市原雄亮×古代祐三 ダブルインタビュー 後編

  • 記事タイトル
    市原雄亮×古代祐三 ダブルインタビュー 後編
  • 公開日
    2019年11月29日
  • 記事番号
    2322
  • ライター
    IGCCメディア編集部

『アクトレイザー』楽譜化決定記念 特別インタビュー

大好評をいただいている「市原雄亮×古代祐三 ダブルインタビュー」だが、ついに最終回を迎えることになった。
今回はインタビューの本来の趣旨(!)である「アクトレイザー全曲完全楽譜化」についてのお話を中心にお届けする。
【前編】は、こちら
【後編】は、こちら

編曲の重要性

―― 新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団(以下、新日本BGMフィル)さんのWebサイトを拝見して思うのは、所属している奏者さんのプロフィールを非常に細かい部分まで掲載していて、ああ、おもしろいなぁと。

市原 それは非常に意識してやっていますね。Twitterのアカウントだったり、好きな食べ物について触れていたりもします。

―― なぜ、ああいった方向性を取ろうと思ったのでしょう。

市原 オーケストラというのは、基本的に一人ひとりの奏者の顔までお客さんには見えない……というか、見えにくいんですね。50人、60人もの編成となると、どうしても「ヴァイオリンの人」とか「金管楽器の人」という、ざっくりとした見方をされてしまいます。

―― ああ、なるほど。

市原 それでよし、とすることも、もちろんできたんですが、ぼくはどうしても奏者の方々それぞれの顔とかキャラクターをわかっていただきたかった。

―― それはそれぞれのプレイヤーが「人」であると……。

市原 そうですね。オーケストラは自動で演奏されているわけではなく、「人」が50人も60人も集まってひとつの音を奏でている。「個」を意識することで「全体」がもっとよく見えてくるはずだ……そんな想いがあるんです。

古代 パーソナリティが明らかになると、その人のファンになったりもしますよね。

市原 それはありますね。オーケストラを編成している中の誰に注目して見るのか、聴くのか。そういったのも、もちろんありだと思います。とにかく、ぼくとしては、お客さんにいろんな楽しみ方をしてほしいんです。

―― 新日本BGMフィルさんについて、もっとお伺いしたいのですが……。

市原 これは新日本BGMフィルの方針というわけではなく、ぼく個人が思ってることなんですけど……それでもいいですか?

―― もちろんです。お願いします。

市原 ぼくたち新日本BGMフィルは、ゲーム音楽をオーケストラにして演奏するという活動をしています。でも、ぼくの元々の欲求としては、古代さんがお作りになってきたFM音源のゲーム音楽、それからファミコンなどでお馴染みのPSG音源など、そういったものがオケ(オーケストラ)になったら、どんなふうなんだろうとか……あとは、ゲーム機のハードウェアの制約上、3音しか鳴らせず音数が少ないけど、そういった制限がなくなったら、この曲はどうなるんだろうとか。つまり、オーケストラでやることで、ゲーム音楽をある意味で蘇らせることができるんじゃないか、そんな試みもぜひやってみたいと思ってるんですね。

古代 ああ、それはおもしろいですね。そうなると今、この時代のゲーム音楽よりももっと古いもののほうがいろいろ可能性も広がりますね。

市原 そうなんですよ。

―― となると、新日本BGMフィルに編曲担当として在籍なさっている羽田二十八さんによるところが、もっと大きくなることも……?

市原 なりますね。

―― ぼくのような音楽素人にはなかなか理解しにくい部分なのですが、オーケストラにおいて編曲をご担当するかたというのは、どれぐらい重要なポジションになるのでしょう。

市原 めちゃくちゃ重要です!

古代 (無言でうなずく)

市原 極端なことを言うと、編曲がダメなら演奏もダメになります。

―― おお、そこまで……。

市原 もう、全幅の信頼を置いていますね、彼には。付き合いは、もう7年、8年ぐらいになるのかな。彼は本当に凄いですよ。

古代 (無言でうなずく)

―― 古代さんも、もっと発言してくださいよ(笑)。

古代 いやぁ、もっともだな、と(笑)。

―― それでは編曲についてもうちょっとお伺いしますが。既存のゲーム音楽をオーケストラ用に編曲するためには、原曲をいったん譜面に起こすという作業からするのでしょうか?

