僕はアストロシティミニの収録タイトルたちにゲームの作りかたを教わった 後編

  • 記事タイトル
    僕はアストロシティミニの収録タイトルたちにゲームの作りかたを教わった 後編
  • 公開日
    2021年02月12日
  • 記事番号
    4713
  • ライター
    鶴見六百

「アストロシティミニ」の収録タイトルを眺めていると、30年ほど前の記憶が、鮮明に蘇ってくる。僕が新人企画マンとして、初めて任されたプロジェクト『マイケル・ジャクソンズ ムーンウォーカー』で悪戦苦闘していたあの頃の記憶が。

「アストロシティミニ」に収録されているタイトルの半数近くは、まさにその頃、同じ一研や隣の部署で、先輩がたが作っていたものばかりだ。
「クォータービューのダンスアクションゲーム」という難題を与えられたド新人の僕は、先輩がたがタイトルを作る様を横目で見ながら、門前の小僧としてゲーム作りに挑むのだが……。

『クラックダウン』が、実は『SHINOBI 忍』だったこと

解決のヒントは、意外なところから現れた。

話はちょっとそれるけど、『SHINOBI 忍』の企画者である菅野さんが何故「TEAM SHINOBI」から離れたのか、本人に直接尋ねたことがある。『獣王記』以降、TEAM SHINOBIの企画を菅野さんではなく内田さんが担当しているのが疑問だったのだ。

菅野さんの答えは、System24ボードで「別のSHINOBI」を作るため、とのことだった(言葉はちょっと違ったけれど、そういう主旨の答えだった)。デビューしたてのSystem 24に『SHINOBI 忍』のような定番アクションをラインナップとして揃えるため、System 24にくわしいリードプログラマー・片木秀一さんと組むことになり、TEAM SHINOBIを離れたのだ。

では「別のSHINOBI」とは何か? 実は『クラックダウン』のことだ。菅野さん曰く、『SHINOBI 忍』と『クラックダウン』は、見た目はまったく違うけれど、コアとなるメカニクスは同じものをベースにして作ったのだという。つまり……
  
  

●基本となるのはステルス風アクション
  
→敵の攻撃射線から「隠れ」ながらゴールを目指す。 

→マップ構成は、敵の死角をついて進めるようにルートや障害物を設定する。ザコ敵は必ず近接攻撃だけで倒せるように配置する。

→『SHINOBI 忍』の「しゃがみ」に相当する「壁にはりつく」というアクションを設定。
  

●基本攻撃+爽快なボム
  
→メインとなる攻撃は近接攻撃+射撃(近接攻撃だけだとストイック過ぎる)。

→『SHINOBI 忍』の「忍術」に相当する全体攻撃(ボム)を個数限定で使用させる。
  
  

――クラックダウンでは、これらの要素を『SHINOBI 忍』から継承させつつ、更にシステム24の機能で遊びを拡張したというのだ。

『クラックダウン』©SEGA ©SEGATOYS

サイドビューの『SHINOBI 忍』とトップビューの『クラックダウン』。にわかには信じ難かったけれど、分析してみると、驚いたことに菅野さんの云っているとおりだ。

ちなみに僕自身は、『クラックダウン』にはステルスアクションっぽさを感じていたけれど、『SHINOBI 忍』に対してはそういうイメージは持っていなかった。
でも確かに、敵をすべて近接攻撃で倒したときの「忍ボーナス」なんかを見ると、菅野さんが元々はステルス系アクションを志向していたのはわかる(だからこそ「忍者」という題材を選んだのだろう)。

そして、『クラックダウン』の題材は「潜入破壊工作員」。これは僕の想像だけど、菅野さんは『SHINOBI 忍』で表現しきれなかった「ステルス」というテーマを(アーケードゲームなのでさすがに『メタルギア』ほどにはやれないにせよ)『クラックダウン』ではもっと掘り下げたかったのかもしれない。
企画というのは、会社からのオーダーにかこつけて、自分の想いや趣味を具現化するのがお仕事なのだから。

そんなわけで、『クラックダウン』には会社からのオーダー「System 24の機能を活用する」が十分盛り込まれていた。
System 24はそれまでのSystem 16に比べて高解像度で、なおかつ小さいオブジェクトを大量に動かすのが得意なボードだ。なので『クラックダウン』では、2分割トップビュー画面で解像度の高さをアピール。また、敵がうようよいる施設を舞台として、大量のオブジェクトをアピール。

そしてコアになる遊びは、実績のある『SHINOBI 忍』。
なるほど、これが「一研企画」のやりかたというものか!

ここで話を『ムーンウォーカー』に戻そう。当初は「クォータービューのダンスアクション」なんていうトンデモない題材を与えられて途方に暮れていた僕だったが、『クラックダウン』の話がトンデモなく重要なヒントになったのだ。
要は「コアになる遊びを決めること」。
サイドビューの『SHINOBI 忍』をトップビューの『クラックダウン』に改変できるぐらいなのだから、クォータービューだって何するものぞ。悩んだら、一研企画の先輩がたに訊けばいい。きっと解決策を一緒に考えてくれるだろう!

