマンは俺だ。俺がパックマンだ!!
  

※お店のDIPスイッチ設定によっては、ラウンドセレクト、つまり高次ラウンドからのスタートを選択できる画面が先に表示される場合がある。スーパーマリオでいうワープ土管ですね! もはや慣れきったたるい序盤はこの機能ですっとばせるぞ。
アーケードゲームの場合、ステージワープはけっこう有用なのです。上級者なら必ずクリアできる序盤ステージを省略できれば、プレイ時間を短縮できて客回転率が上がる。つまりインカムが上がる。
時間短縮はお店もプレイヤーも嬉しいのであった!

ツボNo.1 「スタート時にゲーム内容を匂わせる」

ゲーム画面に切り替わった直後。
パックマンは背景にある家から出てきた風に2~3歩あるいてきて一旦立ち止まる。
パックマンは右向きで、家はパックマンのやや背後の位置にある。

この位置関係がうまい。この黄色い男は明らかに家を出てこれから右へと進んでいこうとしているように思われる。どっかへお出かけだ。
パックマンを右へ。背景ストーリーとゲームルールの両方が、この瞬間のビジュアルだけでわかるようになっている。地味にすごいことである。
これがいわゆるレイアウトの力だぞ。レイアウトってすごいね!

さらに言えば、このパックマンは何か赤い帽子をかぶっている。
黄色い身体に赤い帽子、帽子には白い羽飾りまでついている。オシャレなやつだ。
映えを意識か。絶対インスタやってるだろこの野郎!

だがオシャレだけが目的ではない。この帽子、何か登山とかに行くときにかぶるやつだぞ。
これから冒険とかに出かけるのかよこの野郎! って雰囲気だ。
先ほど出てきたTRIP 1という表記の意味とも繋がる。つまり旅ってことだなこいつ! 見てみろよこのドヤ顔!

ちなみにこの帽子はチロリアンハットといって、日本ではチロル帽(登山帽)としておなじみのものだ。
こいつは昭和の時代から登山やハイキングでかぶる定番の帽子だぞ。
マンガとかでも旅とか冒険とかをあらわす象徴的な記号としてよく使われてた帽子だぜ。

総合するとこうなる。
このパックマンはただ家から出てきただけではない。ちょっと近所に豆腐を買いに行きますよ、などと誤解する要素は1ミリもない。
この丸野郎はこれから冒険に出かけるのだ!! 冒険だぞヒャッハー! 来たぜ来たぜ、ワクワクしてきたぜ!! 猪突猛進!猪突猛進!!

そういう強いイメージを、画面レイアウトとこの帽子だけでプレイヤーに印象づけている。
もうパッと見でわかるぞ。すごい。
よくぞパックマンにこの帽子をかぶせたものだ。こういうところだよ。ナムコはほんとうまいな!

前回の『スペースハリアー』の発掘報告書でも書いたけど、スタート直後の画面の作りはほんと重要なんだよね。初見プレイヤーのゲーム理解度とモチベーションに強く影響するんだよ。

さて、以上を一般化するとこうなる。
  

『ゲームスタート時のプレイヤーキャラ登場シーンは、それだけでストーリーとゲームルールを匂わせる説明になっているべきである』

こういった作りをおろそかにしてはいかん。
しかも古典ゲームはごく少ないリソースのやりくりで、ほぼ追加リソースなしでうまいことやっている。
冗長な説明はいらんのだ。もうパッと見た目でやる。
そうすると時間当たりの情報密度が濃い。これはできるだけ見習いたいテクニックですぞ!

ツボNo.2 「ゲームを邪魔しない最小限のガイダンス」

さあゲームが始まった。
さっそくパックマンを動かそう!
操作に移る前に、ここでまず見るべきポイントがある。ゲーム画面のだいたい中央付近に適宜、表示される矢印アイコンだ。

・矢印アイコン

ラウンドスタート直後、またはパックマンが左方向に進んでるとき(すなわちプレイヤーが進む方向を理解していないと思われるとき)画面にはビカビカ目立つ右向きの矢印が現れて「こっちへ進むのだ!」っていうガイダンスが表示される。

ちなみに『パックランド』はゲーム画面が左右どちらにでもスクロールし、パックマンは来た道を戻ることが可能な作りになっている。
『スーパーマリオブラザーズ』のように、一度進んだらもう後ろ方向にはスクロールしない方式(ゆえに右に進むしかない強固な縛りが存在)とは違っている。
マリオに後退の2文字はないが、パックマンにはある。偉いヤツなのだ。

