冷戦時代の戦略構想をモチーフにした政治色の強いシューティング『SDI』

  • 記事タイトル
    冷戦時代の戦略構想をモチーフにした政治色の強いシューティング『SDI』
  • 公開日
    2019年01月25日
  • 記事番号
    793
  • ライター
    前田尋之

西側諸国と東側諸国が対立していた冷戦時代末期の1980年代中盤、レーガン政権のアメリカに「戦略防衛構想(通称:スターウォーズ計画)」というものがあった。

簡単に言えば、衛星軌道上にミサイル衛星やレーザー衛星を配備して核兵器の先を行く新たな軍事秩序を築こうとする、今から考えれば荒唐無稽な計画だったが、基礎技術は着々と確立されていたという。

今回紹介する『SDI』(1987年/セガ)は、そんな冷戦時代の軍事背景をモチーフにした、非常に政治色の強いゲームといえよう。

唯一無二の個性が光るゲーム

▲ニューヨークにICBM(大陸間弾道ミサイル)弾頭が落ちてくる『SDI』のアドバタイズデモ(ゲーム画面写真はいずれもPS2版)

『SDI』は「オフェンシブ・ハーフ」と「ディフェンシブ・ハーフ」という2シーン構成で、1ステージを攻略する、2人同時プレイが可能なシューティングゲーム。タイトルの「SDI」は、前出の「戦略防衛構想(Strategic Defense Initiative)」の略称である。

プレイヤーは人工衛星の形をしたシップを操作し、敵国が発射したミサイルやキラー衛星を迎撃するのが目的である。

「迎撃」を目的とした類似ゲームとしては、アタリの古典的名作『ミサイルコマンド』(1980年)が挙げられるが、トラックボールで照準を合わせる操作系や、攻撃が着弾した地点で爆風が発生し、爆風に触れた敵は誘爆するといった要素など相似点も多く、『SDI』が『ミサイルコマンド』を強く意識した作品である点は否めない。

しかし、3つのフィーチャーを盛り込むことによって、『SDI』は単なる模倣作で終わることなく、むしろ唯一無二の個性が光るタイトルとしてファンの心に刻まれる作品となったのである。以下、この3つのフィーチャーについてそれぞれ紹介していく。

その1 操縦桿レバー+トラックボールによる特殊操作

▲操縦桿型レバーとトラックボールが2対設けられた『SDI』のコンパネ(当時のパンフレットより)

『SDI』を語る上で特に象徴的な点として、まず、その特異な操作システムが挙げられる。敵国ターゲットを迎撃するための照準をトラックボールで操作する点は先に触れた通りだが、本作ではそれに加えて、自機シップを操作するためのトリガーボタン付き操縦桿型レバーを設けている

キラー衛星はこのシップを狙って攻撃してくるため、トラックボールとレバーという2つの操作を常時求められるのである。

2つの操作を同時におこなうゲームとしては『リブルラブル』(1983年/ナムコ)や『イシターの復活』(1986年/ナムコ)などの例がある。そして、これらはいずれも通常レバーであったにもかかわらず、操作の上達へのハードルはそれなりに高かった。

『SDI』の場合は、トラックボールとレバーという全く違うデバイスを同時に操作しなければならないため、当時において、さらに相当の慣れを要する操作系だったといえるだろう

もっとも、現在では『ボーダーブレイク』(2009年/セガ)をはじめとしたFPS(*01)TPS(*02)において、レバー移動+照準のエイミングといった複数移動を並行しておこなう操作系はごく一般的に導入されており、その意味では『SDI』のインタフェースは早すぎたといえるかもしれない。

なお、このような特殊操作系を採用した事情もあってか、昨今のレトロ系ゲームセンターでも『SDI』はなかなか見かけない。基板を入手する場合はコンパネがセットであることを確認した上で探す必要があるため、注意が必要である。

その2 ダメージメーターの任意配分

2つ目の特徴は、1ステージがオフェンシブ・ハーフとディフェンシブ・ハーフという2つのシーンに分かれている点である。ダメージ(自国の危険度)メーターは2つのシーンで引き継がれ、オフェンシブ・ハーフですべての敵を破壊(パーフェクト)した場合は、ディフェンシブ・ハーフに移行することなくステージクリアとなる。

オフェンシブ・ハーフ

サイドビューの横スクロールシューティング。画面左から右に向かって飛んでくるミサイルが、自国(画面右下)を狙う敵や施設を破壊する。

▲飛んでくるミサイルを先制攻撃で破壊するオフェンシブ・ハーフ

ディフェンシブ・ハーフ

▲地球をバックに落下してくる弾頭を迎え撃つディフェンシブ・ハーフ

固定画面のフロントビューシューティング。オフェンシブ・ハーフで撃ち漏らしたミサイルが遠方から飛んでくるため、自国に着弾する前に破壊する。『ミサイルコマンド』を連想させるシーン。