市原 そうですね。まずは、そこからです。必ず原曲を耳コピして譜面にします。羽田に言わせると、その耳コピの作業は編曲の全工程の六割以上を占めるほど大変だそうですよ。

―― それは大変そうだ……。

市原 ただし、「古代祭り」の編曲のために作った譜面は、オーケストラで演奏するためのものであって、原曲そのものではないわけですね。当たり前での話なのですが。

―― なるほど。

市原 わずかではありますが、リハーサル中に、「ここの音違うんじゃない?」とわかって修正した箇所が1~2ヶ所ありましたし、古代さんもたくさんの時間は取れなかったので、原曲としての監修まではしていただくことができなかった。だから、改めて原典を楽譜として見てみたい。

古代 そういった部分が、今回の「完全譜面化」につながった、とも言えるんじゃないかと思います。

―― おお、うまく「譜面化」につながりましたね!(笑)

市原 羽田らしいと言いますか、「古代祭り」のために起こした譜面は敢えて使わず、改めて全身全霊をかけてきちんと検証し、譜面化すると言っています。

―― 古代さんは監修というお立場ですが、原曲を作ったときの資料などは残っていないのでしょうか?

古代 ないんですよ(笑)。NEWSですから、ないんです(笑)。

―― あはは、これまでの前編、中編のネタがここで収束をはじめてますね(笑)。ただ、古代さんってかなり物持ちがいいですよね?

古代 PC-8801mkⅡSRで作った時代のものは残ってるんですけどね……。あれは自分で管理してたものですから。

―― NEWSといえば、データを管理していたのは……。

古代 VHSのビデオテープみたいなデカい記憶媒体にセーブしていましたね。それに本体のデータを丸ごとバックアップするんです。

市原 じゃあ、今、その記憶媒体があっても……。

古代 読めないですよね(笑)。

市原 フロッピーディスクのようなものはついてなかったんですか?

古代 うーん。ついていた……ような気もします。ただ、それが残っていても「かんきちくん」のデータは読めないですから意味がないかもしれないですね。

―― ご自身の作った曲のデータが手元にないのは当時、どう思われましたか?

古代 当時は、自分の作ったデータには、そんなに関心がなかったんですよね。

―― それは、なぜですか?

古代 いやぁ、自分の作ったものが、こんなにあとになって再利用されるなんて想像もしてなかったですよ(笑)。しかもオーケストラですよ(笑)。当時の自分に言ったって、絶対に信じてもらえないですって。

指揮者・市原氏の役割

―― お話を新日本BGMフィルに戻しますが……創設者にして指揮者である市原さんのこの楽団における役割についても教えてください。

市原 かなり、いろいろやってますね。楽曲の選定、企画のコンセプト作り、広報活動もしてます(笑)。これらは指揮者ではなく、代表者としての仕事……になりますね。

古代 市原さん、楽しそうにいろいろなさってますよね。

市原 ええ、楽しいですよ。当然、責任は負わなきゃなりませんけど、逆に言うなら、その分、好きなことができる(笑)。誰かに「こういうのをやって」と言われるんじゃなく、もちろん団員のみんなとも話はしますが、自分の好きな方向に舵を切ることができる。みんな、ぼくの言うことをおもしろがって、どんどん賛成してくれますし。

―― 指揮者としての市原さんは、幕間のMCも話題になってますよね。

市原 事前打ち合わせなしの完全アドリブだけでやってます(笑)。

―― それは「古代祭り」でも……。

古代 打ち合わせはしてないですよ、厳密な意味では一度も。雑談の合間に、ああいったこととか、こういったことは……みたいになる場合もありますが、本番に入ると、そういうのは完全に忘れ去っていますから(笑)。

市原 「古代祭り」の前に何度もお会いしてたのに……打ち合わせもしないで、いったい、ぼくたちは何を話してたんだろう(笑)。

―― 完全アドリブだと、とっさにネタが出てこなくて困るようなことは……?