『スーパーマリオブラザーズ』は画面が決して後ろに戻らないことにより、矢印表示がなくてもゲームに支障を来さないのであった。必要がないのである。ここは重要な違いだね。
何でも矢印すればいいということではない点は覚えておこう。

さらに言うとだが、『パックランド』には左方向に進むラウンドが4回に1回ある。
今まで進んできた方向とは逆方向に進むことになるので、ここではガイダンス矢印は左向きに出る。
これまでと違った方向にプレイヤーを誘導する必要があるため、ここでも必須な表示ですね。
プレイヤーにとってこの矢印はまさに旅の羅針盤なのだ。矢印のくせに頼れるやつだ。ここもマリオとは違う点ですな。

まあでも、進行方向への矢印出るとか普通っちゃ普通だよね。だがまあ待て。
ここからが重要なツボになるぞ。
矢印に施されたもう一工夫、微に入り細をうがつ技を見てみよう。

・矢印はキャラと同じ高さに現れる

『パックランド』での誘導矢印は、パックマンがいる画面位置と同じ高さ、かつパックマンの近傍に表示されるようになっている。
さらに赤白にビカビカ光って目を引く。
パックマンが障害物上に乗ってるときやジャンプしているときでも、矢印が出るときはパックマンと同じ高さに出現する。そして出現後は表示位置は移動せず同じ場所に居続ける。

せっかく出した矢印である。
プレイヤーの目に入って、気付いてもらわなければお役目を果たせない。
つまり矢印はできるだけプレイヤーの目を引く場所に表示するべきである。

では、ゲーム中にプレイヤーの視線がどこに向いているか。
上級者でもない限り、まずはプレイヤーキャラクター、すなわちパックマンを見ているであろう。
となれば横方向にも縦方向にもパックマンに近い位置こそが、絶対に目に入る最適な位置である。
かような計算のもと、表示位置を都度調整している。
これでは見落としようがないではないか! おのれナムコ孔明、おそるべし鬼謀!!

まだある。
一旦矢印を表示したら、消すまでは矢印は表示位置からふらふら動かない。なぜか。
表示固定で見やすくなるってこともあるが、矢印はシステム表示であってゲーム内のキャラクターではない。それをアピールする効果もある。
動くと「敵かッ?」とか思って一瞬びびっちゃうやつも実際いたりするからな。
何だこの矢印ィィ~! ジオンの新兵器か?? ヤバい伏せろッ!! とか無駄に惑わせない。

さらにもう一点。
右矢印が出るときはパックマンの右側に、左矢印が出るときは左側に表示される、という仕組みも何気に備わっている。
これは矢印の向きと表示される位置に一貫性を持たせ、プレイヤーを混乱させない効果がある。
何という気配りであろうか。これよ、これが日本のおもてなしぞ!

・矢印は必要なタイミングのみ現れる

プレイヤーが正しい方向に進んでるときはガイド矢印は表示されない。
そのとき、すでに表示されてた矢印は消える。プレイヤーの邪魔はしない。
しつこく矢印を表示し続けてプレイヤーに口酸っぱく命令し続けてくることはない。慎ましいヤツだ。
ナムコの矢印はほんとしつけが行き届いてるな。

そもそもプレイヤーに気づきを与えることが矢印ガイダンスの使命である。
役目を終えたと思ったらすぐに引っ込んで、あとはプレイヤーの理解に任せる。
これがわきまえた矢印というやつだ。
何事もやりすぎ注意。実に示唆に富んだ例ですな。

・矢印はいつの間にか出なくなる

この矢印ガイダンスには、もうひとつ慎ましい話がある。
ラウンドを進めるうちに、いつの間にか矢印は表示されなくなっている。
だいたい8ラウンド目が終わったぐらいのタイミングかな。

各場面での進行方向をプレイヤーが充分に理解したと思われる時点で、矢印はぱったり出なくなる。
矢印は初心者向けの補助表示。ここまで来れたキミならもう矢印は不要だ。
初心者扱いは終わり、中級者と認められたのである。
君の成長に満足した矢印は、静かに去って行く。
矢印は死なず、ただ消え去るのみ。

