タイトー『エレベーターアクション』発掘報告書 中編
くそっ! どっちのコードだ!? 赤か? 白か? せっかくだから俺は赤のコードを選ぶぜ!
ブチッ! よーし、いい子だ、そのままおとなしくしてるんだぞ。
おっと、ごきげんよう。わたしが秘密発掘エージェント、チームリーダーのコードネーム・ダブルオーパパラだ。
愛銃はこのヨイサーPPR。狙った獲物は逃さない。バキューン。
さて前回に引き続き今回も『エレベーターアクション』の発掘調査を続けていくぞ。
『エレベーターアクション』は、『タイトーマイルストーン』や『イーグレットツー ミニ』に収録されている名作のひとつ、1983年稼働開始のアーケードゲームだ。
タイトルどおり、エレベーターが主役のスパイアクションゲームだぞ。
ゲーム内容を簡単におさらいしよう。
プレイヤーはスパイとなって、とあるビルに潜入。ビル内を最上階から地下へ向かい、いくつかある特定の部屋から機密書類を盗み出す。
ビル内のフロア移動は、エレベーターに乗り込みこれを操作して行なう。
現われる敵ガードマンを銃撃等で倒しつつ、すべての書類を盗み出し、地下で待つ車で逃走する。というアクションゲームである。
くわしくは 『エレベーターアクション』発掘報告書~前編~を参照してくれたまえ。
<発掘品目録>
例によって、今回発掘するツボの一覧リストのまとめ。今回は中編だぞ。
毎度毎度言っているが、こういったリストにまとめることもゲームプランナーのだいじな仕事である。
毎回言うなくどいとか言わないでください……。
-前編- |
■ゲームデザインのツボ■ |
ツボNo.1 「上から下へ降りていくスタイル」 ツボNo.2 「しゃがみ攻撃:新アクションを活かす」 ツボNo.3 「自分で操作できる足場(エレベーター)」 |
-中編- |
■ビジュアルのツボ■ |
ツボNo.4 「キャラクターと世界観の表現」 ツボNo.5 「カートゥーン&マンガ的表現を演出に」 |
■アクションシステムのツボ■ |
ツボNo.6 「文脈アクションでシンプルさを保つ」 ツボNo.7 「良くできたマップを使い回す」 |
-後編- |
■アクションシステムのツボ■ |
ツボNo.8 「操作とアクション挙動を安定化する」 |
■ゲームシステムのツボ■ |
ツボNo.9 「低コストかつ合理的な作り込みで面白味を増す」 ツボNo.10 「ゲームルールの穴を埋める手際」 |
<「エレベーターアクション」のツボ>
■ビジュアルのツボ■
さあ、ここからはビジュアルと世界観についてのツボを探っていこう。
ツボNo.1 「キャラクターと世界観の表現」
本ゲームはスパイをテーマにしたアクションもので、主人公は(正義の)スパイであることが主題である。
ではそれをどのように印象づけているのか。
そんなものは見ればわかるだろ! もちろんそうね。だがなぜ一瞥でそれがわかるのか? 何で? 何で見ただけで秒でスパイってわかるの? ボーっと生きてんじゃねーよ!
ということで、その謎と仕掛けを点検していこう。
1.ゲームタイトルとロゴで別々の機能
『エレベーターアクション』とゲームタイトルを耳にすれば、はいはい、エレベーターでなんかアクションするゲームね、とすぐに想像できる。
超わかりやすいド直球タイトルだ。
だがここにはスパイ要素がまったくない。
スパイ要素の表現はタイトルロゴのほうにある。何だかキザっぽい男が拳銃片手にドヤ顔で居座っているじゃないか。
こんな小じゃれた服着て拳銃構えた野郎は、もう完全に記号化されたあいつだよ。大泥棒かスパイかどっちかの。
つまるところ、ゲームタイトルではゲームシステムを、タイトルロゴではスパイという世界観と印象を、それぞれ表現しているという構造になっている。
うまいことやるもんだ。
伝達すべき情報を2つに分けて届ける。暗号みたいだな。なかなかスパイらしいじゃないか。
ここまでを一般化した手法に拡張してみよう。
・ゲームタイトルの命名パターン
「ゲームシステムやその特徴を説明するもの」
「ゲームの世界観やテーマに関連した要素を表わすもの」
「まったく関係ないが印象的なもの」
この3種類が考えられる。あるいはそれらの複合というケースもあるだろう。
・タイトルロゴビジュアルのパターン
「ゲームタイトルで説明しきれなかった要素を補完する」または
「タイトルの印象をさらに強化する」というルックスが好ましい。
もちろんそうじゃない別パターンンのゲームタイトルも多いが、この命名パターンは参考になると思う。
ぜひ心に留め置くべきツボです!