市原 ネタに詰まるよりも先に、いつも時間がなくなる(笑)。

古代 (爆笑)

―― お話の流れが、完全に「古代祭り」についてになってますので、これについても少しお伺いさせていただきますが。これより以前に、市原さんと古代さんの間には……。

古代 実は……いろいろありましたね。

市原 「古代祭り」の前にも小編成、中編成の公演もやっていて、そこで『ベアナックル』などの楽曲も演奏してるんです。なので、「古代祭り」は、そういったことの超拡大版みたいな感じで企画しました。

―― 最初に古代さんにお会いしたときに、どう思われましたか?

市原 ……本物だ、と。

古代 それはそうですよ(爆笑)。偽者だったら困りますって。

市原 そしてイケメンだな、とも(笑)。あ……あと、大きいなぁと。

古代 え、そうですか?

市原 それまでもネットとかでお顔は拝見していたんですけど、そういうのだとサイズってわからないじゃないですか。ぼく自身がネットで写真を見たという人に、「もっと大きい人かと思ってました」って言われることが多いんですね。それで無意識のうちに、古代さんもそんなに大きくないんじゃないかって思い込んでいたのかも……。

―― 『ベアナックル』などに続いて、ついに『アクトレイザー』をオーケストラでやりたい、というお話を聞いて、どう思われましたか? 来たぜ!的な感想は……。

古代 それは特になかったですね。それよりも「古代祭り」って名称、マジかよと(笑)。

―― それは古代さんのところにお話が来たときに、もう「古代祭り」というネーミングで決定していたんですか?

古代 そうですね(笑)。

市原 最初にお話させていただくときに、「古代祭りをやりたいんです!」と(笑)。

古代 そっちのインパクトが強すぎて、『アクトレイザー』全曲をオーケストラで、というのが完全に薄れちゃってましたよね(笑)。

―― オーケストラで演奏するということは当然、編曲されるわけで、そういったところで楽しみだったり、逆に不安だったりするようなことはありませんでしたか?

古代 『アクトレイザー』の編曲ということであれば、アルファレコードさんからCDを出していただいたときにもすでに経験があるので、特に驚くことではなかったかなと思います。でも、じゃあまったく興味がないのかというと、そういうわけではないです。

―― それは「うれしい」という感情ですか?

古代 「うれしい」……ではないと思いますね。これまでにも編曲していただいたことは何度もあって、自分の想像したとおりのものになっていることもあれば、おお、こういうふうに解釈してくれたんだとか……。なので、ひとりの音楽ファンとして聴いちゃう……というのが一番近いかなと思います。自分の楽曲をこんなふうにアレンジしていただいてありがとうございます、というのではなくて、ただの音楽ファンになって楽しんでしまう……そんな感じでしょうか。もう手を離れてしまったものなので、自分の楽曲だって意識が薄れてしまっているのかもしれませんね。

完全楽譜化計画は、こうしてはじまった

―― では、お話はついに「キックスターター」となります。

市原 長かった(笑)。

古代 キックスターターに関するインタビューだってこと、すっかり忘れてました(笑)。

―― す、すみません……。さてそれではお聞きしたいのですが、『アクトレイザー』の原曲をそのまま譜面に起こすというプロジェクトは、どういう経緯で生まれたのでしょうか。

市原 ものすごく単純に言うと、ぼくはすべてのゲーム音楽の楽譜をほしいと思ってるんですね。

―― それで、その中の最初の一発が『アクトレイザー』だったと?

市原 そうですね。でも、偶然というわけではありません。なぜこのタイトルが選ばれたのかと言えば、やっぱり「古代祭り」の存在が大きかったと思います。

―― 乗りかかった船……的な?