どうだ泣ける話じゃないか。
ま、再プレイ時にはまた矢印出てくるんだけどな。

ツボNo.3 「情報量を絞ったグラフィックスタイル」

『パックランド』が発売された当時の業務機用ハードウェアは、競うようにグラフィック機能を強化し続ける時代だった。
ゲーム画面を彩るドット絵は、増えた発色数を生かして、各社が立体感やリアリティの描き込みを追求していた。

そんな中登場した『パックランド』は、他製品とまったく異なるグラフィックスタイルを取っていたのであった。
ポップなカラーでべったり塗られたフラットなグラフィックテイスト。つまりセルアニメっぽい。輪郭線もあるしな。じつにセンスいいし、なんかオシャレだ。
こいつはアニメ画面を動かせるゲームかイェイ! オレらアニメなら得意だぜぇうひょひょ! もうワクワクである。

このアニメ風グラフィックはパックマンらしい見た目を追求したものだったが(アメリカではこういうふうにアニメ化されてたしね!)、そこには副次的効果もあった。
よくよく観察すると、ちゃんとゲームデザインの一環としても機能していたのだ。
ただオシャレなだけではなかった。その点を説明しよう。

・少ない画面情報量が利点に

『パックランド』はアニメ調のフラットな画面である。
背景のあらゆるものはベタ塗りで表現され、細かい描き込みもない。
これは画面内の情報量が非常に少ないことを意味する。

絵という表現だけでいえば、情報量が多い=描き込み密度が高いほうが立派に見える。
だが『パックランド』はそうではない。絵の密度はスカスカなのである。

ところがビデオゲームという観点からいえば、これが利点になる場合がままある。
情報密度が低いが故に、画面上に存在するゲームオブジェクトを判別しやすいのである。
要するに動いてるモノが目立つわけです。
敵や敵の弾が背景グラフィックに紛れてしまい、そいつが認知できなくてワカラン殺しされたりなどがない。
こいつは実にプレイしやすいではないか!

でもそーゆう情報量の少ないスカスカ画面だと、ふつう見た目がショボくなるじゃん。
今どきかっこわるいじゃん。てなるよね。

だがそこはさすがのナムコのグラフィックセンスだ。
『パックランド』はポップなオシャレ画面にまとめるセンスでこれを克服している。プロの技ですな。
さらにはそこにゲーム的にも状況把握がしやすい、という副次効果も兼ね備えたことになる。
すごいよなナムコ。

まあおそらくこの副次効果部分は狙ったものではなくて、単に偶然の産物だと思うけどね!
だがこの発掘調査ではそういう点も見逃さない! 偶然だろうが狙ってようが、そんなの関係ねぇ!
私の分析からは逃れられないのだよ、くくく。

さて、まとめよう。
この実例から得られることは、「画面が持つ密度や情報量はゲームデザインにも影響する」ってことね。
簡潔だな。こういったバランスにも気遣うのが一流の仕事なんだな。

・平板な印象を補う工夫

アニメ調なのはいいんだけど、平面的な画面が続くとね、やっぱり平板で飽きてくるのよね。
そのためか知らんけど、『パックランド』では奥行きのある演出をちょいちょい入れてそういった平面感を緩和している。
背景の二重スクロールは奥行き感を出す基本的手法でそれは標準装備なんですけど、その他にもちょっとした工夫でそれを補強してる箇所がある。

その一つは森の中を進んでいくステージ。
森の木々が画面手前側に描写され、木々の裏をパックマンや敵モンスターが動いている。
画面に奥行きがあることを感じさせるレイヤー処理によって立体感を感じられる演出になっているのだ。
さらにこうやって画面の一部を隠すことでステージを難しくする効果もあるので(というか本来はこっちが主目的)、一石二鳥だね!

もう一つ。
ゲーム画面を見ると、パックマンが走る道はやや上から見下ろしたようなパースになっているよね。
さらによく見てみる。走っているパックマンが何だか奥へ行ったり手前に来たり、つまり走る位置が上下動しているぞ??

ただ平坦な場所を直線的に走ってるのではない。
手前や奥にブレて動く。さりげなくジグザグ走行してくことで、画面の奥行き感を無意識的に感じるよう演出しているのだ。
同時に、ただの直線動だと目立ってしまう動きの単調さも消している。素晴しい。
これを千鳥足挙動と呼ぼう。
このパックマンは酒飲んできたみたいに千鳥足で走る。真っ昼間からいいご身分じゃねえか!