よーし、やったるぜ!

部内試遊台の『SHADOW DANCER』と『ボナンザブラザーズ』のこと

>よーし、やったるぜ!

――なんて考えてた時期が僕にもありました。

先述のとおり、企画の仕事は、ゲームのアイデアを考えて仕様を作成し、制作進行もして、外部との折衝もしつつ、プロジェクトを仕切るという「何でも屋」だ。なのに新人の僕は、何でも屋としての業務スキルが低すぎた。
制作進行も未熟だったし、仕様作成の速度も精度も未熟。更に『ムーンウォーカー』では「外部との折衝」がヘヴィ過ぎだった(マイケル・ジャクソンのエージェントから来た英文契約書に目をとおしながらゲームを作っていた新人企画マンなんて、この世で僕以外にいただろうか?)。
何だかんだ舞い込む業務に忙殺され、内田さんや菅野さんから十分なヒントをもらっていたにもかかわらず、それを上手くゲーム内容として結実させることができていなかったのだ。

あと、本来なら新人の僕には指導社員が付き、業務上の不明点や悩みなどをサポートしてくれるはずだったのだが、指導社員としてアサインされた鋒山元茂さんは、ご自身のプロジェクト『SHADOW DANCER』で修羅場が続いていたため、新人をサポートするどころではなかったという事情もある。

ここで『SHADOW DANCER』にも触れておこう。もちろん『SHINOBI 忍』の系譜、続編だ。ただし、オリジナル企画者の菅野さんは渡米してしまったし、TEAM SHINOBIは内田さんの企画で新作を作っていたので、くわしくはわからないけれど、続編といいながらも実際にはイチから作り直していたのではないだろうか(なるほどそれなら鋒山さんが修羅場になるのもやむなしだ)。

菅野さんが関わっていないからか、『SHADOW DANCER』にはステルス的なフレイバーは一切なくなっていた。白い忍犬ハヤテ号を引き連れた、白装束の主人公(忍んでない)。
でもその分、ヒーロー然とした主人公の描かれかたは、本当に格好良かった。ことに、全画面カットインで真言を唱える「トイヤー」(*01)には超しびれたものだ。

『SHADOW DANCER』©SEGA ©SEGATOYS

一研では、ある程度遊べるようになった開発中のゲームを「部内試遊台」で部員全員に遊ばせるのが通例だった。『SHADOW DANCER』を「トイヤー目当て」で毎日遊んでいたのも、この部内試遊台でだったのだが、それからしばらくして、また別のゲームが試遊台でお披露目されることになった。それが『サボテンブラザーズ(仮称)』だ。

『サボテンブラザーズ(仮)』も思い出深い。当時はこれが『SHINOBI 忍』系のゲームだとは気づかなかったのだけれど、今考えると明らかに、『SHINOBI 忍』の系譜を継いだ、一研ならではの作品だといえる。
何しろこちらは主人公が泥棒の、これ以上ないぐらい純粋なステルスゲームだ。CG風の主人公キャラが、いかに警備の目をごまかすかを遊びの肝としている。ゲームのイメージとメカニクスがぴったり融合した、今の目で見ても非常にセンスのいい良作だと思う。

『ボナンザブラザーズ』©SEGA ©SEGATOYS

『サボテンブラザーズ(仮)』が思い出深いのには、もう一つ理由がある。「サボテンブラザーズ」という名前は当時有名だった映画のタイトルから引っ張ってきた「コードネーム」。
発売までに正式名称を決めなければならないということで一研全体にアイデア募集がかかったのだが……何と僕のアイデア『ボナンザブラザーズ』が採用されたのだ!

着想の元ネタは大昔のアメリカのテレビドラマ「ボナンザ」から。ゴールドラッシュとか西部劇とか、お宝とか鉱脈とか大当りとか、まあそういうイメージの言葉だ。
僕はアメリカの白黒時代のTVドラマが大好きだったので、そっちから引っ張ってきたのだ。自分で云うのもなんだけど、泥棒兄弟の名前には相応しい名称じゃないだろうか。

――とまあ、自分のプロジェクトが絶賛難航中だった割には、楽しく過ごしていた記憶しかない。というか自分のプロジェクトに関しては、あまりにつらすぎて脳の自衛機能が働いたためか、断片的にしか記憶が残っていない。
あれ……『ムーンウォーカー』のコアになる遊びって、いつどうやって決めたんだっけ?