市原 それもあります。演奏してみて、やっぱり『アクトレイザー』はいいなぁ、と。それでもっとこの楽曲のことが知りたくなった。そのためには、原曲の完全な楽譜がほしい、見てみたい。……単純ですよね(笑)。

―― もう少し直球な質問をさせていただきますが、ゲーム音楽の原曲をそのまま楽譜化することの意義については、どうお考えでしょうか? 市原さんは個人的に、この楽譜がとてもほしかったとおっしゃっていましたが、そういった個人的な欲求以外に、原曲が完全な形で譜面の形に起こされることに、どういった意味があると考えますか?

市原 これは誰かを非難する意図があるわけではないのですが……ネットを調べると、いろいろな方が「自分で起こした譜面」を公開しているんです。

古代 ああ、ありますね。

市原 でも、不正確なものが多かったりするんですね。

古代 うんうん、そうですね……。

市原 でも、それらが正しくない形で後世に残ってしまうのは、ぼく個人としてはあまり好ましい状況だとは思っていないんです。

古代 なるほど。それは確かにそのとおりだと思います。納得できますね。

市原 なので、ゲーム音楽を演奏するオーケストラに所属しているんだから、自分がアクションを起こして「正確な楽譜」をひとつでも多く残したい。それが小さい頃から大好きだったビデオゲームへの恩返しでもあると考えているんです。それと、個人的な理由としては、ぼくは昔からゲームの攻略本が大好きだったんです。キャラクターの成長曲線とか、武器や防具の強さとか、敵キャラのパラメータとか、戦闘後にアイテムを落とす確率はどれくらいなのかとか、ゲームをプレイしているだけでははっきりと見えない情報が可視化されて理解できるのがとても楽しくて。さらには自分でプレイしたことがないゲームの攻略本を買って、読み込んでニヤニヤしたり。いわば、ゲーム音楽の楽譜というのは、ぼくにとっては攻略本みたいなものなんですね。だからほしいです(笑)。

―― 音楽素人からすると、ゲームの楽曲を楽譜化する手間というか苦労がどれぐらいすごいものなのか、まったく想像もつかないのですが……。

市原 羽田さんに聞かないとわからない(笑)。

古代 楽譜化という言葉だけだと伝わらないと思うのですが、ただ単に音を拾っていけばいい、という単純なことじゃないんですね。

市原 そのとおりです。楽譜を綺麗に見せる、というのも仕事のひとつだったりします。実用する楽譜というのは手書きでバーっと書いたものでも十分なことも多いのですが、人に見せるとなると、やっぱり書き方にも気を使う必要があります。

古代 読めればいい、わかればいい、というわけじゃないってことですね。資料として残すためのレイアウトとか、簡単じゃないと思いますね。

―― なるほど。一方、古代さんはご自身の楽曲が楽譜化されると聞いて、どんなふうに思われましたか?

古代 うーん。これは最初、市原さんにも言ったと思うんですけど、ピンと来なかったんですよね(笑)。それはたぶん、私と市原さんではゲーム音楽というものへの入り方が違っていたことも関係しているのかもしれませんね。

―― もうちょっとくわしくお願いします。

古代 私の場合、ビデオゲームの初期の頃から……それこそディスクリートのブザー音から入って自分でプログラムを組むようになり、3和音からはじまって6和音になり……というところを経てきた自分にとっては、プログラムとかデータがすべてなんですね。

―― ああ、なるほど。

古代 なので、ゲーム音楽を譜面化するのはコレクター視点で見るとうれしいと思う反面、そういう経験をしてきた自分にしてみると、今ひとつピンと来ない、と……。

市原 ええ、最初からおっしゃってましたよね。

―― それは古代さんのご経験なさってきた、ゲーム音楽の作曲方法が譜面を書くのではないということも大きく関係しているのでしょうか?