2.スパイに見せる動作とルックス
さらにスパイらしさを補強しているのが、ゲーム開始直後のオープニングシーンだ。
どこからか射出されたロープがビルの屋上に張られる。ロープにぶら下がり主人公が滑り降りてくる。
屋上に着地し、身を屈ませ左右に目配りする。周囲を警戒しているようだ。
そしてエレベーターに乗り込んだところからゲームがスタートする。
おかしな方法でビルにやってきて、周囲の様子を伺う。
このオープニング演出で、主人公がスパイであると説明しきっていますね。
見事なゲームの入りだ(さらにゲーム中に書類を盗んでる描写で念押しもしてる)。
だが同じような行動で登場するのはスパイだけじゃない。
「怪盗ナントカ」とか「心を盗んでいきました泥棒」とかもそうじゃないか。なぜこいつはスパイに見えて泥棒に見えないのだろうか。
泥棒の主人公ってさ、もっと自己主張の激しい目立つファッションしてるよね。ルパンとかキャッツアイとか怪盗キッドとか。
これはおしゃれ度というか、スパイと泥棒とでそれぞれ記号化された特徴が異なっていることを意味する。
それぞれがどんな特徴で記号化され判断基準になっているかは、みんなへの宿題だ。説明する紙幅もあんまり無いしね!
世間に広く認知され記号化されたルックスや動作をキャラクターに取り入れることで、見ため一発で何者かを理解させる。特に動作や所作は重要だ。
キャラクターデザインとは見た目だけでなく動きやセリフ、声色も含めてだもんね。
ついでにだが、敵のガードマンが黒服の悪そうなやつって見た目にも注目してみてほしい。
なお、先のオープニング中でのしゃがみ動作は、ゲーム中のしゃがみモーションの流用だ。ために、実際に出来るアクションの示唆、前フリにもなっている。
この男は至高のしゃがみができるのだ、との印象づけになっている。
ゲーム中のアクションを再利用してオープニングシーンを作るのは、過去の発掘報告書でも何度も指摘している節約技ですね。忘れてないよな!
ツボNo.5 「カートゥーンやマンガ的表現を演出に使う」
さて。このゲームがわりとガチなスパイアクションであることはわかった。
しかしてスパイものなのにゲームの印象は殺伐とはしてない。コミカル、いやむしろ洒脱でエレガントな雰囲気にすら見える。
イギリス情報部の女好きなあいつの映画みたいだな。
まあ血みどろ首チョンパみたいなスプラッタなスパイ映画はあんまり見たくないしね。
この時代のゲームがみんなコミカルなルックスなのは理由がある。
当時のハードウェア性能には様々な制約があるほか、低解像度のグラフィック能力しかない。
そのため、ゲームとして合理的な画面を構成すると、このようなコミカルでかわいい目のキャラクターサイズにならざるを得ない。
『エレベーターアクション』でもキャラクターは3頭身サイズだ。
結果としてゲーム中の各種の描写はリアル路線ではなく、マンガ的な演出表現を多用している。
そういったマンガ的あるいはカートゥーン的な表現がもたらす長所は多い。その具体例をみてみよう。
1.敵味方の死体が残らない
倒された敵キャラクターは、放射状のパッと消えるマークを使うマンガ的技法でキャラをその場で消している。
コストが安い。死体が残らないので、表示キャラクター数的にも負荷がかからない。
2.凄惨な死に表現を回避
このゲームには、エレベーターの穴に落下死だとか、上下するエレベーターに挟まれて死ぬとか、現実ならちょっと見たくない凄惨なシーンがある。
これらもコミカルな表現になることで、残虐さが和らいでいる。こんなマンガ表現では凄惨さとか1ミリも感じないよね。
子どもにも安心して遊ばせられるものになっている。某ゲームのような残虐行為手当とかも出さなくて済むね!