さて、このジグザグ移動あらため「千鳥足挙動」は、実際にはパックマンの表示位置をずらすだけで実装している。
パックマンを表示する画面上の縦軸位置を上下動させてるだけにすぎない。
また、この上下動はごくわずかであり、もちろんゲームプレイに支障の出ない範囲に収まっている。
素晴しい。
小さな工夫だけど、まず上下動させるって発想に普通ならんですよ!
こういう工夫ができるかできないかが大きい。ナムコ神は細部に宿るってやつですぞこれ。

■操作方法のツボ

前述した通り『パックランド』の操作はボタン3つのみで行なう。
なぜボタンのみの操作になってるのだろう。
元祖「パックマン」が4方向レバーのみボタンなしだったから、こんどはボタンのみのレバーなしにしてみたのだろうか。
牡丹肉のレバー食いたいな。腹減ってきた。

『パックランド』の操作系はなぜボタンでなければならなかったのか。
そこにはどういう理由と利点があるのか。そのへんのツボを探ってみよう。
腹減ってきたけどがんばるぞ。

ツボNo.4 「ゲームによって操作を決める」

諸君らは『山のぼりゲーム』(こまや製1981年)をご存じだろうか。
有名なエレメカ機なので、まあ見ればわかる

『山のぼりゲーム』では「進むボタン」と「戻るボタン」の2ボタンで登山家を操作しゲームを進めていく。
何か似てるだろう。この時代にはボタンだけで操作できるゲーム機が数多くあった。
レバー使うゲームもあるにはあったけど、部材がけっこう高いからな!
ともかく、まあ『パックランド』以前にそういったボタン主体のゲーム文化背景があったことは覚えておいてください。

ナムコも昔はエレメカ機を数多く作ってたメーカーである。ボタン使いに躊躇はない。
なお吾輩が一番好きなナムコゲームは「バッティングチャンス」というエレメカ機だ。こいつもボタン押すだけゲームだ。すばらしい! プレイ料金も1回10円とかだしな。

話が逸れた。『パックランド』だった。

・既存の操作フォーマットに囚われない

プレイヤーキャラが左右に移動するならば、普通はレバーを使う。
というよりかは、当時すでにスタンダードだった「レバー+ボタンn個」という基本フォーマットに合わせて、ゲーム操作を割り振るのが普通の考えかただろう。
だってみんなレバーとボタンなんだもん!

時代の標準的操作方法に従うことはまったく悪くはない。
入力操作についてプレイヤーが混乱をきたさないし、習熟もゲーム内容そのものにフォーカスできる。
また特殊コントローラが不要なため導入コスト負担も軽くなる。利点は多いのである。

しかし『パックランド』のゲームデザイナーはそうではなかった。
お仕着せのコントローラに合わせてゲームを作るなんてまっぴら御免だ!
ゲームに合わせて操作系コントローラを自由に作る!
それができるのがアーケードゲームの利点であり本懐だ!!
男ならレバーとか小さくまとまるな!!

と、そんな意気込みがあったかはわからないが、『パックランド』はレバーをかなぐり捨て、ボタンを押して走ることを選んだのだった。漢だな。ボタン万歳! ボタンLOVE! ボタンたまんねえ! ウヘヘヘ……ということはないだろうが、この章でみなさんに理解しておいて欲しい点はただひとつ。
当たり前だと思っている慣習に囚われず縛られず、自由に発想していいんだぞ、ということだ。

むろん、エレメカ機のボタン文化という下地や、アーケードマシン開発特有のコントローラは自由に作れる! フリーダムぞ! といった環境の影響もあってのことだろう。
だが安易に常識や他のゲームに迎合しないところが、ゲーム業界の雄たるナムコなのでありました。
すごいぞナムコ!

このような例をもうひとつあげよう。
カプコンが『ストリートファイター』をテーブル筐体に移植したときの話じゃ。
当初『ストリートファイター』はデカい圧力感知ボタンを備えたアップライト筐体専用ゲームとしてリリースされた。

その後、営業的にいろいろあったのだろう、一般的なテーブル筐体でも展開することになったようだ。
ただし、そこにはひとつ問題があった。
圧力感知ボタンを使ったゲームシステムをどうするんだ?
そのときのカプコンの解答は異常だった。1レバー+6ボタンというコンパネを持ってきたのである。
6ボタンだと? 『ディフェンダー』かよ!
そんないっぱいの複雑なボタン操作とか無理だろバカだろ?? 当時はみんなそう思った。だが、その後この操作系がどうなったかは、説明不要だ。みなさん知ってのとおりである。
これがゲームシステムに操作系を合わせるという好例なんだよね。とてもいい判断だ。