古代 それはあると思います。

市原 あっ……そうか。なるほど……。

古代 そもそも楽譜というのは古来からの妥協の産物だと思うんですね。なぜかといえば、その楽譜をどう読むのか……そこに「解釈」というものが生じるから。

市原 そのとおりです。

古代 でも、(コンピュータの)データというのは客観的であり、主観が入り込まない。それをそのままプログラムに乗せれば、まったく同じ音が再生される。それが好き……つまり、データ至上主義者なんですよ、私は(笑)。

―― なるほど……。

古代 とはいえ、人間が演奏するためにはデータじゃいけない。譜面が必要なんですね。だから、そこに価値があるというのはよくわかってるつもりです。……こういったことを考えてみて改めて思ったのは、自分は音楽家サイドの人間ではなく、ゲーマー側に立っているんだな、ってことですね(笑)。

―― 今だと「デジタルネイティブ」みたいな呼ばれ方をするのかもしれませんが、古代さんはビデオゲーム世代特有の曲作りをする作曲家なんでしょうね。

古代 あ、私がそういうちょっと変わった人間だというだけで、『アクトレイザー』の楽譜化に反対しているとか、そういうことは全然ないので、そこは勘違いしないでください(笑)。

―― 誌面でも力説しておきます(笑)。

古代 人が演奏するきっかけになるかもしれない、という意味では楽譜化は非常に意義があると思いますし、そもそも私がオーケストラの勉強をするために「スターウォーズ」のスコアを読んだのと一緒で、誰かがオーケストラを理解するのに少しでも役に立つ可能性もあるわけですよね。

―― うまくつなぎましたね(笑)。

市原 古代二世が生まれてくるかもしれませんね(笑)。

古代 あとは……ゲームの音楽を可視化するとこうなっているのか、という意味でもおもしろい試みかもしれませんね。

―― 昔はゲーム音楽の譜面が雑誌や別冊などで結構公開されていましたけど、最近はあまり見かけないような気もします。

古代 そうですね。昔だと「オール・アバウト・ナムコ」(電波新聞社刊)にゲーム音楽の譜面がいっぱい載ってましたよね。あれも自分でPCとかに打ち込んでみないとわからない部分も多いかもしれませんが、ああ、ゲームの音楽ってこういうふうになってるのか!って感動は確かにあったように思います。

市原 古代さんは、ご自身の作曲した曲の譜面は……。

古代 いえ、自分でも見たことないですね。だから、口でいろいろ言ってますけど、実際に譜面になったものを見たら、「オール・アバウト・ナムコ」に感動したあのときみたいに、心が動かされることもあるかもしれませんね(笑)。何より、今の子どもたちに、ああいった感動を味わってほしいな、とも思いますし。

―― うまくまとまったような気がします!(笑)

古代 え、そうですか?(笑)

市原 さすが古代さんだ……。

今後の展開は……

―― そういえば、今回の『アクトレイザー全楽曲の楽譜化』は、「VGM Complete Score」シリーズの第一弾という位置づけになっています。

市原 そうですね。ゲーム音楽をひとつの音楽ジャンルと捉えて、楽譜化していく。それがこのプロジェクトの目標です。

―― すでに他のゲームタイトルについて何か動いていたりはするのでしょうか?

市原 いくつか考えていることはあります。ただ少数精鋭で動いていますから、あちこちに手を出して結局、失敗……なんてことになっては、せっかくご支援いただいた方々に申し訳ありませんから。今はこの『アクトレイザー』一本に全力投球している最中です。

―― やはり昔のゲームが対象になるのでしょうか?

市原 そこも悩むところではあるんですけど、まずはぼく自身が強く影響を受けた時代のゲームから手をつけていきたいな、という気持ちはあります。とはいえ、ご支援いただいている皆さんにも喜んでいただかないといけませんから、アンケートを取ったりなどすることも考えていく必要はあるかもしれませんね。

―― ゲームメーカーさんから「これ楽譜化しませんか?」みたいな持ち込みも、もしかしたらあるかもしれませんね。

市原 そういうのも大歓迎です。喜んでお話を伺わせていただきます。

―― 古代さんの場合、どのゲームの楽譜だったらちょっと見てみたいな、と思いますか?