3.敵キャラとすれ違うギャグっぽい感
多くのアクションゲームでは主人公が敵キャラに当たるだけでミスになる。
即死するゲームも多いし、そうでなくてもHPが削られたりする。まれに敵のほうが死ぬゲームもあるだろう。怖いね。
『エレベーターアクション』の場合、敵と接触してもまったくのノーペナルティーだ。というか敵味方のヒット判定すらない。単にすれ違うだけ。
ノーペインだけどノーゲイン。銃で撃たれない限りネバーダイ。
敵味方でバッタリ出会えど、互いにビビって見なかったフリみたいな、このゴチャゴチャ感がギャグっぽい。ちょっとフフッと来るね。
エスカレーターに乗ってるときも、お互い何ごともなくすれ違う。何だかコメディ映画の1シーンみたい。うまいことやり過ごしてやったぜザマァ! ていう、してやったり感もある。しかもこれゲーム的にも敵をかわす有用なテクニックだからなおさらだね!
「敵に触れても完全スルー」という扱いは、プレイヤーにとってかなり有益に作用してます。
敵との接触にへんにビビらなくてよいのでストレスフリーで快適だ。
接触プレッシャーがないので操作にも余裕がでる。余裕が出ればエレベーターの動向に多くの注意を回すことができる(ココ大事)。
4.独特な歩きモーション
主人公の歩きモーションにも注目だ。腕を両脇に固定したまま、小さな歩幅でちょこちょこと歩く。
昔のドリフのヒゲダンスみたいだ。
ふつうに歩くとマズいのか? もちろん。のんびり散歩してるみたいなふつうの歩きかたじゃあ、ゲームらしい緊張感も何もない。個性もない。キャラクター性も世界観もない。
歩きにも個性や演技が必要なのだよ。
この歩きかたは、じつはゲーム的にも重要な効果があるよ。
普通に歩くよりも歩幅が小さいため移動速度を遅くできる。つまりプレイヤーが操作しやすいスピードになるということだ。
プレイアビリティに大きく影響する。プレイヤーにやさしい。
その遅い移動速度にもかかわらず、小幅でちょこちょこと忙しく足が動くモーションのおかげでスローモーには見えない。ピッチ走法みたいだな。
激しいモーションでパタパタ歩き、立ち止まるときはピタッと静止する。これ「だるまさんがころんだ」の緊張感を思い起こすよね。
4項目説明してきた。こういったマンガ的表現は、単に見かけだけの話ではなく、同時にゲームメカニクスにもうまく活かされてる点にも注目してほしい。
昨今のゲームのように、ひたすらに写実的にリアルにするばかりではない。
マンガ的技法を活用することで生まれる新たな方向性のゲームデザインもまだまだ可能性があるはずだ。勇気が出てくるね!
■アクションシステムのツボ■
おっと、アクションシステムの話をするまえに、エスカレーターについても説明しよう。
ここまでほとんど記述しなかったが、『エレベーターアクション』にはエレベーターの他にエスカレーターも存在する。
一部の階ではエスカレーターに乗降しフロア移動できるのだ。
エスカレーターが一部の階だけにあるのって、ちょっとオフィスビルっぽいよね。
ただし! このビルにはエスカレーターはあっても階段はない。地味に不便だな。非常階段も存在しない。非情なのはスパイだけでいいってか!
エスカレーターはエレベーターと異なる操作制限がある。
エスカレーター上では登り降りの操作ができず、エレベーターのように途中で折り返しができない。次の階に到達するまで主人公は棒立ちのまま、その間まったく動けない。
通勤サラリーマンのように駆け登ったり、小学生のように逆走してみたり、そういったことはできない。残念!
余談になるけど、エスカレーターには立ち止まって乗れ、って呼びかけが昨今の流行りですよね。
80年代のゲームなのに現代を先取りする立ち止まり乗りだなんて驚きです!