2つのシーンで同じダメージメーターを共有するということは、ダメージメーターを任意で配分することができるということであり、オフェンシブ・ハーフが苦手なプレイヤーは「あえてオフェンシブ・ハーフを捨てて、ディフェンシブ・ハーフに賭ける」というプレイが可能である。

もちろんその逆も可能であり、個々の実力に応じた戦略が可能な柔軟性が、本作の魅力の一端につながっている。

その3 10点刻みでハイスコア更新が続けられる得点システム

▲誘爆を狙うために、あえて1カ所に集まるまで放置するといったテクニックもあった

3つ目の特徴は、貪欲なまでにハイスコアを目指せる得点システムである。本作はステージ数が全11と有限な上、ターゲットとなっている敵機の数も決まっている。当然、ハイスコアラーとしては全ステージでパーフェクトを取ることは必須科目となるのだが、その上を目指す要素として「誘爆」があった。

本作では、敵機を直接破壊するのでなく誘爆で破壊すると、より高得点を狙うことができる。これを利用して爆風をうまくつないで連鎖誘爆を起こすことができれば、さらなる得点が得られるわけである。つまり、どの手順で攻撃をすれば誘爆をつなぐことができるかという、よりよい連鎖のパターンを組む必要があった。

さらに、何もない地表を撃つことで得られるボーナス点や、分離したミサイルのフェアリングにまで得点が配点されており、長きにわたってハイスコアラーたちのストイックなパターン構築が続けられた。

▲何もない地表を撃つと点が入ることも。場所はしっかり覚えておこう

数々の名作の中に埋もれた、知る人ぞ知る隠れ名作

『SDI』が発売された1987年は、『アフターバーナー』や『サンダーブレード』といったセガの体感ゲームをはじめ、『ドラゴンスピリット』(ナムコ)、『R-TYPE』(アイレム)といったシューティングゲーム全盛期。

そんな華々しいタイトルが並ぶなか、『SDI』は決して見た目が派手なゲームではなく、とっつきにくい操作系の影響もあって、当時の評価は好評とは言いがたかった。

また、本作のタイトル名でもある「戦略防衛構想」自体が、1986年のスペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故によって大きく後退。対ソ宥和(ゆうわ)政策への転換といった国際情勢の変化による世間の関心の薄れもあって、マーケティング面で話題を集めることができなかった点もマイナスだったといえる。

しかし、前述したとおり、戦略性の高さやパターン構築のおもしろさに気がついたプレイヤーからは、その唯一無二のゲーム性を高く評価され、知る人ぞ知る隠れた名作として後世まで語り継がれる作品となっている。

▲当時のパンフレット。ビジュアルを抑えめにして、無機質な緊張感を演出している

2度にわたって移植の機会に恵まれた『SDI』

『SDI』は、続編もなければ類似タイトルもほとんど見られない孤高のゲームであるが、セガ・マークⅢとPS2の2度にわたって移植の機会に恵まれた。アーケードでプレイできる機会が少ない本作ではあるが、移植作品を通じてでも本作の魅力の一端に触れてもらいたい。

『SDI』(セガ・マークⅢ版)

▲『SDI』セガ・マークⅢ版(画像はセガ公式サイト「名作アルバム バックナンバー」より引用)

1987年に発売。2人同時プレイは省かれたものの、当時の水準としてはかなりの好移植。方向キーで照準移動、方向キー+トリガーボタンでシップ移動が可能になっている。FM音源ユニットにも対応。BGMはぜひFM音源版をおすすめしたい。

『SDI&カルテット ~SEGA SYSTEM 16 COLLECTION~』(PS2版)

▲『SDI&カルテット ~SEGA SYSTEM 16 COLLECTION~』(画像は公式サイトより引用)

エムツーによる移植タイトル。『カルテット』(1986年/セガ)とカップリングされ、「SEGA AGES 2500シリーズ Vol.21」として2005年に発売された。USBマウスを接続して、コントローラー+マウスの両手プレイでアーケードの感覚を再現したモードを搭載。さらに、上記のセガ・マークⅢ版も収録されている。

ⒸSEGA

前田尋之

脚注

脚注
01 FPS : First Person Shooter(一人称視点シューティングゲーム)の略で、プレイヤーキャラクターの主観視点で武器や素手を用いて戦うタイプのゲーム。
02 TPS : Third Person shooter(三人称視点シューティングゲーム)の略で、FPSと定義はほぼ重なるものの、プレイヤーが画面内に見える三人称視点である点が異なる。

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