古代 うーーーーーん、そうですね。(長いこと考え込んだあとで)今は『モンスト』(モンスターストライク)で遊んでるから『モンスト』かな……(笑)。

市原 意外な感じがしますね。

古代 いえ、ぶっちゃけ言ってしまうと、データがほしい(爆笑)。って、ここで言ったらもらえないかなぁ(笑)。

―― どういった意味合いで『モンスト』の音楽データにご興味が?

古代 そりゃあ、自分のところに音源集めて、ゲームと同じように再生して「うわーやったやったーっ!」って(笑)。

―― 「ゲームごっこ」をしたい、と?

古代 ほら、昔、X68000とかでもやったじゃないですか。ゲームの音を集めて、次々再生してみんなで楽しむみたいな(笑)。あれと同じことをやりたいだけなんですよ(笑)。全然変わってない、30年前と(爆笑)。

―― 質問を変えますが、ご自身の作曲なさった楽曲の中で、これも譜面化してほしいなぁって思うものはあったりしますか?

古代 それは、もう『世界樹の迷宮』ですよ。

市原 おお、即答ですね。

古代 『世界樹の迷宮』は四作目からバンド録音にしていて、Ⅴからは羽田さん(今回のプロジェクトで編曲を担当なさっている羽田二十八氏)に楽譜制作をしていただいたりしていて。

―― Twitterを拝見する限り、現在はRECが多いようですね。

古代 そうですね。今は7割、8割ぐらいはRECになってますね。羽田さんには、私がデータを渡して、それを譜面に起こしてもらう作業をしていただいているんです。

―― おお、そうでしたか。

古代 さっき市原さんもおっしゃってましたけど、楽譜って人に読めるようにするだけでも結構大変なんですよ。8分音符だけダーって並べておくのはデータとしては正しいのかもしれないけど、それをちゃんと4分音符くくりにするのか、2分音符くくりにするのか、そこは写譜をする人のテクニックになりますよね。

市原 どう書いたら演奏しやすくなるのか、なども気を使う必要がありますからね。

古代 ですから、私の作ったデータだけではスタジオで録音はできない。もちろん収録の場でディレクションしながら演奏するので100%完璧なものでなくても何とかなるものの、やっぱり羽田さんに譜面起こししていただいているのは本当に助かってます。

―― つまり、『世界中の迷宮』にはそういった下地があるので……。

古代 そうですね。個人的には、これにちゃんと強弱記号を入れたりした完全版がほしいなと思います。リリースしやすいですし(笑)。

市原 考えておきます!(笑)

古代 最近の『世界中の迷宮』は海外ファンも多いんですよ。だんだん浸透してきた感じで……。

―― 控え目な感じながらプッシュが……。

市原 いや、本当に考えておきます(笑)。

―― それでは最後にご支援いただいた方々にメッセージをお願いします。

市原 じゃあ、まずはぼくから。たくさんのご支援、どうもありがとうございます。本当にここまで来られるとは思っていませんでした。これは羽田さんにも言ってるんですけど、とにかく「決定版」のスコアを作ります。これしかない!と、みなさんに思っていただけるものに仕上げます。ですから、もうちょっと時間がかかりますが、どうか楽しみに待っていてください。

―― では、古代さん……。

古代 えー、多大なるご支援どうもありがとうございます。……何か選挙っぽくないですか?(笑)

―― いえ、大丈夫です。

古代 それにしても、すべてのストレッチゴールを達成できるとは思っていませんでした。

市原 本当にそうですよね。

古代 三日ぐらい前は、すべては無理かなとも思ってたんですけど、締め切り間際の追い上げがものすごくて……。

―― 古代さんはTwitterで英語のメッセージも発信してらっしゃいましたよね。

古代 何だか、あれが大きかったようです。あの直後、ガンッ!とご支援が伸びて。海外の方も多かったのかもしれませんね。本当にどうもありがとうございました。あ……そういえば、ミニコンサートって達成できたんですよね。

市原 はい。

―― ご存じないかたのために補足しておきますと、締め切り4日前に急遽追加された、合計350万円の支援が集まるとトークイベントの中でピアノのミニコンサートが開催されるという最後のストレッチゴールのことですね。

市原 あれは……もしかして、こういうこともあったら、という感じで用意しておいたネタなんですね。

古代 私、全然聞いてなかったので驚きましたよ(笑)。

市原 演奏するのが新日本BGMフィル以外の人間……ということもあります。

古代 えっ、そうなんですか!? いろいろ秘策を仕込んでますね(笑)。

市原 ええ、頑張ってます(笑)。

―― 脱線覚悟でお聞きしますが、海外公演などは考えていらっしゃいますか?