一旦まとめよう。『エレベーターアクション』でのアクションギミックは次の4つになります。
・エレベーター
・エスカレーター
・電灯ランプ(撃つと落下し、一定時間暗くなる。敵を倒すこともできる)
・赤いドア(部屋に入って重要書類を入手する)
さて、これらを踏まえたうえでアクションのツボへと進もう。
ツボNo.6 「文脈アクションでシンプルさを保つ」
1.赤いマットに乗れ
『エレベーターアクション』では、「赤いドア」と「エスカレーター」の操作方法に特徴的な手法が採用されている。
開閉操作と乗り込み操作。
つまりギミック操作は、共に床に描かれた赤い四角のマークの上で立ち止まって行なう。
敷いてあるドアマットに乗れ! ということだ。ドアマット方式ですね。
なぜこの方式になっているのか、長所と短所も考えてみよう。
まず前提として、ドアやエスカレーターなどギミックの前であっても、普段通りのアクションを行なえなければならない(レバー下のしゃがみ等、一部例外あり)。
通常の移動操作やしゃがみ、銃撃などのアクションを設置ギミックが邪魔し、プレイに支障が出るのはウザいことこの上ない。面倒くさい。
前を通っただけで主人公が勝手に赤ドアに入ったりしては困るよね。うわっ、急に赤ドアに吸い込まれた!? そこ吸い込むんかい! 赤いサイクロンかようざっ!
ドア見たら身体が勝手に動いて突っ込んでいくのか? スパイまっしぐらドアチュールかよ! ゲームにならんにゃん!
みたいなのやだもんな。
とはいえしかし、ギミック利用が必要な時にはプレイヤーの意思でしっかりドア開閉やエスカレーター乗り込みができなければ、これもまた問題だ。
せっかくのギミックが活きない。
どうしよう?
わかりやすく第3の「アクションボタン」をつければ解決かな。でももうボタンを2つ(銃撃、ジャンプ)使ってるし3つめはさすがに多いよな……。
それもドアとエスカレーターのためだけにボタン追加? シンプルでもエレガントでもねえ。
しかも当時のゲーセン事情だとボタン数が増えるとコストアップで営業さんに超嫌がられるんだよね。
なら2ボタン同時押しか。いやいっそ「↓↘→+銃ボタン」でドアを開け……。
アホか。こっちは格闘家じゃなくてスパイやぞ。
ということで発明されたのがこのドアマット方式なのだろう。前述の必要条件をほぼ満たす。せっかくだから俺は赤のドアマットにするぜ!
しかもですな、このマットが赤色なのも利点というか理由がある。
赤くマーキングすることで、赤いドアに関連づけられていることが明確だ。
赤ドアの前という設置場所と赤いマットであるからして、これらが関係してることが一目瞭然。スパイの洞察力にかかればまるっとお見通しよ。
しかもマットだから踏む。赤マットに乗って立ち止まり、赤ドアのほうを向けばドアを開けて中に入る。
訪問時にドア前で立ち止まるのがジェントルマンのマナーだし。スパイもジェントルマンだ、スマートでありたい。
エスカレーターでは赤マークの上で立ち止まり、レバーを上か下に入れる。
赤いドアもエスカレーターも「マット上で立ち止まり特定方向にレバーを動かす」という操作の共通化がなされている点にも注目です。
仮に今後ギミックが追加されたとしてもルールの転用が利き、直感的に理解できるために操作説明も不要のままでよい、という案配だ。
以上の説明をすべてまとめると「状況の文脈で操作方法を変える手法」と一般化することができる。これが文脈に沿ったアクション操作だ。
ドアを開けるには置いてあるマットマークの上で立ち止まる。これがこの場合の文脈となります。その後のアクションが変化する。
たとえスパイや忍者であっても歩いて通り過ぎながらドア開けるやついないもんな。かならず立ち止まって開けるから。
あ、もしかネズミの警官みたいな人がいたらひょっとすると歩きながらドアを開閉するかもしれないけど。まあレアケースだから無視していい。
エスカレーター前のマットで立ち止まるのも同様の文脈といえますね。
余談だけど、実際いるよねエスカレーター乗るとき一旦立ち止まる人。もしそういう人を見かけたら、どこかのスパイかもしれないぞ!
2.ジャンプがキック! 敵に効く!
ジャンプボタンを押してみよう。その場でジャンプする。当たり前だな。
一見普通のジャンプだが、このゲームのジャンプには3つの使いどころがある。
1.銃撃を跳んで避ける
2.穴や段差を飛び越える
3.敵への攻撃
1と2は一般的なゲームによくあるものだが、3の攻撃という意味を持たせたのはじつは画期的といえよう。
避け動作に攻撃ワザも持たせるとは!