・速度制御とジャンプ軌道のコントロール方式の違い

さて、操作系を自由に作るのはいいとしてさ、何で走るのがボタンなの? やっぱレバーのほうがよくなくない? という疑問がまだ氷解していない。
では再び『スーパーマリオブラザーズ』と比較して、そこんとこを説明してみよう。

その前にだが、そもそも横スクロールのジャンプアクションゲームに必須な操作要素とは何なのかを確認しておきたい。
結論をまず言うと「ジャンプ軌道コントロール」に尽きる。
「進撃の巨人」でいえば立体機動ってやつだな。これがなければ空中では戦えない。
次にこのジャンプ軌道操作を生み出すため必須となる要素の「移動速度コントロール」だ。

ここは重要なところだから、しっかり説明するぞ! よぉく聞けキャシャーン!

横スクロールジャンプアクションゲームの歴史は古い。まず最初期にあったアーキタイプは、主人公キャラの移動速度一定、ジャンプ高さ一定、というものであった。
信じられないだろうが、移動操作ナシで常時一定速の強制スクロール、操作できるのはジャンプタイミングだけ! という1ボタン操作のゲームすらもあった。
それをおもしれー! とか言って遊んでたよ。原始人みたいだな。単細胞すぎる。

そういうの、子どもっぽいのよね。と飽きてきたタイミングでゲーセンに現れたのが、アルファ電子の『ジャンプバグ』という横スクロールジャンプアクションゲームだった。
これはデフォルメされた自動車を操作し、ビルの上から上へとジャンプして飛び移って移動するという、まあそんなクレイジーなゲームだ。ゲーセンというより駄菓子屋とかによくあったな。

『ジャンプバグ』では8方向レバー1本でジャンプの空中軌道を操作する。
ボタンも1つあったけど、そいつミサイル的なものを車から発射するショットボタンだ。
当時は車からミサイルのひとつでも出ないと舐められる時代だったからな。
交通戦争とか暴走族世代ってやつだ。

主人公の車自体はスーパーボールみたいに勝手にポンポンと跳ねていく。地面やビルの上から上へだ。
プレイヤーはそのジャンプ中の軌道をレバーで操作する。レバー左右で跳ねる車を前に後ろに空中制御し、レバー上下でジャンプを高くしたり下降に転じたりすることができる。

その空中制御は独特の操作感で、ひどく難しいものだった。
当時としてはおもしろいゲームだったんだが、現代の尺度でいうとその操作性がアレというか、噂されると恥ずかしいし……ってかんじ。まあおおっぴらに言うのはよそう。ただしステージはなかなか多彩で趣のあるタイトルだった。

そういうゲーム史的な経緯があってですね、「移動速度制御」とそれが生みだす「ジャンプ軌道制御」を、いかなる操作系ならプレイヤーが快適自在に扱えるか? その解決がジャンプアクションゲームをよりおもしろくする鍵となっていたのだった。
あ、レバー入れたら慣性でだんだん加速して…ってのはダメよ。
それ『ジャンプバグ』だから。噂されるよ!

ええと、『スーパーマリオブラザーズ』と『パックランド』の操作の比較の話だったね。
ごめんごめん。おじいちゃん話が長いから。ごめんね。

さて、まず『スーパーマリオブラザーズ』の操作系からいくよ。すっかりおなじみだが一応説明しておく。マリオの移動操作は十字キーの左右で行なう。スタンダードだ。あと十字キーの下でしゃがむ操作がある。

走る速さは十字キーでも多少加速するが、Bボタン押しを併用することで爆発的に加速する。
いわゆるBボタンダッシュだ。
そして走る速さとAボタンジャンプの押してる長さ具合でジャンプ軌道を操作できる。馴れるとほんと自由自在だぞピヨーン!

さらにBボタンダッシュのすごいところはですな、速度コントロール操作に十字キーを離してもいいし、Bボタンを離してもいい、この2WAYなのいいよね。これら含め、マリオの走りはBボタンで制御する!
この発明が『スーパーマリオブラザーズ』を生んだのだ。おそるべし宮本茂! おのれ孔明!