市原 考えているといえば、いつでも考えています。ただ……莫大なお金がかかってしまうんですよね。

古代 オケごと引っ越しですからね。

―― 確かに楽器の移動だけでも大変そうですね。楽器は現地調達はできないものなんでしょうか?

市原・古代 ダメですね。

―― ハモった。

市原 みなさん、やはり自分の楽器がありますからね。

古代 でも打楽器は、さすがに運べませんよね。

市原 そうですね。打楽器の人とピアノの人は、どこに行っても自分のものじゃない楽器で演奏するのが多いと思います。

古代 チューバも持っていくんですか?

市原 持っていきます。コントラバスも、ですね。

古代 コントラバスは、うちのスタジオにも入れてよくやってるのでわかるんですけど、さすがにチューバは……(笑)。あれは車輪とかくっつけて動かすんですか?

市原 いえ、担ぎます。

古代 えー、そうなんですか!?(笑)

市原 あれはリュックのように担ぐんですよ。

古代 すごい……。

―― では、古代さんが絶句したところでインタビューはここまでとさせてください。本日は長い時間、どうもありがとうございました。

お知らせ

今回インタビューをお願いした市原雄亮氏が代表兼指揮者を務める「新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団」が、結成5周年を迎えました。
その記念すべき通算50回目のコンサートに選んだのが、何とファミコン版『ウィザードリィ』。
くわしくは、こちらをご覧ください!

市原 雄亮

新潟県上越市出身 神奈川県横浜市在住
成蹊大学法学部法律学科卒業

4歳よりピアノを始める。中学校でテューバに出会い、後にトロンボーンに転向。大学は法学部へ進み、在学中に指揮を本格的に学び始める。
法学と指揮を学びながら大学を卒業。2006年より指揮者として活動を開始。2011年に神奈川フィルハーモニー管弦楽団で開催された副指揮者オーディションへ応募。第二次審査まで進み、同楽団を指揮する。
2012年、日本初のゲーム音楽プロオーケストラ「日本BGMフィルハーモニー管弦楽団」を立ち上げ、首席指揮者に就任。現在は後継団体である新日本BGMフィルハーモニー管弦楽団の代表、指揮者を務める。
音楽誌での連載、ソニーレコードのクラシックCDライナーノーツ執筆等の文筆業や、讀賣新聞朝刊全国版第2面で個人の特集記事の掲載、地上波TV番組への出演、『ファイナルファンタジー』シリーズのBGM収録での指揮など、精力的な活動を繰り広げている。2019年にはNHK総合「SONGS OF TOKYO」でX JAPANのYOSHIKI氏のバックで指揮者を務めた。
トロンボーンを高階恵、三輪純生の両氏に、指揮を金丸克己氏に師事。

古代 祐三

主にコンピューターゲームの音楽を手がける作曲家、ゲームプロデューサー。
ゲーム制作会社株式会社エインシャント代表取締役社長。
代表作に『イース』、『イースII』、『ソーサリアン』、『アクトレイザー』、『シェンムー』、『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』、『世界樹の迷宮』他。

こんな記事がよく読まれています

2018年04月10日

ゲームセンター聖地巡礼「1980~1990年代 新宿」前編

今回から、新企画「ゲームセンター聖地巡礼」の連載がスタートします。当研究所・所長の大堀康祐氏と、ゲームディレクターであり当研究所のライターとしても協力いただいている見城こうじ氏のお2人が、1980~1[…]