ここでも文脈です。スパイが敵に飛びかかるならば、そりゃやっつけるためだよね。
愛してるから抱きつくわけではない。倒すための攻撃に決まってる。なのでもう最初からジャンプに攻撃判定がついてる。
ゲームのアクション仕様として表現するなら「ジャンプ中はオートキック」ということになろうか。
ふつうならうっかり「ジャンプ中に銃撃ボタンで近接キックが出せます」という仕様にしちゃうところですね。
でもそれだとジャンプ中に銃撃ができなくなってしまう。
では文脈的に「ジャンプ中に敵が近くにいる場合にのみ銃撃ボタンではキックが出る」ようにするか?? 意味がわからん。もはや迷走しているぞ!
めんどくせえ! もうジャンプは全部キックだ! 真空飛び膝蹴りィ!!
このゲームでのキックは、銃撃の死角を補完するための重要アクションだ。
エレベーターの下降中にキックが使えなかったら、先に相手に足を撃たれて死ぬ。マヌケな死にかただ。
下の階で待つ敵に上からキックを浴びせて倒す。これがないとゲームにならんし、スパイっぽくもない。
エレベーターがくるのを敵が待ってる状況。これゲーム序盤からものすごく頻発するんですよね。
なのでキックアクションは常用せざるをえない。これはエレベーターのアクションを成立させる必須要素だ。
このキックアクション自体をなくすと、ゲームデザイン自体の大幅変更が必要となり、さらに面倒くさいことになる。またまた迷走だ。
あとさ、マジな話、ジャンプ中に攻撃ボタンでキックするの、それ外すやつおらんやろ。おる?
どうせプレイヤー全員百発百中で蹴りかまして勝つやろ。わざわざ操作させてもさせなくても結果同じなんよ。
もう自動キックってことでいいじゃないの! って考えかたになるよね。これが文脈優先ってことです。ジャンプキックしか勝たん!
スパイっぽくエレベーターに潜んで、マヌケの頭上から飛び降りて蹴り倒す! 敵の銃撃を飛び越えて蹴り倒す! これよ。これがスパイよ!!
まとめます。
ゲーム状況の文脈によってアクション操作を変化させたり、1アクションに複数の意味をもたせる。これが特殊操作を最小限に抑える。
その結果、操作方法とゲームプレイにシンプルさと一貫性がもたらされる。プレイヤーにムダに負担もかけない。より快適なプレイを提供できるのだ!
ツボNo.7 「良くできたマップを使い回す」
恐るべきことに『エレベーターアクション』にはステージマップは1つしか存在しない。
何度ステージクリアしても、次のステージのマップは同じまま使い回しだ。マジか。毎回毎回同じビルに潜入するのか。
どんだけ機密書類が残されてるんだ。というか毎回新しく運び込まれてるんだよなたぶん。それを毎度毎度奪取する。繰り返される悪夢か。
これもカートゥーン風味あるな。盗みにいくほうも盗まれるほうも飽きない奴らだ。
そりゃそうか、繰り返したくなるほどおもしろいもんなこのゲーム。ぜんぜん飽きない。
さて、この単一のマップ構造だが、じつはまったくの同じではなく、毎回微妙に違いがある。説明していこう。
1.ビル内壁の色替え
目立つけどわりとどうでもいい違いとしては、ビルの内壁の色がステージごとにちょっと変わる。
この色チェンジは4種類あって、4ステージごとにループする。
この色変わりにより、次のステージに進んだ、ということがパッと見でわかるようになっている。
色替えがないと、ほんとにゲームの最初に戻された気分になるからな。どころかバグみたいに見えかねない。
同じマップを使い回すとしても、こういうとこが工夫だぞ。現代のゲームにおいても、同じステージを使い回すなら朝昼晩の色替えなどは常識だよね!