『エイリアンストーム』と内田デカ長のデータ取りのこと

ある日、内田さんが部内試遊台にTEAM SHINOBIの最新作を設置して、部員に声をかけていた。それが『エイリアンストーム』だ。『ゴールデンアックス』に心奪われた者としては待望の続編。
すっかりファン目線になってしまい「これはやらざるを得まい!」と、自分のプロジェクトで何日も泊まり込むほど忙しかったはずなのに、早速時間を作ってプレイさせてもらった僕なのであった。

正直、完成度が高すぎて目眩がした。
密かに『ゴールデンアックス』唯一の弱点だと思っていた「絵的なヒキの弱さ」は劇的に解消され、小粋なギャグ混じりのオープニングから、もうガツッと引き込まれてしまった。
もちろんゲーム内容は、『ゴールデンアックス』で定評のあったもの、そのまま――に加えて、高速スクロールステージやシューティングステージといった新規要素まで追加されている。てんこ盛りだ。

何なの、これ。僕たちはこれと同じ土俵でゲームを作っているわけ!?
詳細は覚えていないけれど(たぶん脳の自衛機能)、自分のプロジェクトとのあまりの差に、大ショックを受けたことだけは覚えている。

『エイリアンストーム』©SEGA ©SEGATOYS

そしてもうひとつショックを受けたのが、内田さんが「データ取り」を行っていたことだ。色々な人間にプレイさせて、マップ上のどこで死んだのかをチェック・集計していたのだ。
内田さんの説明によれば、それを根拠に難易度をチューニングして、難易度曲線を自然なカーブにするのだという。しかもそれは、『ゴールデンアックス』でもやっていたそうなのだ。

そうだったのか! それで『ゴールデンアックス』はあんなにも楽しかったのか! もっと早く教えといてくれよ内田さん!

内田さんの説明どおり、以後『エイリアンストーム』はバージョンを上げるたびにチューニングが進み、難易度が滑らかになっていった。
序盤には理不尽な難易度を感じないのに、なぜかいつも、あとちょっとの惜しいところで死んでしまう。それが後半のエンディング近くになると、こちらの「エンディングを見たい!」という思惑を見透かすかように、高難度の敵がバンバン出現する。
まるで内田さんの手のひらの上で転がされているような、そんな職人技の難易度曲線。

だからこそ、その難易度を乗り越えてエンディングを見たときは本当に嬉しかった。
『エイリアンストーム』のエンディングは、僕の人生のベスト3に入るほど、素晴らしく手の混んだサイコーのエンディングだ。たぶんYouTubeあたりで見ることもできるんだろうけど、自分のプレイで見ることができたなら、感動もひとしおだ。アストロシティミニをお持ちのかたにはぜひチャレンジしてほしい。

なお余談になるけど、僕はこの7年後、『クラッシュ・バンディクー2 コルテックスの逆襲!』を作っていた頃、難易度チューニングのために内田さんと同じ方式でデータ取りをしている。
数十人の小中学生に遊んでもらったビデオを見ながら、白地図に死んだ場所をチェックしていく。死んだ回数が突出して多い場所は、何らかの問題を抱えている可能性があるので、あらためてビデオを精査して、地形なり敵なりを調整する。
のべ40~50時間分のビデオをチェックするという、大変な作業であることはわかっていたのだけれど、それでもなお、そのやりかたでやるべきだと思ったのだ――。

――内田さんの仕事を見て、その有用性はよく知っていたから。

エピローグ~『SHINOBI 忍』の系譜

以上、アストロシティミニ収録作品の中から、僕がセガ時代に影響を受けたゲーム(とその企画者)について紹介させていただいた。

『SHINOBI 忍』の系譜に連なる作品だけに絞ったのは、そのほうがまとまりがいいと思ったからで、実際には他にも多くのゲームから影響を受けまくっている。
例えば小口久雄さんが魔法のように作り上げた『ラッドモビール』や、鈴木裕さんがロビーで社内ロケテストを繰り返していた『バーチャファイター』、後輩の大津民地がAmigaを駆使して企画をとおした『ダークエッジ』などなど。

でもやはり、本文にも書いたように、『SHINOBI 忍』系のゲームから学んだものがいちばん多大であることは間違いない。体感ゲームと並んで、セガ(いや「大鳥居ゲーム専門学校」か)の大きな系譜の一つなのだ。

アストロシティミニには、そのほとんどすべての作品が収録されている(何とステキな製品なんだろう!)。もしこの文章でどれかに興味を持ったかたがいたら、ぜひ手にとってみてほしい。

  
  
――そういえば、『ムーンウォーカー』の顛末を書き忘れてた。

『SHINOBI 忍』の系譜の末席である『マイケル・ジャクソンズ ムーンウォーカー』は、悪戦苦闘の末に完成しましたとさ。アストロシティミニには収録されていないけどね(笑)。

それだけが残念!

©SEGA ©SEGATOYS

脚注

脚注
01 「トイヤー」というのは、全体攻撃(ボム)を表す一研用語。由来は、『SHINOBI 忍』での忍術発動時のボイスから。

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