いっぽうの『パックランド』はどうか(しつこいようだが発売は『パックランド』のほうが先だよ!)。
移動操作をボタンに割り振ることで、速度コントロールを単純にボタン連打することで解決したのであった。
すげえ。シンプルすぎる。こいつは革命だな!
なお、走る速度とジャンプボタンの押し加減でジャンプ高さを制御するのはマリオと同じだ。
これらの結果として「移動速度制御」「ジャンプ軌道制御」がまず快適に操作できるようになっている。

このように、移動を2ボタン、ジャンプに1ボタンのドラミング構成にしたことによって、パックマンにしゃがむ操作はない。パックマンは土下座しない! パックマンはうんこしない! パックマンはゲーム業界のアイドルだからね!
コーポレートブランドキャラクターとして完璧さが求められてるんだ。しかもパックマンは妻子までいる。裏山。そんなことはどうでもいいか。

さて、おわかりいただけただろうか。
『パックランド』はBボタンダッシュを発明できなかった。またはあえて不採用とした。
代わりに移動をボタン連打に割り振り、「速度制御」と「ジャンプ軌道制御」を両立させるアイデアに到達したのだ。むしろ実にシンプルな解決だ。
アーケード筐体だからできるエレガントな方法である。単純に開発者がボタンLOVEだっただけって可能性もあるけどね!(ないか)

・操作ルール習熟の工夫

『パックランド』の操作方法はとても簡単だけど、新しい操作システムだ。
チュートリアル的なものがあればいいが、アーケードゲームにチュートリアルなどという生ぬるい時間の存在は許されない。
プレイ時間を極力短くし客回転率を上げるためにね。
速攻でGAME OVERに持っていこうとする殺意の塊しかない。

そこでビギナーのために、すぐ操作やルールを理解させられる、ゲーム的な工夫を施す必要がある。
その工夫部分を説明しよう。

『パックランド』ではゲーム開始直後にまず右へ進ませる。矢印も出てうながす。ボタンしか押すものがないから、いずれ右に進むボタンを見つけてパックマンは右に進む。

歩き出すとすぐに街中に到達するが、進行上には赤い消火栓が置いてある。
パックマンは消火栓にぶつかって進めなくなる。そこでジャンプで飛び越えることを覚える。
それにしてもいきなり消火栓か。いったいどんな街なんだ、邪魔すぎるだろ。
そう思う間もなく、第2の消火栓がまた目前に立ちはだかる。こいつもジャンプだ。その後に3つめの消火栓につっかえる。進んでジャンプ。進んでジャンプだ。

同じ動作を3回やらせる。操作を習熟させるコツです。
三度も繰り返せば犬でもパックマンでも覚える。これ三顧の礼と云ふなり。この孔明、感服いたした!

消火栓を3回飛び越えた。ククク……消火栓を飛び越えるゲームですか、恐るるに足らず! と思ったところで、車に乗ったモンスターちゃんが前方から突っ込んでくる。
ブレーキとかしないし。轢き殺す気まんまんだ。殺意の塊じゃねーか!

街中で車に轢かれてたまるか。死ぬじゃん。
なるほど、つまり動く障害物を飛び越えろときたか。
なるほどなるほど。こうやっていろんなものをジャンプして避けながら進むゲームなわけやな!

はい理解した~。てな具合。
ゲーム開始直後に最低限必要な操作やルールを速攻で理解習熟させる、そんな親切心に溢れてるのが良ゲームですな。『パックランド』はまさにそれ。パックマンは恵まれてる。妻子もいるし!

お仕着せのチュートリアルとかではなくて、序盤のゲーム内容で少しずつ自然にプレイ操作やゲームルールに慣れさせる、この作りよ。
実にエレガントな手練れの仕事ですね。すべてのゲームはかくあるべし!

<次回、後編予告!>

今回の前編はここまで!
パックマンの旅はまだまだ続くけど、ここでBREAK TIMEだよ!
長かったね~、でもここまで読んでくれてありがとうございます。おもしろかったかな?

次回のパックマンの旅では、操作の気持ちよさやレベルデザインの工夫など、ゲーム内容の核心に関わるツボの調査に取りかかります! ほんとに後編で終わるのかな??
ま、がんばっていこう。

次回、ナムコ『パックランド』発掘報告書 後編、ご期待ください!!

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2018年04月10日

ゲームセンター聖地巡礼「1980~1990年代 新宿」前編

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