2.赤ドア位置の変化
『エレベーターアクション』では赤いドアがあるのでビルを赤い壁色にすることはできないがそれはさておき。
ゲーム中の目標となる赤いドアは、毎回ランダム(にみえる)場所に配置される仕組みになっている。
このため同じステージマップの使い回しであっても毎回変化がでる。よってパターンプレイが通じない。プレイヤーは局所的なアドリブ能力が問われることになる。
3.2段エレベーター
上下しているエレベーターはカゴが1つだけの一般的なものが大部分だが、中にはカゴが上下に2段になっているものがある。
この2階建てエレベーターは、待ち時間が少なくなる便利さと、移動に制限がかかる不便さの両方を兼ね備えている。
2段エレベーターの上側のカゴは一番下に到達できず、下側のカゴは一番上まで到達できない、という移動制限。
なのでエレベーターの使いかたが少し難しくなる。
エレベーターの設置位置自体はステージ固定である。ただし、そのうちいくつかのエレベーターが、やはり無作為に2階建てカゴに変化する。
ステージの一部が即興でアレンジされる形ですね。
そういった場所ではやっぱり攻略に変化が出るため、プレイにアドリブが要求されることになる。
4.脱出口のランダム配置
同様に、ステージのゴールとなる地下1階へ続く脱出エレベーターも、横に並んだ5基のエレベーターの中から無作為に選ばれる。
どのエレベーターが出口に近いか、1階フロアが見えてくる最後の最後までわからない。
運良く真っ直ぐ下降すればいい場合もあれば、運が悪くて端から端へと渡っていかなければならないこともある。
先読み不要のパターンプレイにはならず、変化が生まれている。
さて、まとめるよ。これらから重要なツボが見つけられる。
すなわち「基本は固定、だが一部が変化する」ということだ。
じつはこれはゲーム作りにおいてかなり重要かつ有用な手法なんだよね。
プレイヤーが繰り返し遊ぶ場合、毎回固定された部分はプレイのたびに学習曲線がどんどん上昇する。つまり慣れる。
そして、充分に慣れ親しんだところに少しだけ部分変化を与えることで、これまでの学習が活かされつつもプラスアルファの難しさが加わる(あるいは簡単さが)。
繰り返し学習で得た基本と、変化した場面での応用。上達した実感を味わいつつ、新鮮さも得られる。いいとこ両方取りだね。
いつもの日常に少しの変化、少しのスパイス。これが人生を楽しむ秘訣ってね。スパイだけに!
これは作り手側にとってもメリットがある。
データを使い回すことで工数を圧縮しつつバリエーションを稼げるからね。プレイヤーにもクリエーターにも、二度美味しい。
この手法はぼくも『ナイトストライカー』で利用している。たとえばゲーム中にトンネルステージがいくつかあるが、基本のルートマップはほぼ共通データだ。
障害物の出現パターンもほぼ同じだが、高次ステージほど配置内容がちょっとずつ難しくなっている(コース上の妨害シャッターが1枚→2枚と増えたりとか)
プレイヤーは高次の初見ステージでも、大部分がそれまでと同じデータの使い回しなので、過去の経験を活かせて習熟を実感しやすい。
そのぶん、ちょっとだけ難しくなった一部の配置に混乱して(率直にいえば騙されハメられて)まんまとミスしてしまう。
チッ、調子に乗ってしまった。油断大敵だぜ。って納得しやすい。反対にうまく躱せればそれはそれで上達を感じるので、どっちに転んでも成功だ。
マップデータ使い回しって、ほんとに便利だなあ!
ただしこのマップデータ使い回し手法にはだいじな注意点がある。
「良くできたマップデータを使うこと」である。つまんない、おもしろくないマップを使い回すとどうなるかわかるよね。
つまんないおもしろくないものが量産されるだけです。
『エレベーターアクション』ではこの唯一のステージマップが実によくできている。
その練り上げられたマップ構造。至高の領域に近い。おまえもエレベーターにならないか。
『エレベーターアクション』はアーケードゲーム発展期のゲームであり、リリース時の市場では長大なゲーム内容は求められていなかった。
ために、作り込まれたステージマップがひとつあればそれで充分なのであった。
あとは部分アレンジで一着のワードローブを使い回し! オシャレ女子の着回しテクみたいだな。もはやスパイは関係なくなってきたぞ。
<次回予告>
今回はビジュアル要素およびアクションシステムについてツボの発掘報告でした。
次回後編ではアクションシステムの残りと、ゲームシステムについてのツボを紹介していく。
いよいよクライマックスだぞ!
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